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ドーナン(道南)・オブ・ザ・デッド!?  作者: 南野 雪花
第2章 ホラー VS SF
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ホラー VS SF 4


 他に車すらいない道路を軽自動車が飛ばしてゆく。

 これだけで、俺にとっては充分に非日常だ。

『なないろ・ななえ』から新函館北斗駅まではだいたい三キロ。自動車の速度なら五、六分である。


「誰もいない……」


 車ともすれ違わない。

 歩いている人もいない。

 いるのは、畑で遊ぶカラスくらい。


「それはいつものことですわ。ゾンビが出ても出なくても」

「んだな。そもそもこのへん、なんにもないし」


 俺の呟きに、助手席のみなみと運転席の森住さんが応えてくれた。

 ヒドス。北海道。


「そもそも、北海道って九州と中国地方を足したよりでかいからな」

「ぜんぜん実感がありません」

「なら、関東六都県をぜんぶ足しても、北海道の半分以下だ」

「ぐはー」


 森住さんの解説に、思わず変な声を出しちゃった。

 広い広いとは思ってたけど、そこまで広いのか。


「で、その広い土地に五百三十万弱の人間が暮らしておりますわ」

「東京の半分以下かよ」

「しかも、そのうち半分近くが札幌とその近郊に暮らしております。地方の人口密度など、推して知るべしでしょう」


 みなみさんまでくすくす笑ってますよ。

 なんですかね。道産子って。

 広さと人の少なさを自慢したいんですか。そうですか。


 ともあれ、軽自動車は快調に走り、駅前のホテルが見えてきた。

 昨日はゆっくり見ている余裕もなかったけど、ほんっとになんにもないのな。

 駅とホテルくらい? でかい建物って。


「と、いるな」


 森住二曹が警戒する。

 軽自動車のエンジン音に引き寄せられたのか、あちこちからゾンビが姿を現した。


 ただ、数は多くない。

 目算で五十いるかどうかってところだろう。


 このへんの人が全部ゾンビになった、というわけでもないんだろうな。


「逃げ遅れた人々、だな。発生直後に避難命令が出たから」

「命令……」


 避難勧告や避難指示ならともかく、命令ときた。


 そういうのにさっと従えるって、北海道の人たちってどんだけ訓練されてるんだ?

 軍隊か?


「慣れですわ。道南はとにかく事が多いので」

「意味がわからん」


 森住二曹の説明に口を挟んだみなみ。

 本気で意味が判らないです。


「一掃するって方針でいいかな? みなみちゃん」

「かまいませんが、車は立体駐車場に入れてしまってくださいな。ゾンビたちに悪戯されたら困りますので」

「了解」


 ぐいっと森住さんがハンドルをきる。

 田舎には不似合いなほど立派なホテルの前を通過し、軽自動車は立体駐車場に入った。

 入口のゲートは、みなみに破壊されているから、普通に素通りだ。


 のたのたと追いかけてきたゾンビどもが、右折左折を繰り返す軽自動車を見失う。

 速い動きには、やっぱり対応できないっぽい。


 近くにある音に吸い寄せられるって感じだろうか。

 で、ある程度の距離をおけば追い切れなくなる。

 この習性は記憶しておくべきことだろう。


 やがて軽自動車は、屋上の駐車スペースに到着した。

 一階や二階ではゾンビがきてしまうかも、という配慮だ。


「このへんの車を失敬できれば、かなり機動力が増すんだけどな」

「仮にゾンビがキーを持っていたとしても、どの車のものか判りませんよ」


 森住二曹の慨嘆に、俺は肩をすくめてみせた。

 直結して動かす、という方法もあるだろうが、さすがにそんな知識はない。


「でも、観光バスを奪うのは手かもしれませんわ」


 みなみが口を挟む。

 屋上から大型車駐車場を見れば、何両かの観光バスが放置されている。


 あれを動かすことができれば、新千歳空港までの機動力を得ることができるだろう。

 問題はキーだが。


「運転手っぽいゾンビがいたら、倒した後で服の中を漁ってみましょう」

「だな。ぞっとしないけど、背に腹は代えられない」






 森住二曹の突撃銃が火を吹き、正確にゾンビの頭を撃ち抜く。

 みなみの剣の舞は、数匹のゾンビをまとめて薙ぎ倒す。


 まったく危なげない戦いである。

 遠距離は二曹が、近距離はみなみが、それぞれ担当して付け入る隙もない。


 俺?

 見ーてーるーだーけー。

 二人に守られて、ぼーっと立ってるだけだ。


 出番なんてないよ!

