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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 体育祭
83/131

久澄碎斗 Side5

『これより体育祭。午後の部を開始したいと思います』


 食事を終え、久澄と奈々実が川上学園の校門前に辿り着くと同時に、所々に取り付けられているスピーカーからそんな放送が流れた。


「やべ……早くみんなの所行かないと」


 もう出場しなければならない種目はないため急ぐ必要はないのだが、応援をさぼると色々と面倒なのだ。


 それに、久澄は一応普通の学生。クラスメートとの不和は避けたいところだった。


「ほら、行くぞ酸漿」


 久澄は右手を差し出す。


「? 何です、これ」


「ん? ああ」


 出した手を指差され、久澄はその理由を説明する。


「体育祭の決勝。四ブロックの優勝校が闘う場所が、この川上学園だからな。観客席には外から来た人で満員。ただでさえ負けた学校の殆どが来ているのに、それが理由で観客席に入れなくなった学生達がグラウンド周りに溢れているから、はぐれちまったら面倒くさいだろ?」


「はあ」


 自分は元とはいえ暗部の人間。人混みではぐれるほどトロくはないという溜め息。


 だがこのまま会話を続けても不毛だと感じ、渋々折れる感じで奈々実はその手を取った。


 共に歩みながら、それでも奈々実は内心でブツブツと苦言を呈していた。実は彼女も少し、面倒くさい女性だったりする。


 しかし恨み言を思い浮かべられたのもグラウンドに入るまで。


 視覚より速く、触覚。


 まず感じたのは熱気だった。


 次に、嗅覚。運動をした者特有のツン、とした汗の臭い。


 そして聴覚と視覚。


 なぜ気付かなかったのかという程の轟音と、それらの理由である人混み。


 狭い場所で行われる祭りを思い浮かべてもらえば分かり易いだろうか。


 確かに、はぐれる可能性は高く、もしそうなったら合流するのは難しい。


 奈々実は内心で、久澄に誤った。


 そして手を強く握り直す。


 それに久澄は、驚いたような表情を見せるも、彼もまた握り返し、決してはぐれないようにしながら人混みの中へ入っていった。






 ないようである隙間に悪戦苦闘しながら、二人がクラスメートの元に着いた頃には、既に放送で臥内高校の勝利が流されていた。


「そこの二人」


 彼らが姿を現すと同時に少し怒気の混じった声で話しかけてきたのは、岬。


 彼女の言葉に反応してクラスの皆が二人を見て、絶句する。


 ただ一人言葉を紡げる岬は、それについて訊ねた。


「応援すっぽかして、何いちゃついているの?」


 岬が言語化する事で現実を直視できたのか、次第にひそひそと、俗に言う内緒話をしながら二人に疑惑の眼差しを向けていた。


 クラスの人達に映る今の二人の状態は、こうだ。


 午前の部から姿が見えず、それから四時間以上も行方不明。帰ってきたと思ったら、汗まみれで、何故か固く繋がれた手。


 そういう事に敏感なお年頃な高校生。そちら側に話が飛躍するのも無理はない。


 しかし、この二人にまともな感性を期待するのは意味のない事。


 久澄は持ち前の聴力でようやく事情を察し、それを奈々美にも曲解なきようストレートに告げた。最低限、クラスメートには聞こえるように言ったため、皆の表情が一様に変わる。


 奈々美はもちろん表情を変える事はなく、握る力を緩めた。久澄も弱めていたので、自然と二人の手は離れた。


 表情一つ変えない二人に、逆にクラスメートが肩透かしを食い、自然と誤解が解ける形となった。


「先導、小詠先生は?」


 そして空気がいつも通りのものに戻るのを感じてから、この場に来てまず気付いた異変を訊ねた。


「さっきまで居たわよ。今はブロック決勝校が集まる門の前に行ってるだけ。私達も向かおうとしてたのよ」


「成る程。ありがとう」


 久澄が軽い礼をしたところで、アナウンスがかかる。


『勝利校は、川上大学学園付属高校です。十分後、川上大学学園付属高校対臥内高校によるBブロック決勝を始めます。川上大学学園付属高校は西門。臥内高校は東門に待機をお願いします』


