表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

第5話

同時刻 日本 富士樹海 陸上自衛隊 富士学校


一方その頃、護と希は数名の太平洋戦隊の主要陸上戦力である第2特殊作戦グループの山岳隊のメンバーと共に陸上自衛隊富士学校に来ていた。


 富士学校は陸上自衛隊の普通科・機甲科・野戦特科の3つの協同教育訓練や幹部レンジャー課程を行う場所でもある。これらは公式に行われているが非公式に行われているのが、陸上総隊の陸上特殊作戦運用課で運用されている特殊作戦群(SFGp)の訓練である。その訓練は主に2つに分けられる。1つはSFGpの戦闘要員になるために行われる特殊作戦隊員選抜試験とそれに付随する空挺降下や山岳潜入、各種語学やCQB、格闘技、狙撃、NBC、情報、心理戦等の特殊部隊員として必要な技能の取得を目的とした訓練である。


 もう1つは他部隊との演習である。富士学校の訓練評価隊や普通科教導連隊、第1空挺旅団や水陸機動団、即応レンジャー連隊、冬季戦技教育隊といった陸自の他の特殊部隊や準特殊部隊のほかに海自の特別警備隊(SBU)等との合同演習を行う。ちなみにSBUは山岳潜入訓練をこちらで行い、SFGpは水路潜入・潜水訓練を呉の海自第1術科学校で行うことがある。そして双方の特殊部隊は富士以外でも訓練を全国で行っている。


今回の訓練は後者にあたり、陸自から特戦群、海自から特警隊が。ICTO太平洋戦隊の特別対応班(SRT)から2名、第2特殊作戦グループ 山岳隊からの数名で構成されたチームで合同演習を行っていた。



護と希は現在、第2特殊作戦グループのメンバーを従え、森の中を行軍中であった。


「・・・・・」


「・・・・・」


「「「「「「・・・・・」」」」」」


総勢8名のチームは一言も話す事無く、ハンドサインのみを使い道なき道を進んでいた。今回の演習は“山中にある敵拠点を襲撃し、その後追跡してくる部隊を撃退しつつ制限時間内にいくつかある脱出地点、もしくは緊急脱出地点までたどり着く”というものであった。


 襲撃部隊側がICTO、追跡部隊側がSFGpとSBUのタスクフォースである。追跡部隊はそれぞれ4名1チームを2つ投入していた。さらに、タイムリミットである3日目からは普通科教導連隊の1個中隊が追跡に増援として加わる。


しばらく歩いているとポイントマンを務めていた希が左手をグーにした。止まれの合図だ。


「ダガー1よりオールハンド集合しろ」


『『『『『『『『了解』』』』』』』』』


全員がSILYNXタイプ C4OPS PTTヘッドセットシステムを通して小声で返答し、護を中心に集まった。それぞれがCRYE PRECISION社製のAOR2迷彩パターンの改良ペルメトリン付きコンバットシャツとコンバットパンツを着用し、顔に赤外線を遮断する耐熱ドーランを塗り、LBT-6094Aスリックプレートキャリアの上からLBT-1961A-RチェストリグかEAGLEローデシアンリーコンベストを装着している。


 携帯している小火器は2名がMk-48を、1名がH&K G28を、残りの隊員がHK416をそれぞれがカスタムしたタイプを持っていた。


「何か前に参加した時とぜんぜん違うような気がするのですがどう思います、ダガー1?」


作戦行動中のため希は敬語で聞いた。


「確かに。前よりも格段に早く、素早くなっている。同じ部隊と思えないくらいに・・・」


現在チームリーダーを務めている護の推測は間違ってはいなかった。この時、護達は知らなかったが彼らを追跡していたのは特戦群と特警隊の編成表では存在しない筈の第4中隊と第6小隊がこの演習には参加していた。


「恐らく距離を殆ど詰められているだろう」


「RV1とRV2は既に敵に確保されていましたし、残るはRV3と緊急脱出地点ですが緊急脱出地点は距離と時間的には間に合いませんし・・・・どうします?」


「一旦相手の様子を見よう。“Crazy Ivan”をやるぞ。ダガー4先頭へ」


全員が頷き、U.S.SFG出身で特戦群との合同訓練に幾度も参加した経験を持つを隊員を先頭(ポイントマン)にして再び、チームは動き出した。


 Crazy Ivanとは東西冷戦時代にソ連の潜水艦が他国の潜水艦による追跡を警戒、もしくは追尾から逃れるために突然行う急速回頭の事である。これの陸上版を護達はやろうとしている。


