第3話
同日 8時32分 日本 東京 東武高校4階廊下
生徒指導室でちょっとした騒ぎがあったが、そんな事があったとは知らず護と希の前を歩く先生は話しかけてきた。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったわね。私の名前は前田和美、取りあえず1年間あなた達の担任を任されているわ。よろしくね」
「よろしくお願いします。僕は「加藤護、そちらの彼女が佐藤希でいいのよね。」・・・先生覚えたんですか?」
「えぇ、自分のクラスに転校してくる子の名前を覚えていない訳ないでしょ。例え転校初日に荷物検査に引っかかりそうな物を持っていたとしてもね・・・」
「まぁ、すいません」
「高橋先生にも言われただろうから、今日のところはいいわ」
((確かに言われたなぁ。色々と・・・))
「「はぁ・・・」」
「2人してため息なんかついてどうしたの?何か悩んでる事でもあるの?」
「「いえ、何でもありません」」
「ならいいけど・・・何かあったらいつでも言ってね。相談に乗るから」
「「ありがとうございます」」
3人で話しながら歩いていると、前を歩く前田先生がある教室の前で止まった。
「ここがあなた達が過ごすことになる2年8組よ。私が先に入るから、2人とも合図したら入ってきてね」
「「はい」」
「みんな、HR始めるから席について!」
「「「「はーい」」」」
前田先生はHRの開始を告げ、黒板に二人の名前を書いてから言った。
「今日はまず始めに新しいクラスメイトを2人紹介します。入って来て」
「「はい」」
2人は返事を返し、護、希の順で教室へ入った。
「とりあえず、自己紹介といきましょう。加藤君からどうぞ」
「はい」
護は一歩前に出てからしゃべりだした。
「初めまして、加藤護と言います。最近近所に引っ越して来たのでまだ周りの事等、分からないので良ければ教えて下さい。よろしくお願いします」
「はい、じゃあ次は佐藤さんお願い」
「初めまして佐藤希です。護と同じく引っ越して来たばかりで、よく分からないので良ければ教えて下さい。よろしくお願いします。」
と二人とも当たり障りの無いことをしゃべった。
「えっと、二人はご家族の都合でここ、東武市に来たそうです。これからこのクラスで過ごす事になるから困ってたらみんな、助けてあげてね」
「「「「はーい」」」」
と、ここで一人の男子生徒が手を挙げた。
「先生!転校生に質問良いですか?」
「えぇ、良いわよ。どんどん質問してあげなさい」
((いや、俺(私)たちの意見は!?))
「じゃあ、二人ともここに来る前はどこにいたんですか?」
「えっと、僕も希もアメリカのノースカロライナ州のフェイエットビルから来ました」
「アメリカに居たって事は2人とも英語はぺらぺらなんですよね?」
次に女子生徒が質問してきた。
「Yes, of course, I and Mamoru can speak English.」
「其他和中文都能??」
「ええっと??英語と中国語ですよね」
「はい。私は英語。護が話したのは中国語です。まぁ中国語の中でも北京語といわれる物ですが・・・」
クラス全体から感嘆の声があがった。しかし二人は重要なことを忘れていた。それはーー
「Mamoru un colonel a ete dit "ne soyez pas visible autant que possible", et il se souvient? (護、准将に出来るだけ目立たないようにしろと言われたの覚えている?)」
「Oh, c'est naturel.par consequent, il parle encore en francais--? .Au sujet de ce que le dos parle, et pour le faire ne comprenait pas.(あぁ、もちろんだ。そのために今フランス語で話しているんだろ。後、何を話しているのか理解されないようにするために)」
「Bien qu'il pense que c'est sans signification meme s'il dit, apres avoir utilise trois langues, il peut venir et etre visible?(3ヵ国語使ってから言っても意味がないと思うけど、これ目立っているわよね?)」
「ああ!!」
「やっぱり・・・」
「なにがやっぱりなの?」
「いえ、何でもないです・・・」
前田先生に一言返し、希は頭を抱えた。確かに直接アボット准将は目立つなとは言わなかったが、“出来るだけ彼女本人には悟られないように”と言っていた。日本の“普通の高校生”は少なくとも、余程な事が無い限り完璧に3ヵ国語も話せる人間はいないだろう。例え、それがこの場にいる人間に話を理解されない用にするためだとしてもこの時点で彼らは目立ってしまった。
