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手紙でつながる人々

拝復 海沿いの町に住む女の子より

作者: 白波



 私はこの町が好きだ。

 海がすぐ近くにあって、学校帰りにはいつも砂浜を歩いている。


 いつも通りに砂浜を歩いていると、何やら紙が入っているビンが見えた。


「なんだろ?」


 私がそれを手に取ると、どうやら、メッセージボトルのようだ。


「お姉ちゃん!」


 中を確認しようとしたとき、近所に住んでいる女の子が笑顔で手を振りながら走ってきた。

 私は、反射的にそのメッセージボトルを背中に隠した。


 女の子は、私が何を隠したのか気になっていたようだが、適当にごまかして家のほうへ走って行った。




 *




 家に帰りメッセージボトルの中を見ると、かわいらしい絵が描かれた手紙が入っていた。


「やっぱり……」


 思わずそんな声が漏れた。

 私は、その手紙をどうしようかと考えたが、そのまま海に流しなおすのもどうかと思う。だからと言って、このまま持ち続けるのもどうかと思い、手紙の返事を書いてみることにした。


「まり。どうしたの?」

「あぁお姉ちゃん。それがさ、みくちゃんが流したらしいメッセージボトル拾っちゃって…」


 私が本当に返事を書いていいものかと悩んでいると双子の姉が部屋に入ってきた。

 私が相談するとお姉ちゃんは、あぁあれか……なんていっている。


「知ってるの?」

「まぁね。流した時に、ちょうど見てたし」

「見てたしって……まったく、思ったほど世界って広くないね」


 世間は意外と狭い……私は、本気でその言葉の意味を実感していた。

 まさか、みくちゃんが流したメッセージボトルを拾ったのが、遠くの町の子じゃなくて、すぐ近所に住んでいる自分だとは……


「まっさっさと書いて、みくちゃん家のポストにでも入れとけば? みくちゃんが手紙を書いたら、私が受け取るようにするからさ」

「それって大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。みくちゃんは、私の名前は知っていてもまりの名前は知らないから。苗字は親戚だからっていえばいいし、みくちゃんのためにも書いてあげなよ」


 お姉ちゃんは、笑顔でそう言って部屋から出て行った。

 確かに、お姉ちゃんと違って自分は彼女とほとんど接点がない。だからと言って本当にいいのだろうか?


「でも、私が拾ったのは事実だし、やるしかないか」


 私は、机に向かって手紙を書き始めた。




 *




 返事は、思ったよりも早く帰ってきた。

 くみちゃんは、手紙が返ってきたのが本当にうれしいらしく、一回ぐらいならと使っていた“海の向こうに住む女の子”という名前を使い続けられなさそうだ。


「ここで、下手に偽名使うとばれそうだし、仕方ないか……」


 お気に入りのシャーペンを手に取り、目の前の真っ白な便箋になるべく、みくちゃんの年齢に合わせるように手紙と絵を描いていく。

 何度か書き直して、手紙を書き終えるころには、すでに深夜になっていた。


「お姉ちゃん。私寝るから、明日の朝いちばんでこれをみくちゃんの家のポストに入れといて……」


 私は、お姉ちゃんに手紙を押し付けると、さっさとベットに入って行った。




 *




 次の日。

 お姉ちゃんは、本当に朝一番でポストに手紙を入れてくれたらしく、私が起きるのとほとんど同じ時間に帰ってきた。


「おはよう」

「おはよう。あんたのせいで、ここに住んでいて初めて江ノ電の始発を見送る羽目になったよ」


 お姉ちゃんは、もう一眠りするから、20分後に起こして。などと言いながら、自室がある二階へあがろうとしていた。


「お姉ちゃん」

「何?」


 その声で立ち止まった姉は、寝不足から来ているのか、少し不機嫌そうだった。


「ありがとう」

「別にいいわよ……次からは自分で届けなさいよ」


 お姉ちゃんは、いつも通り片手を振りながら階段を上がって行った。




 *




 それからというもの、みくちゃんは、すぐに返事を書くので、私も負けじと書き続けていた。


 そんなある日のことだった。

 それは、母の口から突然告げられた。


「引っ越ししようと思ってるの」

「どういうこと? 急にどうしたのさ?」


 お姉ちゃんが聞くと、母と父はお互いを見て、同じようなタイミングでうなづいた。


「この前、親父が亡くなっただろ? それでな、お袋が農場を一人で切り盛りできないらしいんだ。それで、俺たちがあっちに引っ越して手伝おうってそういう話になっている」


 私は、父の言葉を少しずつでしか呑み込めなかった。

 父の実家は、北海道にあり、年に一度か二度、飛行機に乗って遊びに行っていた。

 この町を離れることは、とてもさみしく思えたが、それ以上の心配事が発生してしまったのだ。


 お手紙どうしようかな?


 なんだかんだ言って、名前から近所のお姉さんの妹なんじゃないの? と思わせたくなかったため、苗字だけを変えておいたのだ。

 そもそも、この手紙のやり取りは、お姉ちゃんを経由して初めて成立するものであり、仮に北海道の実家の住所を教えたところで、“中町まり”という人物は、そこには住んでいないのだから、届くことはないだろう……


「……北海道か」


 私は、お姉ちゃんと両親が話し合っている横で、みくちゃんのことを考えていた。




 *




 結局、最後の最後、ぎりぎりまで悩んだ末、引っ越しするからもう手紙は書けないという内容の手紙をポストに入れてから二日後。

 いつもは翌日に来る返事が来ないことを気にしつつも、私は自分の荷物をまとめていた。


「ただいま」

「あっお姉ちゃん。どこ行ってたの? 飛行機乗り遅れちゃうよ」


 私が抗議すると、お姉ちゃんは、ごめんごめん。などと言いながら、手紙と思われる紙を差し出してきた。


「くみちゃんからのお返事を受け取ってたら、遅くなっちゃったの」

「あぁそうだったんだ」


 私は、お姉ちゃんから手紙を受け取ると、それを読み始めました。

 その手紙の内容は、自分への感謝の気持ちがつづられていて、最後には意外な一言が添えられていました。


「“北海道に行っても頑張ってね”か……確か、お姉ちゃんが北海道に引っ越すって話をしたって言ってたし、みくちゃんはお姉ちゃんが、メッセージボトルを拾ったふりして、手紙を書いてくれていたとでも思っていたのかな……」


 それとも、本当は自分が拾って、手紙を書いていたと気づいていたのかもしれない……


 でも、それはみくちゃんだけが知っていることで、私もそれを深く追及する気にはなれなかった。


「まり! 早く来ないとおいていくわよ!」

「はーい!」


 私は、今まで来た手紙が入れてある箱にその手紙を入れると、それを持って家を出て行った。



 結局、メッセージボトルは、みくちゃんが手紙を流した砂浜に流れ着いていました。


 これで、終わりの予定ですが、何か思いついたら続きがあるかもしれません。


 読んでいただきありがとうございました。

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