「やっぱりか」


 久澄は呟く。


「まあ、当然だけど……ここまで来たら、勝つわよ!!」


 それは岬にも届いていたようで、クラスメートを蜂起させるが如き声音で、叫んだ。


『おおッ!!』


 呼応して、皆も手を天井に向かい突き上げた。


「じゃあ、行くわよ」


 岬が先導して、人混みをかき分けていく。


 目的地が分かっているので、久澄達のようにがむしゃらに進むより、一旦輪からでて外回りに行く方が早いのだ。


 門に集まるのは代表だけでいいのだが、団結力で勝ち進んできた臥内高校の生徒が、門なんていう観客が寄りつけない絶好の応援場所を逃す筈がなかった。


 そして、向かう臥内高校に観客達は道を譲ってくれる。


 臥内高校は三区に身を置く下位の高校。そんな学校が決勝まで勝ち進んでしまったら、普通は罵詈雑言の嵐。


 だが、この東側に居たのは、そういう下位の高校の生徒達。


 いつも自分達を見下しているエリートを公の場で潰せる唯一と言っていい場。彼らにとって、臥内は希望であった。


 だからかけられる言葉は、裏に腹黒さを抱えた温かきもの。


 岬達は違う考えで勝ち上がってきたのだが、その気持ちはよく分かり、同調はできた。


 だから岬達は、今言葉をかけてくれる学校の思いも受け止め、闘う事を決意した。


 無駄な体力を使わずに抜けられた臥内。


 さっさと東門へ向かおうとした岬達の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。


 音源は、校舎と校舎の間にできた隙間のさらに奥。


 時間は、ある。


 観客達は既にグラウンド側に視線を戻していた。


 いや、それらの条件がなかろうと、彼女達は向かっていたであろう。


 その狭い道を通るのではなく、門に向かう途中にある曲がり角から迂回する形で、音源から死角になる場所へ辿り着いた。


 その光景を窺う係りは、視力のよい久澄に自然となっていた。


 少しでも姿が見えないように、瞳を精一杯端に寄せ、最小限だけ顔を出す。


 そこでは−−、


「おいおい、勝つ気なのかよ」


 小詠を校舎の壁に追い込み、その正面で腕を組み仁王立ちする線の細い男子生徒。


「流石、生徒を誘惑して慕わせているビッチ先生。オレも世話になりたいぜ」


 小詠の右半身近く。顔を彼女に寄せ舌なめずりする吊り目の男子生徒。


「見てたぜ、午前の部最後。他人偽造にやった行為」


 小詠の左半身近く。他人を見下す笑みを浮かべる男子生徒。


 三人共、川上学園の体操着を身にまとっていた。


 久澄は、その光景を観察する目つきで見ていた。


 いつも通り冷静で居たからこそ、怒りを一瞬にして湧き上がらせたクラスメートを制する事ができた。


「どうして!!」


 怒っていても状況が読めているようで、囁く声で訊く岬に、久澄も同じような音量で返した。


「相手は川上学園だ。今出たらこっちが潰される」


 しかし、その注意は逆効果だったようで、怒りがさらに膨れ上がる。


 だから、


「分かってるのか? 潰されるのは小詠先生もだぞ」


 そう呟いた。


 再び怒りが増すも、行動に移そうとする雰囲気は一旦消え去った。


 その間にも、向こう側では会話が続く。


「子供がなんて」「いいのか? 刃向かって」


 先生らしく、自分が侮辱されるより、その言葉使いを注意しようとした小詠の発言を正面に立つ男子生徒が遮った。


「俺様は、洋頭ようず家の人間だぜ?」


 聞こえてきた家名に、思わず久澄は舌を打ちそうになった。


 この街は、MGR本社の金銭で成り立っている。


 しかしMGRも一企業。株主という存在がある。


 世界に十。その内の三つが日本に。


 和ヶ原。洋頭。中馬ちゅうま


 あの偉そうな男は、その一つの関係者。


 もし機嫌を損ねるような事があったら、厄介な何かを起こす、と暗に告げているのだ。


(じゃあ、あの脇に居るのは、腰巾着か)


