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第6話

同日 19時13分 日本 静岡県 御殿場市 とある居酒屋


2泊3日の合同演習を終わらせ、護と希を含む8名は現在、富士学校から移動し伊藤や神田達と共に自衛官御用達の居酒屋にいた。自衛官御用達だけあって、店内には数名の自衛官がいたが事前に予約していたため奥の座敷を貸切にしてもらった。24名も集まると少々窮屈だがしょうがない。


「料理と飲み物はみんな行き渡ったか?」


「では加藤大尉から一言お願いします。」


上座の方に三部隊の隊長が固まり、残りの隊員達は適当にそれぞれが座っていた。


「俺ですか!?いいんですか俺で?」


「俺達は同率だったけど、お前達は総合1位だったんだ。きっちり頼むぞ」


神田が護を指名すると護は、“他に適任がいるのでは?”と顔を向けてみたが誰も反論せず、伊藤と神田に至っては頷き返していた。


「えぇ、では僭越ながら自分が挨拶させていただきます」

「今回の合同演習は私が自衛隊と行った演習・訓練の中でもとても有意義なものでした。我々は勿論、皆さんにもいい影響を与えたと思います・・・我々は影の部隊(シャドウズ)です。我々が関わった事案は歴史や記録として表に出ることは無いと思います。例え偽りの平和であってもそれを守るために我々は訓練し、技術を養い、実任務についています・・・願わくば出来る限りこの平和が続きますように。少々長くなってしまって申し訳ありませんが三部隊の出番が少なくなる事を祈って、乾杯!」


「「「「乾杯!!!」」」」


それぞれが思い思いの飲み物を持ち、近い者同士が当てて飲んでからそれぞれが食べ物を食べたり、周りと談笑したりしている。


そんな中、護は近くにいた伊藤と神田と必然的に話をしていた。


「・・・・最近はずっとこんな感じなんですか?」


周りが結構盛り上がっているので部外者には聞こえないと思うが、護は伊藤の方に顔を向け小声で聞いた。


「あぁ、最近は訓練、訓練、書類、訓練、だな。特警隊が実働に出るような案件は起きていない」


伊藤はグラスに口を付けビールを一口飲んでから答えた。


「・・・うちも似たようなものだが、この前警視庁の公安部からの要請で1件だけ実働待機があった」


神田は答えながら、護のコップが空いているのを見てウーロン茶を注いでやった。


「すいません。ありがとうございます。その案件なら聞きました。たしか公安第二課がマークしていた人物を検挙しようとしたら、武装集団が現れて銃撃戦にまでなったとか?」


「あぁ。連中RPKまで持っていたみたいでな。待機が掛かったんだが、警視庁のSATが何とか制圧したそうだ・・・SAT隊員が1人重傷を負ったみたいだがな」


「まったく、最近そういう類の連中増えているよな?」


「今の政権はどちらかと言うと“右向き”と言われていますからね。世界的に見ればまともな事しか言っていないと私は思いますが・・・うちの戦隊長が以前言っていましたよ。“数代前の政権で日本が国家安全保障会議(NSC)を作り、国家情報局(NIA)を作った事であの国は小さな1歩を踏み出した”と・・・」


「今度行われる臨時国会で首相は憲法を変えて、最終的には自衛隊の国防軍化にもって行きたいんだろうな・・・」


「NSCとNIA作った時には結局、憲法改正できず、自衛隊法も殆ど変えられなかったものな・・・」


「その頃ですか?特戦群と特警隊に内密に第4中隊と第6小隊ができたのは?」


「・・・その通りだ。アルジェリアでの一件があった時に研究は開始されていたみたいだけどな。本隊は自衛艦隊司令部の海上特殊作戦運用課が指揮しているが俺達6小隊と特戦の4中隊、それに空自の航空支援隊のS班は統幕の特殊作戦課が指揮・運用している。存在していても使えない部隊では無いって事だ」


「テロが増加し、テロリストも重武装化している現状を見て警察や既存の部隊の対応力、即応力、機動性、柔軟性を超えた事案に対応するために我々は創設された」


ここで特殊作戦群と特別警備隊の両隊について説明する。


特殊作戦群、Special Forces Groupは2004年に第1空挺団(当時)の拠点である習志野駐屯地で創設された。現在は後述の理由により木更津駐屯地に群本部を置いている。任務は対テロ及び対ゲリラが主要であるが、その他にも特殊偵察(SR)直接行動(DA)も行う。


