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婚約者(王子)を愚痴らせてほしいです

作者: 緋色の猫
掲載日:2015/07/19


「───ミリナ」


「はい、殿下」


「1ヶ月ほど会えないが、待っていてくれるかい?」


「えぇ、もちろんですわ」


 にこりと微笑めば彼も笑みを返す。

 社交界で見られるこの笑顔、非常に気持ち悪い。


 なぁーにが、「待っていてくれるかい?」だ! 寒い台詞吐くんじゃねぇええっ!


 もちろん、とか言っちゃっている私も私だけど。分かっているけどね。でもそれ以外に何を言えばいいのか。


 だってこの男はこの国の第1王子で、私はその婚約者なのだから。



 私の返事を聞いた王子は満足そうに頷き、堂々と私の部屋から出ていった。

 ───二度とその面を見せに来るな小僧。


 分かってしまうと思うが、私は王子のことが好きではない。むしろ嫌いの域にある。

 その理由は、主に2つある。

 まず一つ目は、私が転生者であるからだ。

 私の前世は地球の日本で生まれた平凡な女だった。


 当時の私は大量のラノベや推理小説やエロ本を読んだりしていた。もちろんネットでも小説を読み漁った。

 そんな人生も、わずか15年間で終わったわけだが。

 死んだ理由は思い出せない。たぶん思い出すことを脳が拒否したのだと思うけど。

 代わりに、小説の内容ばかりが甦ってくるのだが。


 いや、まあしかし、まさか自分が転生するとは思わなかった。


 私は乙女ゲーはやらなかったので、王子の婚約者たる私が悪役になるのかも分からない。


 ああ、そうそう、私が王子を嫌っている理由だった。

 あのイケメンで、勤勉で、運動神経抜群で、体格だっていい、女性に対する扱いも丁寧な、あの第1王子。

 それは簡単だ。

 私の嫌いな奴にそっくりだったからだ。


 そいつは王子のような金髪ではなく、目の色も緑色ではなかった。日本人の色だった。

 問題はそれ以外だ。

 イケメンで、勤勉で、運動神経抜群で、体格もいい、女性に対する扱いも丁寧な、というところが似ている。というか、同じなのだ。


 だが結局はただの嫌な奴だと知ってしまったのである。

 どうせ王子もそのクチだ。

 ただの腹黒だ。あの仮面の笑顔がいい証拠である。



 えー、そしてもう一つの理由だ。

 それは一つ目より簡単だ。

 これしかないだろう。


 ────浮気を、しているから。


 婚約者がいるってのに浮気しているとか、もはや怒りを通り越して笑いたくなる。

 そんなのだったら、さっさと婚約を解消したらどうなんだろうかね。こちとら公爵家だから王族には歯向かえないし、破棄できないじゃん。


 まぁ、頑張れば出来るけどね。婚約解消。

 私の公爵家は王家の弱味を(何故か)握っているので、脅そうと思えば脅せる。

 だがこんなことで切り札を使うのはよろしくないので、放っておいてあるだけだ。


 そのうち向こうが勝手に解消してくれるだろうし。

 愛する町娘とどうぞお幸せに~。


 ────と、まぁ心の中は冷めきっている。

 だがミリナの体は悲しいと訴えてくる。不便だ。



 あ、私は公爵家の令嬢、ミリナ・フェルマータという名前で生まれた。家族は優しい。



 で、ミリナ自身は悲しがっている。

 たぶん誰かに愚痴れば気分も晴れるのだろうが、私はほぼ引き込もっているので友達がいない。

 しょうがない。小説が面白いから読んじゃうんだもの。


 そんなこんなで、誰か友達ほしいな~。

 好きな人と私を囲って、ハーレムでも作るつもりか! とか言いたい。

 家族に言えないこの悩み(王子の浮気)、誰かに言いたいよー!




