第五話
(この学校、頭おかしいんじゃない?)
可憐は先ほどの言葉を思い出し、頭を抱える。
全てはつい先刻前、HRの時間に担任が言った事から始まった。
「もうすぐ毎年恒例のイベント、ダンスパーティーがあります」
にこにこしながら、さも当然かの様に言う。
(パーティー?ドレス着て踊るの?お金の無駄じゃない?)
前世はいたって平凡な生活をおくっていた可憐には、全くもって当然なことではなかった。
「なんですの、ダンスパーティーって?」
可憐は近くの席に座っていた桜子に問いかけた。
「可憐様は知りませんのね。まあ、簡単に言えば社交界の縮小版みたいな感じですわ」
(しゃ、社交界?小学生のくせにそんな事をすると?)
非現実的過ぎて、可憐は目を剥く。
「どんなことしますの?」
恐る恐る聞く。
「名前の通りダンスがメインですわ。お食事もありますし、なかなか興味深いですわよ」
(なるほど、それは楽しみだなぁ。何食べよう?)
食事と聞いて、可憐は嬉しそうな顔をする。
相変わらずの食い意地である。
その時だった。
「あぁ、そうでしたわ」と、桜子が思い出し言った。
「確か、パートナー同伴ですわよ」
「桜子様、もう一度お願いしますわ」
可憐は聞き間違いだと信じたそうな目で見る。
しかし、現実はそこまで甘くはなかった。
「パートナー同伴ですわ。基本的には兄弟、従兄弟あたりが多いですわね。......あと婚約者がいる人は婚約者とかですけれど」
「桜子様は、誰と参加なさるの?」
「私には婚約者はおりませんので、兄と一緒に行こうと思っています」
生憎だが、可憐に兄弟はいない。
婚約者もいないはずである。
(なるほど。婚約者はいないから、どうしようかなぁ)
可憐はそう思い、誰を誘おうかと考えを巡らした。
「もうすぐ、学園のダンスパーティーがあるんだって?」
家に帰ると、清太郎が話しかけてきた。
なぜかノリノリである。
「そうらしいですわね。桜子様によると、パートナー同伴だそうですの」
「真也君と一緒に行ったらいいんじゃない?」
可憐の言葉に清太郎は即座に返す。
「お断りいたします」
それを聞いて、清太郎は言いにくそうに切り出す。
「もう、真也君にOKって返事しちゃったんだよね......」
(うん?今なんて?)
可憐は一瞬、自らの耳を疑った。
「いや、実は涼が「真也と行かないか」って。可憐はどうせ行く人いないだろうなって思ってさ......」
「なかなかに失礼ですわよ、お父様?」
(要するに、私がぼっちに見えると?)
あながち間違ってないが、と可憐は半ば頷きかける。
「ごめんごめん」
謝罪からは全く反省の色が見えない。
「......ちなみに、断るという選択肢は?」
「ないよ」
清々しいほどの即答であった。
「ですわよね......」
それを聞いて可憐は落胆する。
「ほら、ダンスパーティーって言っても、いろんな食べ物とかあるし」
「もちろん食べ物には罪はありませんが......」
あきれるほどの食欲である。
「でも、ダンスパーティーですわよね?」
「ん?そうだね」
(ということは......)
嫌な予感が脳裏をかすめる。
「真也様と踊る、と?」
「それ以外に何かあるかい?」
(......踊るってことはすなわち、あれでしょう?体が密着するってことでしょう?逃げるに逃げられない状況じゃないか!どうする、どうする可憐!......まあ、どうしようもないか)
自問自答の末、なす術がないと悟った可憐は、がっくりとうなだれたのであった。