 一般隊員等から“S”、“特戦”等と呼称される。現在は木更津に群本部を置いているが、創設された習志野にちなんで“習志野”と呼称される事もある。


 特殊作戦隊員選抜試験は空挺及びレンジャー徽章を所持する3等陸曹以上の隊員が対象であるが、その試験は過酷という言葉が生易しいと感じる。特戦群もアメリカのデルタやイギリスのSASと同様に試験を突破する者は極めて少なく、場合によっては修了者0人という事もある。だが、高得点で各種試験を突破したとしても無事に特殊作戦徽章を左胸に着用する事が出来るわけではない。現役・退役問わず、特戦群のオペレーター達は何故自分が合格できたか分からないという。点数を取る人間ではなく、求める資質と性格を持つ人間が修了者となる。そして無事に試験を修了しても自由降下、戦闘潜水、山岳潜入に加え、様々な語学やCQB、狙撃、NBC、情報、心理戦等々の特殊作戦に必要な知識を身につけなければならない。


 特殊作戦群が創設された当時、既存のレンジャーと特殊部隊の違いを自衛隊内部で理解している人間は殆ど居なかった。そのため特殊部隊を空挺レンジャーの延長にあると考え、駐屯地を当時第1空挺団が駐屯する習志野駐屯地とされた。しかし、習志野駐屯地は市街地に囲まれ、輸送機が使用するための滑走路は無い。その上、駐屯地に面している成田街道は慢性的な渋滞が続いている。このような状態では迅速な機動展開が出来ない。特殊部隊が駐屯する基地は空挺部隊と一緒にする必要は無い。ノースカロライナ州フォート・ブラッグはU.S.SFGの3rd SFGや1stSFOD-Dの他にジョン・F・ケネディ特殊戦センター&スクールや陸軍特殊作戦コマンドが存在する為、米陸軍の特殊部隊の聖地とされているが同基地には第82空挺師団が駐屯している。これは付近にポープ空軍基地が存在し、戦略展開が容易であるからである。


 上記の理由により特殊作戦群は機動展開が秘匿でき、戦略展開が容易になる立川・横田・木更津の3ヵ所を候補とし、最終的に第1ヘリコプター団や第4対戦車ヘリコプター隊が駐屯する木更津駐屯地に移動となった。このため以前のように習志野で第1ヘリコプター団のヘリにピックアップしてもらい、木更津や海自の下総航空基地に向かい、そこで空自の輸送機に乗り換える等の必要が無くなった。


 第4中隊は特殊作戦群内に編成されている中隊で、本来の編成表には記載されておらず存在を把握しているのは現場のオペレーター以外では総理大臣、防衛大臣、統合幕僚長、陸海空幕僚長、統合幕僚監部特殊作戦課員、特殊作戦群長、特別警備隊長、航空支援隊長のみ。特戦群に入隊するだけでも困難を極めるが、第4中隊はその特戦群の中でも技量がトップクラスのオペレーターを擁している。特戦群自体U.S.SFGや1stSFOD-Dを手本として発足したといわれているが第4中隊はまさしくデルタを手本に攻性な対テロ作戦、海外での人質救出作戦に対応する部隊として発足した。他にも後方撹乱や破壊工作、情報収集、要人警護等、外交的にも軍事的にも繊細な活動を行う。


 第4中隊は同じ自衛隊の冬季戦技教育隊、特別警備隊、航空支援隊、第1空挺旅団、即応レンジャー連隊、水陸機動団等の特殊部隊及び準特殊部隊、他の省庁の特殊部隊との合同訓練は元より、警察庁・海上保安庁・入国管理局・国土交通省との連携によりハイジャックやシージャック等の人質救出訓練、警視庁警備部警護課による身辺警護訓練、警察庁警備局・各都道府県警公安部又は公安課、法務省公安調査庁、自衛隊情報保全隊による防諜活動訓練、そして内閣官房国家情報局と防衛省情報本部、中央情報隊による諜報活動訓練等、国内の最高峰の技術を要している専門家達、場合によっては国外の専門家から専門技術を学んでいる。


