伊集院真也視点
俺の婚約者(予定)を振り向かせる為には、どうすればいいのだろうか?
俺は伊集院真也。
6歳だ。
名門伊集院家の嫡男である。
物覚えが良かったらしく、既に専門的な分野にまで手を伸ばしている。
そんな俺には一つだけ悩みがある。
それは、とある令嬢についてだ。
そいつの名前は、西園寺可憐。
俺と同じ6歳。
名前の通り可愛らしい見た目をしている。
白磁の肌に小さく整った鼻。
さくらんぼみたいな紅いツヤツヤの唇。
髪は柔らかくウェーブを描いており、少しつり目がちな目は何も写していない、どこか作り物めいた美少女。
だが、可愛いのは見た目だけで、中身は非常に冷めている。
出会って始めて言われたのは自己紹介と冷たい一言。
「はじめまして、私は西園寺可憐ですわ。以後お見知りおきを。できるだけ、私には関わらないでくださいな。私、面倒ごとは嫌いですの」
他の人には言われたことのない言葉。
可憐はそれだけを言って部屋から出て行った。
「何だ、あいつ」
変わった奴。
もっと知りたい。
それが西園寺可憐の第一印象だった。
可憐が来た次の日、友人である有栖川悠貴が家に来た。
「昨日西園寺家のご令嬢が来たんだって?どうだった?」
「変わった奴だった」
ふーんという風に悠貴は腕を組んだ。
「気になるんだ?あの子のこと......」
「そんなことはない!」
俺がそう言うと悠貴はニヤニヤして言った。
かなり気持ち悪い。
「普段は、『さあな』とか『どうだか』とかしか言わないのに今日は言い返すんだ?」
俺の真似を所々混ぜてくる。
なかなか鬱陶しい。
「俺はそんなんじゃないぞ」
「結構似てると思うけどなぁ」
僕史上最高の出来だと思うよ、などと言ってくる。
俺はそこまでムカつく餓鬼ではないぞ、という思いを込めて睨みつける。
無言で睨み合った後、悠貴が再び口を開く。
「よーく自分の心に聞いてみたら?」
そう言って愉快そうに笑った。
実際のところどうなんだろうか?
今までに感じたことのないこの気持ちを、どう表せばいいのだろうか?
あの何にも写していない瞳に、俺のことを写してみたかった。
ツンとした態度じゃなくて、笑った顔が見たい。
こんなよく分からない感情はなんと言う言葉で表すのだろう?
「ーーと言う感情について、父さんはどう思われますか?」
「それは......」
少し言いにくそうにする。
一体なんだと言うのか。
「それは‘‘恋’’じゃないかしら?」
横から母さんが言う。
「“恋”って確か、特定の異性に強くひかれること、切ないまでに深く思いを寄せることってやつですか?」
まあ、確かに気になるが......
「まあ、自分の心に聞いたら分かるわ」
悠貴と同じ事を言って、2人はどこかに行ってしまった。
「まずは、手紙でも出してみるか」
そう言って俺は机に向かった。
だがしかし、待てど暮らせど返事は来ず......
「なあ、どうすればいい?」
悠貴に相談する羽目になってしまった。
「本格的に嫌われてるんじゃない?」
「洒落にならない......」
冗談抜きで嫌われてるかもしれない......
なんか、胸の奥が痛いな......
「どうかした、真也?」
「胸が痛い」
そう言うと、悠貴は腹を抱えて笑い出した。
「知ってるかい?それは......やっぱり言わなーい」
「なんだよそれ......」
「いやー、実に愉快だ」
失礼な奴だ。
そんなわけのわからない感情は置いといて、ひたすらに手紙を届けた。
日に日に胸の痛みが増していく気がする。
そんなある日、ようやく可憐がやって来た。
前に見た時よりも綺麗になってる気がする。
このままほっておいたら自由な猫の様にどっかに行ってしまう気がした。
だから、俺は......
「俺の婚約者になれ」
お前を縛ってしまえば、どっかに行かないと思ったんだ。
「真也様、今なんて......」
「俺はお前に婚約者になれと言ったんだが?」
「はあ?ふざけないでくださいませ。私は貴方には関わりたくないんですの」
可憐の反応は予想通りだった。
覚悟はしてたけど、案外辛いな......
その次の日、また可憐が来た。
「真也様、ふざけないでくださいませ」
どうやら昨日言ったことを冗談だと思っている様だった。
「俺はいたって真面目だ」
「それなら尚更たちが悪いですわ。何度も言いますが、私は真也様と関わりたくないんですのよ!」
「俺は関わりたい」
そう、俺は可憐のことをもっと知りたいんだ。
「そんなことは聞いてませんっ!」
白い顔を真っ赤にして出て行った。
どうやら、俺は可憐のことを好きらしい。
生意気でムカつく奴だけど、不思議と気になってしょうがなくなる。
きっと......悠貴が言っていた感情は“恋の病”の一種なのだと思う。
変わったあいつを俺はどうやって振り向かせればいいんだろうか?
とりあえず、可憐を逃がさない為に俺は外堀から埋める事にした。