「・・・・が悪い・・・・」
「えっ?何、聞こえない。」
「希が悪い!!」
「何言ってるのよ!アンタ!!」
「原来你用英语还了不好。 如果据说一般地"能说话"的话,好了!(そもそもお前が英語で返したのが悪い。普通に喋れます、と言えば良かったじゃないか!)」
「是因为被听见能说吗说。而且要是那么连普通的高中生也明白。大致即使你也不是北京语话下面!(話せるかと聞かれたから話したのよ。それにあれくらいなら普通の高校生でも分かるわよ。大体あなただって北京語話したじゃない!)」
「如果说那个最后的法语没更需要!(それを言ったら最後のフランス語はもっといらなかったぞ!)」
「那个不是「2人ともそこまでにしなさい!」えぇ??」
2人が尚も言い争いを始めたところで終わる気配が無いと感じたのか、担任の前田先生が入った。
「2人とも止めなさい。ただでさえ時間が無いんだから・・・中国語とフランス語?が話せるのはよく分かったから」
「「はい、すいませんでした」」
「もう時間がないから最後に1人、誰か質問のある人?って誰も聞いていないわ・・・」
2人が口論になり先生が仲裁に入ったがクラスの人間は全員唖然としていた。前田先生もこれでは無理かと思い、HRを終わろうとした時、
「先生、最後に2人に質問いいですか?」
「えぇ、いいわよ九条さん」
「では、お2人互いに下の名前で呼び合っている用ですが、付き合っているのですか?」
「「こんな奴と付き合うわけがない(でしょう)!」」
キーンコーンカーンコーン
2人が息を合わせたとしか思えない返事を返したところで丁度、鐘が鳴った。
「もう時間だから、質問は休み時間にでもしなさい。加藤君は石井君の後ろの席、佐藤さんは九条さんの後ろの席だからよろしく」
「2人とも、この2人が分からない事があったらよろしく」
「はーい」
「分かりました」
返事をしたのは最初に質問した男子生徒と護衛対象である九条由香里であった。
こうして2人の学校生活は始まった。
同日 12時00分 日本 東京 東武高校 2-8教室
HRが終わり、1時限目の世界史を何事もなく終わると何処からともなく2人の周りに人だかりが出来た。
質問は多岐に渡り、以前住んでいた所はどんな所か、趣味や特技、好きな食べ物や付き合っている人はいるのか等々多くに及んだ。何処の学校でも人の事を天然記念物でも見るようにあっても転校初日からここまで話しかけてくるのはある意味で稀であろう。
その後順調に2時限目、3時限目と消化したのはいいが4時限目でつまずいてしまった。この時間の教科は数学Ⅱある。
この時間の担当である数学教師は発言させる生徒を決める際に教卓に置いてある名簿を教卓の上で目を瞑りながら回し、指を置いたところの生徒に発言させるという少々意味が分からない決め方をする教師であった。しかし居眠りや話を聞いていない生徒を見つけるとその生徒を指名する。
そのような生徒には余りにレベルが上である問題を解くように指示を出し、解けないといかに自分が素晴らしい、そしてそのような自分に教えてもらうことが出来る事は大変名誉な事であるから感謝しろ等々話し始めるので生徒達の間では不評だった。
今日、この教師の目に留まってしまったのは護だった。
この時護は別の考え事をしていたそれは、
(昼飯どうしよう・・・)
というものすごくどうでもいい事を考えていた。そのことを考えていたので話を聞くのが疎かになり、ボーッと窓の外を眺めていたので声を掛けられたのだ。
「ん?転校生の加藤護君?加藤君!加藤君!!」
「は、はい。何でしょうか?」
「何でしょうか?じゃないだろう!話を聞いていなかったのか?」
「はい。すいません」
「すいませんじゃ済まない事が世の中にはたくさんあるんだよきみ。それじゃあこの問題を前でやってくれ」
そう言って教師が黒板に書いた問題は到底普通の高校2年生には解けない物であった。そうとは知らない護は黒板の前に立ち、腕を組んで考え込んでいた。
(まぁ、解けるはずが無いよな。東大の入試問題レベルだから2年に解けるはずがない)
その時、教室内にいた生徒は希を除き全員が護に同情していた。転校初日からこのような事をやらされるとは可哀想に・・・
しかし教師がそのように考え、他のクラスメイトが同情しているとはつゆ知らず護は黒板に答えを書き始めた。それを見て皆が“えっ?”という顔をしているのに気づかない教師は解けないであろうという優越感に浸ったまま語り始めた。
「ウォッホン!いいかね加藤君。帰国子女だかなんだか知らないが君が思っているよりも我が高校の数学のレベルは高いのだよ。君がアメリカではどうだったか知らないが真面目に授業を受けないとついてこれなく「出来ました。これでいいでしょうか?」えっ?あぁ、少し待ってくれ確認する」
教師はどうせ正解していないだろうと思いながら黒板を見た。だがしかしーー
「嘘だ・・・正解している・・・」
うおぉぉー!!