 特殊作戦群本隊は陸上総隊の陸上特殊作戦運用課で指揮・運用されるが、第4中隊は統幕の特殊作戦部で他の海・空の特殊部隊と共に統合運用される。



特別警備隊、Special Boarding Unitは2001年に陸・海・空自衛隊で初めて創設された特殊部隊である。広島県呉市江田島で創設され本部が置かれていたが、現在は上記の特殊作戦群に倣い、戦略展開を容易にするために、MH-53E及びMCH-101を運用する第111航空隊が所在する山口県の岩国航空基地に移動した。


 海自内で“特警隊”、“特警”と呼称される。現在本部が置かれているのは岩国だが、創設された場所にちなんで“江田島”と呼称される事もある。


 特別警備隊の創設を説明ために、1999年に発生した能登半島沖不審船事件を語らない訳にはいかない。この事件は海上自衛隊初の海上警備行動が発令された事件であり、この事件の教訓として特別警備隊は創設された。


 この事件は1999年3月18日に電話、無線、インターネットなどの通信を傍受による情報収集(コミント)より北朝鮮の諜報員が使用する無線局に変化が見られた事を傍受。19日には北朝鮮の清津から工作船が出航したとの衛星情報が他との情報機関が相互協力による情報収集(コリント)により在日米軍司令部を経由して情報本部(DIH)に伝えられた。また韓国の国家情報院(NIS)から日本の公安調査庁(PSIA)に対して情報が寄せられたとの説もある。しかしこの時点では対策は取られなかった。


 事態は21日になって急展開した。能登半島東方沖の海上から不審な電波発信が続けられているのを情報本部(DIH)を含む、関係各機関が傍受した。さらに上記の無線局にも異常がみられた為、海上自衛隊舞鶴基地より第3護衛隊群のヘリ搭載護衛艦(DDH)“はるな”及びイージスシステム搭載ミサイル護衛艦(DDG)“みょうこう”が、同じく舞鶴基地の舞鶴地方隊から護衛艦(DE)“あぶくま”が緊急出港した。


その後、海上自衛隊の航空集団第2航空群が配備されている八戸航空基地から発進したP-3C哨戒機が不審船を発見し、海上自衛隊の艦艇は追跡を開始。同時に航空自衛隊の警戒航空隊飛行警戒監視隊が配備されている三沢基地からE-2C早期警戒機が発進、情報収集を開始した。海上保安庁は新潟航空基地を離陸したS-76C「らいちょう1号」が不審船を写真撮影した。また大阪特殊警備基地を活動拠点とする特殊警備隊(SST)が追跡中の巡視船“ちくぜん”に前進し待機に入った。


 20時過ぎ、海上及び上空に向けての威嚇射撃が行われた。しかし不審船は減速、停船はおろかさらに加速して逃走。燃料不足と速力の関係から巡視船は追跡を断念した。


 0時50分、当時の運輸大臣から防衛庁長官に対して「海上保安庁の能力を超えている」との連絡があり、自衛隊法第82条に基づき防衛庁長官より日本で最初の海上警備行動が自衛艦隊司令官及び全国の地方総監に対して発令された。


これにより“みょうこう”をはじめとする護衛艦は搭載している単装速射砲で警告射撃を行った。水上の護衛艦以外にも八戸航空基地から離陸した第2航空群のP-3C哨戒機が150キロ対潜爆弾を投下し、警告爆撃を行った。しかしそれでも停船しなかった。


しばらくして不審船は停船した。当時“みょうこう”航海長だった伊藤祐靖氏を指揮官として立入臨検隊が編成されたが、まだ1度も訓練を行っていなかった。というよりも当時、海上自衛隊ではそのような事態は想定されていなかったと考える。ぶっつけ本番で、十分に小火器を扱った事のない人間が満足な装備も無くー防弾ベストの変わりに分厚い本を巻きつける等ー120パーセント死ぬと分かっている場所に突っ込んで行かなければならない。結果的に不審船は立入臨検隊が出撃する直前に再び急発進し、その後北朝鮮へと逃走した。


この事件により海上自衛隊内部は勿論、当時の防衛庁、政府内部でも専門部隊の必要性を感じ、特別警備隊は創隊された。余談であるがこの事件後、伊藤祐靖氏は“みょうこう”航海長から特別警備隊準備室へ異動され、発足後は先任小隊長を勤められた。


