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第一部 ラクララス国

 宿屋らしき部屋の窓から日差しが差し込んでいた。

 重い瞼を開けると目の前には大きな白銀の尻尾。

 それは先日、僕レクシアの妻となった神獣。シアの尻尾だった。

 シアの尻尾は暖かく、毛並みはつややかでさわり心地がよかった。そのまま手を隣に寝るシアの腹の方へ回し、軽く抱きしめる。

 とても心地が良かった。


「お。やっとおきおーたな。この寝坊すけ主人よ」

 いつの間にかまた寝てしまっていたらしく、宿屋備え付けの木彫りのゼンマイ式の時刻盤に目をやると、大体、北北東ぐらいに短い針がさしていた。

「ごめん。なんか、疲れちゃってたみたい」

「ほんまになぁ。こなたの背中で寝てしもうてラクララス国のはずれの宿屋借りて、そなたささっさとベッドに寝かせとよ?」

「うん。なんかシアの上が気持ちよくてね」

「起きたら尻尾はなんかモフられた感じがのこっとってそなたに抱きしめられてるなんて、そなたを起こさずにベッドから出るの大変だったぞ?」

「もう出る?基本的に一日二日程度しか滞在しないんだけど」

「ほうか。そば、今日ば観光さして明日にさでよーや」

「いいね。そうしようかとりあえず着替えなきゃ」

 シアは昨日とはまた違った服を着ていた。やはり露出は少なめだが可愛さがにじみ出ていた。

 僕は昨日と変わり映えしない服を着て最後に拳銃を一発空砲を打つ。

 ガンホルダーにしまい、宿屋の入り口へ向かうと荷物を整え、出る準備をするシアがいた。

「おまたせ」

「そーじゃ。いこーとかね。初デートとかいうやつにの」

 そう茶化すように笑うシアに微笑み「そうだね」と階段を下り外へ出る。

 

 少し道を進みラクララスの中心部へと着く。

 居酒屋に始まり八百屋や様々な店が並べられていた。

 ふと目を引く店がある。

 すべてが木で作られ、どこか古めかしさを感じさせる店があった。

「シア?あの店寄ってもいいかな?」

「?こなたは別に問題ないぞよ?そなたの行きたいとこさ行けばええよ」

「ありがとう」

 シアの手を引き、古びた店へ入る。


「いらっしゃい」

 そこにはバーの構造をしていながら店主らしき人の後ろの棚には大量の銃火器が置かれていた。

「お客さん。見ない人だね。ここは元バーを改造した武具店だ。俺のことは気軽に武器商人だとかマスターって呼んでくれ」

「はぁ。わかりました」

 少し店内を歩き回り様々な銃を見て回る。

 小声でシアへ尋ねる

「シアってなんか武器とかいいの?人の姿してるときとか危なくない?」

「そうやね。持っててバレんよーな物はほしいとおもっとーよ?」

「じゃあ。マスター」

「うん?なんか買うのかい?」

 マスターがカウンターから出てきて、レクシアの選んだ何の変哲もない短剣を手に取りポケットから出した紙で切れ味を確認する。

「少し研げば使えるね。買うかい?」

「お願いします」


 少し間と店の奥からマスターが出てくる。

「お待たせしました。六百五十銀貨です」

「どうぞ。あと、そこの長い武器ってなんですか?」

「ちょうど…ああ、掘り出しもんの武器さ。少し手間はかかるが遠くまで鉄弾を飛ばせるしろもんだ」

 マスターの後ろに飾られている武器の中に目を引くものがあった。

 それは銃身が長く全体的に長くリロード方式がほかと違うようなものであった。

「これは三金貨だが?」

「じゃあ、セットで買います」

「おう」

 マスターは最後に短剣の切れ味確認と銃器の細部の確認をし、金を受け取り手渡してきた。

 

