第11話
0時28分 北朝鮮防空識別圏 高度7500メートル
護たちは現在、基地から3キロ離れた降下地点に向けて降下中だった。12名の隊員のうち11名は“ムササビ”を使った実戦での降下は初めてであった。月の光もほとんど雲に隠れ、暗視装置を使用した夜間の空挺降下は相応の危険を伴う。しかし彼らは全員が一糸乱れず降下していた。全員が最低でも750回以上の自由降下を行っており、夜間の降下も勿論経験済みだった。その中でも特戦の神田と荒木は以前、陸上自衛隊唯一の空挺部隊である第1空挺団の団本部中隊にある降下誘導小隊に所属していた。同小隊は本隊に先立ち、自由降下にて潜入、本隊の空挺降下を誘導する任務を担っている。そのため空挺団の中でも精鋭が集まっていた。空挺団時代の696MI丸型落下傘を用いた降下も入れると2人の降下回数は900回前半にもなる。
彼らは海上から陸上に入り、体をひねり、進路を微調整しながら高度500メートルまで降下した。8名はそこでラムエア型のパラシュートを開傘、着地した。周囲を警戒しながら素早く使用したパラシュートとジャンプスーツを隠匿して護を中心にして集合した。
「確認する。オールハンターいるな?」
「「「はい」」」
「ウルズ2、オール人狼集まりました」
「了解。ウルズ2よりパース1、着地成功。これよりポイントD向かいます」
『ウルズ2、こちらパース1了解した』
護はアボットに報告した。アボットは現地で直接指揮をとる現地指揮官として本隊に同行する。
「とりあえずは装備を回収しないとな・・・ウルズ5、西へ600メートルだ。先導しろ」
「了解」
護たちは自分たちとは別に投下された装備を回収し、一路基地から1キロの簡易陣地構築地点まで周囲を警戒しながら進んでいった。
同日 1時23分 北朝鮮 平安南道 第101空軍基地
同じ頃希は、ある建物の一室で目を覚ました。
「んっ、ここは・・・」
そこは八畳ほどの広さの部屋だった。出入り口は一箇所頑丈な金属製のドアのみで窓もなかった。
(私は何でここに・・・そうだ、侵入しようと試みた所で後ろから・・・)
希は体の後ろで手首を針金で縛られ、さらに左右の親指を縛られていた。部屋の中を見回して出入り口がドアのみだと確認し、ドアノブを回した。勿論鍵が掛かっていた。
(そりゃそうよね。これで鍵が掛かってなかったら逆におかしいわ。“先客”がいたみたいだし・・・)
そう言って希は顔を部屋の隅へと向けた。そこには乾いた血痕といくつかの歯があった。それらから推測される先客の運命はーー
(油断していたわね・・・SRT失格だわ)
とここで、ドアの外から数名の足音が聞こえた。その足音から希は予測した。
(数は4人、武器を携帯し、それなりに訓練されている。そして恐らく、ここに向かっている)
足音を聞いて希が纏う雰囲気が変わった。これから行われようとしている事を予想したからだ。特殊部隊員や諜報員は所属する部隊、機関を問わず、尋問耐久訓練を受ける。その訓練で尋問や拷問にある程度耐性をつけておく。
こういった状況に陥った場合一番やってはならないのが心のスキを見せることである。例えば、情報収集を行っていた敵側の諜報員を確保する。まず、ありとあらゆる手を使って徹底的に痛めつける。ある程度たったところで、“これは我々の間違いだった。君はスパイではないと証明された。大変だっただろう、食事と着替えを用意してある。遠慮するな”と言って態度を一変させ、丁重に持て成す。しかしそれは罠で、この後再び徹底的に痛めつけられると大体の人間は吐いてしまう。人間は一度、心が緩むとそのままズルズルと緩んでしまう。
この方法は実際に第2次世界大戦中のナチス・ドイツの秘密国家警察等によって使用され、多くの情報を得たという。連合国側も同様な事を行っていたと思われる。
ガチャ