この部隊の主な任務は海上警備行動時における不審船の武装解除及び無力化である。対象船舶へ11メートル級RHIBやヘリコプターを使用した移乗強襲(ボーディング)、潜水装備を使用した水中浸透により突入する。他にも海岸や沿岸地域の偵察や陸上における人質救出作戦等も行う。


 第6小隊は特別警備隊内に編成されている小隊で、本来の編成表には記載されておらず存在を把握しているのは現場以外では総理大臣、防衛大臣、統合幕僚長、陸海空幕僚長、統合幕僚監部特殊作戦課員、特殊作戦群長、特別警備隊長、航空支援隊長のみ。隊内でもトップクラスの人員を擁している。U.S.NAVY SEALs Team6(現DEVGRU)を参考に編成され、海自における対テロ部隊として特戦群 第4中隊と共に活躍する。主な任務は船舶や海上プラットホームで発生したテロへの対応である。


 特別警備隊本隊は自衛艦隊司令部内の海上特殊作戦運用課で指揮・運用されるが、第6小隊は統幕の特殊作戦部で他の陸・空の特殊部隊と共に統合運用される。


両部隊が合同作戦を行う際、陸上での作戦時は第4中隊が、海上での作戦時は第6小隊が中心となりもう1つの部隊は支援に回る。




閉話休題




「理想論ですが、嫌なものですね。そのような部隊を作る必要がある情勢になるというのは・・・」


護はため息を付きながら俯いた。


「まぁな。だが現実は残酷だ。そこで任務に就く以上は・・・」


「覚悟と意志を持って行動しなければならない・・・」


「そして、いざ任務(オーダー)が発せられれば、それを達するために全滅することも厭わず、突っ込まなければならない・・・」


3人は顔を俯かせた。


「・・・そういえばお2人とも飲まないんですか?明日は非番なんですよね?」


話の終盤から2人ともビールではなく、ウーロン茶を飲んでいた。


「明日は確かに非番だけど・・・なぁ」


「俺も伊藤も基地に戻って訓練しようと思ってな」


「・・・一体いつ休んでいるんですか?」


「ちゃんと休んでいるよ。休むときに休まないといけないのは知っているからな」


「だからアルコールは少なめに、と思って。本当ならロシア料理とウォッカで一杯いきたいんだが・・・」


「ウォッカってあのロシアの酒のウォッカですか?」


「まぁそうだな。しかしウォッカはロシアだけで作っているものでは無いぞ!ロシア以外にもウクライナやエストニア、ポーランドやスロヴァキア、他にもスウェーデンやノルウェー等でも作っていているんだ。しかもそれぞれの国の中でいくつか種類があってだな・・・」


「は、はぁ・・・」


神田はシリアスな話をしていたかと思えばいきなりウォッカについて語りだした。それに護は付いていけず困惑した。一方、伊藤は“また始まった”という感じで見ていた。1人で話している神田を置いておき護は伊藤に質問した。


「伊藤さん・・・」


「ん~?どうした?」


「神田さんってそんなにウォッカ好きなんですか?」


「あぁそうだな。店で俺と飲むときは絶対に2杯以上飲むからな・・・あとロシア料理も好きだったな」

「これにはちょっと逸話があってな・・・」


「はぁ・・・」


「以前神田はロシア空挺軍の空挺スペツナズや参謀本部情報総局のGRUスペツナズ、連邦保安庁のアルファといったロシア特殊部隊の隊員達と集まる機会があってな、その時その場にいたロシア人たちが全員潰れるまで飲んでいたらしい・・・」


「マジですか?」


「あくまで逸話だから分からんが、十分にありえる話だ。だが、怖くて聞けんよ・・・」


二人がコソコソと小声で話している最中もウォッカについて説明し、褒めていた。近くにいた特警隊の隊員がそれを聞き、“本当か”と問うと、先ほどよりも熱く語っていた。そしてウォッカの銘柄と味について語り、今度はロシア料理について語り始めた。


「・・・・ゆえに、イクラとキャビア等は酒のつまみとして欠かせず、ボルシチやビーフストロガノフ、サラート・オリヴィエ、ペリメニやピロシキ等は絶品なのである!理解できたかな?加藤!」