みんなから称賛され、揉みくちゃにされながら自分の席に座る護を見ながら教師は、
(ありえない!!)
と現実逃避しているようだが、生憎とこれは現実である。この教師にとって災難だったのは転校初日の不真面目そうな生徒と思っていた護が“普通の高校生”では無く、謝罪しても済まない物事を多く見てきた人間だということだった。
護は護で自分の失敗に気がついた。HRであれだけ目立ってしまったのにまたもや目立ってしまった。そこで希に目を向けたところ希は護を一瞥し、ため息をついて顔を逸らした。
(やっちまった)
と激しく後悔する護であった。
再び目立ってしまった4時限目が終わり昼休みになった。さて昼食をどうするかと考えていた護に1人の男子生徒が声を掛けた。
「加藤、昼飯一緒に食べないか?」
声を掛けたのは護の前の席の石井正人だった。特にどうしようと決めていなかった護は、
「あぁいいよ。それと俺の事は護で大丈夫だ」
「じゃあ俺の事も正人でいい。あと他にはマサって呼ばれてるけど、好きな方で呼んでくれ」
「ありがとう。じゃあ遠慮無く呼ばせて貰うぞマサ」
「下の名前かあだ名の方が気楽でいい。他にも何人か一緒に食べるけどいいよな?」
「大丈夫だ。逆に他のクラスメイトと話す機会が出来るのは良いことだからな」
そう言って2人は教室の窓際へ移動した。そこで待っていたのは1人の男子生徒と護衛対象である九条由香里と佐藤希、そしてもう1人女子生徒がいた。護達が近づこうとすると男子生徒が、
「正人早くこっちへ来いよ」
「あぁ。コウ、他の人たちは自己紹介は?」
「悪いと思ったが先に済ませた」
「マサ、こちらは?」
「マサの幼なじみやってる渡辺浩介だ。よろしく頼む加藤」
「こちらこそよろしく。さっきマサにもいったが俺のことは護でいい」
「じゃあ俺もコウでいいよこいつらにはそう言われているから」
「三人ともそっちで話してないでこっちで話そうよ」
「そうそう、男だけだと華が無いからむさ苦しいわよ」
「ということでこっちで話してね」
男達が話している脇で女子3人が机を6つ、くっ付けて準備を終わらせ座っていた。女子が3人並んで座っているので必然的に3人男子が並ぶことになった。ちなみに護の前は希である。
「えーとじゃあ俺の前に座っているのはいいとして、2人に自己紹介しようと思うんだけど・・・」
「もう何回も言っているからいいよ。希からも少し聞いたから・・・私は九条由香里、呼び方はまぁ自由でいいよ。そこの2人の幼なじみです。よろしく護」
「じゃあフェアリー・・・」
「えっ?今なんていった?」
「いやなんでもない、よろしく九条」
「???」
「じゃあ次は私か。私の名前は高野夏美、私も呼び方は自由にしていいよで、この台詞は聞き飽きたかもしれないけれど、3人とも幼なじみです。よろしく護君」
「よろしく高野。って事は4人とも幼なじみなのか?」
「そういうこと」
と、ここで夏美が何かに気づき、護に声を掛けた。
「あれ?護君、お昼御飯はどうしたの?」
皆が皆それぞれの昼食を用意している中で護だけが用意していなかった。
「いや、これは朝の罰というか、その何というか・・・」
「朝っぱらから人の部屋に勝手に入るからよ」
「護は朝から何かしたの希?」
「勝手に人の部屋に入って下着姿に見た上に、言い訳し始めるんだもの」
「「何っ!?」」
「「えぇぇ・・・」」
2人の男子から羨ましそうな目で見られ、残り2人の女子からは冷ややかな目で見られた護は縮こまった。
「今日の弁当は希が当番だったから、その罰は昼飯無しだってさ・・・」
「いや、お前はまだまだだ!」
「そうだ!シャワーに入っているのに入っていって“あっ!ごめん気づかなかった。てへぺろ!”ぐらいしてもいい!」
「「いいわけないでしょう!!」」
ギュュュ!