ドアが開き、AK74を持った4人の男が入ってきた。4人の内2人は入り口の脇に立ち、希を警戒している。残り2人はAKをスリングで後ろへ回し、近づいてきた。1人は麻袋を持っているのを見て希はウォーターボーディング、いわゆる水責めを覚悟した。そして麻袋を被せられ、水がかけられると思っていると、
「立て。一緒に来てもらう」
自分の左脇にいた男が言った。右脇の男と麻袋を被せると希を立たせて歩き出した。
しばらく歩いて希たちある部屋の前で止まった。そこで左脇の男が、
「連れて来ました。入ります」
と言って希を部屋に連れ込んだ。希は気配から、部屋の中には自分を連れてきた兵士たち以外に3人の人間がいると分かった。
「麻袋をとれ。感動のご対面といこうか」
(この声はハイジャック犯のリーダー?“感動のご対面”って事は・・・)
次の瞬間、被っていた麻袋がとられて希は、目を開けた。その先にあったものはーー
「由香里!」
予想通り由香里であった。希は由香里に駆け寄ろうとしたが、両脇の兵士によって押さえつけられた。彼女は薬を打たれ、意識が朦朧としているらしく小さな声で、
「希・・・なの・・・?」
と呟くのがやっとだった。希は由香里の脇にいた朴に顔を向けた。
「彼女に何をした!?」
「なに、ちょっと聞きたいことがあってね。喋り易くなるような薬を打ったんだ。しかし、中々しぶとい。普通この薬を打ってから遅くても2時間経過すれば殆どの人間は喋りだす。だが、この子は3時間近く粘っている。何か心の支えになるようなものがあると思っていたが、これで終わりだな」
「護衛についている者がいるとは思っていたが、まさかこれほど若くて、可愛らしい護衛とはな」
朴は後半を茶化すように希に向けて言った。希は朴に殺気をぶつけた。
「・・・これ以上彼女に手を出してみなさい。その口を二度と利けないようにしてやるわよ」
「おぉ、怖い。君の様な殺気を出す人間に会ったのは久しぶりだ」
朴は余裕に見えたが、希の両脇にいた兵士たちは背筋に冷たい物を感じた。
希たち特殊作戦の世界で生きる者は一般部隊の兵士と全く違う。例えば髪型等様々な物が違うが、その中に雰囲気と殺気がある。各国の軍隊で精鋭部隊と言われている、空挺部隊や山岳部隊、海兵隊等の兵士はその意味では一般部隊の頂点と言えるだろう。その存在感等は圧倒的だ。いざ、戦闘になったら勇猛果敢に戦うだろう。
しかし、特殊作戦部隊は違う。彼らの纏っている雰囲気や殺気というものはとても“静か”だ。軍隊経験者なら余計にそのように感じる。得体の知れない怖さを感じるほどに彼らは静かなのだ。そしてこれは、数ある特殊作戦部隊に所属している者の中でもほんの一握りのトップオペレーター達にしか出来ない。それを理解できる者も同種のほんの一握りの人間達だけである。
「君たちにはたっぷりと聞きたい事がある。だが、我々も少々疲れたので休憩させてもらう。どれくらい耐えられるか見物だな。」
朴はそう言って椅子から立ち上がると、希を連れてきた兵士たちと二言三言、会話をしてから女性を連れて出て行った。兵士たちは2人が警戒を、残りの2人が部屋の椅子等を外に運び出し、希を由香里の方へ突き飛ばすと部屋から出て行った。
「由香里!大丈夫・・・じゃないわね」
「希?・・・助けに来てくれたって・・・訳じゃないみたいね」
「ごめんなさい。私もちょっとミスって・・・ね」
希は針金で縛られた手首を見せた。
「でもよかった。あなたが無事で・・・」
「連中は・・・私から聞きだしたい事が・・・あるみたい・・・薬を打たれたわ」
「意識が混濁しているから、LSDとかね。時間が経過するのを待つしかないわね・・・横になって良いわよ」
希は自分の膝に目をやってから言った。由香里は言葉通りに希の膝を枕にして体を横にした。
「悪いけどお言葉に・・・甘えさせて貰うわ」
「私たちどうなるの?・・・飛行機の中の夏美たちは?」