「え、えぇ・・・一応理解しました」


何がゆえにだか分からない説明だったが、護は取りあえず頷いた。しかし


「“一応”では駄目なんだ!そうだ、ちょっと待ってろ。いいものをやろう」


神田は私服の胸ポケットに入っていた防水メモパッドを取り出し、ペンで何かを書き始めた。


(嫌な予感しかしない・・・)


「よし、出来た。これをやろう!」


そう言って神田が渡してきたものは、幾つかのウォッカの銘柄とそれぞれの感想を詳細に書いたメモを渡してきた。


「・・・おれはこれでどうしろと言うのですか?」


「どうしろって、飲むときの参考になるだろう。今度買って飲んでみろ」


「飲んでみろって、俺は未成年です」


「大丈夫だ、問題ない。俺が全面的に許す!」


「いや、神田さんが許しても世間は許しません」


「うむ、それは言えているな・・・よし!では次に会うときにプレゼントとして持ってきてくれ!」


「何でそうなるんですか!?じゃあこれはそのための布石ですか?」


「さぁな。どうだろう・・・はっはっは!」


と言って神田は立ち上がり下座の方に向かって行った。


「神田さんってあんな感じなんですか?」


「普段は冷静沈着に仕事をこなしているけど、こういう席ではあんな感じだ。」


「せっかく、今日の演習で使っていたM27IARの事聞こうと思っていたのにな・・・」


「・・・うちの部隊も使っていたのに、俺には聞いてくれないんだなー」


伊藤はワザとらしく棒読みで話した。


「あ、いやそういうつもりではなくて・・・実際どうですか?M27は?」


「確かに、いいよ。HK416の派生型だけあって、作動性や射撃精度は高い。何よりアサルトと見分けが付きにくいし、重量は軽くなった。だから機関銃手が狙われやすいと言うことは少なくはなった。だけど、STANAGマガジン使うから装弾数は少なくなってしまうし、過熱劣化したバレルを前線で簡単に交換できないからな。確かにサードパーティー部品を使えば解決可能だとは思う。装弾数はC-MAGを使えば何とかできるが、使ったら“より軽量な分隊支援火器”には当てはまらなくなるし、相手にバレやすくなるから時と場合によるな。この2つが合っていれば、いい銃ではある」


「なるほど。では他に・・・」


こうして護は伊藤と自分達が使用している火器や装備、戦術について話し始めた。




そうこうしている内に神田も戻ってきて3人で話していると、いい時間なったのでそろそろ切り上げようかと話していた時、


ムニュ


護は左腕に違和感を感じ、そちらへ顔を向けた。そこにいたのは


「ま~も~る!」


顔を赤くしたこの場で唯一の女性である佐藤希その人だった。


「希?お前、酒飲んだのか?」


「えへへ、あれ飲んだー」


希は自分が座っていた方を指で示した。そこにはウーロンハイやらカルピスサワーといった物が入っていたと思われるグラスが並んでいた。


「未成年なんだからお酒飲んじゃ駄目なのOK?」


「OK、OK!大丈夫だよ。護も飲もうよ~」


・・・ほんの数秒前に駄目だといったのに、慎ましい胸を腕に押し付けてくる。幾ら慎ましくても護にはその感触は素晴らしいものだったらしいが、


「・・・希さん、お願いだから手を離してくれないかな?」


「何で?」


「腕に胸が当たっているから・・・」


「ダ・メ、当ててるの。でもそんな事考えるなんて・・・護のエッチ・・・・」


「いやいや、自分で押し当ててエッチも何も無いでしょ!?」


「そんな言い訳するんだ~。いいもん、あの事ここで言っちゃうから」


「あの事?」


「そう、あの事。皆さ~ん!ここにいる加藤護大尉は私のシャワーを覗いて、私の裸を見ました~!」


「ちょっと待て!俺は覗いてなんかいない!結果的に見たことになっても、そんなことは断じてやっていない!」


「“そんなこと”ですって。皆さ~ん!どう思います?乙女の柔肌を許可無く見た事を~」


「自分で“乙女”言うな!皆さんこれは・・・ってあれ?」


護が弁解しようとしたが、既に回りは二種類の人間に分けられていた。1つは顔がニヤニヤしている人間、もう1つは“そんな事していて言い訳するんですか~?”という顔をしている人間。ちなみに伊藤は前者、神田は後者であった。


