ゲームというには生臭すぎる 3
武器はまたバールにしました。
どうでもいいっすね。はい。
「さて、どこまで逃げるかね。みなみさんや」
「そうですわねえ」
このまま国道五号線を進めば、やがて函館市内へと入るだろう。
当然、ずっとガイコツ軍団はついてくる。
だいぶ距離は稼いでるけど、しっかり追尾できてるみたいだし。
音だけじゃなくて、なにか違う方法があるんだろろうね。あのガイコツには。
で、函館に入るってことは、現在も戦いを続けているみなみの組織や、自衛隊に押しつけ……じゃなかった、処理を委ねることが可能だということ。
「さすがに敵を引き連れていくのは気が引けますわね」
むーん、と、指先を唇にあてるみなみ。
あざとい。
かわいい。
「まあなー」
みなみの可愛らしさはおくとしても、言ってることは事実ではある。
超人である量産型能力者が二人もいるのに、ゾンビごときに追い回されて味方に助けてもらうとか。
ないわー。
いくら中ボスキャラっぽいガイコツがいるといってもね。
「片付けてから、ステラたちと合流というのが理想ですわね」
「でもそれは難しいんだろ?」
やっつけられるなら、囮作戦なんか必要ない。
その意味では、函館にいる部隊に委ねるというのは悪い考えではないのだ。プライド的にちょっとあれなだけで。
「全部は無理でも、なるべく数は減らしましょう」
そう言って携帯端末を取り出し、地図アプリを起動させる。
彼女の頭にはロードマップが入ってるだろうから、もちろん俺に説明するためだ。
「このまま五号線を上って、『アップル温泉』を目指しますわ」
「温泉? そのこころは?」
まさかお風呂に入りたいから、という理由のわけはないだろう。
「周囲に何もありませんので」
「なるほど」
地図上、該当施設の周囲は畑ばっかりだ。
まあ、新函館北斗駅の周辺も畑ばっかりだったけどねっ。
遮蔽物がほとんどない場所で大軍と戦うってのは、普通に考えたらナシだ。
こちらは二人、敵は二百以上。
囲まれて袋叩きにされるだけである。
実際、函館空港での戦いだって、ATMコーナーを使って各個撃破したのだ。
しかし、今回は状況が異なる。
救助すべき人は存在しないので、思いっきり暴れることができる。
できるかぎり数を減らして、疲れたらとっととトンズラ。
これが大方針になるだろう。
そういう条件なら、だだっ広い場所の方が戦いやすい。
スピードの差があるので、よほど下手を打たないかぎり囲まれることもないだろうし。
「もちろん、少し休みたいというのもありますわ」
「それはかなり重要だな」
朝から戦い続けているのだ。
しかもみなみは大技まで使っている。
正直なことをいえば休憩したい。
「それに、『アップル温泉』はとても清潔で居心地が良いのですわ。町営の施設とは思えないほどに」
やたらと推す。
なんか思い入れでもあるのか?
