その3。
結局、俺はもう一度埼京線に乗っていた。
まぁ、前回とは全く違う気持ちで、だ。
でもまぁ、集合場所はやっぱり前回と変わりなくて、大宮駅中央改札のでっかい、うねった像であった。
昨日、美沙には謝罪文ともう一度の誘いの言葉(400字詰め原稿用紙に直すと大体50枚分。)を書かされ、こんなことになった。
本当に読んでくれるかどうかすら謎だが。
なんでこんなハメに…。
改札を抜けると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、隼人君。」
「…あ、おう。美雪さん。」
なんというか、相変わらず(会うことは2回目だが)、小説とかドラマで描かれるような、『悪女』が似合う綺麗な人であった。
黒髪のロングストレートで、シュッとしたスタイル。
長めの白いカーディガンや、細い足がくっきり見えるようなジーンズが似合っていた。
でも、見とれている場合なんかではなく、まず謝罪をしなければ。
「いやぁ、ついこの前も会ったのに、こんなにすぐにすみません…」
「いいのよ、別に。もう一度会ってみたかったし。それに、よく覚えてないんじゃ仕方ないわよね。」
美雪さんは天使のようににっこり笑った。
「あ、いえ、許してくれてありがたいです。」
俺も、笑い返してみた。良かった、ちゃんとあのくっそ長い謝罪文を読んでくれていたのか。美沙がめっちゃ長くさせたせいで読んでくれないかも、なんて思ってたけど…。
今回は、デートといっても、美雪さんにとっては前回で十分だったらしく、ただのランチといっても過言ではないようなものである。
近くのスタバでちょっと一服する程度だ。どこにでもあるスタバにも本当に感謝したい。
「美雪さんって、思った以上に綺麗で、びっくりしちゃって…。」
褒め言葉だ。女性は褒めるとよろこぶらしいと、美沙から言われた。でもまぁ、言われるまでもなく、綺麗だし、すぐに思い浮かぶ言葉であるが。
まぁ、褒めると喜ぶはずなのだ。
「『まるで小説とかドラマで出てくるような悪女みたい』って、言いたいのかしら?」
裏の裏を読まれた。
いきなり本心を突かれて、流石に動揺してしまう。
「えっ…いや、そういうのじゃなくて。」
「いや、別にいいのよ、そういうの、言われ慣れてるからさ。」
美雪さんは、そう言って笑い、コーヒーに口をつける。
言われ慣れてるって…。そういう問題じゃないと思うし、自分で言うからにはやっぱりよく…
「でも、言われて嫌なんですよね?」
「へ?」
かなりびっくりしたような顔を浮かべた美雪さんを見ながら、続ける。
「嫌なんだったら、言いません。」
笑い返すように、俺は言った。
「でも…。そうだって、思ったのよね?」
「まぁ、思いましたけど…。それぐらい綺麗な人だってことですよ。」
「…。」
美雪さんがちょっと赤面して黙りこくる。
「…ありがとう。」
その笑顔を見て、俺は思った。
善悪無しに、可愛い人じゃないか。
俺も少し、赤面してしまった。