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四話 序章
その日は雨が降っていたのを覚えている。
曇天から注ぐ水は冷たく、傷口に染みた。
どんなに拒否して縋り付こうと殴られ、蹴り飛ばされた。
身体が動かなくなる頃には意思は折れ、痛みに耐えることしかできなかった。
ただ、悲しくはなかった。そこまで反抗したのだからそれを受け入れてしまえば哀の感情が孕むもののはずだろうに、全ての感情が湧かなかった。
「お前はいらない」と告げてきたその二つの影は誰だったのか。記憶の中の姿は徐々に薄れゆき、擦り切れようとしている。
遠ざかっていく二つの影に手を伸ばしたのは、雨に冷えた身体を温めてほしかったから。
非情にも振り返ることすらせずに、その二つは消えていった。
寒い。
思うのはそれだけ。
だから、差し伸べられた傘に気付くのに時間を要した。
「僕と一緒に来るかい?」
傘の持ち主である男が手を差し伸べてきた。
迷わずにそれを取った。
拒絶をする力があったなら、置いて行かれてない。
今はただ――居場所が貰えるなら、何でもよかった。