いやまあ、そんな居心地の良い温泉なら、俺だって入りたいけど。
「みなみの方針に否やはないけど、それはなんだ? いったい」
「替えの下着ですわ」
「そんなことは訊いていない」
むしろ見れば判る。
男性の前で、堂々と手にもつなよ。
あと、スポブラとおばちゃんパンツってのは、どーなのよ。
「ホームセンターにおしゃれな下着を求めても仕方ありませんわ。この際は実用最優先です」
「ま、そりゃそうか」
肩をすくめた俺も、えらくおっさんくさいデザインのトランクスを手に取った。
こちらは軽自動車で、ゾンビどもは徒歩。
移動力では比べものにならない。
ただ、あのガイコツは俺たちのあとを正確にトレースしているので、一ヶ所に留まっていれば、いずれ追いつかれてしまう。
まともに考えたらストレスのたまる展開だけど、俺たちが引きつけている間はバスは安全だということだ。
国岡さんたちには、なるべく距離を稼いでほしいところである。
むしろ、もう新千歳空港に到着してくれていても良いのよってくらいだ。
もっとも、二百キロちかくの距離を一時間程度で踏破できるわけがないが。
「それに、バケモノどもを道南から出すのもまずいのですわ。避難命令はこの地方にしか出ていませんし」
ゆったりと濡舟でくつろいだみなみが言った。
「そ、そっすねー」
なるべくそちらを見ないようにしながら応える。
はい。
混浴中です。
ここ、男湯です。
どうしてこうなった。
「ちらちらのぞき見るくらいなら、堂々と見ればよろしいですのに」
「ばばばばっかみなみっ みみみてないよっ」
「息子さんが言葉を裏切ってますわよ」
「みるなぁっ!」
なんで一緒に入浴しているかっていうと、時間が惜しいからだ。
ゾンビどもが追いついてくるまでに一風呂あびて、しっかり休息をとる。ひとりが入っている間にもうひとりが見張り、というのでは時間が二倍かかってしまう。
かといって男女に分かれて入った場合、変事が起きたときに合流ってプロセスが増えるぶんだけ不利が大きくなる。
ではあれば、一緒に入った方が良い。
と、みなみさんがご主張あそばしたのである。
「戦場で男も女もありませんわ。私たちはバディですから、互いの背中を守り合うものですわ」
「そうだけどっ まったくの正論だけどっ」
剛胆というかなんというか。
ガイコツと戦ったときもそうだったけど、発想が完全に戦士です。
「どうしても性欲が抑えられなくなったらおっしゃってくださいな。さすがに処女はあげられませんが、手で処理してさしあげますので」
「謹んでご遠慮もうしあげますからっ!」
生々しいわ。
生々しすぎるわ。
どうなってんだよ。量産型能力者。
ともあれ、入浴は問題なくおわり、新品の下着と服に着替えてゾンビどもを待ちかまえることとなった。
あ、俺もカーゴパンツと黒いTシャツ姿で、みなみとほとんど変わらない。
違いは、頑丈そうな作業グローブをつけているくらいだろうか。
ゴムグリップのやつなので、バールが滑ることはない。
ていうか量産型能力者になった俺にとっては、バールはちょっと軽すぎる。
もうちょっと、そうだな、十キロくらいの重さがあれば振り回しやすいんだけどな。
「人間の使う武器は、ちょっと軽すぎますわよね」
畳敷きの休憩所ででろーんとくつろいだみなみが笑う。
「まあな」
バールは武器ではないっすけどね。
感覚的には、三十センチのブラスチック製定規を振り回してるようなもの、といえば理解しやすいだろうか。
武器として考えたとき、頼りないことおびただしい。
もっと長く、重く、たとえばグレートソードみたいなヤツが使いやすい気がする。
さすがに日本じゃ手に入らないだろうけど。
「だから私たちはPKブレイドやPKランスで戦うのですわ。ピストルなどを使うくらいだったら、いっそ素手の方がマシですもの」
「たしかになー」
文字通り豆鉄砲だもの。
あの程度の威力しかないのに、構えて、狙いを定めて、とか、めんどくさいことをしないと当たらないし。
だったらグーパンの方が、よっぽどラクだ。
「もちろん人によって得手不得手はありますけどね。私はランスよりブレイドの方が使いやすいですわ」
逆に、ステラは専らランスで、しかもバイクの上から投擲したり、突進力を利用して突き刺したり、現代版の騎士みたいな戦い方を好むらしい。
「俺はどうかな?」
「拓真さんは、PKグレイトソードでぶった斬り、とか似合いそうですわね」
「なにそれ格好いい」
「銃弾にPKを乗せて、PKバレットとして使う人もいますわ」
「多彩だなっ!」
「量産型能力者が使える超能力はPKだけですから。いろいろな戦技が研究されるのですわ」
「なるほどなぁ」
頷きつつも、俺は内心で苦笑してしまう。
サイコキネシスが使えて、常人に数倍する身体能力と耐久力をもった超能力戦士に戦技研究とか、なんで必要なんだ、と。
パンチ一発、岩をも砕く、という世界なのに。
「ん。きましたわね」
くつろぎながらのくだらない会話を中断し、みなみが立ちあがった。




