第六話
お待たせしました
「さすが、可憐。何でも似合うね」
「ありがとうございます、お兄様」
可憐は今度のパーティーに着ていくためのドレスを買いに来ていた。
もちろん1人ではないし、可憐に兄がいる訳でもない。
彼女が『お兄様』と呼んでいるのは、従兄弟の西園寺奏太の事である。
可憐は彼のことを『お兄様』と呼んでいるのは可憐が望んで言っているのではなく、あくまでも、せがまれたからだ。
彼は可憐よりも6つ上の12歳で、現在桜ノ園に通う中学1年。
中学生にもかかわらず、スラリとした体躯に、長い手足というモデル体型である。
さらに、ふわふわした淡い色合いの髪の毛に、同じく淡い瞳は可憐と同じく若干つり目、口元はにっこり孤を描いているという文字から分かる通りのイケメンである。
さすが従兄弟と言うべきか、顔は可憐と似ているところが多い。
だが、可憐の様に悪役感満載ではない。
むしろ主役である。
そんな彼は従姉妹である可憐を溺愛しまくっていた。
ドレス探しに付き合って、と言っていないにもかかわらず、付いて来るくらいには。
そして現在、可憐はとある高級ブティックでドレスを片っ端から着せられていた。
普段はオーダーするのだが、今回は時間がないため、既製品を買うことにしたのだ。
嬉々としてドレスを持ってくる奏太の様子に、可憐はうんざりする。
(これ、何ヶ月分のバイト代なのよ...)
可憐は、奏太が持ってくるドレスがあまりにも桁が違い過ぎて、気が気ではなかった。
「どうしたんだい?ぼーっとして」
「何もありませんわ」
お金のことを考えてたなどとは言えず、誤魔化す。
「本当に?」
奏太はそう言って可憐の顔を覗き込む。
「近いですわ!」
その瞬間、可憐は飛び退く。
(これだからイケメンは困る)
これが普通の娘だったら確実に落ちてるわ、と奏太を睨みつける。
「そんな顔も可愛いね」
(ダメだ、この人!変態だ!)
さっきまでのイケメンさが嘘のように消え去り、ニヤニヤしだす。
しかも、睨まれて鼻息を荒くしている。
そんな従兄弟の姿に、可憐は彼の今後が心配になる。
しかもスペックが無駄に高い分、その異質さが際立つ。
(一応、社交界ではイケメンで通ってるんだから、その顔はマズい)
美少女を着せ替え人形にして、鼻息を荒くしているイケメン。
傍目から見たら、かなり危ない構図である。
「お、お兄様。そんな事はどうでもいいので、ドレスを見ましょう!」
店員の視線が痛くなったのか、可憐は奏太を連れて次のドレスを探しに行った。
「これなんてどうかな?」
奏太が差し出したのは、パステルピンクのふんわりとしたドレスであった。
(これ、ちょっと可愛すぎるんじゃ...)
このドレスを着た自分を想像して、可憐は苦笑いをする。
「これは私には可愛すぎるかと...」
「何言ってるんだい?可憐の可愛さを前にしたら、どんなドレスだって霞むに決まってるじゃないか!」
(お、おう。話が通じない...)
語り出した従兄弟を見て、いくら抗議しても無駄だと気付いたのか、「それでいいです」と諦め気味に呟いた。
「そう?じゃあ、これに合わせた靴とアクセサリーも買おうか」
いつの間にか持って来ていたそれらをまとめて店員に渡す。
ブラックカードと一緒に。
(え、ブラックカード!?)
可憐がカードを凝視していると、「あ、大丈夫。父さんから渡されたやつだから」と奏太が言った。
(そういう問題じゃないわ!)
可憐が心配しているのはお金の出所ではなく、子供がカードを持っているということである。
そもそもそういう考えに達しないのか、奏太は全くそれに気づかない。
(中学生は中学生らしく、千円札持ってお買い物に行けばいいのよ!)
結局何も言えないまま、可憐の買い物は終了した。
パーティーの日は刻一刻と迫っている。