「心配ないわ。私の仲間が救出にやってくる。いつになるかは分からないけど」
「その中には護もいるの?」
「たぶんね・・・はぁ、またアイツに怒られるわ」
「またって、何回か怒られたことがあるの?」
「アイツはチームを組むときには上司になるからね。階級も技術もアイツの方が上だし・・・」
希はそう言ってため息をついた。
「・・・去年の11月だったかしらね。ある作戦で目的地に向かう途中で冬山を超えて進入、撤退しなくちゃいけなくて、結果的に作戦は成功したんだけれど、撤退の途中に敵の部隊と遭遇して激しい戦闘になった。その戦闘で私ともう1名が足を滑らせて味方と逸れてしまったの。一緒に行動していた残りの味方は負傷者を抱えていたから先に基地に帰還させたわ。こっちは敵地の真っ只中に置き去り」
「それで私ともう1名は傷だらけになりながら2日間敵の支配地域を逃げ回ることになって、結果的に救出されたけどその救出部隊に増援として来た護が私を見るなりこう言ったの。“余計な心配をさせるな!俺の気が休まる暇が無い!だからお前は、今後基本的に俺のチームから外さん!”って言って、頭をグーで殴ったのよ。酷いでしょ?」
「彼があなたを大切に思っているのはよーく分かったわ。過保護気味だという事も。でも、そんな理由でチームを組むことは出来ないんじゃないの?」
言い切った後苦笑している希に対して由香里は聞いた。
「そりゃそうよ。何十人もいる隊員の中で特定の隊員だけを特別扱いする事は絶対に出来ないわ。身内なら特に・・・でも最近は何故か一緒のチームになることが多かったのよね」
「ふふ、運命の巡り合わせ?」
「それは言いすぎ。大体これを“運命”って言うなら、あなた達と出会った事も運命かもしれないわね。私たちとあの学校の子達とはあまりにも違いすぎる。住む世界が・・・」
「希・・・」
「ごめんなさい。これじゃあどっちが助けられているのか分からないわね」
「・・・あなたには悪いけどこの状況で私を助けに来たって言えるの?」
由香里が希に目を細めて聞いた。
「うっ、それは・・・面目ありません」
「とりあえず、白馬の王子様にさっさと来てもらいましょう」
「そうね。あいつは馬では来ないし、王子様でも無いけれど」
「「ぷっ、あはははは」」
2人とも傍目にはまったく問題が無いように見えたが、実際にそれが虚勢である事を知っているのは現在、彼女たちだけであった。
同日 2時30分 北朝鮮 平安南道 ポイントD 簡易陣地
希たちが話をしてから約1時間後、話のネタになっていた護は予定通り基地から約1キロ離れた場所に簡易陣地を設営。そこから基地の方向を観察していた。
「へっく・・・ふう」
「大丈夫ですか、ウルズ2?」
「あぁ、問題ない。大方、お嬢さん方が噂でもしているんだ」
「はぁ・・・」
くしゃみをどうにか堪え、護は視線を右斜め前方へとやった。そしてC4OPS PTTスイッチを押した。
「ウルズ6、こちらウルズ2。そちらの状況は?」
『ウルズ2、こちらウルズ6。こちらは現在ウルズ9と共に支援準備中、オーバー』
「ウルズ2、了解。準備が完了しだい一報願いたい。オーバー」
『ウルズ6、了解、アウト』
「ウルズ2よりウルズ3及び海神リードへ、そちらの状況知らせ、オーバー」
『ウルズ2、こちらウルズ3。オールソードーASDSに搭乗していたICTOのチームーはオール海神と共にポイントEに到着した。そちらからの指示を待つ。オーバー』
「ウルズ2、了解しばらく待機せよ。オーバー」
『ウルズ3、了解、アウト』
護は左腕に着けている個人用PDAをタッチして口頭での報告通りに各チームが展開している事を確認し、基地の方向へと視線を向けた。その手には夜間用の暗視双眼鏡が握られていた。その緑色の世界で基地を観察しながら護は言った。
「よし、いい感じに集中力が切れてきているな」
「ウルズ2、人狼7、8の配置完了。様子は?」
