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第一話

9/15に加筆修正しました。

内容的にはあまり変わっていませんが、書き方が大幅に変わっています。

ご了承下さい。

それは彼女が6歳の時だった。

彼女は重大な事実を知ってしまったのだった。

知ってしまったと言うよりは、思い出したという方が正しいかもしれない。


ここは彼女が前世にこよなく愛していた小説『永遠(とわ)の愛を君に誓う』の世界であった。

その小説は、平凡な家庭で育った女の子ーー蓮見雪乃(はすみゆきの)とお金持ちの男の子ーー伊集院真也(いじゅういんしんや)との恋模様を描いた王道ラブ・ストーリー。

漫画化、アニメ化、映画化と中高生の間だけでなく、日本中で一大ブームを引き起こした。


普通、そんな憧れの世界の住人となったのなら嬉しいと感じるのであろうが、悲しい事に彼女ーー西園寺可憐(さいおんじかれん)は、悪役だったのだ。

小説においての可憐の立ち位置は、伊集院真也の婚約者で、西園寺財閥の当主の孫娘で、誰もが思い浮かべるようなご令嬢。

幼い頃から父親は仕事で忙しく、母は病気がちで家にいない時が多かった為か、どんな我儘も許されてきた。

それ故に、伊集院真也の婚約者という立場や、家の権力を振りかざし、邪魔する者は全排除。

蓮見雪乃への嫌がらせは序の口で、監禁、暴行などを主謀し、最終的には暗殺までも試みる。

結局仲間に裏切られ、悪事は表沙汰になる。

最後の最後は、お家取り潰しに刑務所行き。

そして、過去3回行われた『永遠の愛を君に誓う』における好きなキャラランキングでは全回ぶっちぎりのワースト1位という、ある意味の偉業を成し遂げた。

そんなキャラクターであったので、最終話で読者達はさぞやスカッとしただろう。

当人からすると全くもって笑えないが。


(主人公達に近寄らなければあんな目に合わなくてすむんじゃない?)

そんな考えが可憐の脳裏をかすめる。

そうと決まれば話は早い。

可憐は即座にペンと紙を取り出し、"見ない、寄らない、関わらない"とどこかで見たような標語をでかでかと書いた。

そして、その紙を壁に貼り付け、満足そうに頷いた。



だがしかし、そんな彼女の決意もむなしく、可憐を乗せた車は伊集院真也の家に向かっていた。

正直、可憐にとっては悪夢でしかない。

これが全て夢であったならと考えたのは数知れず...可憐の口から溜め息が溢れる。

「どうしたんだい?浮かない顔して」

可憐の父、静太郎(せいたろう)が問いかける。

「いえ、何もありませんわ」

微笑みながら言う。

誰がどこからどう見ても、完璧なご令嬢にしか見えない。

西園寺可憐として6年間生活して手に入れた、処世術である。

(だいぶ猫かぶってるよね...。でも、こうすると話が楽に進むんだよなぁ)

「そう、ならいいけど」

可憐の思惑どおり、清太郎はこれ以上の言及をやめた。


そうこうしている間に伊集院宅の門が見えてきた。

それを通り抜けると、色とりどりの花が可憐達を迎えるだけで、依然家は見えなかった。

5分ほど後にようやく家が見えてきた。

(広っ!)

だだっ広い敷地を見て、可憐はぽかんと口を開け開ける。

「可憐、着いたよ」

清太郎にそう言われて車から降りると、ずらーっと列んだ使用人たちが一斉に頭を下げた。

そして使用人たちの間から1組の男女が出てきた。

(絵になるなぁ......)

可憐がそう思うのも無理はない。

男性の方は、黒いストレートの髪をオールバックしかっちりとしたスーツ、女性の方は、長くウェーブのかかった髪を腰に垂らし上品な白のワンピースで、どちらも上流階級特有の気品とそれに見合う美貌を備えていた。

そして、彼らこそがまぎれもない伊集院真也の両親であった。

「いらっしゃい、清太郎。久しぶりだね」

切れ長の目を細めて清太郎に笑いかける。

どうやら今回の訪問の目的は彼らに会いに来たのだろうな、と可憐は納得した。

「こちらは......?」

そう言われてようやく可憐は、彼らと初対面であることを思い出した。

「はじめまして。西園寺清太郎の娘、西園寺可憐です」

はっきりとした口調で言う。

「こちらこそはじめまして。俺は伊集院(りょう)、こっちが妻の(みやび)だ」

「はじめまして、可憐ちゃんって呼んでもいいかしら?」

「はい。涼様、雅様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「そんなに固苦しくしないで」

雅が眉を下げて言う。

(じゃあ...)

