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第十一話

「可憐様!」

熱が下がり、久しぶりに学校に行くと、桜子が可憐の元に走ってくる。

やはり心配させたのだと可憐は嬉しいような、申し訳ないような気持ちになる。

「お久しぶりですわ、桜子様」

「お久しぶりですわ、可憐様。随分と長い間、お休みされていましたから、心配で心配で......お見舞いにも行きましたのに、面会謝絶だと西園寺様が仰いましたのでお会いできませんでしたわ」

「そ、そうですの...」

(断じて、私はそこまで重症ではない)

熱が出たと知った時の清太郎の顔を思い出し、苦笑いする。

「病み上がりですので、あんまり無理なさらないで下さいね」

「ええ、先生にも言われてますし、そうしますわ」

可憐が桜子と話していると、菖蒲が申し訳なさそうな顔をして、やって来た。

「ごきげんよう、菖蒲様」

私が声をかけると、菖蒲はすごい勢いで頭を下げる。

「申し訳ありませんでしたっ!!」

(え、どういうこと?)

「どうしたんですの、いきなり?」

「菖蒲様、急すぎますわ」

なんだなんだと野次馬がぞろぞろとやって来る。

「可憐様が風邪を引いてしまったのは、私のせいですもの。お見舞いにも行ったのですが、面会謝絶でしたので。本当に申し訳ありませんでしたわ」

若干目が腫れている。

これは相当気にしてるな、と可憐は確信した。

「いえいえ、これは私が勝手にやった事で風邪を引いてしまったのですから、自業自得ですわ。ですから、頭を上げてください」

「ですが......」

(そりゃあ、面会謝絶とか言われたら、そうもなるわな...)

帰ったら面会謝絶だけは止めるように言おう、と可憐は心に決めた。

「本当にどうってことありませんの。お気になさらないで下さい」

「では、せめてこれを...」

菖蒲がそう言って差し出したのは、果物と券の様なものだった。

その紙に書いてあったのは、ホテル無料宿泊券という言葉であった。

「ホテル無料宿泊券?」

「はい。この間ヴェネツィアにオープンしたばかりのうちの系列のホテルですの。もうすぐ夏休みですし、折角なので利用してくださいませ」

菖蒲がにっこりと浮かべた笑みは、経営者の顔そのものだった。

(お詫びついでに、宣伝もバッチリ、か)

最近の子はちゃっかりしてるな、と感心するのであった。


(やっと終わったぁ)

久々に学校に来ると、1日が長いというのは誰しもが感じることであろう。

可憐もその1人であった。

こういう日はさっさと帰るに限る、ということでそそくさと帰る用意をしていると、どこからか知っている声が聞こえてきた。

(まさか...)

そのまさかである。

「身体はもう大丈夫なのか?」

可憐が前を向くと真也の顔がすぐ近くにあった。

「近いっ!」

危うく頭突きをしそうになる。

「顔が赤いな。また風邪がぶり返したのか?」

「そんなことありませんわっ!」

私は思わず、両手を頬に当てる。

(誰のせいだ!おまえだろ!)

無駄にイケメンなのが悪い、と内心悪態を吐く。

「真也、授業が終わってすぐにどこかに行くんだから、びっくりしたよ」

嫌な予感がし、後ろを振り返ると悠貴が立っていた。

(げっ...)

「げっ、って酷いなぁ」

「あら、口に出てましたかしら?」

「出てたよ、はっきりと。傷つくなぁ」

「まあ、心にもないことを」

可憐と悠貴の視線が交差し、火花が飛び散る。

やっぱりこいつとは分かり合える気がしないな、と確信した。

「そういえば、夏休みはどうするんだ?」

真也が可憐に聞く。

「ベネツィアに行こうと思っていますわ」

せっかくもらったのだから、活用しよう、という魂胆である。

「ベネツィアか。いいね、僕も行こうかな」

「お断り致しますわ」

(有栖川様と会うなんて、こちらから願い下げだわ)

「仲が良いんだな」

「そんなことはありませんわっ!」

「そんなことはないと思うけどなぁ」

微笑ましいものを見るような目で、真也は2人を見る。

2人からすれば、勘違いも甚だしい。

「息もぴったりじゃないか」

「真似しないでください、有栖川様」

「真似してるのは、そっちの方じゃない?」

そういう言い争いが、後1時間程続いたことは言うまでもない。


そんなこんなで、もうすぐ夏休みが始まる。

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