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人狼1

目が覚めたら、見知らぬ天井が目の前にあった。

身体を起こすと少しダルく、貧血とよく似た目眩がした。



「....ここ、どこだ?」



取り合えず、今の自分の状態を把握しよう。


ベッドの上、質はホテルなどに配置されるものと変わらないだろう。

服装は、制服。自分の物だ。

枕元には己の所持品が入ったバックが置かれていた。

特に何かを出された形跡はないが、強いて言うなら見知らぬ端末が一つ。


スマートフォンに似たような形式で、電源であろうボタンを押せば画面が付いた。


そこに、よくあるsnsのお知らせのようなものが表示される。



【本日の犠牲者:酒井佳奈様

ご冥福をお祈り致します。


生存者:11名 死人:1名】



「犠牲者...死人...」


とにかく情報を得ようとお知らせをタッチし、snsに繋げば、そのコメント以外は書き込まれた様子がなく、発言者の名も『公式』と表示されるだけで名は分からなかった。


端末の電源を切り、辺りを見回す。


自分が寝ているベッドの隣に同じようなベッドが配置されており、誰かが寝ていたと思われる形跡を確認する。




敵だろうか?だとしたら体躯はどれ程の?


何者だ?


あのsnsの『公式』か、はたまた自分と同じくここに連れてこられた誰かか?




部屋の奥で何かを物色するような音が聴こえる。


今の状況を考えると、味方である確率は非常に低い。

殺っておいた方が良いだろう。

バックの内ポケットから音を立てぬよう取りだし、構えつつ相手に迫る。

どうやら冷蔵庫を漁っているらしく、こちらに気付いた素振りは窺えない。


あっさりと背後を取れてしまった。



可笑しく思いつつも、相手の後頭部に押し付け、引き金に指をかける。



「動くな」



ピタリと相手の動きが止まる。



「手を後頭部に付けて、今から聞く質問に素直に答えろ」


「そないないけずせいでよ、お兄はん」



訛り?京都の?



「名は?」


「市川雀右衛門どす」


「何故ここにいる?」


「知れへん、気がついたらここに寝とった」



随分昔の人みたいな名前だが、声は細く、若い。

よく見れば学校の物であろう制服を着ていて、嫌な予感がする。



「もしかして、一般人....」



「何の遊びか知れへんけど、腕疲れちゃったからもう止めてええ?」



「え、あ、ちょっと...」



スッと、まるで何かの舞台のワンシーンの様に美しい立ち上がり方。

思わず今の状況を忘れて見てしまった。



「もしかして、学生さん?」


「そうどすが、お兄はんも学生はんどっしゃろ?」


「あ、あぁ...そうだよ!

....あの、いきなり脅しちゃってごめんね!あ、これ、玩具だから...アハハ...」


「なら、それ貸してぇ」


スッと無駄の無い、自然な動きで銃を取られ、彼は銃口をこちらに向ける。


「あ、ちょっッ!?」



「どぉん」



引き金が引かれる、咄嗟に身を屈め避けたと思ったら何かがヒラヒラと落ちてきた。


.....紙吹雪?



「運動神経すごいね、お兄はん。

そやかて、避けなくて良かったんじゃ....?」


「あ、アハハ....なんか癖で...」


「けったいな人やなぁ、お兄はん」



偽物にすり替えられていたか、本当に良かった。










「それにしても、この『すまほはん』のお知らせ、随分気味悪いなぁ....お兄はんも見た?」



「あぁ、犠牲者とか書かれてたね」



「これ、ほんまかなぁ」



「さぁ、今の時点では何とも言えないけど...」



「怖いなぁ、ほんまやったら」



方言のせいか、全くそんな風には感じられない。

いや、明らかに表情からも焦りや恐怖が感じられないのだが。



「ねぇ、大変失礼かも知れないこと聞いても良いかな?