「涼さん、雅さんとお呼びしても?」

「構わないよ」

「ええ、もちろんよ」

(思ってたより、優しそうな人たちで良かった

)

小説の結末(バッドエンド)を知っているから故に不安であったが、思いの外仲良くできそうな雰囲気に可憐はほっとする。

「ねぇ、ちょっと。僕の事忘れてない?」

清太郎がしびれを切らし、話に割り込む。

「悪い悪い、忘れてた」

「ひどい!」

涼の悪びれない様子に、清太郎は頬を膨らませる。

(本当に仲が良いんだな)

軽口を言い合う2人を見て微笑ましい気持ちになった。

「本当お2人は仲が良いですわね」

可憐の言葉を代弁したかの様に、雅が言った。

「昔から仲がよろしいのですか?」

ここぞとばかりに可憐は問う。

「そうねぇ、学生時代から仲が良かったわよ。それこそ付き合っている(、、、、、、、)のではないかと噂されるくらいに」

(お、おう)

衝撃的な一言に可憐は固まる。

(いや、でも一部の層からは『真也様と親友の悠貴(ゆうき)様、マジ尊い』って意見もあったしなぁ)

まあそういう考え方もありか、と納得した。

「え、そうなの」

「初めて知った」

噂されていた2人は初耳だったらしく、ショックを受けた様だった。

それを見て雅は、「まあ、こんな所で話していてもなんですし、中に入りましょう」と言って話を切り上げた。



「2人はちょっと大人の話をするから、真也の部屋に行きましょうか。待ってるから」と雅に言われ、可憐は真也の部屋の前にいた。

(うわぁ、ついに着ちゃったよ)

可憐は今世紀最大級のピンチであった。

そう、例えるなら"魔王の城に乗り込む勇者の気分"であろう。

(ああ、帰りたい。帰れるものなら帰りたい、今すぐに!)

でも「結局入ってません」などとは言えないと可憐はこの気持ちを抑える。

(ここは戦場よ、可憐。気をひきしめなくては)

そう気持ちを振るえ立たせ、部屋をノックした。

「入れ」

入室の許可をもらい部屋には入ると、少年がいた。

若干癖のある黒髪に切れ長の目。

少年は幼いながらに整った顔をしていた。

(この人が私の敵、伊集院真也)

「お前誰だ?」

真也は訝しげに可憐の顔を見る。

「はじめまして、私は西園寺可憐ですわ」

精一杯の作り笑顔で言うと、真也は「伊集院真也だ」と短く返した。

(言いたい事は初めに言っておいた方がいいよね)

可憐は関わりたくないという意思を伝えることにした。

「できるだけ、私には関わらないでください。私もできる限り関わるつもりはありませんので」

可憐がそう言うと、真也は驚いた様に目を見開く。

(まあ、そうなるわな)

普段、真也は周りからちやほやされている為、こういう反応には慣れていないのだろうと可憐は考えた。

だからと言って優しくしてやる義理はない。

こちらには家の命運がかかっているのだ。

「そう言うことですので......ごきげんよう」

この部屋に長居しても居心地が悪いだけなので、可憐は逃げる様に部屋から去った。


部屋に残された真也は、呆然とドアを見つめ、立ち尽くしていた。

「何だ、あいつ」

ボソッと呟いた彼の横顔は、どことなく嬉しそうだった。


一方、可憐が清太郎や涼のいる部屋に行くと、丁度帰る用意をするところだった。

「あら、可憐ちゃん。真也との話はもういいの?」

「はい、充分です」

「やっぱり男の子と女の子じゃ話す内容も違うだろうしね」

涼がそう言うのを聞いて、可憐は少し心苦しくなる。

(いや、一方的に終わらせちゃったしなぁ)

背に腹はかえられぬのだ。

「じゃあ、帰ろうか」

清太郎はそう言って車に乗り込んだ。

「またな」

「また来てね」

涼と雅はそう言って、車を見送った。



それから1週間後、真也から可憐に手紙が届いた。

子供にしては綺麗な字で、「用がある、家に来い」と書いてあった。

可憐は手紙を封筒にしまい、引き出しの中に入れた。

(よし、無視しよう)


その次の日、また手紙が届いた。

今度は「話がある」と書いてあった。

可憐にとって重大な話は済んだので、家に行くつもりなど微塵もない。

そうしてまた、可憐は手紙を引き出しにしまった。


しかし、その次の日も、そのまた次の日にも可憐の元に手紙が届いた。

(ストーカーか!)

これは文句を言わねば、と可憐は真也の元を訪れる事にした。


これが波乱の幕開けであると、そして運命には抗えない事を可憐が知る事になるのはもう少し後の事である。


ありがとうございました。

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