ゲームというには生臭すぎる 2
勝利の余韻に浸っている場合ではない。
俺たちはすぐにバスへと走り、避難客の乗車を支援を開始する。
ステラも自衛隊の三人も強いけど、なにしろ数が違う。
まだまだゾンビは二百以上残っているのだ。
俺のバール(ちゃんと回収したよ)とみなみのPKブレイドが加わったところで、戦況が劇的に変化するわけではないが、多少なりともステラたちの負担は減るだろう。
「ただまあ、私はもうそんなに長時間は戦えませんけどね」
「その分、俺が頑張るよ」
みなみは大技を使った直後である。
まだ俺は超能力を使うことはできないけど、あれがすげー技だってことくらいは理解できるさ。
消耗が激しいことも。
バールでゾンビの頭をぶん殴りながら、親指を立ててみせる。
「期待いたしますわ」
みなみが微笑するが、どっちかっていうと苦笑いに近かった。
それでも笑うことができるのは、もうすぐ避難者たちの乗車が終わりそうって側面もある。
さすがは非常事態に慣れた人々である。
「バスの周囲を一掃したら、すぐに出発だ」
隊長さんが告げる。
装甲車は諦めざるをえない。
ゾンビに囲まれた状態で起こすのは無理だしね。
自衛官は全員バスに乗り、それをステラのCRFとみなみと俺の軽自動車で守る、というかたちになるだろう。
「うそ……っ!?」
唐突に、みなみが声を上げた。
緊迫感にふりかえれば、なんとあのガイコツが立ちあがろうとしている。
まじすか!
あの攻撃で死んでないとか!
虚ろな眼窩に青白い炎を宿し、ずんずんとこちらへ向かってくる。
「げげ。なんかピンポイントに私を狙っていますわ」
「強敵認定されちゃったかー」
かなりやばい。
「隊長さん! 森住さん! 出発してください!!」
「君たちは?」
「別方向に逃げます。あとから合流しましょう!」
窓から顔出した国岡さんに短く応え、俺とみなみは駈けだした。
立体駐車場へと。
近くにいたら、バスまで攻撃対象になってしまうからね。
「ステラ。お願いいたしますわ」
「まかせといて」
みなみの言葉に頷き、ステラがCRFにまたがる。
バスの進路を啓開するためだ。
バイクを走らせながらPKランスを操る姿は、騎士ライダーって感じですげー格好いいが、じっくり観戦している余裕はない。
走り出した俺たちを、やっぱりガイコツが追ってきたから。
ついでに、大量のゾンビも。
「ですよねー」
「いいじゃありませんの。囮の役目になりますわ」
俺のぼやきに笑うみなみ。
敵を引きつけるっては大事だし、俺たちに注目してくれればバスは脱出しやすくなるだろう。
「せやかてみなみ。あのガイコツどうやって倒すよ」
問題は、その部分なのである。
引きつけているだけでは勝てない。
「どこの関西人探偵ですか。そもそも勝つ必要あります?」
ときおり振り返りながらPKランスを飛ばして、敵の注意がこちらから逸れないようにする。
献身的な戦い振りだが、威力はあきらかに落ちていた。
「私たちは囮です。敵を殲滅する必要はありませんわ。彼らが逃げ切る時間を稼ぐこと。それが最優先の命題となりますの」
勝算の薄い相手と戦って、敗北してしまったら時間は稼げない。
少年マンガなどでは囮役が頑張って敵を撃破するシーンがしばしば描かれるし、けっこう燃えるシチュエーションではあるが、敵をやっつけられるような戦力があるなら、そもそも誰かが囮になる必要なんかないのである。
もし俺たちに、あのガイコツとゾンビたちを全滅させうる力があるなら、逃亡を選択したりしない。
「なるほどなあ」
みなみの説明に納得する。
やはり彼女は戦士であり、戦略目標のために命を賭ける覚悟はちゃんとできている、ということなのだ。
軽自動車に乗り込む。
俺が右側座席だ。
無免許だけど、みなみを少しでも休ませないとね。
エンジンをスタートさせ、アクセルを踏み込む。
