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第2話

4月上旬 7時45分 日本 東京 某所 学校への通学路


前方を歩くにフェアリー気付かれないよう尾行しつつ2人は小声で会話していた。


「希、装備は?」


「45ACPからって事だったからグロック21とバックアップガンにローバーR9、それにバッグの中には一応ベクターと基本的なメディックキットとサバイバルキットと使わないと思うけどグロック21用のサプレッサーを。そっちは?」


「グロックの代わりにHK45Tを持って来た。。それ以外は同じでローバーとベクター、サプレッサーとメデック、サバイバルキットだ。“見せない護衛任務”だからこれ以上の装備は無理なのは分かるが、強襲任務の時に使うボディーアーマーを使えなかったのは残念だな」


「仕方ないわよ。あれは確かに.30-06徹甲弾やPDW等に使われる小型高速小口径弾は止められるし、元になったやつより軽くなったけどそれでも服の中に着るとかさばって着ているのがバレるからね」


護衛任務は主に2種類に分かれる。1つは護衛対象を襲撃する側に見せつける護衛で、護衛対象の周囲を囲み、さらにその周りも囲み、場所や情勢によってはSMGやアサルトライフルを携帯する事もある。例としてアメリカのシークレットサービスや日本のSPやロシアのFSO、アフガニスタンで特殊部隊や現地政府軍、ISAF等が大統領や重要人物を護衛しているのがこれに当たる。


 上記の方法に対し、見せない護衛は襲撃者側に護衛している事が判らないように護衛する事であり、今回の任務は後者に当たる。今回の場合、護衛対象にも出来るだけ気付かれないようにしなければならないがーー


 二人はICTO技術部が新しく開発した繊維を使用したボディーアーマーを着用しようとしたが衣服の下に重ね着すると着用しているのが判ってしまうため、やむなくクラスⅢAの耐久性のアーマーを着用している。対応できる威力が落ちた分、従来の同程度の性能の物より目立たないように出来ている物を着用している。


「それにしても何で彼女は公立の学校に通っているんだろうな?彼女のような家なら普通私立のお嬢様学校に通うだろ。それも送迎付きで・・・」


「この辺なら聖蘭女学院がそれにあたるけど、父親が近くの高校に行きたいなら東武高校に行けって言われたみたいよ。ここは一応平均よりも偏差値高いし・・・護、授業ちゃんと付いていけるの?」


「失敬な!高校の授業ぐらいちゃんと出来るに決まってるだろ。前に基地でウルズ5とウルズ7から高校生のテストやってみてくれと言われたからやったらほとんど9割以上取れてたぞ!」


と言って護は胸を張って答えたが、


「そのテストは私も受けて採点して貰って返してもらったけど、その時貴方のテストも見せてもらったのよね♪」


ギクッ!!


「貴方英語は使ってるから大丈夫だったし、数学や理科も使うといえば使うから大丈夫だったけど、国語いくつだっけ?」


「・・・・・・」


「いくつだったかしら、確か2点だったわよね。」


「・・・・そうだが何か?」


「いやいや、いくらなんでも2点はマズイでしょう。まさかコールサインがウルズ2だから2点取ったわけでもないし・・・」


「・・・古典は苦手なんだ。あれがわかる奴はすごいと思うぞ。万葉集や枕草子、源氏物語や竹取物語を少し読んだが、あれは立派な暗号だ!」


「はぁ、貴方や欧米の人ならそう思うかもしれないけど、日本人と中国人なら読めるでしょう。馬鹿言ってなくていいから行きましょ」


二人で話している間に距離が開いてしまったので希はその距離を詰めるために移動しようとするが、


「・・・いつか聞こうと思っていたんだが、希、お前以前から彼女のこと知ってたのか?」


「!!」


という質問をされて足を止めた。しかし本人は、


「いいえ。今回の任務に就くときに知ったわよ・・・。」


「・・・まぁいい。とりあえず、距離を少し詰めよう」


護は立ち止まって振り返っている希を追い越して歩いていく。希もその後に続いた。


この話を最後に学校の校門に着くまで二人はまったくしゃべらなかった。




4月上旬 8時10分 日本 東京 東武高校正門前


ここ東京都立東武高校は日本東京は武蔵野市にある公立高校である。偏差値が平均より少し高いがそれ以外はとくに特徴という特徴がない普通の高校だった。この高校に護衛対象である九条由香里は通っている。


 本来彼女のような家柄の人間は少し離れた、お坊ちゃん・お嬢様学校である聖蘭学院に入学するのが普通だ。家からは距離があるので歩きや自転車は使えないが車を出してもらえばいい話である。


ーー実際この学院の遠距離からの通学者の殆どが車の送迎付であるーー


彼女の家には出す車もあるし、運転手もいる。しかし彼女は現在公立高校に通っているのだ。


「ん?、何か校門の前に人だかりが出来ていないか?」


「確かに出来てるけど、何かあったのかしらね?」


二人が由香里を追って東武高校の前に着くと校門の所で人だかりが出来ていた。見える位置まで近づくと教師が4、5人机の前に立っていて生徒のカバンを1つ1つチェックしていた。これはーー


