第八話
あのパーティーでの一件以来、よく眠れない日が続いていた。
(あの口振りからすると、あの人も私と同じように転生したという事?)
考えれば考えるほど訳が分からなくなる。
「可憐様、大丈夫ですか?最近授業中もずっと上の空のようですし...」
傍目から見ても集中できていないのがバレバレであった。
「いえ、特に何もありませんわ」
(実は、有栖川悠貴が転生者かもなんて言えるわけないよね)
これを言ったらただの電波少女である。
だから、この事は言わないでおいた。
「そうですか...。私に力になれる事があれば言って下さいね」
可憐が隠し事をしているのに気がついているが、彼女の意思を尊重し、桜子は何も言わなかった。
(うーん、1人で悩んでいても仕方ないよね)
ようやくその考えに至った可憐は、探りを入れる事にした。
だがしかし、そこで問題が発生する。
今更ながら、可憐にはそのような事を聞ける相手がいないかった。
なんせ友達と呼べる人は桜子しかいない。
それに加え、桜子は悠貴と親しいわけでもない。
聞くのは不自然過ぎた。
(この手段はあまりとりたくないんだけど)
そもそも選べるほど策がないため、まず手始めに真也に聞きに行く事にした。
思い立ったらすぐ行動。
その言葉のごとく、可憐は動いた。
「真也様、有栖川様ってどんな方ですの?」
翌朝、例によって例のごとく1-Bの教室の前に立っている真也に問いかけた。
「は?」
真也は驚いた様に目を見開いた。
唐突に質問したのだから無理もない。
「ですから、有栖川様はどんな方ですの?」
可憐は必死に聞き続ける。
「え?」
真也は硬直する。
「真也様、どうかなさいましたか?」
可憐がそう言うと、真也はようやく硬直が解けた。
「知るか!あいつに直接聞け!」
真也は怒鳴りつけるように言ってどこかに行ってしまった。
(え、私なんかした?)
真也が怒っている理由が分からず、可憐は頭にハテナマークを浮かべる。
「あー!しまった!」
思わず声に出してしまい、口を慌てて抑える。
(重要なこと何一つ聞き出せなかった!)
真也の不可解な行動の意味がわからず忘れていたが、本来の目的は"有栖川ゆうきについて聞き出すこと"である。
結果的に何も言わずに去ってしまったが。
(こうなったら、もう本人に直接聞くしかなさそう...)
可憐はがっくりと項垂れた。
放課後、1-Aの教室の前で可憐は悠貴のことを待っていた。
(これ、伊集院真也と同じなんじゃ...)
ふと、自分の行動を振り返る。
(ストーカーだわ、これ)
といえども、やめるわけにもいかず悠貴を待ち続ける。
「ーーそれでは皆様、ごきげんよう。」
1-AのHRが終わり、ようやく悠貴が教室から出てきた。
「有栖川様、少しよろしいかしら?」
「ああ、やっと来たんだ?」
可憐が話しかけると、待ちわびたと言わんばかりの口調で悠貴が言った。
「最初から貴方のところに直接行くのは癪でしたので」
可憐は笑顔で言う。
悠貴も負けじと笑顔を作る。
「ここで話すのはアレだから、移動しようか」
悠貴にそう言われ、辺りを見渡すと凄い人だかりになっていた。
「まあ、有栖川様と西園寺様よ!」
「あら、西園寺様には伊集院様がいらっしゃるのではなくて?」
野次馬の声が聞こえてきた。
周囲の人達からすれば、悠貴と可憐が恋人か何かのように見えるらしい。
そう思うのも無理はない。
傍目から見たら、お互いに微笑み合い、良い雰囲気としか見えない。
まあもっとも、本人達から見れば、間には火花が飛び散っている様にしか見えていないのだが。
「そうですわね。移動しましょう」
可憐は悠貴の提案にのった。
悠貴に連れてこられたのは、高級料亭の個室だった。
(もっと小学生らしく振る舞えよ!)
企業の宴会でもするのかよ、と内心ツッコミを入れる。
「有栖川様、一体どういうつもりですの?ふざけてますの?」
可憐がそう言うと、悠貴はより一層笑みを濃くする。
「西園寺財閥のお嬢様だから、こういった所の方が、慣れていると思ったんだけど?」
(白々しい...)
「...そうですけど、いくらなんでも小学生だけでこんな所......」
おかしいでしょ、と言う前に悠貴は口を挟む。
「まあまあ、僕の奢りだから、気にしなくていいよ」
(そういう意味で言ったんじゃねぇ!)
可憐はこっそりとため息を吐いた。
カコーンっと鹿おどしの音が妙に響く。
料理が運ばれてきても、可憐と悠貴の間には沈黙が続いていた。
「で、何の用事だったのかな?」
先に沈黙を破ったのは、悠貴だった。
ニヤニヤと感情の読めない笑みを浮かべ、言っている。
(こいつ、分かってて言ってるな...。タチ悪っ!)
「単刀直入に聞きますわ。......貴方も転生者なんですの?」
どうにでもなれ、と半ばヤケクソになって言う。
「そんなにはっきり言われると思わなかったから、びっくりしたなぁ」
そんな可憐に全く驚いた様子を見せず悠貴は答える。
「どうなんですの?」
「まあ、君の御察しの通り、僕は前世の記憶があるし、この世界が『永遠の愛を君に誓う』っていう小説によく似ていることも。そして君が、小説通りに進ませないように真也を避けているってこともね」
(やっぱり有栖川様確信犯か......)
予想通りの結果であった。
「で、そんなこと知ってどうするの?」
「私、社会的に抹殺されたくないんだよね」
「随分と口調が変わったね」
「だって、もうお嬢様を演じる必要性はないでしょ?」
悠貴は色々言いたいことがあったが、無駄だと気付き言わなかった。
「要するに、バッドエンド回避を手伝えと?」
「ご名答!」
「お断りするよ」
あまりの即答っぷりに可憐は一瞬言葉を失う。
「えー。いいじゃん何も減らないんだし」
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて何とやら。恋を邪魔された人間って怖いからね。真也に刺されたくないし」
悠貴はそう言う。
(この人、前世でなんかあったの?)
「話終わったんだから、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないの?」
「......ご飯を頂いて帰ります。ご飯に罪はないので」
そう言って、少し冷めた料理を口に入れる。
この話し合いで、こいつとは永久に分かり合えないな、と可憐は確信したのであった。