チームはしばらく前進し続けある程度いったところで反時計回りに迂回し戻った。


「どうだ、見えたか?」


先頭のダガー4が再び停止の合図を出し、彼は土が盛り上がっている方へ向かった。その後ろを護が追い、残りの隊員が半円状に防御体制に入った。


「えぇ来ました。連中ですね・・・」


そう言ってダガー4は小さく指を追跡部隊が警戒しながら向かってきた方向に向けた。


「装備が俺が参加した時とはぜんぜん違う。連中が着ているアーマーは“ドラゴンスキン”使っているな・・・」


その先には追跡部隊の1チームがおり、陸自迷彩3型パターンのコンバットシャツとコンバットパンツを着て、ドラゴンスキンを使用したと見られるプレートキャリアを付けていた。


「ガナーは・・M27 IARか。試験運用しているのか?・・・それ以外は俺たちと同じ416・・・ダガー4、あいつが指揮官だよな?」


そう言って護が指した先には鋭い眼光を周囲に向けている男がいた。その男には口もとから左耳付近まで伸びる切り傷があり、彼が所持しているHK416は他の隊員の物よりもカスタムアップしてあった。


 具体的にはフラッシュハイダーをCQC バトルハイダーに交換し、サイトをMBUS2に。ストックをCTR カービンストック、グリップをMOEグリップに。セレクターはアンビステクショナル仕様だし、トリガーガードはMOEトリガーガードを使い、スイベルにASAPというアメリカに本社を持つMagpul Industries Corporationのパーツを大量に使っていた。


 更にオプションパーツとしてTangoDownバトルQDグリップのロングタイプ、AN/PEQ-15、M961 パーソナルウェポンライトを付け、光学機器はEXPS3+EoTech 3X Magnifireを乗せている。


「特戦にしろ特警にしろ日本の部隊にしては贅沢だな・・・」

「誰か知っている顔いるか?」


護がそう尋ねて首をダガー4の方へ向けるとそこには驚いた顔のまま固まっているダガー4がいた。


「まさか!?・・・あいつは!・・・不味いかもな・・・」


「どうした?」


「・・・ウルズ2、特殊作戦群が既に幾つか実戦に参加しているのはご存知ですか?」


「あぁ、まだ数は少ないが特戦も特警も何度か実戦を経験しているのは知っている。それが?」


「・・・私がまだ沖縄のTorii Stationに駐屯している1st SFG 第1大隊に居た頃の話です」


「???」


「我々はある日インドネシアのカリマンタン島に派遣されました。その任務は特殊作戦群による邦人救出の監視でした」

「当時私たちは特戦群にはまだ無理なミッションだと考えていましたが、実際現地に入ってその考えは勘違いであると気づかされました」


「彼らは完璧に日本政府からの“オーダー”に答えた・・・」


「その通りです。しかも連中は監視していた我々の存在に気が付いていました。そして我々を最初に見つけたのがあのチームを指揮している男です」

「何度か訓練の度に見かけたり、話したりしていますが、相当出来ますね。そして狼好きも尋常じゃないようですが・・・」


ダガー4はそう言って苦笑した。


「狼好き?」


「えぇ、なんでもコールサインも“人狼”の意味を持つ“Were wolf”というみたいです。噂では部屋に狼の縫いぐるみがあるとか無いとか」


「なんだそりゃ。それが本当なら中々かわいらしいな」


今度は護が苦笑する番であった。


「しかし先ほども言いましたが、実力は本物です。群本部からも銃器や装備の改良、選定を任される程です。彼以外も合同訓練等で1st SFGや韓国に一部駐屯しているSEAL Team5、第3海兵遠征軍のForce Reconと対戦し、特殊作戦群は既に同等かそれ以上の能力があると、U.S.SOCOMは評価しています。もちろん海自の特別警備隊も同様にです」