 目新しくもない構図だな、と久澄は冷めた意見を持つ。


 小詠は俯いて、下唇を噛んでいた。


 あのような反応をするという事は、自分達が気付く前からかなりの量を、それも生徒達について罵倒されていたんだろう。


 その事が少し、久澄の精神を逆なでだ。


 洋頭の男子生徒は、右腕に付けている煌びやかな装飾のされた悪趣味な腕時計を窺った。


「もうこんな時間か」


 確かに、久澄の体内時計でも、開戦まであと二分しかないとなっていた。


「じゃあ、せいぜいお前の抱える生徒が地に這いつくばる様を見てるがいいさ」


 自分以外の全てを馬鹿にしたような哄笑。脇の二人が退いた事で、それは終わりに思われた。


 しかし。


「じゃあな」


 洋頭の男子生徒は小詠の顎を上げ、そのシミ一つない白い頬を、舐めた(・・・)。


「ヒッ!!」


 小詠の目から、涙が零れた。


 そんな苦しみの雫の味さえ楽しむように、ゆっくりと、何度も、舐めた。


 そして、小詠が崩れ落ちてようやく、洋頭の男子生徒はその場を離れた。


 あとに残ったのは、小詠の嗚咽。


 何があったかは分からないが、取り敢えず泣いている小詠の元へ向かおうとしたクラスメートを、久澄はまたしても制した。


「なんで!!」


 再び、岬。


 それに溜め息一つ吐いてから、久澄は告げた。


「この場面を俺達に見られていたと知ったら、小詠先生どう思う?」


 それだけで、充分だった。


 再び溜め息を吐く久澄。


 そして、


「お前ら、勝てよ。今内に渦巻く怒りを全て、試合にぶつけろ。代表以外は、応援に込めろ」


 声色はいつも通りながら、有無を言わさぬ威圧感。


 普段は何を考えているか分からない存在だったが、クラスメートの殆どが初めて、久澄という人間の一部を、知る。


「俺達の恩人を侮辱したんだ。汚したんだ。泣かせたんだ。ぶっ飛ばす以外、許せる通りがあるか?」


「……ないな」


 ポツリ、と誰かが呟いた。


 それに連鎖して、感情が爆発していく。


「有り得ない」「ふざけるな」「家が全て?」「舐めている」「許せない」「やってやる」「お、同じ、株主、家、として、恥ずか、しい」「金にものを言わせる」「時代遅れね」「やー、そもそも女性を泣かせる輩は」「死んだ方がいい」「いや」「死より恐ろしい」「屈辱を」「川上学園に怨みはないが」「潰すぞ、マシで」「親のすねかじりの天狗の鼻を」「折る」「もぎ取る」「砕く」「天狗の顔のように赤く、恥辱で顔を赤く染めさせてやる」「そして」「小詠先生に謝らせる」「土下座だ」


 小さな声で、音もなく拳を握る。


 今の彼らは、一人の女性のために怒れ、闘えるヒーローだった。


 その中で二人。怒れない者達。


 久澄と奈々美だ。


 久澄は寄ってきた奈々美の耳元に顔を寄せ、決して他の人達に聞こえないように配慮してから、告げた。


「手を貸してほしい」


「何です?」


 奈々美は唇を動かさず、聞き返す。


 それに久澄は、


「俺には俺にしかできない事をやる」


 平坦な声音で、そう言った。





 日本支部の体育祭の競技の一つ、騎馬戦において、馬は二人編成となっている。それが五騎。


 臥内高校一年二組の生徒数は二十八名。そのうちの十五名が出ている。


 そして、騎馬戦の勝利条件は、騎手が頭に被る帽子を取るか、騎手を馬から落とすである。


 そしてこの競技に対して必勝の条件ともいえる特殊才能保持者が居た。


 先導岬。


 彼女の特殊才能は、視覚系。空間転移系の才能並に保持者が少ないものである。


 その力は、先読み。筋肉や骨の動き。体重移動。木々の揺れや砂煙の立ち具合から、次に相手が行う可能性の高い(・・・・・・)アクションを数秒前に認識できるというもの。絶対に当たるわけではないのと、北極の謎を解明する力はない事から、ランクは1となっている。