「「はい!申し訳ありません・・・」」
男子2人は護を支持したが、それぞれの前に座る女子足を踏まれ、に怒られる。一方護は席でこれでもかという位元気が無くうな垂れていた。そう、例えるなら犬が飼い主に叱られた時のように・・・
そんな護を見て飼い・・・もとい、クラスメイト兼同僚兼従姉妹である希は、
「はぁ、全くしょうがないわね。今日はもう許してあげる。いつまでぐちぐち言ってても意味ないし・・・それに倒れられても困るし。だからこれ食べなさい」
言って希が渡したのは弁当箱だった。それを受け取った護はとても嬉しそうに、
「これ食べていいのか・・・?」
「いいに決まっているでしょ。じゃなきゃ作った意味が無いわ。」
「ありがとう。希!いただきます!」
と言って弁当を食べ始めた。ちなみに中身はご飯と定番のから揚げ、ウィンナー、卵焼き、プチトマト、レタスそしてデザートに旬のいちごである。
ーーもしこの護の状況を再び犬として例えると尻尾を高速で揺らしているだろう。なにしろご主人様(?)からやっとお許しが出たのだからーー
しばらくそれぞれが弁当を食べているとふと気がついたように由香里が、
「そういえば2人に聞きたい事があったんだけど、2人って幼なじみなの?」
「「えっ?何で?」」
「いや、仲が良いけど付き合って無い。って言うし、下の名前で呼び合っているから私達みたいに幼なじみなのかなと思って」
「「コイツとオレ(私)が仲がいい訳が無い!」」
と二人は指を指しながら揃って答え、フンっと顔を逸らした。
『『『『揃って答えた時点で説得力無い(でしょう)(わね)(よ)!?』』』』
「じゃ、じゃあ仲がいいか悪いかはおいて置いて、幼なじみっていうのは否定しないのね?」
「「いや、う~ん・・・」」
「何で唸っているの?」
「いや、幼なじみといえばそうなるかもしれないが・・・」
「それ以前に・・・ねぇ・・・」
「「「「??」」」」
2人が思考している側で4人は皆が皆、頭に?を浮かべていた。
「「幼なじみ以前に又従姉妹(又従兄弟)なんだよ(なの)」」
「あぁ、なるほど・・・」
「だから、仲良くて・・・」
「“幼なじみ以前に”って言ってたのか・・・」
「いや、その前にその事言うの遅くない?」
「「「それ思った!!」」」
と、6人がそれぞれ話していると一人の女子が声をかけてきた。
「ねぇ、次体育だけど着替えなくていいの?もうみんな行っちゃってるよ」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
委員会活動を終わらせてきたその女子は彼ら以外いない教室で一言言うと、自分の着替えを持って走って行った。それはそうだ、着替えてから体育館に行くまでに5分は掛かる。そして時計は5時限目開始まで5分を切っていた。大抵の高校は生徒指導部の教師と体育科の教師は厳しいのである。なので皆は急いで弁当を片付けそれぞれ着替えを取りに向かった。その中で護と希は、
((時間に縛られるのはどこもみんな同じか・・・))
と思っていた。そして護は体育の時間またやらかしてしまう。
同日 13時20分 日本 東京 東武高校 体育館
6人は急いで着替え、なんとか5時限目の体育の授業をする体育館に間に合った。 4月に学校が始まって最初の体育の時間は大抵の高校はスポーツテストをやる。握力、反復横跳び、長座対前屈、上体起こし、幅跳びが終了し、護達のクラスは現在シャトルランをやることになった。しかし、
「「シャトルランって何?」」
護と希の2人は日本の学校に通うのは初めてであり、シャトルランがどのようなものか理解していなかった。そこでそれぞれ正人と由加里が二人にシャトルランのルールを教えた。
「「なるほど理解した(わ)」」
お決まりの音源が流れ始めた。それは回数を重ねるごとにペースが速くなり、それに従って走っている人間も減ってきた。100回を超える頃には更に減り、100回を超える頃には数人しか残っておらずその中には護と希そして、由香里が含まれていた。2人はそれぞれ驚いた。