護の顔は先ほどとは打って変わり曇ってしまい、最終的に思案顔になった。


「・・・なら、下手な小細工は時間の無駄だな。演習開始からもう3日経過している。俺が彼らなら今仕掛けようとする。彼らもそうする筈だ。」


「えぇ。話しているうちにもう1チームもやって来ましたし」


もう1つ、今度は特警隊のチームが護達から視認出来たが、そのチームは一度立ち止まり護達から見て右側へ向かって行った。かたや特戦群のチームはそのまま周囲を警戒しながら前進してきた。


「・・・ありゃあ、こっちに気が付いているぞ。傷の男は自分たちを囮にするつもりだ」


護とダガー4は盛り上がっている場所からチームが居る場所まで下がった。


「オールハンド、そのまま聞いてくれ。既に敵の2チームが視界に入っている。1チームが囮になり、もう1チームが右から回り込もうとしているが先にこっちが仕掛けるぞ。迂回しているチームを攻撃し、そのまま一気にRV3へ向かう」

「4名ずつに分かれ、ブービートラップを仕掛けながら前進する。ダガー3、5、7は俺とそれ以外はダガー2と行け」

「前進!」


護が説明する間も周囲へ各自が銃口を向け警戒に当たり、希が指揮するチームが先に前進を開始した。


「・・・・っ!」


「・・・・!」


「「「「「「「・・・・・・」」」」」」


4名ずつに分かれた部隊はチーム内、別チームのメンバーとハンドサインを出しながら先ほどよりも早い速度で前進しブービートラップを仕掛けつつ、迂回している部隊の前に配置についた。丁度半円状に8名が配置につき上から撃ち下ろす格好となった。


『ダガー1、こちらダガー2。全員配置に着きました!』


「オールハンド、俺の合図でやるぞ」


“カチッカチッ”


無線を通してそれぞれからPPTを2回押し、“了解”の意味であるジッパーコマンドが送られてきた。


「スタンバイ・・・スタンバイ・・・」


“ファイア”と言おうとした瞬間、


ババババババッ!ババババババッ!ババババババ!


位置的にも、タイミング的にも護達が有利であった筈なのに下にいた敵チームから攻撃を受けた。


「・・・ッ!クッソ!反撃しろ!」


分隊支援火器であるM27 IARによる射撃を受けたため、頭を上げられず悪態をついてから咄嗟に言った。


もちろん他の隊員も言われるまでも無くそれぞれの銃で撃ち返していた。


ブシュシュシュ!ブシュシュシュ!ブシュシュシュ!

ババババババッ!ババババババッ!ババババババ!


それぞれのHK416とMk-48、M27 IARが火を噴き激しい銃撃戦となった。その中で最初にやられたのが、


『ぐっ!すいませんダガー1、ダガー7やられました!』


ICTO側のMk-48を撃っていた機関銃手であった。


「くそっ!連中やるじゃないか。ダガー2、こちらダガー1。ダガー3とダガー7の抜けた穴を埋めろ」


『ダガー2、了解!』


「ダガー8、相手の分隊支援火器を潰せ!」


ブシュ!ブシュ!


『ダガー1、こちらダガー8!敵の機銃を潰しました』


H&K G28を持ち少し後方にダガー6と一緒に展開していたダガー8が特警隊のSAW手を倒した。


「よし。ダガー5、制圧射撃!ダガー4行くぞ!」


『ダガー4、了解!』


もう一人の機関銃手に制圧射撃を加えさせ、敵が頭を下げている間に護はダガー4を連れて左から回り込み側面を突こうと前進した。だが、


『ダガー1、こちらダガー6!先ほどの囮チームがこっちに向かってきています!距離は100メートルを既に切っています!』


「なっ!」


(もうこちらへ向かって来たのか!こちらへ向かう途中でブービートラップを幾つか仕掛けてきたのに・・・早すぎるぞ!)