 しかし、騎馬戦等の体重移動が鍵となる運動では、その力は有利に働く。



 次の移動が分かれば、その方向に向けて特殊才能で衝撃を与える事でバランスは崩壊し、騎馬は崩れる。


 そのための特殊才能保持者も揃えられている。


『定時になりました。両校代表は、騎馬を組んでください』


 やる気も充分。教師の声に従い、彼女達は騎馬を組んだ。


『両校、入場です!!』


 その言葉に、グラウンドが、観客席が湧いた。


『フレー、フレー、臥内!!』


 応援組も、観客の歓声に潰されない程大きな声で、叫ぶ。


『行け行け、がだ……い?』


 それが突如として、消えた。


 理由は、遙か先から来た、一つの騎馬。その上に乗る、騎手。


 赤い髪に赤い瞳。


 この街に住んでいる者に、知らぬ人は居ないと断言できる程の有名人。


 ランク4。第五位。


 炎熱姫、鈴香赤音。


「な、なんで!?」


 呆然とする皆の心中を代表するように、岬は呟いた。


 今まで、影も形も見せなかった川上学園が誇る唯一のランク4。


 全体種目にも出てこなかったので、今大会は〈風紀委員〉で出場できないのだとばかり思っていたのだが。


 現実は、甘くなかった。


「……それでも」


 自分に言い聞かせるように、岬は口にする。


「私達は勝たなければいけない」


 その言葉に、騎馬達の失われていた士気が戻る。


『フレー! フレーッ! が・だ・い!!』


 応援側もそれを改めて意識したのだろう。応援が、再開された。


 しかし、すぐに彼女達は知る事となる。


 圧倒的な力の前では、小細工など通用しないと。







 二校の騎馬は、十メートル離された白線にそれぞれ並んだ。


 岬の伊達である眼鏡は、外されていた。


 つまりこの瞬間から、彼女の特殊才能は発動しているという事。


 そして、


『試合、開始!!』


「右奥騎馬、膝右! 左奥は後ろ!」


 岬の宣言通りの体重移動をする騎馬達。


 だが、その騎馬達が崩れる事はなかった。


「このっ! 炎熱姫ッ!!」


 味方の騎馬が崩れていたのを視認し、岬は顔を歪ませ叫んだ。


 生理現象。脊髄反射。


 例えば、熱せられたやかん。


 触れた瞬間に、熱を感じる前に手を引く。


 それと同じ。


 炎熱姫。二つ名に炎熱を持つ炎熱系才能保持者。


 炎と熱を操る姫。


 今回使われたのは、熱。


 人の反射を利用して、バランスを狂わせる。


 圧倒的力の前では、どんな知謀も意味をなさない。


 それが現実。世界の真理。


 目に見える現象はなく、ただ『熱』という人が恐れるソレに飲み込まれ、岬は地に落ちた。







『Bブロック優勝は、川上大学学園付属高校に決定いたしました!!』


 どの競技の時よりも湧き上がる歓声は、残酷に臥内高校一年二組の生徒達の心を抉った。


 先程まで臥内に希望を見ていた三区の学生達から身勝手な失意の声が上がり、西側に居る四区のエリートから侮蔑の目線をぶつけられているのも気にならないくらいに。


 絶望。規模は小さくとも、そう言い表すのが正しかった。


 金や才能。そんな生まれながらに自然と備わっていたものに、重い思いを持って闘いに行った自分達が負けたのが悔しかった。


 理不尽こそが世界だと、許容するには彼女達は若すぎた。


「みなさ〜ん。大丈夫ですぅ〜!!」


 失意の生徒達の元へ、本当に心配した感の声音で小詠が駆けてきた。


 目の赤みがとれるのを待っていたため遅れたのだろうが、まだ目の端が少し腫れていた。


 それが、またしても彼女達の心を抉る。


「でも凄かったですよぉ〜。臥内高校が決勝までこれたのは、初めてですしぃ〜。みなさん、よく頑張りましたぁ〜」


「……ごめんなさい」


 あくまで屈託のない笑顔で褒めてくる小詠に、岬は耐えられず心中を吐露してしまう。


 小詠は、校舎裏であった事を知らない前提で話している。そして見られていたと知ったら、大きな悲しみと苦しみを得るのは予想できた。


 分かっていながら岬は、それでも罪悪感と無力感に耐えられなくなってしまったのだ。


「だって先生……私達が勝たなかったら」


 そして、決定的な一言を漏らしてしまう時、


「「「すいませんでした!!!」」」


 川上学園の体操服に身を包んだ三人の男子生徒が、スライディング土下座で割って入る。


 その三人の声に、全員が聞き覚えがあった。


 洋頭の男子生徒とその腰巾着。


 いきなりの事に困惑する小詠と生徒達。


 そんな感情なんて知らず、三人は顔を上げ、地面に思いっきりぶつけた。


「「「本当に、すいませんした!!!」」」


 三人は、何故かガクガクと震えていた。


「あの先生様。こちらをお納めください」


 体制はそのままに、ビニール袋からウェットティッシュの箱を取り、手だけを上げて差し出す。