「こんな感じです」
人間は午前1時から午前4時の間が1番集中力が切れやすい時間と言われている。双眼鏡を通して見た基地の兵士たちはあくびをしたり、仲間と話をしたり、中には居眠りをしている者までいた。アボットはこれらを考え、作戦開始時刻を午前3時ジャストにしていた。護は隣にやって来た神田に双眼鏡を渡した。
「フェアリーの場所は?」
「何とも言えないですが、いくつか候補は・・・管制塔の脇に併設されている建物とそこから200メートルほど離れた場所にある格納庫。そして格納庫からさらに400メートルほど離れた場所にある2階建てのコンクリート製の建物の3つまで絞りました。そこを警備している連中だけ他の連中より訓練されています。どう思いますか?人狼1?」
「そうですね。私もその3つだと思います。問題はその3つのうちどれに彼女がいるか・・・もう少し情報があればいいんですがね。その後、ウルズ8との連絡は?」
「いえ、ありません。ですが、もしウルズ8が私の考えている通りに動いたとしたら・・・見当はつきます」
「さすが。彼女と付き合いは長いんですか?」
「この仕事に就いてから、5年。それ以外も含めると12年程になりますね。そちらも人狼2とは?」
「私が空挺に配属された頃からの付き合いですから6年になりますね。尊敬しています。彼には空挺から特殊作戦までのイロハを叩き込んで頂きましたから・・・」
「そういえば、2人共既婚者なんですよね?」
ふと思い出したように護は神田に質問した。
「えぇ。おかげ様で保育士の妻と2人、仲良くやっています。副長の方は奥さんと小学5年生の女の子と小学3年生の男の子がいます。あぁ、あと海神1も既婚者で子供が1人いますよ。確か3才かな。私もですけど他の2人も基地にいる時などは家族の写真を肌身離さず持っていますよ。作戦中は無理ですが」
特殊部隊員は実働任務に就く際に、任務に関係ない私物を一切所持できない。部隊の正体、ひいては国籍さえ隠して行われるミッションも存在する。そのため、隊員や部隊の特定を防ぐために規則で、所持を禁止している。もし任務中に紛失し、それが元となり、隊員個人やその家族、部隊への報復を防ぐためである。
「たしか、群内でも既婚者は半分ほどだとか?」
「えぇ、そうです。仕事が仕事ですから、中々いい出会いがないみたいで・・・」
「やっぱり、どこでもそういうものなんですね」
そうして話していると護に通信が入った。
『ウルズ2、お待たせしました。準備完了です』
「ウルズ2、了解。オールハンド、行動開始。繰り返す、行動開始だ!」
『ウルズ6及びウルズ9、了解』
『人狼7及び人狼8、了解』
『ウルズ3、了解。これよりポイントYへ移動し、レーザーデジグネーターを準備する』
『海神1、了解。援護位置へ就きます』
「さて、我々も行こう」
護はカスタムされたH&K MP7A1を持ち、ウルズ5と人狼の面々と一緒に301便の機体の方へと接近を開始した。
同日 2時55分 黄海 高度12000メートル
黄海から空軍基地へと向かって飛行している物体があった。作戦開始の火蓋を切るために護たちは行動を開始したが、もう一方も順調に基地へと近づいていた。彼らはICTO太平洋戦隊 第204戦闘航空団 第1戦闘飛行隊と第111攻撃飛行隊に所属している。彼らが操っている機体は2つ存在する。前者がF-22 ラプター。後者がFB-22 ストライクラプターである。ここでこの2つの機体についてお話しよう。
F-22 ラプターはアメリカ空軍のF-15C/D イーグルの後継機として開発された戦闘機である。愛称の“ラプター”とは英語で猛禽類を意味する。1991年に試作機が造られ、750機の調達が予定されていたが、冷戦の終結による国防費の削減やアメリカ軍全体の再編等の影響によって最終的に187機で生産が終了した。調達機体数が削減された理由の1つに費用がある。この機体は1機あたり1億5000万ドル、日本円にすると約150億円にもなる。さらに1回の飛行時間当たり30時間以上と44000ドル以上の経費を使った整備が必要になってしまうため、金と時間をとても使う。