「ダガー6!そこで足止めできるか?」


『ダガー1、こちらダガー8!敵のスピードが速すぎる!』


『おい!8、あの傷のある男が指揮官だ!あいつをね・・・ぐはぁ!』


『ダガー6被弾!死亡判定です。くそ!すいません、俺もやられました・・・』


「・・・ここまで俺たちをきりきり舞いさせる部隊は久しぶりだな」


護がどうするか図りかねている時、状況はさらに悪化した。


『ダガー1、こちらダガー2!敵チーム合計8名と交戦中!なお先ほどから確認していた2チームとは別チームです!増援を寄越してください。私とダガー3だけではもって5分ほどです!』


「ダガー2、取りあえずダガー5と合流しろ。その後ポイント122002までゆっくり後退!俺たちも直ぐにそっちへ行く!」

「オールハンド、交戦しているしている連中の数は倍になった!ダガー2達とポイント122002で合流し、そこから一点突破でRV3を目指す。もう少しだ、ここが踏ん張りどころだぞ!」


『『『『了解!』』』』


無線に向かって言うとダガー4と一緒にダガー2達との合流点に向かって走り出した。




3分後




ほぼ全力で山中を駆け、希と合流した護は希の横に伏せながら、、


「どんな状況だ!?」


と聞きながら射撃し敵を1名倒していた。


「正直危なかったけど来てくれたから何とかなったわ!残りのマガジンは?」


あまり余裕が無いようで常語で護に聞き返しながら希も敵に向かい撃ち返していた。


「あと5本ある!そっちは?」


「ポーチに残っているのは2本。2本程頂戴。装填!」


「ほらっ。大事に使えよ!」


装填の為に頭を引っ込め、マグポーチから新しいMAGPULのE-MAGを出しHK416に装填する。その間に護は希に自分のE-MAGを2本渡し、通常の指きりによるバースト射撃よりも少し長めに牽制射撃を行い希を援護する。


 牽制射撃を行っていると今度は護の弾が切れる。護が頭を引っ込めるのと代わるようにすかさず希が牽制射撃を行う。


装填を完了した護が今度はチェストリグのポーチから訓練用手榴弾を取り出した。


「手榴弾!」


相手に向かって投げその場で体を縮める。爆発音が聞こえ、相手の部隊が少し後退した。そこへダガー5が制圧射撃を行い釘付けにする。その間に護と希、ダガー3とダガー4はバディで前進する。全員がお互いをカバーしながら追跡部隊に向け射撃。相手の射撃音が聞こえなくなってからしばらく走り、ようやくRV3へ到着した。


「後はここを5分守りきれば終わりだ!円陣防御を組め!」


『『『『了解!』』』』


それぞれが配置に付き3分が経過したときにそれは始まった。


5名の武器が火を噴き、相手の前進を阻む。相手も時間が残り少ないのを理解しているようで、射撃も動きも更に磨きが掛かった。そしてーー






『訓練本部から展開中の全部隊へ、状況終了。繰り返す、状況終了!』





訓練の調整、審判を行っている本部から終了の命令が下った。


「・・・・・・」


「・・・・・・・・」


「・・・・・終わった?」


「ふぅ、ギリギリだったな」


「えぇ、危なかったですね」


ICTO側のそれぞれが思い思いの言葉を口にし、立ち上がり集まってくる一方で追跡部隊側の特殊作戦群と特別警備隊の隊員達はそれぞれが悔しそうな顔をし、既に隊員同士で意見を交換していた。


最終的にICTOが勝利したが追跡部隊の方は距離が50メートルに近づこうとしていた。


『訓練本部から展開中の全部隊へ。迎えの車両を送ったので分乗して帰還してくれ』


「ダガー1、了解」


「人狼1、了解」


「海神1、了解」


3人の男がそれぞれ訓練本部へ返答しそれぞれの部隊の1番前へ出た。そして申し合わせたかのように3人は近づき始めた。特殊作戦群のリーダーである人狼と特別警備隊の代表者とおぼしき海神と言っていた男が並んで護に近づいてきた。



同日 11時00分 日本 富士樹海 陸上自衛隊 富士学校


現在、ICTOとの合同演習が終了したため、3部隊の隊員が1ヵ所に集まってそれぞれ話をしながら迎えの車両が来るのを待っている時、護は“人狼じんろう”、“海神わだつみ”のコードネームを持つ2部隊の隊長と自己紹介をしていた。


「初めまして、自分はICTO太平洋戦隊 陸戦ユニット 特別対応班の加藤護といいます。階級は・・・大尉をやっております」


護は頭に被っていたブーニーハットを手に持ち、話してから軽く一礼した。それを受け、他の2人も軽く一礼を返した。その後二人は一瞬、アイコンタクトを交わした。


「じゃあまずはオレから。悪いね、“人狼”からじゃなくて・・・」


「いえいえ、お気になさらず。貴方の方も興味がありますので・・・“海神”さん」


「・・・言ってくれるな。では、改めて。自分は伊藤拓海(いとうたくみ)。階級は一等海尉だ。所属は・・・・まぁいいか。どうせ言わなくてもICTOなら分かることだしな」