「ええどすよ」


「その綺麗な顔立ちといい立ち振舞いといい、とても女性らしいなと思ってしまうのけれど、制服から判断するに男だよね?」


「....あぁ、すんまへんなぁ。

職業柄のせいか、癖でこうなってしまって....あては正真正銘の男どす。」


「....職業柄?」



ドンドン、と突然乱暴に部屋のドアが叩かれる。



「おい、中に誰かいんだろ?今すぐ開けろ!!」



うるさいどなり声の脅迫に、市川くんの綺麗な顔がくしゃりと歪む。



「大きい鳴き声やこと、下品どす」


「僕が出るよ、市川くんはそこら辺に隠れてな」



彼がベッドの陰に隠れたのを確認し、ドアの前に立つ。



「君は誰?」


「あぁん?テメェなんかに教える義理はねぇよハゲ!とっとと開けろ!」


語彙力からしてただのチンピラであることを確認し、ドアを開ければ制服の襟を掴まれ睨まれる。


「テメェが俺をここに連れてきたのか、あぁん?」


「違うよ」


「嘘だ!絶対テメェだろ!!」


耳がいたい。まだアンナの飼うサリーの方がマシだ。


「どうしたら違うって分かってくれるかな?」


腹に一発食らう、ただの素人だ。



「俺が犯人だっていったら、お前が犯人なんだよ」



得意気に笑う男、理不尽な思考回路。僕が嫌いな物の五本指に入る。


「仮にも僕が犯人だとしたら、君は僕をどうするつもりさ?」


「殺す!」


「じゃあ、どうやってここから出るんだい?

今の時点で部屋を回ってるってことは、ここから出られないってことだろ?」


「....犯人殺したら出られるようになるだろ」


「バカじゃない、君。鍵どこにあるか分からないでしょ?」


「うっせーな!!だったら早く鍵渡せよハゲ!!」


「....話通じないね」


拘束されていない右足で腹に蹴りを入れてやれば、容易に剥がれてくれた。


「クッ....こんなことして、テメェ...後でぶっ殺してやるからな....覚えとけよ....」


「うわーそんな三下のセリフ、よく言えるね」


よろよろと立ち上がるチンピラは唾を吐くと、隣の部屋に消えていった。


お隣とか、運無いな。



取り合えず一難去り、ドアを閉めようとした瞬間、何の気配もなく何者かの手がドアの隙間から伸びて押さえる。


驚き、すぐに離れれば、静かにドアが開き、ウサギの着ぐるみの頭を被ったスーツの男が立っていた。


すぐにこれが【黒幕】の手下であろうことが雰囲気で分かった。


しかし、相手に隙を見せる訳にもいかない。


「何のようでしょうか? 」


恐る恐る相手を伺えば、そのウサギ男は芝居がかったお辞儀を一つすると、胸から封筒を二枚取りだし、差し出す。


特に仕掛けが無いことを確認し、自分の名前の物を開けばそこには大きく『案内状』とかかれた手紙。

開けばこんな内容が書かれていた。




【 ルイス様


この度はこのような強引な方法でのご招待、心より御詫び申し上げます。

しかしながら、きっとあなた様のようなプロの方にも楽しんで頂けるような遊戯になると思います。


ここからが本題です。

この手紙を受け取ったら、まずその寮から出て教室へ来てください。

そこで、このゲームの説明、そして参加者をご紹介したいと思います。


地図はお配りした端末に入っておりますので、そちらを参考にしてください。


主催者より 】



「教室...遊戯....何これ?」


手紙から顔をあげ、ウサギ男に聞こうとすれば、もうそこには誰もいなかった。


「どうしたん?」


「実はさっきウサギの男に手紙渡されて....あ、君のもあるよ」


もう一つの手紙を市川くんに渡してあげる。


市川くんは首を小さく傾げながら、その手紙を受けとると、封を開け、手紙を読み始める。

みるみる内に市川くんの顔が険しくなり、読み終わったかと思うとビリビリと盛大に破き、ゴミ箱に捨てた。



「気持ち悪る...さぶいぼ出てきた...お兄はん、悪いがあては行きまへん。行く理由がおまへんから。」



背中を向け、ベッドに腰かける彼は恐らく怒っていた。


「分かった、帰ってきたら色々報告するよ」


「すんまへん、お願いします」



市川くんは少し振り返って、辛そうに笑った。


綺麗な笑い方だった。





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