次々と迫りくるゾンビを回避しながら。
これ、昨日はなかった展開だよな。明確な意志をもって追いかけてくるとか。
「ぶつけてしまっても大丈夫ですわよ。こんな場合ですから事故報告書も書かなくて良いでしょうし」
「報告的なことを気にしてるわけじゃないよ!?」
我ながら絶妙なハンドルさばきでゾンビや駐車車両を回避しつつ、入口をめざす。
頑丈なRV車ではない。
ぶつかったら、すぐにへこんじゃうし壊れちゃうのだ。
「待ちかまえてるかもしれませんわね。普通に出口から出ましょうか」
「裏を掻くわけですなっ!」
屋上から二階、そして一階へと駆け抜ける。
映画ならクライマックスシーンばりのカーアクションだ。
量産型能力者の動体視力でなければ、間違いなく何回かぶつかっているだろう。
左手でハンドルを操りながら窓を開ける。
「そぉい!」
そしてバールを投擲した。
やたらと投げつけられる工具が、唸りをあげてゲートバーを叩き折り、吹き飛ばす。
「ヒャッハーっ!」
そしてさらにアクセルを踏み込み、陽光の下へと躍り出した。
「セリフがブレブレですわね。どうでも良いですけれど」
ふわ、と、みなみがあくびをする。
疲れているのだろう。
寝てて良いよ、とは言ってあげられないが、今は少しでも身体を休めてほしい。
加速と減速を繰り返しながら、挑発するように運転する。
ようにというか、挑発しているのだ。
俺たちのあとを追わせるために。
「よし。食いついてきたな」
のたのたと、ガイコツとゾンビどもが追いかけてくる。
アクセルを全開にすれば簡単に振り切れるだろうけど、それだとバスの方を追いかけてしまうかもしれない。
いまはまだ俺たちを狙ってもらわないと。
「そこの信号は左に行かず、直進してくださいませ。拓真さん」
「あいよ」
『なないろ・ななえ』の方面に向かわないのは、むしろ当然の選択だ。
バスと同じルートを走っても意味がない。
つまり札幌方面ではなく、函館方面を目指す。
使うルートは国道五号線。
通称『赤松街道』だ。
函館新道ができるまでは主街道だったので、道の両側にはスーパーとかコンビが点在してる。
ホームセンターもね。
「服と武器を調達しよう」
「ついさっき武器を投げ捨たひとのセリフとは思えませんわね」
「おとっつぁん。それは言わない約束よ」
「そんな約束をしたおぼえはないよ。お拓」
「その呼び名が途方もなく嫌です!」
くだらない話をしながら、俺はバックミラーを確認した。
うん。
ガイコツ野郎も五号線に入ったね。
それじゃあ、本格的に逃げさせていただきますか。
ぐっとアクセルペダルを踏み込んだ。
国道沿いにあるホームコンビニを自称するホームセンターで、俺とみなみの服を調達する。
おしゃれさとは無縁な作業服だが、贅沢はいっていられない。
それに、みなみの場合は素材が良いから何を着ても似合うしね。
プロポーションが完璧すぎる。
「拓真さんもすぐにそうなりますわ。霊薬の効果で」
「なにそれすごい」
「もうすでに腹筋割れていますわよ。きっと」
「うひょ!」
言われてTシャツの上から腹を触った俺、ちょっとびっくりである。
ていうか腕も太腿も、良い筋肉になってるわー。
霊薬すごい。
森住二曹が欲しがるわけですよ。
「私、これでよろしいですわ」
カーキ色の作業ズボンに黒いTシャツをまとい、腰にはウェストポーチを巻いたみなみさんです。
かぶった帽子も格好いい。
下半身はあえてぶかっと、上半身はしっかり身体のラインが出るようなコーディネイトだ。
「どうです? 拓真さん」
「良い。かなり良い。ワイルドな中にもコケティッシュさがあって、かなり控えめに言っても最高だ」
ぐっと親指を立ててみせる。
「東京の人にファッションを褒めてもらえると、とても嬉しいですわ」
みなみがにぱっと笑った。
そうすると年齢相応である。
ああくそ。
かわいいなぁ。