「・・・・何と言うか、すいません」


「別に謝る必要は無い。どこだって同じような事をやるさ。所属は海上自衛隊自衛艦隊隷下、特別警備隊 第6小隊だ。よろしく」


「よろしくお願いします。・・・特警隊って自分の記憶が正しければ、隊本部と実働5個小隊編成ですよね?」


「まぁ、そのへんは後でという事で。んでもって君がお待ちかねのこっちが・・・」


二人は握手をして二、三言話してから離れた。一歩前に出ていた伊藤が下がり代わりに前へ出た男が、


「初めまして、加藤大尉。自分は陸上自衛隊陸上総隊隷下、特殊作戦群 第4中隊所属の神田剛史(かんだつよし)です。階級は二等陸尉であります。よろしくお願いします」


と、自己紹介をして、握手を求めてきた。この男こそ、今回護達のチームを苦戦させた原因と言っていい男である。


「こちらこそよろしくお願いします、神田二尉。・・・・先ほどは見事でした。もちろんお世辞では無く本心からそのように思います」

「さすが特戦群でエースと呼ばれるだけありますね・・・“人狼”さん」


護は差し出された手を取り、握手に答えてからこう言った。すると神田は、


「お褒めいただき、光栄です。ですが、結果的には負け戦です。その歳で特別対応班(SRT)に名を連ねているだけありますね」


と言われた。


「お褒めいただきありがとうございます。ですが、私はそんな大層な人間ではありません。ただのガキですよ・・・」

「お二人の事は少し聞いています。伊藤一尉は吉田中尉とアンダーソン少佐から、神田二尉は山田中尉とバード中佐から」


「で、ディックーアンダーソンの愛称ーは何と言っていた?」


「・・・ビルーバードの愛称ーは何と言っていたのですか?」


「元同僚よりカウンターパートナーですか・・・二人はそろって“特殊作戦群や特別警備隊と演習をしてジンロウやワダツミに会ったら気をつけろ。油断するとやられるぞ”と言っていました」

「吉田さんと山田さんの2人もです。そういえば2人とも休暇はよく日本に居るそうですけど会ったりしますか?」


護が2人の名前を口にすると目の前の2人は、


「あの2人とは稀に食事をしたり飲みに行ったりしますけど、基本的に木更津や岩国に来ますからね。土産話を持って」


「そうそう。それでもってその土産話等々もいろいろ参考にさせて貰ったりしているな」


「あの2人は・・・まぁ機密に携わる事は話していないだろうからいいんですが・・・」


「もちろん。2人とも私の知る限り、そのような内容は1度も話していません。あぁ、でも大尉が古典が苦手であるというのは以前連絡した際に聞きましたが」


(・・・よし、あの2人には追加の訓練とトイレ・風呂掃除をやらせよう!)


色々と情報交換をしているようであった。そして、その情報は巡り巡って本人のところに回ってきた。この瞬間、2人は訓練の追加とICTO太平洋戦隊基地にあるすべての風呂と男子トイレの掃除が決定した。


「2人とも、話の途中で悪いが迎えの車両が来たぞ」


伊藤が顎を杓った方向を見ると73式小型トラックと高機動車が2台こちらに向かってきた。


 合計3台の車両隊は3人の前に止まると73式小型トラックを運転していた二等陸曹が降り、駆け足で3人の前まで来て敬礼した。3人が答礼を行うと、


「訓練本部よりお迎えに参りました。隊長の方々はパジェロの方へ、隊員の方達は高機に乗車してください」


と伝えて73式小型トラック、通称パジェロへ向かっていった。残された3人はそれぞれの部下達に速やかに高機動車、通称高機に乗車するように命令してからパジェロへ向かっていった。その道中護が、