護と希は純粋に驚いていた。日々SRTに所属している者としてトレーニングは欠かさないし、いざ任務が入ればジャングルだろうが砂漠だろうが、20キロから最大で80キロ近い装備を担いで行動する特殊部隊の人間ならスポーツテストなど余裕だ。実際2人はシャトルラン以外の種目でも好成績を残している。ここまでは良しとしよう。問題はここからだ。
高校2年生の女子の平均は46回である。しかし由香里はすでに100回以上・・・あっ、今104回目で線に間に合わなかった。十分賞賛に値する事なので体育館中から歓声と拍手が送られた。
「あの2人いつまで続くんだろう・・・」
「あれってもう終わっているんじゃないのか?」
「いや2人ともしっかりラインを超えている・・・」
「200回超え・・・ちゃったし、どこまでやるんだろう」
等々、その場にいた生徒達は話していた。
由香里は由香里で驚いていた。去年のスポーツテスト時には女子では1位の座を得たが、今年は希が1位となった。男子は去年は陸上部の部員がトップだったが、今年は護の物となった。ちなみに2人の記録は247回を超えてしまったので計れなくなってしまった。この記録には生徒たちはもちろん何名かその場にいた体育教師たちも動揺させたが当の本人たちは2人そろって、
「えっ!?、もう終わりなの?」
「あぁ、なるほどテープがもう無いわけ。ならしょうがないんじゃない、護?」
「そうだな、こんなもんか」
「こんなもんでしょう」
と余裕の様子を見せていた。
放課後
昼休み一緒にいたメンバーで帰ることになり歩いていると、護が希に話しかけてきた。
「まぁ色々あったけど特に問題なく初日を終えられたな」
「そうね。まったく問題は無かっ・・・無い訳ないでしょうが!とんでもなく目立っちゃったし・・・」
「本人には気づかれてないから大丈夫だろ。楽観的に考えすぎるのは良くないが、悲観的過ぎてもよくないだろう?」
「うっ、ま、まぁそうだけど・・・」
「何がそうなの?」
「「何でもない。気にしないで(くれ)」」
夏美が2人に声をかけたところで丁度T字路に差し掛かった。
「じゃあ俺たちこっちだから・・・」
「また明日な護!!」
「由香里も希もまたね~」
「「「じゃあ(な~)((ね~))!!」」」
正人と浩介、夏美がT字路を右に曲がっていったのを確認して3人は再び歩き始めた。しばらく歩き、由香里の家とセーフハウスが見えてきた所で真ん中にいた由香里が突然立ち止まった。
「由香里?」
「どうしたんだ?」
2人は具合が悪くなったのかと思い顔を由香里に向けた数秒後、2人は由香里から思わぬ事を聞いた。
「2人ともどこの人?」
「「へっ!?」」
「2人共どこに所属しているの?ってこと」
((!!!))
2人は内心ドキリとしながら返した。
「所属って・・・一体何のこと・・・?」
「言っている意味がよくわからないんだけど・・・
」
「2人とも歩き方が普通の人と違うし、目線が向けているよね。例えば・・・狙撃手が居そうなところとか」
「いや、それは偶々目線の先にその場所があっただけであって・・・」
「・・・・・・」
護がそう返すと由香里は決定的な証拠を突きつけた。
「護は足首に拳銃つけているでしょう?」
今度こそ2人は言葉を失った。確かに護は右足のアンクルホルスターにバックアップガンとしてローバーR9を入れて携帯しているが、ズボンの上から分からないはずなのに見破った。
「う~ん、足首につけているって事はグロックの26かな?」
しかも銃の種類もいいところをついていた。2人は普段バックアップガンはグロックかローバーを基本的に使っていた。しかし希が反応し聞き返した。
「・・・理由は?」
「足首に拳銃を携帯してると、微妙に何ていうか違和感あるのよね」
ここまで言われてさすがに2人は顔を見合わせた。お嬢様が拳銃の種類やプロの人間を見分けたのだ。普通は驚くだろう。
「という事で改めて質問するわ。2人はどこの人?」
「警視庁の警護課じゃなさそうだし、公安?公調?それとも自衛隊の中央情報隊?それか情報保全隊?いや、NIAかな?」
ーーさらにいくつかの関係機関まで挙げてくる始末ーー
「「・・・・・・」」
「う~ん全部違うみたいね。なら“ジョーカー”かしら?」
「「!!!」」