「・・・荷物検査か。それも抜き打ちらしいな」


周りの会話や机の隅の“戦利品”らしき物の多さからそうのように判断した。


「次の人、早くしなさい」


護が20代後半と思しき女性教師に呼ばれた。


 この時護の改良を施したカバンの中には教科書や筆記用具の他にICTO独自のミルスペックをクリアしたタブレット端末やサバイバル・メディックキット、少量のC4、LZや攻撃目標等をマーキングする為のM18発煙手榴弾と休み時間に読もうと思っていた軍事系雑誌etcが入っていた。さすがにベクターやサプレッサーといった物はカバンの隠しポケットに入れているが、上記のものだけでもかなり不味い物だった。


「ほら、そこの君早くこっちに来なさい!。どうせタバコや雑誌か漫画でも入っているんでしょ!」


「いや・・・その・・・」


「観念してカバンを机の上に置いて中身を見せなさい!」


「えーと、私、今日からこの学校に転校して来たのですが・・・」


「そんなの関係ありません!どうしても見せたくないというのなら、私が開けて見ます」


そう言ってその女性教師は護からカバンを引ったくり、机の上において中身を見ようとしたが、それは1人の男性によって遮られた。


「前田先生、その子と後ろにいる女子は今日転校してくる2人です。転校初日に抜き打ちの手荷物検査はいささか無理があります。今後気をつければよいという事でいいのでは?」


「高橋先生がそう仰られるのでしたら・・・・」


「ふむ、では2人とも私について来て下さい。他の先生方は先生方は検査を続けて下さい」


高橋先生という先生はそう言うと、校舎の入り口に向けて歩き出した。指名を受けたため護と希の2人は先生に続き校舎へと向かった。




高橋先生に引き連れられた二人はある部屋の前に着いた。その部屋は普通の高校生なら入りたくない部屋であり、学校内でも1、2を争う怖い先生がいる部屋である。


その部屋の名は“生徒指導室”


「椅子はそのパイプ椅子しかないが、それに座ってくれ。それと楽にしてくれて大丈夫だ。なに、そんなに強張る必要はない」


「はぁ・・・では。失礼します」


「失礼します」


二人は指導室に入り、すぐ隣の入り口のドアを開けた先にある部屋に通された。そこには机が置かれ、その机の上には“生徒指導部長”と書いてある名札が置いてあった。その机に向いてパイプ椅子が置いてあったのでそこに2人が座ると高橋先生は喋りだした。


「まずは、ようこそ東武高校へ。我々教職員一同は君達を歓迎するよ。ICTOの加藤護大尉、佐藤希中尉。それともウルズ2、ウルズ8と呼んだ方がいいかな?」


「「!!」」


2人にしてみればとんだ“歓迎”を受ける羽目になってしまった。何せ、彼らが国際テロ対策機関に所属し、階級はおろかICTO陸戦ユニットの中でも選抜された人間だけが所属出来るSRT隊員にだけ与えられる“ウルズ”のナンバーまで知っていると言われるとただ事ではない。これでは先に言われた“強張るな”というのは無理な相談である。


『『何者!?』』


この時2人は、ブレザーで隠してあるホルスターに手を伸ばしていた。既にスライドを引き、薬室に初弾を装填した状態で携帯していたーー護はコック&ロックして携帯ーーので、ホルスターから抜き、照準、発砲する出来る。しかしそれを目の前の男はさせなかった・・・


バシッ!


「だから強張らないでくれと言っただろう。それにこれは必要ない。さぁ銃を降ろすんだ」


一瞬何が起きたのか解らなかった。高橋先生はこちらが照準する前に希のグロック21を叩き落とし、足で自分の机の方へ蹴り、彼女を組み伏せた。ーーしかも自身は机を挟んだ反対側にいたのにも関わらず、ほんのコンマ数秒の内にこれを行ったのであるーー


 彼らは先ほども言った通りICTOのSRT隊員である。総合能力で護に劣っているとはいえ、並みの特殊部隊員以上の拳銃射撃技能と格闘技能を持つ彼女が反応出来ない程の速度を出す者はそれなりの経験者しかいない。


「・・・この状況で降ろす事は出来ません。先に貴方が希を開放すれば考えますが」


「仕方がないな」


そう言って高橋先生は希を開放した。希は拘束されている状態から、逆に拘束しようと努力していたが全く動かなかった。開放された希はバックアップガンであるローバーR9を構えながら聞いた、