「ミクロレベルで細菌が落とせるという一品です。どうかわたくしめが汚した頬をこれでお清めください」


「はぁ〜」


 話が理解できていない小詠だか、言われたとおり受け取り、舐められた頬を拭く。


 そして使い終わったウェットティッシュを「ゴミ袋」です、と差し出されたビニール袋の中に放る。


「洋頭君、顔を上げなさい。他の二人も」


 そしてその後、小詠は普段とは違う真剣な口調でそう命じた。


 逆らえない洋頭と腰巾着は、震えながら面を上げる。


「あなた達のやった事は許されない事です。これは、分かりますか?」


「……はい」


 逡巡が入ったが、それでも洋頭はそう認めた。洋頭の意見は、そのまま腰巾着の考え。それを見抜いていた小詠は、二人にわざわざ確認しない。


「本当に、そう思っています?」


「……はい」


「本当に思っているなら、迷わない!!」


「はい! 自分がした行いは、してきた行いは許れる事ではありません!!」


 泣きそうな顔で、洋頭は声を張り上げた。


 そんな彼の頬に軽く手を当て、小詠は笑顔と共に頷いた。


「けど、分かっているなら、やり直せます。他の二人も、ね」


「「「えっ?」」」


「生けし者、過ちは侵します。それを反省できるなら、やり直しの機会は与えられるべきなんです」


「「「せん、せい?」」」


「はい、わたしは先生です。だから、あなた達にやり直す機会を与えます」


「「「先生!!!」」」


 小詠が言ったのは、砂糖みたく甘い綺麗事のように聞こえるが、それでも彼らの心に届いたのは、一片の迷いもない善性のためだ。


 薄宙小詠という人物は、本気で人間の善性を信じており、対話を試みれば誰とでも分かり合えると真剣に思っているのだ。


 それに、まとう雰囲気。


 綺麗事を鼻で笑うより、この人の言った言葉なら信じてみよう、と思わせる光の感じがあるのだ。魔術側の、聖母のような性質が小詠には存在していた。


 生徒達はそれを見て、呆気にとられる、ではなく、笑顔を浮かべた。


 小詠はどんな状況でも、みんなが救われた先生だと確認できたからだ。


 彼女達が怒りを覚えたのは無論、小詠を傷付けられたからだが、小詠自身が傷を付けられた事を許してしまったのなら、彼女達が怒れる道理はないのだ。


 結局いつも(・・・)の展開。一時期とはいえ世界の裏側に身を浸けていた萌衣さえ溜め息混じりの笑みを浮かべる状況。


 そして萌衣は、この状況を演出したであろう少年を探し、視界に入れる。


 自分達が立っている場所から見えそうで見えにくい人混みに隠された校舎。彼はそこの壁に寄りかかっていた。


 萌衣は誰にも気付かれないように自然と輪の中から抜け出し、彼の元へと駆けた。


 目的の場所に辿り着くと、既知の少女も目に入ったが、関与しているのを確信していたので、構わず今頭を占めている疑問、というより既に分かっている解を答え合わせするような感じで告げた。


「あんた、あいつらに何したのよ?」


「別に、何も」


 帰ってきたのは、普段通りの平坦な声音だった。


 萌衣はわざとらしい溜め息を一度吐き、会話を続ける。


「見た感じ、外傷も内傷もないみたいだけど。どういう風にあのエリート様の無駄に高いプライドを折ったの?」


「んー」


 悩むように唸る。しかしそれは、話す事に対してではなく、どう言い表すか悩んでいるようだった。


 そして彼−−久澄碎斗は、首を鳴らして答えた。


「何もしてないよ。先導が勝手に折れそうになった時は焦って恐怖心を煽ったけれど」


 その答えとも言いずらい答えに萌衣は、ああ、だからあんなできたタイミングで割り込んできたのか、と疑問として上がってこなかった程些細な引っかかりを解消した。


 元々何をしたかなんて興味は薄く、よくある友達同士のくだらない会話と同じものだった。


 そしてそんな日常を端から見せられた奈々美は、手持ち無沙汰な思考で久澄のした事を、新たな恐怖の植え付け、と判断し、数分前まで行われていたその時を始まりから思い出していた。







 奈々美から見て、久澄が行おうとしている計画は、高校生がやれる限界に近いものであり、無駄な時間の浪費だった。


 ただ、久澄碎斗という人間は、普通の状況でも人のために怒れる人間なんだな、と感じた。


 それを口にすると本人からは、


「いや、怒りはないよ。けれど、ああいう意味もなく尖ろうとしている輩を見ると、呆れて叩き潰したくなるんだよね。だけど確実に怒りは混じっていない」


 言葉として語られたように、呆れの口調でそう弁明した。


 恩師が傷付けられてそれとは、らしいと言えばらしいが、呆れという感情を表しているのも事実ではあった。


 基本的に受け、というより、必要最低限−−友達同士の馬鹿話も必要に入る−−以外話さない彼女らは、それから一言も話さず、表の喧騒からかけ離れた雰囲気の高校側体育館裏に着くと、言われた通り奈々美はその前を歩く。


