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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第3章 ゲームというには生臭すぎる
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ゲームというには生臭すぎる 2


 勝利の余韻に浸っている場合ではない。

 俺たちはすぐにバスへと走り、避難客の乗車を支援を開始する。


 ステラも自衛隊の三人も強いけど、なにしろ数が違う。

 まだまだゾンビは二百以上残っているのだ。


 俺のバール(ちゃんと回収したよ)とみなみのPKブレイドが加わったところで、戦況が劇的に変化するわけではないが、多少なりともステラたちの負担は減るだろう。


「ただまあ、私はもうそんなに長時間は戦えませんけどね」

「その分、俺が頑張るよ」


 みなみは大技を使った直後である。

 まだ俺は超能力を使うことはできないけど、あれがすげー技だってことくらいは理解できるさ。

 消耗が激しいことも。


 バールでゾンビの頭をぶん殴りながら、親指を立ててみせる。


「期待いたしますわ」


 みなみが微笑するが、どっちかっていうと苦笑いに近かった。

 それでも笑うことができるのは、もうすぐ避難者たちの乗車が終わりそうって側面もある。

 さすがは非常事態に慣れた人々である。


「バスの周囲を一掃したら、すぐに出発だ」


 隊長さんが告げる。

 装甲車は諦めざるをえない。

 ゾンビに囲まれた状態で起こすのは無理だしね。


 自衛官は全員バスに乗り、それをステラのCRFとみなみと俺の軽自動車で守る、というかたちになるだろう。


「うそ……っ!?」


 唐突に、みなみが声を上げた。


 緊迫感にふりかえれば、なんとあのガイコツが立ちあがろうとしている。


 まじすか!

 あの攻撃で死んでないとか!

 虚ろな眼窩に青白い炎を宿し、ずんずんとこちらへ向かってくる。


「げげ。なんかピンポイントに私を狙っていますわ」

「強敵認定されちゃったかー」


 かなりやばい。


「隊長さん! 森住さん! 出発してください!!」

「君たちは?」

「別方向に逃げます。あとから合流しましょう!」


 窓から顔出した国岡さんに短く応え、俺とみなみは駈けだした。

 立体駐車場へと。

 近くにいたら、バスまで攻撃対象になってしまうからね。


「ステラ。お願いいたしますわ」

「まかせといて」


 みなみの言葉に頷き、ステラがCRFにまたがる。

 バスの進路を啓開するためだ。


 バイクを走らせながらPKランスを操る姿は、騎士ライダーって感じですげー格好いいが、じっくり観戦している余裕はない。

 走り出した俺たちを、やっぱりガイコツが追ってきたから。

 ついでに、大量のゾンビも。


「ですよねー」

「いいじゃありませんの。囮の役目になりますわ」


 俺のぼやきに笑うみなみ。

 敵を引きつけるっては大事だし、俺たちに注目してくれればバスは脱出しやすくなるだろう。


「せやかてみなみ。あのガイコツどうやって倒すよ」


 問題は、その部分なのである。

 引きつけているだけでは勝てない。


「どこの関西人探偵ですか。そもそも勝つ必要あります?」


 ときおり振り返りながらPKランスを飛ばして、敵の注意がこちらから逸れないようにする。

 献身的な戦い振りだが、威力はあきらかに落ちていた。


「私たちは(デコイ)です。敵を殲滅する必要はありませんわ。彼らが逃げ切る時間を稼ぐこと。それが最優先の命題となりますの」


 勝算の薄い相手と戦って、敗北してしまったら時間は稼げない。

 少年マンガなどでは囮役が頑張って敵を撃破するシーンがしばしば描かれるし、けっこう燃えるシチュエーションではあるが、敵をやっつけられるような戦力があるなら、そもそも誰かが囮になる必要なんかないのである。