そのため世界でもアメリカ空軍しか運用されていない。しかし、値段が高いだけあって性能は高い。F-22には3つの特徴がある。
1つ目はその高いステルス性能だ。現在ステルス戦闘機と言われるものは、このF-22の他にアメリカが中心となって開発しているF-35、ロシアのPAK FAと言われる計画のT-50、中国の殲-20、殲-31等があるが、実用化されているのはF-22だけである。ステルス性とは航空機や艦船、車両等がレーダー等のセンサー類から探知され難くする技術のことである。残念ながら、現在のところ完全なステルスは実現していない。“あくまでも探知され難くする”に留まっている。それでも、F-22のステルス性能は高く、レーダー有効反射面積は正面において0.0002平方メートル程で、戦闘機のレーダーにはほぼ映らないレベルだと言われている。早期警戒機や地上配備型のレーダーに映ったとしても小鳥程度だとも。
2つ目はスーパークルーズだ。F-22はプラット&ホイットニー社製のF119-PW-100ターボファンエンジンを2基搭載している。このエンジンは最大出力156kNを叩き出せる出力を持っており、アフターバーナーを使用しない状態でもF-15のA/B使用時とほぼ同等の機動が可能である。このエンジンによりF-22はアフターバーナーというエンジンの排気にもう一度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る装置を使用せずともマッハ1.82での飛行が可能となっている。常時超音速飛行ができる利点は移動に限らず、スタンドオフ兵器による攻撃の際には射程を伸ばすのに貢献し、反撃された場合にはミサイルを振り切れる可能性を高める。
なお、このスーパークルーズは2000年代に開発された新型戦闘機に要求されており、F-22の他にもユーロファイター タイフーンやラファール、Su-35等も可能である。
3つ目はSTOLが可能な事である。これで滑走路が短い飛行場にも展開することが出来る。STOLについては前回話をしたので割愛する。
また、排気口に二次元推力偏向パドルを採用しているため上記のSTOL性や遷音速域での高い旋回性能、格闘戦性能を高めている。そのため空中戦において1度も撃墜されたことが無いと言われている前述のF-15戦闘機との演習において何度もF-15を仮想撃墜している。F-22の戦闘スタイルは高いステルス性とAN/APG-77アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダー、統合戦術情報分配システム(JTIDS)の搭載により味方の早期警戒管制機や僚機とのデータリンクにより「ファーストルック・ファーストショット・ファーストキル」(先に見つけ、先に射ち、先に撃墜する)を意図したものとされる。なお、上記のデータリンクをする事により自らが探知していない目標に攻撃を仕掛けることも可能である。これらの事から一部ではF-22は航空支配戦闘機とも呼ばれている。しかし、そんな“猛禽類”も無敵ではない。膨大なアメリカ軍の演習の中で数少ないながらもF-22が撃墜判定を取られたこともあるのである。
ICTOはこのF-22のAN/APG-77の空対地走査能力を向上したAN/APG-77(v)1に変更し、共通統合プロセッサー(CIP)の処理能力を2000MIPSまで処理能力を引き上げる等の改良により多くの兵装を使用できるようになった。この他にも発展型多機能データリンク(MADL)、IRSTの搭載、自動衝突回避システム、側面レーダーアレイの追加等を行ったため現在、米空軍で運用されているF-22とは別物となったため非公式であるがF-22Cの名前で運用されている。