 ─────────





 私は今、とある伯爵の豪邸に来ている。


 母に「私、お友達が欲しいんですの」と甘えてみたらこうなった。

 うん、意味分からん。

 何で婚約者がいる私に「歳はミリナちゃんより少し高いけど、とても格好いいお方なのよ~。まだ独り身なの!」とか言って、その男のところに送り出すだろうか。


 しかも泊まりて。

 泊まらなきゃいけないほど遠い場所に出すなよ!

 自分の娘の年齢も忘れちゃったのかな!? ちなみに今年で17歳です! 異世界なのに18にならないと結婚できないのが不思議! 日本でも16歳で結婚できたのにね!


 



 私はまだ純潔の乙女ですのよ!?




 しかし文句を言っても仕方がない。そんなのは連れてきたメイド2人を困らせるだけだ。

 なので今回も箱庭の清楚な令嬢を演じていよう。

 友達どころじゃない。

 なんか色々頑張ろう……。



 馬車から下りると渋い執事さんが待っていた。


「ようこそおいでくださいました、フェルマータお嬢様。お部屋をご案内いたします」


 恭しく頭を下げられれば、私の顔は自然と微笑む。いや変な意味じゃなくて。頭下げられていい気分になったとかじゃない。断じてない。


「ありがとうございます」


 令嬢スマイルを浮かべながら、私はドでかい屋敷に入っていく。


 ふむふむ、使用人は皆いい人のようだ。笑顔がキラッキラ輝いているから、嘘で楽しげにしているわけではなさそう。

 屋敷の隅々まで綺麗に掃除されてあって、歩いて埃を立ててしまうのが申し訳ないくらいだ。


 到着した客人用の部屋はきらびやかに飾られていて、しかし目を痛めるほどの輝きはない。

 ……ここ、住みたい。

 あ、いや、別に今の私の家が嫌なのではない。それほどまでにこの屋敷が丁寧に手入れされているのだ。


 静かに感動している私に執事のおじさんが「1時間後にリアン様とのご挨拶がございます。お迎えに参りますのでどうぞそれまではごくつろぎ下さい」と言って頭を下げ、去っていった。


 リアン様、とは、この伯爵家の当主のことだ。

 リアン・カブラ。それが彼の名前である。



 部屋は、私と私のメイドだけになった。

 私はメイドを2人とも下がらせ、ソファに腰かけた。

 おぉ、なかなかもふもふなソファ。

 このもふもふ感───眠くなる。

 1時間くらい、別にいいよね。


 そうして私は、心地よい微睡みの世界に落ちていった。













「────ま、お嬢様」




「ん、ん……。あと5分ん……」


「お嬢様!」


「うぎゃっ!」


 令嬢らしくない変な悲鳴を上げて、私は飛び起きた。

 目の前には私専属のメイドの顔があるけど……どうしたのかな?


「お時間にございます! 目を覚ましてくださいませ!」


「……ん、時間………」


 はて、何の時間だったか。というかこのソファ本当にもふもふで───あ。


「伯爵様がお待ちにございます!」


「あ……あ、そうね。分かったわ。すぐ向かいましょう」


 私の目がしっかりと開かれていることを確認して、メイドは私の服と髪を整えた。

 ほんの1分で寝癖やら乱れやらがなくなるのだから、不思議なものだ。流石、メイドクオリティ。

 理想のメイドだね、本当に。

 おかげで時間通りに動けた。


 ───はず、なのだが。


「遅かったですね、ミリナ嬢。我が家のソファでは、気持ちよく眠れたようで何よりです」


 何で知っているんだこいつは!

 私がソファで寝ていたことは、あのメイド───マリアしか知らないはずなのに!

 怖い! なんかもうヤダ! 帰りたいよぉ!


 しかも『嬢』って何だよ! 『様』なんですよ、貴族相手なら! 例え年下の小娘相手でもね!


 舐められてる……。絶対にこれは、舐められている!