 もし俺たちに、あのガイコツとゾンビたちを全滅させうる力があるなら、逃亡を選択したりしない。


「なるほどなあ」


 みなみの説明に納得する。

 やはり彼女は戦士であり、戦略目標のために命を賭ける覚悟はちゃんとできている、ということなのだ。





 軽自動車に乗り込む。

 俺が右側座席だ。

 無免許だけど、みなみを少しでも休ませないとね。


 エンジンをスタートさせ、アクセルを踏み込む。

 次々と迫りくるゾンビを回避しながら。

 これ、昨日はなかった展開だよな。明確な意志をもって追いかけてくるとか。


「ぶつけてしまっても大丈夫ですわよ。こんな場合ですから事故報告書も書かなくて良いでしょうし」

「報告的なことを気にしてるわけじゃないよ!?」


 我ながら絶妙なハンドルさばきでゾンビや駐車車両を回避しつつ、入口をめざす。

 頑丈なRV車ではない。

 ぶつかったら、すぐにへこんじゃうし壊れちゃうのだ。


「待ちかまえてるかもしれませんわね。普通に出口から出ましょうか」

「裏を掻くわけですなっ!」


 屋上から二階、そして一階へと駆け抜ける。

 映画ならクライマックスシーンばりのカーアクションだ。

 量産型能力者(PA)の動体視力でなければ、間違いなく何回かぶつかっているだろう。


 左手でハンドルを操りながら窓を開ける。


「そぉい!」


 そしてバールを投擲した。

 やたらと投げつけられる工具が、唸りをあげてゲートバーを叩き折り、吹き飛ばす。


「ヒャッハーっ!」


 そしてさらにアクセルを踏み込み、陽光の下へと躍り出した。


「セリフがブレブレですわね。どうでも良いですけれど」


 ふわ、と、みなみがあくびをする。

 疲れているのだろう。


 寝てて良いよ、とは言ってあげられないが、今は少しでも身体を休めてほしい。

 加速と減速を繰り返しながら、挑発するように運転する。


 ようにというか、挑発しているのだ。

 俺たちのあとを追わせるために。


「よし。食いついてきたな」


 のたのたと、ガイコツとゾンビどもが追いかけてくる。

 アクセルを全開にすれば簡単に振り切れるだろうけど、それだとバスの方を追いかけてしまうかもしれない。

 いまはまだ俺たちを狙ってもらわないと。


「そこの信号は左に行かず、直進してくださいませ。拓真さん」

「あいよ」


『なないろ・ななえ』の方面に向かわないのは、むしろ当然の選択だ。

 バスと同じルートを走っても意味がない。

 つまり札幌方面ではなく、函館方面を目指す。


 使うルートは国道五号線。

 通称『赤松街道』だ。


 函館新道ができるまでは主街道だったので、道の両側にはスーパーとかコンビが点在してる。

 ホームセンターもね。


「服と武器を調達しよう」

「ついさっき武器を投げ捨たひとのセリフとは思えませんわね」

「おとっつぁん。それは言わない約束よ」

「そんな約束をしたおぼえはないよ。お拓」

「その呼び名が途方もなく嫌です!」


 くだらない話をしながら、俺はバックミラーを確認した。


 うん。

 ガイコツ野郎も五号線に入ったね。

 それじゃあ、本格的に逃げさせていただきますか。

 ぐっとアクセルペダルを踏み込んだ。


 国道沿いにあるホームコンビニを自称するホームセンターで、俺とみなみの服を調達する。

 おしゃれさとは無縁な作業服だが、贅沢はいっていられない。


 それに、みなみの場合は素材が良いから何を着ても似合うしね。

 プロポーションが完璧すぎる。


「拓真さんもすぐにそうなりますわ。霊薬の効果で」

「なにそれすごい」

「もうすでに腹筋割れていますわよ。きっと」

「うひょ!」


 言われてTシャツの上から腹を触った俺、ちょっとびっくりである。

 ていうか腕も太腿も、良い筋肉になってるわー。

 霊薬すごい。

 森住二曹が欲しがるわけですよ。


「私、これでよろしいですわ」


 カーキ色の作業ズボンに黒いTシャツをまとい、腰にはウェストポーチを巻いたみなみさんです。

 かぶった帽子も格好いい。


 下半身はあえてぶかっと、上半身はしっかり身体のラインが出るようなコーディネイトだ。


「どうです? 拓真さん」

「良い。かなり良い。ワイルドな中にもコケティッシュさがあって、かなり控えめに言っても最高だ」


 ぐっと親指を立ててみせる。


「東京の人にファッションを褒めてもらえると、とても嬉しいですわ」


 みなみがにぱっと笑った。

 そうすると年齢相応である。

 ああくそ。

 かわいいなぁ。

 

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