 まあ、どうせ撃っても当たらないだろうけどさ。


 屋外にいた五十匹ほどのゾンビは、あっという間に一掃されてしまった。

 民間人を避難させながらとか、そういう条件がなければ、超能力者にしても自衛隊にしても戦闘能力において比較にならない。

 なんというか、戦い慣れてる感じ。


 どうやれば倒せるか知っていて、それを淡々と実行してる雰囲気だ。

 ゾンビモノの映画やアニメみたいに、怖がったり慌てたりするようなシーンがない。


「視認範囲に敵影なし」

「お疲れさまですわ」


 すっと銃をおろす森住さんと、PKブレイドを消すみなみ。


 強い。

 民間人に足を引っ張られさえしなければ、彼らにとってゾンビなんて敵でもなんでもないんだ。


 囲まれて押しつぶされたらやばいってみなみは言ってたけど、遠距離攻撃ができる森住さんがいれば、囲まれる心配もまず少ない。


 あれ?

 俺いらない子?



 警戒を解かないまま、俺たち三人はホテルの内部へと侵入する。

 ロビーにはゾンビは……いた。


 やっぱりいたか。

 のろのろと動き回る影が五つ。


 まだこちらには気付いていない。

 みなみが軽く頷き、そろりそろりと近づいてゆく。

 一撃で仕留められる距離まで。


 タイミングを計り、森住二曹が銃を構える。

 狙いは一番遠いヤツ。


 撃ったら音でゾンビがこちらに気付いて振り向く、その振り向いた一瞬の隙にみなみが斬り込み、全滅させるという作戦だ。


 たーん、という音。

 同時にゾンビが倒れる。


 ひらりとみなみが舞う。

 音もなく。

 ふわりと広がるフィッシュテイルのスカート。


 両手に握られた光の剣。

 ダンスのステップのように軽やかに、ゾンビどもを切り裂いてゆく。

 ほぼ一瞬の出来事だ。


「お見事。みなみ」


 思わず拍手しながら近づいちゃうよ。


「それほどでも、ありますわ」


 ふふーんと胸を反らす。

 あざとい。


 くっそう。

 可愛いなぁ。

 つーか反則じゃね? ものすごく可愛い上にものすごく強いとか。


「まあでも、死体を外に捨てないといけませんわね」

「また俺の出番だな」

「さすがに今回は私も手伝いますわよ」


 みなみが倒したゾンビの足をひっ掴もうと身を屈める。


 そのときである。


 俺の真横でエレベーターのドアが開いた。

 何の前触れもなく。


「なっ!?」


 溢れ出すゾンビ。


 肩にかけた自動小銃に手を伸ばすことができたのは、俺にしては上出来だったろう。

 だが、それまでだった。


 肩口に咬みつかれる。

 それでだけでなく、腹にも足にも。


「ぐ……」


 やられた。


 なんでゾンビがエレベーターから出てくるんだよ。

 なんで誰も操作してないのにエレベーターが動いてるんだよ……。


「拓真さん!?」


 駆け寄ったみなみがゾンビを薙ぎ倒す。


 三匹。

 そんなにいたのかよ。


 咬まれたところが熱い。

 おわりか。


 こんなところで終わっちゃうのか。

 あーあ。


 みなみに告白しとけばよかったなぁ。なんかけっこう仲良くなってたし、もしかしたらOKだったかもしれなかったし。

 がくりと崩れる。


 床と接吻、は、しなかった。

 美少女に抱きかかえられたから。


「み……なみ……」


 目を開けてるのもつらい。

 ゾンビ化するのは嫌だな。

 それだけは嫌だ。


「殺して……くれ……」


 上手く喋れない。

 通じたかな?


 最後に見るのが美少女の顔とか、けっこう悪くない死に様じゃね?

 北海道、きて良かったな……。


「拓真さん。死ぬ覚悟はできているのですね?」


 みなみの問いかけだ。


「ああ……たのむよ……」


 ひと思いに。

 できれば痛くない方法がいいけど、贅沢はいってられない。


 判るんだ。

 このままだと俺はゾンビになってしまう。


 意志も消えて、みなみや森住さんに襲いかかってしまうだろう。

 もちろん、すぐに返り討ちにされるんだろうけど。


 けどさ。

 人間のまま死にたいじゃん。

 たのむって……。


「判りましたわ」


 こくんと頷く。

 それからポシェットに手を突っ込み、なにかを取り出した。

 瓶?

 毒?


 ずぼっと、口に突っ込まれる。

 そんなまどろっこしいことしなくても、PKブレイドでばっさりやってくれて良かったのに。


 とろりと液体が口の中に流れ込んでくる。


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