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第十五話

季節は移り変わって秋になり、運動会の日がやってきた。

(運動はちょっとな...)

ヴァイオリンしかり、音楽は得意だが、運動は壊滅的である。

可憐自身もここまで酷いとは思っていなかった。

なんせ前世()はいたって平均的であったからだ。

しかも走ることなど、日常生活ではない。

彼女が自らの絶望的な運動神経を知ったのは、小学校で行われた、新体力テストであった。

バレエを習っているため、長座体前屈は良かったものの、それ以外はまさかの全国平均の半分という残念さである。

(我ながら泣きそう...)

それにも関わらず、可憐はかなりの種目に出場することになっていた。

50m走、玉入れ、綱引きにパン食い競争である。

しかしこれはマシな方であり、可憐と違い運動神経のいい真也と悠貴はこれらの種目に加え、借り物競争とリレーにも出ることになっている。

とりあえず迷惑にならないようにしよう、と可憐は心に決めた。


(あー、美味しい)

黙々とパン食い競争で入手したクリームパンを貪る。

(絶対、このパン無駄にお金かかってるわ)

可憐は確信する。

実際のところ、フランスの有名なパン屋から取り寄せた逸品である。

(正直、運動会はこれくらいしか楽しみがないんだよな。ただの公開処刑でしかないし...)

綱引きと玉入れはともかく、走る系統の競技はダメだな、とため息を吐く。

「可憐様!」

菖蒲が可憐の元に走ってくる。

「何度も呼びましたのに返事がありませんでしたから、心配しましたわ」と言われ、可憐はあからさまに目をそらす。

(言えない。パンを食べることに集中しすぎて、気づかなかったなんて...)

べっ、別に食い意地を張ってるわけじゃないんだからね、なんてツンデレっぽい感じで言ってみたら面白いだろうかなどと考えてしまうあたり、相当疲れているに違いない。

「菖蒲様、どうかなさいましたか?」

「どうもこうもありませんわ!次は真也様と悠貴様の借り物競争ですわよ!?」

(心底どうでもいい...)

そうは思いながらも、返事しないわけにはいかなかったため、「そうなんですの?」と返す。

すると菖蒲は、「前の方に行って見ましょう!」と言って可憐の手を掴み、前に引きずっていく。

(お願いだから、私を連れて行かないで...)

そんな可憐の願いは聞き届けられることなく、ど真ん前まで引きずり出された。

前の方はものすごい人であった。

一体何がそんなに面白いのか、と可憐は考える。

(借り物になりたいのか?)

そうではなく、真也と悠貴の姿を見たいのだが、可憐にとってはどうでもいいことであったので、その考えには至らなかった。

(戻っていいかな?)

そう思い後ろを見るも、戻れそうになかったため断念する。

気がつくと、いつの間にか真也の番になっていた。

バンッとピストルの音が鳴り響き、真也はスタートし、紙を見て走り出す。

(...あれ?)

可憐は真也の向かっている方向に疑問を覚える。

(何で私の方に走って来てるの?)

真也は可憐の目の前に来て、可憐の腕を掴む。

「可憐、来い!」

「えっ」

可憐の返事など聞かずに、真也は一心不乱にゴールへ向かって走っていく。

(やめろー!離せー!)

可憐は涙目になりながら、真也に引きずられていった。

言わずもがな、真也の頑張りにより、1着であった。

「げほげほっ」

いきなり走らせるなよ、と真也を睨みつける。

(全く、50メートル23秒というのを考慮して欲しいわ...)

「可憐、大丈夫か?」

「これが大丈夫に見えます?」

未だに、膝に手をついたまま、息を整えている。

「いや、全くみえない」

「そういうことです」

そんな可憐の様子に「悪かったな」と全く悪びれず真也は言う。

「借り物が"運動神経の悪い人"だったから、仕方がなかったんだ」

(残酷過ぎる...)

これはただの公開処刑にしかならないということを理事会()に伝えよう、と可憐は決意した。


「ぎゃあー!!!」

運動会が終わり、家に帰った可憐は鏡を見て悲鳴をあげる。

肌が真っ赤に日焼けしていたのだ。

(いくら若いとは言えども、お肌のダメージは蓄積されるからなあ)

シミになってからでは遅いのだ。

(これからの運動会では、できる限り日陰にいよう)

そう心に決めたのだった。

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