「いや、あのこれはですね・・・」


「「大尉、見たんですね!?」」


「いや、なんと言うか・・・」


「「「見たんですね!?」」」


「いやだから・・・」


「「「「見たのか見てないのかどっち!?」」」」


現在のこの状況で唯一真実を知っている希はというと護の左胸で頬ずりしていた。それが詰め寄ってくる独身者達の火に油を注いでいた。


「はい、見ました・・・・」


護はこの状況で見た事を認め、周りの隊員達に揉みくちゃにされた。


「ハッハッハ!皆、それくらいにしてやれ。そろそろ帰るぞ」


伊藤の言葉で隊員達は離れていき、それぞれの席に戻ってグラスを纏めたり、残り物を食べたりして料金を払い店を出ようとした時だった。


「おい!お前、ちょっと待てよ!」


1人の男が声をかけて来た。


「・・・何か御用でしょうか?」


「ガキが一丁前に女連れているじゃねぇ!俺が介抱してやるよ」


(めんどくさい酔っ払いだ・・・)


この時護は潰れて半分寝ている希に肩を貸していた。そして、護に怒鳴ってきた男は飲んでいたらしく顔が赤い。


「いいえ、お断りします。お手数は取らせません」


そう言って護は希を抱えて、店から出ようとした。しかし、


「おい!待てって言っているだろうが!」


男はまだ引き下がるつもりは無いらしく、しかも強引に護から希を引き離そうとして掴み掛かってきた。そのため、護は軽く足を出して男を転ばせた。


「痛ってぇな!お前ちょっと外に出ろ!」


「言われなくても外に出ますよ。帰りますから」


外に出ると他の隊員たちが二人を待っていた。


「すいません。伊藤さん彼女を少し頼みます」


護は希を伊藤に頼み、男と対峙した。


「何だ?ガキが俺とやろうっていうのか?」


「どこまでも追ってきそうですからね。まぁ直ぐに終わらせますが・・・」


「舐めてるんじゃねぇぞ!俺はな、第一空挺旅団で空挺レンジャーの資格を持っているんだぞ!どうだ、すごいだろう!」


(こいつ本当に自衛官かよ。しかも日本で唯一の空挺部隊である第一空挺旅団にいるって・・・)


