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第三話

桜が咲く季節になり、入学の季節がやって来た。

満開の桜に、晴天という絶好の日であるにもかかわらず、可憐の顔は浮かない。

そうというのも無理はない。

可憐が入学する『私立桜ノ園学園』は政治家、医者、経営者などを数多く排出している小、中、高、大一貫の名門校だ。

毎日下校時刻になると、高級車が並び、良家の子女たちが次々と乗り込んでいく。

制服は世界的に有名なデザイナーがデザインしたもので、着てみたい制服ランキングはいつもトップ。

そして、こここそが小説『永遠の愛を君に誓う』の舞台である。

必死に入学を避けようとした可憐だったが、「お願いっ」と清太郎や雅に言われ、言い返すことができなかったのだ。

(お父様はともかく、雅さんに言われたら仕方ないよなぁ)

可憐はそう諦めようとするが、やめとけばよかったという気持ちを拭い去れない。

途中で転校なり何なりすればいいじゃないか、と思うだろうが、この学園、一度入ったら『大学卒業』か『退学』の二択しかない。

言うまでもなく、小説の西園寺可憐は退学であった。


(もうちょっとマシな設定にしてくれても良かったのに......)

チッ、と舌打ちする。

「準備できたかい?」

「もうちょっとでできます」

鏡の前で最終チェックをして、部屋から出た。


「可憐、学校に着いたよ」

清太郎の声で可憐はようやく学校に着いたことに気づいた。

あまりにも現実離れした光景に、我を忘れていたからだ。

ざっくりと学園を説明すると、正面の門をくぐり抜けると初めに見えるのは、城ーーもとい高等部の校舎と大学の校舎。

敷地の真ん中ら辺に位置する、中等部校舎。

初等部の校舎は1番奥に位置している。

校舎だけでも充分大きいというのに、プールにテニスコート、グラウンド、コンサートホール、シアター、サロン、植物園、図書館、しまいには滑走路まである。

(子供の頃からこんな贅沢させてどうすんのよ!ってかいくらかかってんの!?)

可憐は内心ツッコミを入れる。

「可憐はどうしたの?ぼーっとして」

清太郎が固まっている可憐を見て言う。

「いえ、何もないです」

お金の事を考えてたなどとは言えず、おし黙る。

「そう?あ、あそこにクラス分けの紙が貼ってあるよ」

「見に行きましょう」

そうして紙を見に行くと、見覚えのある人がいた。

「入学おめでとう」

「おめでとう、可憐ちゃん」

涼と雅であった。

「ありがとうごさいます、涼さん、雅さん」

心の底からのお礼を述べる。

(......ちょっと待てよ)

可憐の頭の中にふと嫌な事が思い浮かんだ。

(この2人がいるということは......)

「お前もここに入学するんだな」

(......やっぱりか)

可憐が観念したかの様に振り向くと、真也が腕を組みながら立っていた。

「ごきげんよう、真也様」

さっきまでとは違い、どことなく笑顔が引きつっていた。

「可憐はどこのクラスになったんだ?」

「Bでしたわ」

可憐がそう言うと、雅が「残念だわ。真也はAだったの」と言った。

(神はまだ私を見捨てていなかった!)

可憐は小さくガッツポーズをきめる。

「まあ、隣のクラスだから」

「それもそうね」

涼は雅の落ち込み具合を見かねて、慰めの言葉をかける。

しかしそれは、可憐にとっては聞きたくなかった言葉であった。

(いや、クラス違うのって大きいから。そう簡単には来ないって多分)

そう思っておくことにした。


式典が終わり、可憐はHR教室にいた。

周りには良家の子女たちが座っている。

(ボロが出ない様にしないと。で、あわよくば友達を作ろう)

取り巻きではなく、あくまで友達。

これが可憐にとって大切なポイントであった。

(取り巻きとか、それこそ小説と一緒だしね......)

考えれば考えるほど気が重くなっていく。

重荷に押しつぶされそうになりながらも、必死に笑顔を作る。

(何かすごく見られてる気がするんだけど)

完成無欠の美少女で、なおかつ西園寺家の一人娘とあれば見られるのは当然である。

しかし、誰1人として可憐に話しかける者はいなかった。

緊張しているのである。

可憐にその事を聞いたら「え、そんな事で?気にしなくていいのに」と言いそうであるが、誰も伝える事などできるはずもなく、ジロジロ見られることにより可憐のストレスは溜まっていく一方であった。



入学式から数日後、可憐の頑張りがあったからか、はたまた周囲の緊張が解けたのか、可憐に友達と呼べる人ができた。

綾小路桜子あやのこうじさくらこ

サラサラの長い髪にたれ目の儚げな雰囲気を持つ少女である。

そんな彼女は、茶道の家元『綾小路家』の長女だ。

(伊達に名門私立校じゃないな。お金持ちばっかりだし......)

可憐は自分自身を棚に上げて、そう思った。



「可憐様、ごきげんよう」

ある朝、可憐が登校してすぐに、桜子が話しかけてきた。

「ごきげんよう、桜子様。そんなに慌ててどうなさったの?」

桜子の様子はいつもと違って、焦っている様だった。

(......嫌な予感しかしない)

可憐の勘は的中する。

「可憐様は伊集院様とご婚約なさっていらっしゃるのですか?」

投下されたのは、とんでもない爆弾であった。

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