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第二話 商人

あれから一年ばかりが経過した。この間に俺は詰め込めるだけの知識を詰めていた。流石は子供、呑み込みが早い。分かったことはここが中世ヨーロッパのような世界であり火薬はまだ存在自体が知られていなかった。帝国や公国は知らないが王国は典型的な封建国家で機動性に欠ける状態らしい。共和国は貴族が議会を作りそこで話し合って決めているらしい。どれも典型的なものでしかなかった。


また、辺境伯には御用達の商人がいるらしく現在両親は俺を連れて商人がいる部屋に向かっていた。


「アベルよ、大人しくしておるのだぞ」


「はい、分かっております父様」


俺は父の言葉に事務的に答える。知識を蓄え周囲の人を観察した結果父はどうも邪魔な存在であることがはっきりしてきた。少し保守的と思ったがかなりガチガチの保守思想に凝り固まっており俺ではどうすることも出来なかった。付け加えればかなり欲深く父は50を過ぎておりこの世界では隠居を考える歳なのであるがある時父は言った。


「私は死ぬ時までお主の後見人になろう。お主は私の言う通りにすればそれでよい」


本当に何でこんな言葉を出したのか分かりかねるよ。仮にもただ一人の息子に言うセリフではないだろ。それに普通6歳の子供に言って分かるようなもんでもないのに。


そんな風に考えながら父の後について行くと一つの扉の前で止まった。普段から応接間として使われている部屋だ。俺は一度も、それどころかこの部屋の付近に来たのはまだ一人では何もできない赤ん坊の頃だ。その時は隣の領主の使者が来ていたな。内容は流石に覚えていなかったが。


「…おお!バルバストル様、お久しゅうございます」


扉を開けるとソファーに座っていたでっぷりと太った男がこちらに気付いて声をかけてくる。恐らくこのデブが辺境伯の御用達の商人なのだろう。脂汗を垂らしながらも人当たりのよさそうな笑顔でいるのだが、容姿がすべてを台無しにしていた。予想だが瘦せていれば甘いマスクの人物になっていたであろう。そして、その隣には俺と同い年位の少年がいた。…恐らくこの商人の息子だと思うが何故だろうな、懐かしい感じがする。


「スケフィントンよ、久しいな。かれこれ四年になるかの」


「三年と半年、ですな。最後にあったのは王都に向かう前でしたので」


商人は父の言葉に的確に答える。ふむ、少なくとも無能ではないようだな。父の性格的にあり得ないわけではないが賄賂を受け渡しする関係ではなさそうだな。


「それはそうと息子を紹介しておこう。アベル」


「はt、お初にお目にかかります。アベル・バルバストルです」


「ふむ、なかなか良い心構えをお持ちの様ですな」


「今日はどのようなようで参ったのだ?」


「はい、実はですねアルトー子爵から珍しいものを手に入れましてね。私もバルバストル様の御用商人ですので一番先にお見せしようと思いまして」


「ほう、ぜひ見てみたいものだな」


「はい、勿論ですとも。…おっと、忘れておりましたが今日は息子を連れてきました。アル、挨拶しなさい」


「はい、父様」


少年は父の前に一歩出て頭を下げる。


「お初にお目にかかります。アルフレッド・スケフィントンと申します。以後、お見知りおきを」


「アルフレッドか。覚えておこう」


「ありがとうございます」


横暴な態度の父に少年は機械的に対応する。


「…挨拶はこのくらいでいいでしょう。バルバストル様、もしよろしければアベル様とうちのアルを交流させてはいかがでしょう?」


「ふむ、今後のことも考えると…いいだろう。アベル、庭へ案内してやれ」


「分かりました。アルフレッド、こっちへ」


「はい」


俺は少年、アルフレッドを手招きして案内する。応接の間を出て少し歩くと外に出られる扉を発見する。その間、俺たちの間に言葉はなかった。と言うか実の息子ほっぽって親は商談かよ。使用人も一人として付いてこないし。まあ、一人の方が気が楽でいいんだが。


「ここがうちの庭だ。無駄にでかいくせにほとんど庭師以外は立ち入らない場所だ」


「そうなのですか」


アルフレッドは機械的に返すが俺としてはやめてほしい。いくら貴族になったからと言って一般的な、それも悪友と気楽に日々を楽しんでいた日本人としてはかなりつらいものがある。だが、一応身分の差はあるしな。ここはあの(・・)娯楽で一気に近づくか。


「…アルフレッド。いいものを教えてやろう」


俺はそう言うと地面に縦線と横線を九本ずつ引いていく。所謂リバーシ、オセロと言う奴だ。


「これはな「交互に行い最終的に自分の方が多い方の勝ち」そうその通り…え?」


俺はルールを言おうとしたが相手は知っていたようで先に言われてしまったが何で知っているんだ?軽くだが調べた結果リバーシはこの世界には存在していない。故に俺以外で知っているのは…。


「お前…転生者か?」


俺はたどり着いた答えを言う。


「…その様子だとお前もそう(転生者)らしいな」


…まじかよ。俺のほかにもう一人いるなんてな。


「因みに前世の名前は?俺は土方一だ」


「え?」


俺が前世の名前を言うと相手はかなり驚いていた。もしかして俺の事を知っているのか?確かに悪友と一緒にハッちゃけていたからな、多少有名になっていても可笑しくないか。


「俺は近藤瑞樹(こんどうみずき)だ」


…え?瑞樹?


「まじか」


「まじだ」


…それを聞いた俺のやる事は一つ。俺は瑞樹(アルフレッド)を抱きしめた。どうやら瑞樹(アルフレッド)も同じだったらしく抱きしめてきた。


「「久しぶり!悪友!」」


そう、こいつとは前世で悪友としていろいろとハッちゃけていた。瑞樹とは幼馴染で小さいころから一緒に遊んでいた。何時だったか勧善懲悪に疑問を抱いて悪徳業者になってやると誓い合ったな。


そう言うわけで俺と瑞樹(アルフレッド)はしばらく抱きしめたままであった。


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