 店の入り口の扉が勢いよく開かれた。

「税金徴収の時間よ~」

 妖艶な声で入ってきた黒いドレスに身を包んだ女性は、指を鳴らした。

 瞬間女性の後ろから黒づくめの一部のエリートのみ着られるスーツを身にまとった男が五名、女性の横に並んだ。

「武具店、ガンズ・ロック。店主のロック・ヒルエスト様。商業独占による税金負担がございます」

 マスターは顔をしかめると先ほどレクシアが渡した金貨と木製の箱から売り上げの一部であろう金貨を二枚取り出した。

「ちょっきり五金貨だ。これでいいんだろう」

「はい。ではこちらの集金袋に」

 スーツ姿の男性が歩み寄り、マスターから金貨を受け取ると枚数を数え、スーツの懐から取り出した黒い袋へ入れた。

「それと。あなた方二人もよ、旅人さん」

 急に声をかけられ、レクシアの体がこわばる。

「もしかして、この国の制度を知らないとかではないですわよね?」

「ええ。ただ、詐欺まがいはどうかと思いますがね?税金徴収員さん?」

 不敵な笑みを下した髪の隙間から税金をむさぼる女性へ向ける。

(そなたよ、あまりお勧めはせんぞ?いくら旅人とはいえど問題騒ぎはせけねば)

(大丈夫。これども僕は出身地的には頭いい方だから)

 そういうことではない。とシアは心に残しつつ、レクシアの動きを見ることにした。

「あら?私が詐欺ですって?どこにそんな証拠が?ましてや私はただ独占している分の税を受け取りに来ただけですわよ?」

「その徴収額はどうやって決めておられるのですか?」

「定額五金貨よ」

「違いますよね?それはあなたが国とは別に自分用のを含めた徴収額。ですよね?」

 その言葉に顔が引きつった女性を見たスーツの男性がレクシアの前へ歩み寄った。

「旅人のものよ。少々度が過ぎております。これ以上国制に楯突くならば、我々も法にのっとり対処いたしますが?」

「うるせーよ、偽税金徴収員。あんたら、詐欺った金でスーツ買っただけ。いや、スーツのレプリカを買っただけなんだろ?本当の税金徴収員は入らずに見張ってるやつなんだろ?」

「ちょっと表に出てもらおーかの餓鬼」

「穏やかじゃないのは慣れてるんでいくらでも」

 胸ぐらをつかまれたままレクシアは笑いかける。

「ぬ、ぬしよ!」

「シア?後で詳しく話すよ。とりあえず。

こいつらしめるから

少し待っててね」

 しめるといった時の笑顔は素ではあるが神獣のシアでさえ恐怖を微量に感じた。

 街路へと出ると道が開けられ、野次馬がごった返していた。

 時に罵声が飛び散り、治安の悪さを物語っていた。

 この国の法律。それは税金がすべてを抑え、独裁国家寸前の治安劣悪の国であった。

 表向きは政治のいきと届いたいい国だが中身は黒くよどんだ国であった。


「決闘だ。命の保証はなし。いいな?」

「イラつくねいちいち」

「ふん。ほざけ」

 スーツを脱ぎ捨てると、筋肉のハリが際立った厳つい姿が露わとなった。

「カウント」

 レクシアは静かに横に立つ野次馬へ向けてカウントダウンを促す。

「スリー」

 男は握り拳を今一度握り直し、十メーターほど先のレクシアをにらみつける。

「ツー」

 静寂が訪れ、レクシアはただ緩く体をほぐした状態で男の方へ首を向ける。

「ワン」

 男の足に力が貯められ、砂と靴のこすれる音が聞こえる。

「ゼ」

 言い終わる前にレクシアの前をものすごい形相で近づき、レクシアを貫かんとする拳が風を切り横をかすめる。

 

 初撃を外した男は地に足を滑らせつつ、体をひねりレクシアのいた方へ体を向ける。

「ボキッ!」

 振り向いた先には捉えるはずであった姿はなく、捉えたかった物体は目下にいた。

 気が付いた時にはもうレクシアの大きく回したかかとが顔の横を捉えていた。

 

 顔から地面へこすり付けながら三メートルほど立っていた位置から飛ばされた。

 男が立ちあがったとき、男は覚悟した。首が飛んでいくのを。

 口から出る血を拭うため前を向くとそこには空中とび膝蹴りを食らわせんとする動作で近づく、不吉に笑った髪の長い少年がいた。

 膝は男の顔面の鼻へ直撃し、後頭部から地面へぶつかり、ワンバウンドするとともに地面へこすり付けていった。

 

