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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第2章 ホラー VS SF
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ホラー VS SF 8


 ロビーのゾンビを斬り捨て、あるいは誘導しながら外に出る。


「うわぁ……」


 いるわいるわ。


「ざっと三百といったところですか」

「昨日は、こんなにいなかったよな」

「ええ。それに、一掃しましたし」

「ですよねー」


 どこから涌いて出やがった。

 尋常でない行動をするゾンビと、尋常でない数のゾンビ。

 どうにも引っかかるね。こいつは。


「それはたとえば、操っているモノがいるとか、そういうことですの?」

「みなみも同じ結論か」


 俺の思考を先読みしたかのようなみなみの言葉に頷いてみせる。

 そう考えれば筋が通る、というより、そう考えなければ話がおかしすぎる。


 昨日までは、うーうー唸ってただ咬みついてくるだけだったゾンビが、突如としてものを考えられるようになりました、ってのは、ちょっとリアリティがない。

 しかも、装甲車を動かしてしまおうとか。


「まあ、こういうケースでは黒幕がいるものですわ」


 ふ、と、シニカルな笑いを浮かべるみなみ。

 まるで似たような状況を知っているような態度だ。


 とはいえ、さすがにみなみの言うとおりで、ゾンビが自然発生するわけがない。

 考えてみずとも当たり前の話だろう。


 ゾンビ映画などで語られることは少ないが、騒ぎを引き起こしたものがいるのだ。


「アメリカかロシアって、前に言ってたよな」

「可能性だけなら中国もけっこう高いですが、使うなら僵尸(チャンスー)でしょうし」


「チャンス?」

普通語(北京語)ですわ。広東語では、キョンシー」

「あ、なんかきいたことあるぞ。昔の映画とか」


 たしか一九八〇年代じゃなかったかな。

 さすがに内容までは知らないけど、特撮好きの俺としては一応タイトルくらいは押さえている。


「あれも死霊兵器の一種ですわ。もし中国が裏にいるなら使うのはゾンビではないでしょう」


 アメリカになすりつけたくてゾンビを使う可能性までは否定しませんけど、と、付け加える。

 それはいいとして、いや、ぜんぜん良くないけど、


「兵器って言ったか?」


 俺が聞きとがめたのは、そっちの言葉だ。


 兵器というからには運用方法が判っていなくてはいけない。ゾンビでもキョンシーでもいいけど、それの作り方とか使い方とかが判っているってことか。

 オカルトが実在するってことなのか。


「ですわ。拓真さんは、もうこちら側にきてしまったのですわ」

「俺もオカルトなの!?」

「美味しくない薬を飲んだだけで超能力者になれるとか、SFではなくオカルトの分野ですわよ」

「たしかに!」


 納得しちゃったよ!