「……いかがなさいましたか、ミリナ嬢?」


 ……ま、いいや。適当に話して、帰ろう。


 私は17年間で鍛えたスマイルを浮かべ、優雅に一礼した。


「いいえ。お気遣いありがとうございます、リアン様」


 顔を上げると改めて、相手の顔をじろじろ見ることにした。あ、イケメン。

 何だこいつ。凄いイケメン。

 私の婚約者とは違ったイケメンだ。アレは中性的。

 コレも中々中性的……だけど何かが違う。よく分からないが。


 細いか太いかで問われれば細いと答える。

 だが私には分かる。こいつの肉体は、けっこう鍛えられていると。何故かと聞かれても答えられないが。


 それと、何だろう? こいつの顔をどこかで見たような気がするのだけど……けど、会ったことはないはずだ。

 何せ私は引き込もってばかりで、どこぞの貴族が開催するパーティーにも片手で数える程度にしか参加したことはないのだから。


 外出らしい外出は1度もしたことがない。面倒だしね!


 ってか本当にこいつイケメンだな……。白髪灼眼。アルビノかね? どうでもいいけど。


 気を取り直して、我が家に有益な関係を築いていこう。







───────






 結論から言おう。


 我が家に有益な関係、なんて────



「築けるかッ!」


「どうしましたか、ミリナ嬢? 随分と野蛮な叫び声ですが」


 私は目の前のイケメンを睨む。

 誰のせいだ、誰の! この叫びはテメェに向けてだよ糞イケメン!


 言葉の裏に皮肉を忍ばせやがって! 何だ? やっぱ私が小娘だからって舐めているのかぁあああっ!? 公爵令嬢でしかも第1王子の婚約者だってのに!?


 な・ん・で、私がこんな目に合わなくちゃいけないんだよ! 母のせい!? 母に『友達が欲しいんですの☆』っておねだりした私のせい!?

 いんや、おねだりしたくなったのは王子が浮気したからだ! 王子のせいだなっ!

 あの糞王子めぇえええええっ!


「ミリナ嬢? どうされました?」


「くっ……!」


 怒鳴っては駄目だ、ミリナ。さっき叫んだけどあれはノーカンだ。あれはしょうがないからいいのだ。

 気を取り直そう!


「何でもありませんわ。申し訳ございません、おほほほほほほっ」


 お嬢様っぽい高笑いを発動! 大抵の人間にはこれで誤魔化せる!


「それで───」


「はい?」


「貴女の母上であるフェルマータ公爵夫人からは、貴女からの相談に乗ってあげて欲しいと言われているんですよ」


 母ぁああああっ!? 相談とか、私は言っていないよ!? もしかしてバレてるの!? 王子の浮気が!?


 怖い……。早く帰りたい……。


「あら、そうでしたか。ですが私には悩み事なんてありませんわ。お気遣い、ありがとうございます」


 婚約者が浮気していることについての愚痴なんて、言える訳がない。他人に、しかも男に! それも第1王子のなんて!


 私が心の中で叫びに叫んでいると、伯爵がくすりと笑った。


「その割には口許がひきつっていますが? あぁ、元々でしたかね」


 皮肉ってか悪口か。本当、嫌な奴だ。

 浮気する王子に、皮肉屋の伯爵……。私の回りには録な男がいないのか。


 もう何でもいいからさぁ……婚約者を愚痴らせてよ……。


 お読みいただきありがとうございます。おこがましいことを申しますが、感想などをいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 白髪隻眼。アルビノかね? 傷や眼帯をしてるような記述もなかったですし、アルビノとの繋がりもわからなかったので、もしかしたら「隻眼」は誤字でしょうか?
[良い点] ミリナの普段のしゃべり方と心の内でのしゃべり方がずいぶんと違うのがいいなと思いました!わたしとしては令嬢もの読んでて、転生者だったら内心の言葉使い、もう少し悪いんじゃないかなあと思うことが…
2015/07/21 02:17 退会済み
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