 そしてそのまま表側に向かい、同じく表側にて待機していた久澄は、体育館裏が見える監視カメラ、その類のものは幾つあるか訊ねた。


 川上学園は流石の優秀校。死角なく張り巡らされる監視網を虚偽なく報告する。


 成る程、と呟いた久澄は体育館裏に向かい、その左目に宿る力に意識を向ける。


 原視眼。


 錠ヶ崎寧々が封じきれず漏れ出た精霊眼の力から構成した、原子を視て、それに類するものを操る眼。


 その力を使い監視カメラを停止させる。


 正確には、固定だ。映す景色をそのままに、停止させたのだ。


 基本的にこういう表側が盛り上がるイベントの場合、問題が起こるのは裏側なため、警備員もかなり注意しているだろうが、風景がそのままなら気付くのは遅れるであろう。


 そして久澄はそのまま視る。


 洋頭が付けていた煌びやかな腕時計。それに使われている金を。


 純金かどうかは分からなかったが、見た感じメッキ等ではないと判断した久澄は正しかったようで、彼の脳内に意外と近くを移動する金の反応が視えた。


 久澄は原視眼で視るものの設定を増やし、川上学園の構造を原子で映す。


 迷路のように複雑な造りになっていたが、上手く使えば洋頭の元へ近道ができそうだった。


 久澄はそのルートで走り出す。


 奈々実はその場で待機する。




 駆け出し一分後。洋頭に先回りするように久澄は表へ姿を出した。騎馬戦は、まだ始まっていない。


 だが時間がないのも事実。


 久澄は人混みを粗くかき分け、洋頭の肩へわざとぶつかった。


「ってえな」


 洋頭は苛つきを隠さずに呟く。


 そこで謝るのが普通だが、久澄は俯き、半月のような笑みを唇に浮かべた。


「あ゛っ、何だテメェ。舐めてんのか!?」


 頬を軽くひくつかせながら、洋頭は拳を握った。振るわなかったのは、ここが人混みの中だからだ。


 この場では暴力が振るえないと理解していると確認した久澄は、笑みはせのまま中指だけを立てた。


 そしてそのまま、来た道を駆け戻る。


 さんざんコケにされ逃げ出した久澄に、洋頭は腰巾着を引き連れ怒りと共にその背を追いかけた。






 体育館裏。そこまで来て久澄は、立ち止まった。


 ちなみに、駆けた道の監視カメラは、全て潰してある。この場所だけ奈々実にやらせたのは、警備の強い場所なため分かり難い所に隠された監視カメラまで見つけられる自信がなく、長年プロをやってきた奈々実に見つけさせる方が確実だと判断したためだ。


 そうとも知らず−−考える冷静さもなく−−誘われてきた三人。


 学校でも洋頭の名を利用してそのプライドを磨いてきたのだろう。あんな軽い挑発だけで顔を赤らめていた。


「黒の短パン……ああテメェ、臥内のか。もしかして、あれを見ていたのか」


 黒い膝まである短パンと白のシャツ。それが臥内高校の体操着。それを見破る冷静さは残っていたようで、無駄に声を荒げその可能性を口にした。


「滑稽だな。滑稽だよ。どうせ考えているのは、復讐ってところか? なら止めとけ。喧嘩なんざ一対一でようやく成立するもんだ。今は三対一。それに何より、お前は決して俺には手が出せないんだからな」


 何故なら、と洋頭は下卑た笑みを浮かべ、言う。


「俺は洋頭の人間だからな」


 この街に存在する誰もが敵対したくない名の一つ。


 もしこの街が空中分解してしまえば、特殊才能なんて特異な技術を受け入れてくれる普通の場所はない。


 悪徳研究所の実験動物。


 誰もが思いつく可能性だ。


 から、逆らえない。


 三家は、それぞれ横つながりのネットワークを持っている。三家とも日本支部に子供を預けているのだが、もしどの家かが不穏な話をリークすれば、子供を保護し、MGRの大株主を止めるだろう。その時の話は、嘘まがいの噂でも構わない。危険だと思えば、即刻手を引くのだ。