「どうやらここまでのようですね。お二人はデブリーフィング後の予定は?」


「うちは特戦の連中と一緒に、一通りの射撃訓練する予定で・・・」


「それが終わったら今日は、大尉達がよろしければ、町で懇親会をと思っていましたけれど・・・」


その後の予定を確認するために2人に聞いたところ護が提案しようとしていた懇親会は相手側も思っていたようなので、


「ありがとうございます。喜んで、全員参加させていただきます。それと、デブリフィーング後の射撃訓練に我々も参加させていただいてもよろしいですか?」


「もちろん。構わない。神田も別に良いよな?」


「えぇ勿論。どれほどの腕前か期待させていただきますよ?」


「そんな期待されるほどではありませんよ。それにお二人なら我々の力量の事など先ほどまでの演習でとっくに分かられているのでは?」


「「「ハハハハ!」」」


3人が笑いながらパジェロの後部に乗り込むと運転手の二曹は一瞬怪訝な顔をしてから、アクセルを踏み基地へ向かって行った。




同日 16時45分 陸上自衛隊 富士学校 射撃訓練場


基地に戻った3人は部下達と訓練本部にいた特戦群群本部第3科、特警隊隊本部運用班の幕僚達と共にデブリーフィングを終了させ昼食を済ませた後、合計24名の隊員達は野外射撃訓練場にいた。


 富士学校の射撃訓練場は3種類あり、それぞれ第1、第2、第3射撃場と呼ばれていた。24人の隊員は8人ずつに分かれ、自分のメインアームとサイドアームの射撃や分解・結合を行っていた。時々、使用する銃器を交換し、議論も交わされていた。


 それぞれの射撃場は第1~第3の順番で距離が長くなり、第3射撃場ではパンツァーファウストⅢやM4カールグスタフ等の対物火器の射撃を行える。


そんな中、護は山岳隊員3人と共に第1射撃場にて射撃を行っていた。


「ターゲット!」


4人がターゲットを左に見てゆっくりと歩いていると、彼らの後ろに立つ希から合図が発せられた。その言葉を聞き、4人はローレディの状態から左に90度ターンし、各々の前にあるターゲットのAゾーンに向けて射撃した。


 ターゲットのどこに、どのような弾を、どれだけ撃ち込むかだけではなく、立ち止まるのか、移動しながら射撃するのか。シューターの状態ー立っているか、しゃがんでいるか、仰向けか等々ーやターゲットの方向、どのような技量を維持・向上したいかによって様々なパターンで実施される。スピードを優先する射撃の訓練と精度を優先する射撃の訓練では当然、訓練内容は異なる。もし同じ訓練を行っていたら技量は向上しない。


 メインアームのマガジンが空になったのを確認すると、すぐさまホルスターからサイドアームを抜き射撃する。規定の弾数を標的に叩き込むと、サイドアームを突き出していた腕を胸元まで戻し、左右を索敵、無力化されていないターゲットが無い事を確認し、タクティカル・リロードした上でホルスターに戻す。そしてメインアームのマガジンもフレッシュな物に交換しておく。


護たちがここまで終えた所で、後ろに立っている希が声をかけた。


「加藤大尉、良いですか?」


「あぁ大丈夫だ。どうした佐藤?」


「伊藤一尉と神田二尉がお話があるそうです」


護にそのように告げ、希の後ろに控えていた2人は彼に近づいてきた。


「ちょっと提案があるんだが、最後にペアでのタイムアタックやらないか?」


「各部隊で代表2名がアサルトと拳銃で。コースは設置済みです。どうですか?」


「我々はいいですよ。では10分後に開始ということで?」


「あぁ、大丈夫だ」


「問題なしです」


そう言って2人はそれぞれ自分の部隊の所へ向かって行った。





10分後、射撃場の安全管理員を務めて貰っていた富士学校の准陸尉の説明が始まった。



「それでは今回の概要を説明します」

「コースは50メートルの行程です。各ターゲットに向けて小銃は2発以上、拳銃は3発以上射撃して下さい。行程の中で、このポイントとこのポイントではエマージェンシー・リロードを必ず行って下さい。評価は弾のグルーピングを5段階評価した物及び経過時間の双方の総合得点が高いバディ順になります」

「何か質問は?」


准尉は説明を終わらせ、質問の有無を聞いた。左右を見回して6人から質問が質問が無かったので、


「では開始したいと思います。まず1番手神田・荒木、2人は開始位置へ」


特殊作戦群の2人は指名を受け、位置についた。アサルトライフルはHK416を、ピストルは両名ともUSP TACTICALの9×19mm弾仕様をサイ・ホルスターに入れている。


「スタンバイ!」


この合図で2人は待機状態を取り、それと同時に今回目標となるマンターゲットが起き上がった。


ピー!!!