・・・驚く事だらけだったが、今まで顔に変化が見られなかった2人の顔が“ピクッ”っと反応した。
「どうやらこれが当たりみたいね。まぁどんな組織か知らないけど、学校では普通のクラスメイトって事でよろしくね!」
「・・・私たちが貴方に危害を加えるかもしれないのにそんな事言っていいの?」
「もし私を殺すのが目的ならあの3人と別れてすぐに殺しているだろうし、拉致が目的でも何らかの行動を起こすはず。でも2人は何も行動を起こさないから危害は加えられる事は無いと思ったの」
「という事でまた明日ね2人とも!!」
いつの間にか由香里の家の前まで来ていた2人は玄関から家に入っていく彼女を見ながら唖然とし、お互い顔を見合わせ、ため息をついて肩をすくめた。
「とりあえず・・・帰ろうか・・・」
「そうね・・・」
こうして2人はすぐ近くのセーフハウスへと帰路についた。
10分後 セーフハウスにて
「「ただいま~」」
「お帰り。どうだった任務初日は?」
「「とっても疲れた。もう寝たい・・・」」
「そんなに女子高生相手するのが大変だったの?」
疲れた顔をして帰ってきた2人を出迎えた矢先、そんな事を言っていたのでミラーが冗談のつもりで質問をした。するとーー
「「彼女はこちら側の人間だ(よ)」」
と言って部屋の奥に移動していった。コーヒーを持って出迎えに来て、残されたミラーは呟いた。
「・・・なにがあったんだ?」
「希、報告は俺が上げとくからゆっくりしていいぞ・・・」
「えぇ、悪いけどシャワーを浴びた後そうさせてもらうわ・・・」
息も絶え絶えと言う感じで希は自分の宛がわれた部屋に向かった。その姿を横目に眺めつつ護は提示連絡を入れるため高度なプロテクトが掛けられた回線を使用する長距離通信機のある場所に向かった。
「ええそうです。・・・えぇ・・・はい。あっ、今加藤大尉と変わります」
「アボット准将から」
丁度アダムスが話していたが、護の姿に気づくと彼と位置を交代してキッチンで紅茶を入れて戻ってきた。
「代わりました。加藤です。准将」
『大尉、今日1日ご苦労だった。初日の学校生活はどうだった?』
「准将、あの、実は重要な報告がありまして・・・」
『ん、何だ?何かあったのか?』
「え~、実はフェアリーに私とウルズ8の素性がバレました」
『・・・珍しいな、君たちがミスをするとは』
「いえ、歩き方で見破られました・・・」
ブッ!!、ゴホッゴホッ!!!
自分の後ろでアダムスが咳き込んでいるのに構わず、護は報告を続けた。
『すごいお嬢様だな・・・』
「えぇ。その上我々の所属している機関についても尋ねてきました」
『そちらの方は?』
「申し訳ありません。“ジョーカー”の名前が彼女から出てきまして、その際に動揺してしまいました。」
『ふむ、バレてしまったものはしょうがないな・・・』
「申し訳ありません」
『いや、問題ない。それよりこちらも君たちに伝えてないことがあったからな』
「・・・・高橋先生の件ですか?」
『あぁそうだ。何やら一騒ぎ起こしてきたそうじゃないか』
「なぜ既に知っているのですか?」
『彼から連絡を貰った。君たちの事を評価していたぞ。“中々面白い連中だな”と言っていた』
「はぁ・・・」
『今日は色々あっただろう。とりあえずゆっくり休め。その間の監視・護衛はウルズ4とウルズ10にやってもらえ。では』
「了解しました。ウルズ2、アウト」
プチ
「という訳だ。しばらく頼む。オレは取りあえず、風呂に入ってくる」
「了解」
護はアダムスにそう伝え脱衣所の方へ歩いていった。そしてしっかり確認せずに脱衣所の扉を開けた。重要な事を忘れているのに気がつかずにーー
『あっ、護まだ希が・・・』
「えっ!?何か言いました、パット?」
「えっ!?」
「へっ!?」
後ろから掛けられた声にきちんと反応すればよかったのに反応せず扉を開け、前を向くとバスタオルで体を拭いている希の姿があった。
「もういやぁぁぁぁーー!!!」
という悲鳴と共に希の見事な回し蹴りが決まった。そして床に倒れた護が発した第一声は、
「う~ん、Bくらい?」
「しゃべるな!!」
・・・余計な一言を言ったせいで今度は踵落としを喰らった。そして今度こそ意識は遠のいていった。