前述のF-22 ラプターを元にした派生型として計画されたのがFB-22 ストライクラプターである。F-35と共通性の高いアビオニクス、外部搭載式のウエポンベイやステルスミサイルの運用能力、GBU-39 SDBと言われる誘導爆弾が35発搭載できる等々の変更が機体概略であるが、ベースであるF-22の値段そのものが高い事とイラクでの活動に莫大な軍事費を費やしたため、今日においてはアメリカですら計画のキャンセルが濃厚となっているが、ICTOはこの機体を完成させ、実戦配備させている。さすがに値段が高いので4つある戦隊に各12機プラス予備機となっている。
そして現在、8機のFB-22ストライクラプターは機体のウェポンベイに対レーダーミサイルのAGM-88E AARGMを各機2発ずつ搭載し、第101空軍基地へと飛行していた。
『こちら空中管制指揮官ディオネ、フェンリルはTARCAPのため、所定のポイントへ向かえ』
『フェンリル1、了解。聞いたな、全機俺に続け』
『2、了解』
『3、了解』
『4、了解』
後方のE-10 Spiral 2からの指示によって太平洋戦隊でも腕利きが集まっているF-22を運用する第1戦闘飛行隊ーコールサインはフェンリルーの4機が左旋回しながら離れていく。ちなみにもう4機が後方のE-10 Spiral 2等の直衛についている。
『ディオネよりヘルモーズ。そろそろ攻撃圏内だ。高度を下げろ』
「ヘルモーズ1、了解。これより攻撃高度まで降下する」
ヘルモーズは第111攻撃飛行隊のコールサインでこの飛行隊に所属するFB-22 4機は敵防空網制圧ミッションを行うため降下した。ここでようやくFB-22はウェポンベイを開放し、マスターアームをONにする等の発射準備を行った。
「ヘルモーズ1よりディオネ。攻撃準備完了だ。各機共にデータリンクにより目標の割り当ては完了している」
『ディオネよりヘルモーズ。目標に対し、攻撃を開始せよ。繰り返す、攻撃を開始せよ!』
「了解。ヘルモーズ1、マグナム!」
『ヘルモーズ2、マグナム!』
『ヘルモーズ3、マグナム!』
『ヘルモーズ4、マグナム!』
各機が1発目のAARGMが発射された。発射後、各機は直ぐに割り振られた目標をロックし、再び発射した。ちなみに“マグナム”は対レーダーミサイルを発射した際に発する符丁である。
「ヘルモーズ1、マグナム!」
『ヘルモーズ2、マグナム!』
『ヘルモーズ3、マグナム!』
『ヘルモーズ4、マグナム!』
発射後、すぐさまウェポンベイを閉鎖して、急旋回。事前に決めた離脱ポイントへ向けてスーパークルーズを使用し向かった。
『ディオネよりヘルモーズ。ミサイルは1発の脱落無く、目標に向かっている。貴隊はウェイポイント6を経由後、ウェイポイント7にてゲンドゥルーKC-46Aのコールサインーと合流、燃料補給が完了しだい基地へ帰投せよ』
「ヘルモーズ1、了解。ヘルモーズはウェイポイント7にてゲンドゥルより燃料補給を受け、その後基地へ帰投する。アウト」
発射後ばらばらにブレイクしたそれぞれが隊長機の周りに集まってきた。
『ヘルモーズ1。ノースコリアの連中出て来ませんでしたね』
「出て来られたら来られたで、大変だろう。ヘルモーズ2」
『この作戦うまくいきますかね、ヘルモーズ1・・・』
「分からんが、我々は出来ることをやった。あとは陸戦ユニットの連中とオーディンの連中しだいだ・・・あとは頼んだぞ」
ヘルモーズ隊は全員、基地の方向に向けてコックピットから敬礼を送った。健闘と無事を祈る意味を込めて。
こうしてJapan Air Wing航空 301便の乗員乗客を救出する作戦Operation Infinite justice は開始された。