ゲームというには生臭すぎる 4
だだっ広い畑を踏み荒らしながら、ゾンビどもが近づいてくる。
ぞろぞろと。
数は二百くらい。
隊列って呼べるものはないけど、中心分にはあのガイコツがいるんだろう。
悪夢の苗床になりそうな光景だ。
ゾンビもののホラー映画だったら、クライマックスって感じである。
「きやがりましたわね」
俺の横に立ったみなみが、ぺろりと上唇を舐めた。
若干の緊張を声に滲ませて。
なにしろ数が多いからね。
みなみも俺も強いけど、さすがに二百匹ものゾンビは相手にできない。
できるかぎり削って、限界に達するより前に逃げる。
これが大方針だ。
軽自動車は、すでにエンジンがかけられており、飛び乗ってさえしまえばいつでも発進できる状態。
不用心なことこの上ないが、生きてる人間は周囲にいないので、盗まれる心配はない。
「ガイコツだかリッチだか判らないけど、あれは避けて通ろうぜ」
「ですわね」
みなみの全力攻撃を受けても復活したような相手だ。
あんなのにこだわっていたら、全体の効率が悪くなってしまう。
「そんじゃ、征きますか!」
「友と明日のために! ですわ!」
え?
なにそのかけ声。
むちゃくちゃ格好いいんですけど!
問いただすよりも先にみなみは駈けだしている。
速い速い。
量産型能力者は、個人差はあるけど、どんなに鈍足だって百メートルを走るのに五秒はかからない。
らしい。
もちろん俺もだ。
格好いいかけ声についてはあとで質問するとして、俺もすでにダッシュを決めている。
みるみるうちに近づいてくるゾンビとも。
すれ違いざまに、バールを振る。
ぱーん、と、景気の良い音を立てて頭が破裂した。
高いところから落としたスイカみたいに。
攻撃の速度が速すぎたためだ。
もちろん俺は、哀れなゾンビに同情したりしない。それどころか一瞬以上の注意を払ったりもしない。
なにしろ敵はまだまだいっぱいいるのだ。
一山いくらで売れるほどね。
「買ってくれる人も、いないだろうけどな」
一振りで一匹、二振りで二匹。
囲まれないように気を配りながら、次々とゾンビを倒していく。
なかには目測を誤って一撃で頭を破壊できなかったやつもいるけど、そういうのはそのまま放置だ。
二手も三手もかけていられないからね。
基本的には、一匹に対して一発だけ。
ヒットアンドアウェイで、次々と相手をかえていく。
足を止めないのは、もちろん囲まれないためってのもあるけど、周囲に死体が積み重なっちゃうと邪魔だから。
足元に転がる死体を踏んでバランスを崩した、なんてのは目も当てられない。
「けど、やっぱり武器が軽いなぁ」
かれこれ十匹以上は倒したかな。
順調に撃墜数は伸ばしてるんだけど、不満はあるわけですよ。
ホームセンターから持ち出すのは、いっそスレッジハンマーの方が良かったかもね。
工事現場とかで見かける、あのでっけーハンマーだ。
たしか重さ十キロくらいのやつとかもあったはず。
ああいうのだったら柄も長いし、使いやすそう。
「あるいは、鉈とか」
映画『十三日の金曜日』で、殺人鬼ジェイソンが使ってた武器である。
俺が装備して戦えば、ゾンビVS殺人鬼って感じかな。
や、俺は殺人鬼じゃないけどさ。
それ以前の問題として、無い物ねだりしてもはじまらない。
今あるものでなんとかしないといけないのだ。
ついでに、俺だっていつまでも鈍器で戦うわけじゃない。
量産型能力者だもの!
超能力戦士だもの!
「こう、日本刀みたいなPKブレイドで、すっぱすっぱ斬ったら格好いいだろうなー」
みなみが使ってるようなダガーみたいな大きさじゃなくて、もっと長いやつ。
具体的には、燭台切光忠みたいな 打刀が良いな。
え?
具体的すぎる?