次のこの音で2人は瞬時に銃口を上げ、それぞれの目標に照準、発砲した。


それは2人のそれは見事に目標を捕らえ、カンッ!という音を立てて倒れた。2人はそれを確認すると銃口を流れるように次の目標に向けて撃っていった。


「リロード!」


「カバー!」


といった合図を2人は殆ど言わなかった。


(これが出来るのは特殊戦の世界にいる者たちの中でもほんの一握りのトップオペレーターだけだろうな・・・)


護がそんな事を考えている内に、2人はお互いをカバーしながら所定の行程を処理(・・)した。


2人が往復して開始位置に戻ってきたのを確認して准尉はタイマーを止め次の行動に移った。


「では2番手、伊藤・天野は開始位置へ」


今度は特別警備隊の2人が位置に付いた。彼らもHK416を持ち、拳銃はSIG P226Rを腰のベルトのホルスターかサイ・ホルスターに入れている。


「スタンバイ!」


待機状態には大きく分けて2つのタイプがある。1つは今まで2つのチームが行っているローレディという体勢だ。この体勢は銃口を下に向ける待機状態だ。もう1つの待機状態はハイレディという体勢で銃口を上に向ける待機状態だ。


 ハイレディは主に海軍系の特殊部隊やVBSSを行う臨検隊等が使用している。理由はローレディで発砲してしまった際に船の底に穴をあけたり、兆弾してしまうのを防ぐ為である。


 ハイレディもローレディもどちらも危険を伴う。例えば、室内や船内への突入(エントリー)の際に隊列を組む。1番前のポイントマンの後ろにいる2番手、3番手の隊員はハイレディにして待機している時に銃口管理をしっかりしないで誤射してしまうと、前方の隊員の頭部を撃ち抜く事になってしまう。同様にローレディも前方の隊員の下半身を誤射する可能性がある。移動する時などもしかりである。しかし、どちらも銃口管理をしっかりと行えば全く問題無い。ローレディが主体となっていても、ハイレディを使わない訳では無い。アメリカの海兵隊や海軍のSEALsは今でも船内への突入の際にはハイレディを取っている事が多い。


 残念ながら公開している資料から分かることなので、実際の戦術は分からない。それでも特にSEALsが行うハイレディは全く銃口がぶれず、垂直の位置から動かない。これを彼らは揺れる船舶の船上でもやってのけるのだ。上に書いたように船内では兆弾すれば、周囲は鉄なのでどこに飛んでいくか分からない。だからこそハイレディを使用しているのだと思う。


 これは考え方の問題になるだろう。当然であるがローレディもハイレディもそれぞれ利点と欠点があるのである。どちらかだけ出来ればよいと言うものではないし、こちらがよいからもう1つはダメだというものでもないだろう。




閉話休題




ピー!!!


2人は1番手の2人と同じく瞬時に銃口を上げ、それぞれの目標に照準、発砲した。正確に、素早く、目標に弾を撃ち込み動く。そしてこの2人も“リロード”や“カバー”といった合図を殆ど言わなかった。



2人が開始位置まで戻ってきた。最後に、


「3番手、加藤・佐藤は開始位置へ」


ICTOの代表として護と希が開始地点に立った。3人はメインアームは4人と同じくHK416を使用し、護がMk-25を。希がH&K P30をベルトにアタッチメントを取り付け、1段下げるような形で取り付けられたカイデックス・ホルスターに入れている。


「スタンバイ!」


ピー!!!


2人は瞬時に銃口を上げ発砲した。4人と同様に護と希は殆どしゃべらずに行動した。お互いが相手が何を思い、どうして欲しいかを理解していた。


すべての目標を倒し開始地点に戻ってきた護達に、


「これですべての過程終了です。後ほど結果を伝えます」


准尉はそう言って施設の方に向かって行った。


「加藤大尉、撤収準備に入ります」


「あぁ、そうしてくれ」


この後に予定されている懇親会に参加するためにICTOの隊員は装備を乗ってきた車両に積み込んでいった。こうして護と希が参加した2泊3日の合同演習は終了した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