 それ程の権力。から洋頭はあんな下種な行動をしても、許される。


 それらを踏まえて、久澄は溜め息を吐いた。


「くっだらねぇ」


「あぁ?」


「幾つか訂正させてもらうぞ」


 久澄の意外な態度に呆気にとられた三人は、口を挟めなかった。


「まず、復讐なんかじゃない。お前なんかに復讐する理由も価値もないからな」


 洋頭の頬がピクリと動いたが、構わず久澄は歩み寄りながら、二つ目、と告げる。


「まあ、簡単な話だ」


 平坦な様子で、いつも通りの表情で、彼は口にした。


「俺別に、この街がどうなろうと構わないんだ」


 その時、三人の背筋に嫌なものが走った。


 彼らは具体的な心理を表す事を避けるだろうが、それは確かに恐怖だった。


 普通の相手になら嘘をついていると判断できたが、何故か久澄に対してはできなかった。


 それどころか、それを真実だと判断してしまうくらいに、その言葉は三人の心にまで染み入ってきた。


 何か、得体の知れぬものの感情を揺さぶってしまったのかと、三人は背筋を震え上がらせる。彼らは知らないが、久澄は今年の四月、裏稼業にまで足を踏み入れていた中馬の一人娘に喧嘩を売り、屈服させていた。


 人を殺した事のある者が、ないものとは決定的に違う空気を醸し出すように。三家の一人を潰した経験のある久澄の独特の雰囲気に、同じ三家の洋頭、そして長らく腰巾着をしてきた二人も呑まれてしまっていたのだ。


「く、くるなっ」


 恐怖により怒りへ水を差され、洋頭は恐慌をきたし後ずさる。


 そんな洋頭へ、凄惨な笑みを浮かべて久澄は駆け寄る。


 いきなりの加速に三人は尻餅をついた。


「い、いや、だ」


 外聞も何もなく、彼らは本能の命じるがままに逃げを選択する。


 が。


 具体的な暴力はなかった。ただ、言葉をかけただけだ。


 体育館裏に絶叫と、騎馬戦の開始を告げるアナウンスが響いた。








 外部から人が来ないよう見張り番を命じられていた奈々実には、何が言われていたのかまでは予想できない。


 ただ、あの空気に任せれば簡単な悪意でも折れそうな雰囲気ではあった。


 とそこで、新たなアナウンスがかかった事に気付く。


『全ブロック、決勝が終了致しました。Aブロック、冷兎高校。Bブロック、川上大学学園附属高校、Cブロック、翆羅すいら高校です』


 妥当な、言い換えればつまらない結果。


 ランク、警務、研究。


 行政と司法は敗北するのは、特性上の問題である。


 一番あり得た学校同士の決勝である。


 去年も、同じ組み合わせであった。


 そして最終的に優勝するのは−−


「まっ、これなら川上学園かな」


 久澄がそう断言した。それに奈々実も萌衣も同意見だった。


 ブロックではなく体育祭としての決勝は、代表を一人選んで実際に特殊才能をぶつけ合い、闘う事。


 そして勝ち上がってきた代表三校でランク4が居るのは、川上学園だけ。


 そして三時ちょうど。決勝が始まる。








 決勝の場所は、川上学園のグラウンド中央。そこに仕込まれた演算型特殊鉄板の上だ。


 演算型特殊鉄板とは、倒れたりする際に発生する衝撃を一瞬で演算し、その衝撃を無効化する鉄板の事。踏んだり触ったりする感じは普通の鉄板である。


 全観客が見やすいように少し上がった青銅色の正方形の上には、一人の少年と二人の少女。


 黒色の髪と茶色の髪。日本人然とした髪色の中では、火のような赤色の髪は目立った。


 そして、


『レディィィィスアーーーーンジェントルメェェェェェン!!』


 なんかもうテンションがおかしい司会は、教師ではなく、学生が行っていた。


『おらおら観客ども、もっと盛り上がれっ!!』


『オオッッッッッッッッッッッッッッッ!!』


『いいぜいいぜてめぇら。それでは選手紹介だ!!』


『イェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!』


『まずは冷兎高校! 水といえばこの人! ランク3、氷水系才能、亜莉栖有明ありすありあ!! おらおらてめぇらのアイドルの登場だ。アリアファンども、騒ぎやがれーーッ!!』