じつは、とあるゲームで日本刀を擬人化したやつがあってね。
伊達政宗公が使っていた刀として登場したのがこれだったんだ。
人を斬ったら、その後ろにあった燭台まで斬れてしまったって来歴も格好いいけど、擬人化した姿がやっぱり正宗公のような眼帯姿でなあ。
格好良かったのさ。
あ、ちなみに俺はそのゲームはやってないよ。
どっちかっていうと女性向けだし。
あるイベントで燭台切光忠に扮しているコスプレイヤーを見かけてね。
それで知ったんだ。
あの女性も格好良かったな。声をかけたら刀を抜いてみせてくれたっけ。
「こんなふうに……って、ええっ!?」
戦闘中だってのに、ポーズを真似た俺の目の前で、バールが変化した。
光り輝く日本刀に!?
「サイコキネシスは心の力を具現化したものですわ。拓真さんが望んだ力は、それだったのですわね」
動きを止めちゃった俺の背後にみなみが現れ、すかさず背を守ってくれる。
相棒、ありがたいです。
右手の刀を見る。
刃渡りは七十センチ弱。みなみのPKブレイドみたいに完全に光で構成されているのではなく、柄も鍔もある。
刀身は青銀色に輝いており、これも青白い光を放つPKブレイドとはちょっと違う。
「たぶん、具現化と物質変化が同時に起こってしまったのですわ。レアケースではありますが」
「そ、そうなのかあ」
「感想はあと。いまは目前の敵に集中してくださいな」
「そうだった! すまん!」
みなみにばかり負担をかけるわけにはいかない。
ぐっと踏み込んだ俺がカタナを大上段から切り下げる。
とくに手応えもなく、目の前のゾンビが左右ふたつに分かれた。
それどころか、その後ろのゾンビまで。
「すっげ!」
「PKブレイドの一種ですもの。常識の外側の存在ですわ」
「よし! このカタナはPKミツタダって名前にしよう!」
「だっさ……しかも光忠ぜんぜん関係ないのに……」
「なにかいいましたか!」
「今日は良い天気ですわねって言っただけですわ」
てきとーに応えるみなみに、俺は腹を立てなかった。
なにしろテンションがあがっちゃってるから。
右に突き込み、左に斬り払い。
PKミツタダを振るって大暴れだ。
今の俺は最強ですよ!
立て続けに十匹以上のゾンビを屠る。
戦闘開始から、もう二十匹以上やっつけてるよ。すごくない?
「すごくありませんわ。かかりすぎです」
すっと横に並んだみなみが注意を喚起する。
「かかりすぎ?」
「ご自分の疲労度、把握してますか?」
冷静な問いかけだ。
意識してみると、少し疲れてきた気がする。
「ゲームみたいに、HPだのMPだのは表示されませんわよ」
「そうだった」
調子に乗りすぎた。
ふっ、と、息を吐いて全体を把握しようと戦場を眺める。
うん。
ゾンビはまだまだいっぱいいる。
みなみと二人で、五十匹以上はやっつけてると思うけど、じつは敵の総数からみたら四分の一でしかない。
残り百五十をやっつけられるかって話だ。
「無理だな」
「冷静さが戻ってきましたわね」
に、と笑うみなみ。
まだ戦える。俺にしてもみなみにしても余力は充分にある。
だからこそ、そろそろたたむ算段をしないといけない。
疲労困憊して動けなくなってから逃げようとしたって不可能なのだから。
「いっかい突出してから、逃げるのが良いと思いますわ」
「賛成賛成」
笑みを交わし合い、俺たちは突撃を開始する。
みなみは左右のPKブレイドで、俺は両手持ちしたPKミツタダで、あたるを幸いゾンビどもを薙ぎ払いながら。
敵の層が厚くなってきたところで、一気に反転だ。
「よしっ 逃げるぞ!」
「了解ですわ」
不気味なうなり声をあげるゾンビどもを、行きがけの駄賃で斬り捨てつつ、一目散に逃げはじめる。
速度差がありすぎるので追いつかれることはない。
が、
「うっひょう! 撃ってきた撃ってきた!」
接近されたガイコツが、魔法を放ちはじめた。
まるで怒ったかのように。
「足を止めると当たってしまいますわよ」
警告を発したみなみは、ジグザグ走りをはじめる。
もちろん俺もそれに習った。
狙いを絞らせないために。