「・・・すごくも何とも無いですね」


「ガキが調子に乗るんじゃねぇ!」


ありそうな台詞を叫びながら男は護に右ストレートを食らわそうとしたが、


「・・・・話にならないな」


小声で言った次の瞬間には男は宙を舞い、地面に叩きつけられていた。男は意識が朦朧とする中で護に聞いた。


「お、お前何者だ?」


「だだのガキですよ」


そう言って護は男の首に軽く手刀を入れた。そして男を店の邪魔にならない所に移動し、上着にある物を入れて、伊藤の方に向き直った。


「すいません伊藤さん。希をありがとうございました」


「あぁ、大丈夫だよ。途中から起きたみたいだからね」


「希?大丈夫か?」


「・・・ねぇ護?」


「ん?どうした?」


「今護は私の事を守ってくれたんだよね?」


「まぁ結果的に言えばそうなるな・・・・」


「ありがとう、護!」


希は護に飛び切りの笑顔を向けて護の胸に飛び込んだ。そして再び、頬ずりをし始めた。これにはさすがに護も顔を赤くして明後日の方向を向いた。


「仲がよろしいようで何よりだ」


「神田さん・・・」


「じゃあ俺達も帰るが、そっちも気をつけてな」


「えぇ今日は本当にありがとうございました」


「じゃあまた会おう。希ちゃんもまたな」


「伊藤さ~ん、神田さ~んバイバ~イ!」


「あはは・・・スイマセン!」


「別に構わないよ。じゃあそういうことで」


そう言って伊藤と神田は他の隊員達と共に乗ってきた車両に分乗して帰っていった。


「大尉、我々もそろそろ」


「ああ、わかった。今からだと戻るのは2300ぐらいか?」


「えぇ、そんな感じです」


「了解だ。行こう。ほら、希行くぞ」


「う~ん・・・」


希は伊藤たちを見送ってから直ぐに護の肩に頭を預けている。


「悪いが、先に行っていてくれ」


「了解しました。・・・大尉、佐藤中尉に変なことしちゃダメですよ」


「誰がするか!」


護を呼びに来たダガー4は笑いながら、乗ってきたCadillac Escaladeの方へ向かって行った。


「全く・・・希起きろ、少しだけだから」


「・・・護が運んで」


希がそう言ったので、護は背中に背負おうとしたところ、


「ち・が・う。おんぶじゃなくて、お姫様抱っこして」


「はぁ?お前何言っているか分かって・・・」


「して」


「だけど・・・」


「して」


「あぁぁ!分かったよ。全く世話の焼けるお姫様だ・・・」


文句を言いながらも、お姫様抱っこをして車まで運んでいく護の顔は緩んでいた。しばらく歩いていると突然、希が寝言を言った。


「・・・護」


「うん?何だ、って寝言か。」


「好きだよ・・・」


この一言で思わず護は希を落としそうになった。寝言であっても彼女は“好きだ”と言ったのだ。


「まさか・・・」


護は呟いて、足を早めた。



「大尉、随分掛かりましたね。それにお姫様抱っこまでしちゃって」


車の周りで待機していた隊員たちがニヤニヤしながら、その中のひとりであるダガー3が聞いてきた。


「本人に頼まれたんだ。別に他意は無い」


護は冷静に振舞っていたつもりだったが、


「そうですか?それにしては顔が赤くなっているような気がしますが?」


「!!っ知らん!勝手に想像していろ。帰るぞ!」


そう言い残して護はさっさとCadillac Escaladeの内の1台の後部座席に希と一緒に乗り込んだ。


「勝手に想像していいそうだ。では皆帰るぞ!」


「「「「「了解!」」」」


隊員は4名ずつに分かれ乗車し、2台の車両は東京都は多摩地域中部にある在日米軍司令部及び航空自衛隊航空総隊司令部が存在し、尚且つ、日本におけるICTOの拠点の1つとなっている横田飛行場へ向かって走り出した。


この時、この演習に参加したほとんどの者が1ヶ月も経たないうちに今度は実戦で再会することになるとは思わなかった。





おまけ




翌日、護に昏倒させられた男は警察署にいた。男が倒れているとの通報を受けてたまたま近くにいた静岡県警自動車警邏隊のパトカーが急行し警察官が確認したところ今だ酔っていて、質問をした警察官に掴み掛かってきたので、近くの警察署に連行された。そして現在、男は取調室にいた。


「だから俺は殴っていないって言っているだろ!俺はあのガキに殴られたんだよ!」


「だけどね、3人も君の方が先に手を出したという目撃者がいる」


「その上君自分の事を“第1空挺旅団にいて空挺レンジャーを持っている”と言ったみたいだな?」


「今言った事に何か間違いがあるかな?元任期制自衛官であり、現在無職の秋本康義さん?」


「・・・いいえ、間違ってません」


男は素直に認めた。自分が酒の飲みすぎで正常な判断能力が無かったとはいえ人を殴ろうとしてしまった事を。だが、


「そこで被害者の話なんだが、これを見た目撃者がいなくてね。どんな奴だったんだ?」


「いや俺もよく分かりません。ですが相手は必ず何かしらの格闘技をやっています。あれは素人の動きじゃありません」


「そうか・・・・実はこれが君の上着のポケットに入っていたんだ」


そう言って取り調べを担当している警察官は1枚のトランプカードを出した。そのトランプには表にジョーカーが、そして裏が漆黒のカードだった。


「このカードは確か・・・っ!!」


男は証拠品袋に入ったままそのカードを持ち、思い出した。三年間、自衛官として勤務した最後の年に先輩から聞いた事を・・・


「悪いが、先に確認させてもらったよ。そのカードは君が考えている通り、7年前の世界同時多発テロ事件の首謀者を確保した連中の非公認“参上カード”であると私は思うよ。君もそう思っているんだろ?」


「えぇ。あんな組織は出鱈目な、存在しない偶像の産物だと思っていたのに・・・私はとんでもない虎の尾を踏んでしまったんですね・・・」


「あぁそうだよ、君はとてつもなく大きな虎の尾を踏んでしまったんだ」


秋本は自分が手を出したのがどれほどの物か再認識し、うな垂れた。


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