 男がもう一度立ち上がることは現状できなかった。

 瞬間、野次馬から声が次々に上がった。

「本題はそこじゃない」

 レクシアが動かなくなった男を少し見やったのち、女性の方へ顔を向ける。

「訴えるわよ」

「じゃあ、この書類どうする?」

 ぺらっとレクシアは一枚の紙を取り出す。

「そ、それはどこから!?」

「何って、あんたの仲間のようにふるまった門番さんだよ」

 バッと武具店の入り口へ視線を向けた女性は、苦い味を噛みしめた。

 そこには澄ました顔をした本当の税金徴収員の若い男性が立っていた。

「扉を出る瞬間に手に握らせたんだよ、この活動報告書と税金徴収料金表の紙をね」

「このくそ餓鬼!!」

 懐からピストルを取り出し、顔を怒りに赤くさせ、引き金に手をかける。

「バンッ!」

 放たれた鉛玉は、確かに軌道上レクシアの胸を貫いていたが、それは大きな狼に阻まれた。

「シア」

「主よ、危険なことしなんといてや。そいでもこなたの夫かえ?」

「間違えなく、馬鹿で突っ走り気味のシアの夫ですけどなにか?」

「ふっ、さすが主よのー。それでこそこなたの夫ぞ」

 レクシアは、買ったばっかりの銃を手にし、銃口を殺人者へとなり損ねた怒りに震える女性へ向ける。

 引き金に指をかけ、静かに指に力をいれ、自分の方へ鉄を近づけた。


「バズン!」

 

 重く、人の血肉をえぐりながら体に風穴を開ける音がする。

 銃口の先にいた風穴のあけられた女性は、黒いドレスを血で滲ませながら、血を吐きだすと地へと膝から崩れ落ち、息絶えた。

「もう一日居たかったのにね」

「そないなこといったーて主が騒動おこしゃーたもん」

「次の国でいろいろ遊ぼうか」

「まためんど―ごとおこさーてよ?」

「わかってるよ」


 まだ口を開けずに、道へ広がった惨状を見つめる群衆を横目にレクシアはいまだに静かに微笑んだ税金徴収員に近寄り、税を手渡した。

「次はどこへ行くんだい?若夫婦さんや」

「未定なのが旅人です。後処理はそちらで」

「すまんな、こなたらも後処理はてつどーきないねんな」

 そのままレクシアは狼姿のシアへまたがり、地を蹴りその場を。国を過ぎて行った。



 レクシアは慣れたシアの移動の合間を使い、旅を初めてから書き留めていたノートに今日の出来事を書き綴る。


京進夜 文月 七日 ラクララス国

国名

 ラクララス

法律 

 税金がすべてを治める。

金貨単位

 銅銀金貨(世界共通金融通貨)

出来事

 到着前に盗賊に襲われ、返り討ちにした。

 神獣のシアに会い、婚約した。

 シアにホテルに運ばれた。

 シアはもふもふで心地いい。

 武器を新調してたら絡まれた。

 一名重体、一名殺害

感想

 金絡みになると人間めんどくさい。

 金で解決できることもあるが、できないものもある。

 さて。次はどこへ向かおうか。

 でも、やっぱりシアの上は心地がいい。慣れると本当にいい。

 何よりもかわいいのがいい。




「主よ。そろそろ休憩おわらしてもええか?」

「ああ。ごめんね。いいよ」

「このまま道なりにいけばよーのか?」

「そうだね。もう少し行くと村があるはずだからそこで寝泊まりしよ?」

「あわせて近場の国でも聞くかえ?」

「うん。それじゃあ、ついたら教えて。ちょっと寝ちゃうから」

「そやか、落っこちんよーな?おやすみ」

「だいじょーぶ。おやすみ」


 ゆっくりとシアが体を起こし、歩くように進みつつ、だんだん速度が上がるのを肌で感じる。

 道の砂利を踏み、蹴り飛ばす音もシアの呼吸する息遣いも、レクシアの意識を遠のかせる。





「なんや。もー寝てしもうたんかえ」

 走りながらシアは背中から聞こえるレクシアの寝息に微笑む。

「まだまだ子供じゃのー」

 寝つつもシアを抱きしめる腕の力は緩まず、落ちる予兆も感じさせずに深い眠りについていた。


 振動で浮き上がるネックレスに繋がった指輪を見てシアは昔のとある旧友のことを思い出していた。

「なつかしゅーの」

 思い出の一部を思い出すと、勝手に微笑んでしまう。

「願い、これでええんかの?(あるじ)の最後にこなたへ残した思いは」

「シア…だ、、いすき」

 そんな寝言が背中から聞こえる。

「なんや、照れてまうやんけ主よ。寝ながらこなたをおだてとーなんて…朝ごはん、ごーかにしたろうかね」

 シアはそう、道を進みながらはにかんでしまう。









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