 なんというか超能力者になるなら、普通は改造手術とか人体実験とか、そういうプロセスは必要だよね。


 やめろうっ! ショ○カーっ!! とか、そういうやつ。


 あ、でも待てよ。

 シ○ッカーの母体って、たしか日本政府なんじゃなかったっけ。


 怖いわー。

 現実は、特撮より怖いわー。


「ちょっとあんたたち! 口じゃなくて手を動かしなさい!」


 ステラに怒られた。

 俺らだって、けっこうゾンビを倒してるんだけど、森住さんとステラのコンビほどはスコアは伸ばせていない。


 相棒(バディ)の差だよなあ。

 量産型能力者(PA)になったとはいえ、俺って昨日までただの大学生だったわけだし。

 本職の自衛官ほど、的確にみなみをバックアップできない。


「悔しいとお思いですか? 拓真さん」

「ちょっとはね」

「そう思う人は強くなれる。私たちの組織の標語ですわ」


 みなみが微笑してくれた。




 外にいるゾンビは三百くらい。

 こいつらを倒しながら、俺たちはバスを一両ずつチェックしていく。


「ビンゴですわ」


 みなみが歓声を上げる。

 六両目であたりを引いた。


 運転手はよほど慌てて逃げたのか、ドアは開けっ放しだしキーも差したまま。

 さすがにエンジンは切ってあったけどね。


「OK。こいつをいただこうぜ! 森住さん!」


 大声で二曹を呼ぶ。

 頭上で丸をつくるジェスチャーつきで。


 ゾンビも呼び寄せちゃうけど、これはいまさら。

 とにかく数を減らさないと、脱出もできないからね。


「では拓真さん。やりますわよ」


 左右の手にPKブレイドを出現させ、にやりと笑うみなみ。


 ここからは無礼講だ。

 使える車を探しながら、なんてまどろっこしいことはしなくていい。

 当たるを幸い薙ぎ倒せばいいだけだ。


「俺も二刀流したいなぁ」


 ナイフ一刀流よりかっこよさそう。それ以前の問題として、刃こぼれとかを気にしなくていいってのが素晴らしいね。


 森住二曹にもらったコンバットナイフは、もうけっこうボロボロです。

 なにしろ頭を破壊しないとゾンビは死なないから。


 骨があるんですわ。骨。

 ナイフですぱっ! というわけにはなかなかいかなくて、かなり刃こぼれしちゃってる。


「鈍器の方が武器として効率が良いってのも、あながち嘘ではありませんわね」

「だなー」


 完全に力業でゾンビの頭をぶった斬りながら応える。

 刃のある武器って、やっぱり扱いが繊細なんだね。


「どこかに斧とか落ちてれば良いんですけれど。ゲッ○ート○ホークみたいなやつ」

「それはあんまり落ちてないんじゃないかなぁ」


 日本は、道ばたにトマホークが落ちてるくらいエキセントリックな国ではないはずだ。

 きっと。


「拓真くん。これを使え」


 バスに入った森住さんが運転席からなにか投げてくれる。

 なにかっていうか、バールでしたっ!

 足元の工具入れから出してくれたのだろう。


「エクスカリバールですわね」

「そんな伝説の聖剣的なバールはない」


 くだらない話をしながら、ナイフを捨ててバールを構える。

 ん。

 リーチとしては同じくらいか。


 いけるいける。


「しゃっ!」


 突進して一振り。

 めきょ、と、いう景気の良い音を立て、頭を陥没させたゾンビがひっくり返った。


「殴るだけ。簡単でいいな!」

「超能力をもったサイキックウォーリアーとしてどうなんだって話ではありますけど」

「PKはみなみが教えないと」


 ステラも加わり、バスに近づくゾンビどもを倒していく。


 あとはこいつをホテル前まで移動させ、ひっくり返ってる装甲車を起こしたらすぐに出発だ。


 焦る必要はないと思っていたが、事態がこう推移してしまったからにはそんなことも言っていられない。

 ゆっくりとバスが動き出す。


 と、そのときである。


「なにかきましたわ」


 みなみの警告に振り返れば、遠くから近づいてくる黒い影が見える。

 なんか、ものすごい禍々しいやつ。


 ゾンビよりずっと、なんというのかな確固たる意思をもって動いているような。

 そんな感じだ。


「なんだありゃ?」

「味方ということだけはないでしょうね。ステラ」

「了解よ。バスへの移乗を急がせる」


 セリフの後半は同僚に向けたものだ。


 軽く頷いて、ステラが駆け出す。

 バスの進路を啓開するために。


「装甲車は諦めるしかありませんわね」


 ふうとため息を吐くみなみ。

 のんびりと起こしている余裕はない、と判断したわけだ。


 俺もだいたい同意見である。

 いかにもラスボスって感じの登場だし。


 間違いなく強敵だろう。

 それに、ゾンビだってまだまだいっぱいいるのだ。


「私たちで時間を稼ぎますわよ。拓真さん」

「あいよ。相棒」


 俺に対して、逃げろとはいわない。

 なぜなら俺を量産型能力者(PA)にしたのは彼女だから。

 一蓮托生なのである。


「死ぬときは一緒だ、というやつですわね」

「縁起でもないな」


 みなみがPKブレイドを、俺がバールを構える。

 やがて、黒い影が完全に視界に入った。

 髑髏(しゃれこうべ)である。


「スケルトンっていうには、禍々しすぎるな」

「リッチじゃないです?」

「ホラーを超えて、SFも超えて、ファンタジーになっちまうぜ」

「いまさらですわ。もうなんでもアリでしょう」

「違いない」


 リッチというのはファンタジー作品なんかに登場する、高位のアンデッドモンスターだ。

 ようするに、ゾンビやスケルトンの親玉みたいなもんである。

 で、死者はこいつの呪いでゾンビとかになっちゃうわけだ。


「ゾンビに咬まれてゾンビになるか、リッチに殺されてゾンビになるか、たいして違いはないもんな!」


 先手必勝。

 大きく振りかぶった俺は、バールを全力投球した。


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