「貴方はいったい何者ですか!?」


「何者って・・・見ての通りただの高校教師だよ」


「嘘を言わないで下さい!どう見ても経験者です。それもかなりの」


「私も同感です。貴方は何者ですか?」


護もHK45Tを突きつけながら聞くと高橋先生は、


「はっはっは!悪い悪い、ある程度予測していたがまさか聞いていないとはな・・・」


笑い出した。この反応を見た二人は銃口を下げた。


「「??」」


「君ら、どうせ聞いていないのだろウィリー・アボットから?」


「全く聞いておりません。というか彼をご存知で?そもそも何故我々のコールサインと階級を知っているのですか?」


「まぁまぁ落ち着きなさい。君の相棒は落ち着いているぞ」


「・・・・」


希は相手の出方をみる為に黙っていた。


「彼から連絡を受けた、“部下が2人そちらへ行くからよろしく頼む。”とね」


「アボット准将とはどこで?」


「・・・調べればすぐに分かる事だが、私は以前冬戦教にいた。その時の交換留学でヘレフォードの連隊に行った時知り会った」


冬戦教とは正式名称を冬季戦技教育隊といい日本で唯一の冬季戦闘技術を教育する部隊である。名称は教育隊となっているが有事の際には特殊部隊として活躍することもある部隊である。そのため陸自の特殊作戦群や海自の特別警備隊、各県警の特殊急襲部隊とは合同訓練をやっている。ちなみに連隊とはヘリフォード州クレデンヒルに司令部を置く世界初の特殊部隊であるイギリス陸軍第22SAS連隊、俗に言うSASの事である。


「ヘレフォードで知り合ってからは友人として、同じく特殊作戦部隊に勤める者としての付き合いでな。ICTOにも何度か誘われたよ。私が部隊を辞めて5年くらい経過していたから丁度4年くらい前だったかな、“以前の上司が亡くなった際にいた子供がうちの部隊に来た。親父さんと似て優秀なんだ。”と酒を飲んだ時に話をしていてね・・・興味を持っていたんだよ。そしてつい先日、今度の任務で転校生として潜入させると聞いた時はびっくりしたよ」


「ちょっと待ってください。その優秀な子供っていうのはまさかーー」


「そう、君の事だよ加藤護君。そして君の事も言っていたよ佐藤希君」


「私の事ですか・・・?」


「あぁ。君もお父上と似て優秀だ、と。ただ、どちらにもいえる事は本来なら君たちには年相応の生活を送ってほしいと・・・」


「「・・・・・」」


「話がそれてしまったな・・・そんな事があって君たちの事を教えてもらったんだ」


高橋先生は最初は昔を懐かしむように、最後は悲しそうに2人に話した。


「・・・もう既に遅いかもしてませんが、ここの盗聴対策は?」


「大丈夫。壁も窓ガラスも三重構造にしてあるから振動を拾うレーザー盗聴は無理だし、1日1回以上“掃除”してるから問題ないだろう。」


「なるほど。では、アボット准将がわざと我々に教えていなかったと?」


「そういう事だ。こちらも黙っていて申し訳なかった。特に希君は・・・」


「いえいえ。高橋先生は悪くありません。あの腹黒タヌキが悪いのですから」


「護の言う通りです。とりあえず、この事は定期報告で報告させてもらいます。」


「こちらは問題ないよ」


キーンコーンカーンコーン


「ちょうど朝のHRの時間だな。なら詳しくはまた後で話そう」


三人の話が終わったところでタイミングよくHRのチャイムが鳴った。その為2人は急いで職員室へ向かう為に立ち上がったが、


「あぁ、二人とも職員室なら行かなくて大丈夫だぞ」


「「???」」


「既に、担任の教師にはこちらに来るように伝えてあるから」


「「はぁ」」


コンコンコン


「どうぞ」


「失礼します」


そう言って入ってきたのは校門で荷物検査をしていた女性教師だった。


「加藤護、佐藤希の2人を迎えに来ました」


「ご苦労様。では2人をお願いします」


「分かりました。2人とも着いてきて」


「「はい」」


二人は女性教師に連れられて生徒指導室を出た。



おまけ


ICTO太平洋戦隊基地陸戦ユニット指揮官執務室



「ハックッション!」


「風邪ですか准将?」


丁度秘書官が執務室にコーヒーを持ってきて、本日の予定を読み上げようとしていた時にウィリー・アボット准将はくしゃみをした。


「いや大丈夫だ。大方、あの二人が“良からぬ噂”でもしているのだろう」


「SRTの2人ですね。“良からぬ噂”という事は何か彼らに隠し事でも?」


「君も鋭くなったな・・・」


「はい。もう准将について4年近くなりますから」


「もうそんなに経つのか・・・今日の最初の予定は?」


「本日は1000時から例の艦より上陸演習の指揮になります」


「そうかあの艦はたしか実戦配置に着いたんだったな」


「はい。まだ、ここ(太平洋戦隊)と司令部戦隊にしか配備されていない最新鋭艦です」


「あの艦は隠密性に優れ、海中からの支援拠点となるだろう。我々ICTOの即応性や展開能力がまた向上したな・・・出来れば使う事にならなければいいが・・・」


「私も同感です」


こんなやり取りが行われていたとは護たちは知らず、これから過ごす事になる教室に案内されるのだった。


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