『ア・リ・ア! ア・リ・ア! L・O・V・E・A・L・I・A!! イェェェェェェェェェェ!!』


 茶髪の少女に向け、グラウンドの一角が物凄い盛り上がりを見せる。


『いいぜいいぜ! いい具合に気持ち悪いぜ。

 さてお次は、氷を扱わせたら日本支部一! 翆羅高校、ランク3、同じく氷水系才能、刈上壬生かりがみみぶだ!! 特にファンクラブはないが、自営業している「ICE・KARIGAMI」をよろしくだぜ!! てかお前ら、帰りによってやれッ!!』


 有明程グラウンドは盛り上がらず、黒髪の地味目な少年である壬生は、大きく肩を落とした。


『さぁぁぁぁぁぁぁぁぁてッ! 最後に大本命! 川上大学学園附属高校、めんどくせぇから川上学園と略される事の多いこの学校からは、炎熱系最強のランク4、炎熱姫、鈴香赤音だ!!』


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


『世話になったワルは何人だ!? 裏路地では〈赤き死神〉という中二臭い異名を持つお姫様だ! だが美しいものには棘がある。下手に触れりゃあ火傷するぜ!! そしてなによりこの街において飛び級をした天才児。実年齢はまだ十四だ! オヤジども、反応したら犯罪者だぜ!!』


『URRRRRRRRRrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!』


 言語化不可能なくらいにまで湧き上がる歓声に、司会の男は、深い笑みを浮かべさらに続ける。


『さてさて盛り上がりはそのままに勝敗予測だ! 冷兎と翆羅は炎熱姫対策の特殊才能保持者だな!! どの程度粘れるか知らないが、もし上手くやれば、番狂わせは有り得るかな!? そうなった場合、有明と壬生。二人の才能勝負はどうなるのか!? 有明海の水か壬生の氷。ああ、そんなのはどうでもいい? そりゃそうだ。じゃあ始めるぞてめぇら』


 司会はそこで大きく息を吸い、


『決勝戦、開始!!!』


 ハウリングしながら、決戦の火蓋を落とした。







 刈上壬生は氷水系才能の中でも氷を専門としている。氷瓢武舞ひょうひょうぶぶと表させる氷の特殊才能を使った独自の武術を開発し、その力で体育祭を勝ち上がってきた。


 氷を用いて飄々と、武でありながら舞うように。


 それが、極意。


 冷兎の有明は水を専門に扱っているため、無論炎熱姫を狙うだろう。


 自分も、同じ。


 氷を用いて滑るために自分の靴裏に氷の膜を張り巡らした瞬間、横合いからの衝撃によりステージからグラウンドへ落下した。


 ステージから落ちるのは、敗北条件の一つ。


「な……なにが」


 壬生は、落ちてからも原因が理解できていなかった。


『ああーーっと。刈上壬生、ステージアウト。まさかの状況。炎熱姫を協力して攻めると思われた亜莉栖有明が刈上壬生を倒したー!!』


 司会の説明でようやく理解が追いつく。


 ステージを見上げると、有明は口角の端を上げていた。


『なんという小悪魔! だがそれがイイ。だろ、お前ら!!』


『オウイェェェェェェェェェェェェェ!!』


 有明ファンがさらなる盛り上がりを見せるが、壬生の耳には既に届かず、自身の甘さと敗北の苦味を噛みしめていた。






 壬生が失格になったことで、一対一。


 お互いに消耗のない、ベストな状態。


 有明は笑みを深いものとした。


 この街において、いや、日本に住んでいるならば、亜莉栖有明の名を知らぬ者は居ないだろう。


 現役女子高生アイドル・アリア。


 ソロで活動しているトップアイドルの一人。


 映像にその場を奪われかけているアイドル界をどうにか支えている一人である。


 その形の整った容姿と決して荒れないファッション。出る杭は打たれ、美しきは食われる世界にて、汚れを寄せ付けずに活動している強かな女性だ。


 そして何より、その頭脳。


 頭の良さとは、何も勉強だけではない。立ち位置、空気、行動。それらを判断する能力が、有明海は高いのだ。


 そしてその頭脳は、炎熱姫への敗北を導き出していた。


 二人かがりでも不可能。どんなに頑張り、醜くなろうと勝てない。


 ならば気にすべきは美しさ。二人で負けたとなるより、一人で負けた方が格好がつく。無論、自分が壬生を倒してしまったため馬鹿だとは思われるだろうが、そちらの方が幾分マシだった。


 赤音はその考えに気付いたのだろう。嘆息を吐いた。


 それに有明は、頭にこなかった。


 赤音が他者を馬鹿にする人間ではないと知っているからだ。


 では何故溜め息か。その答えも有明は分かっていた。


 年に一度の体育祭。来場者は凄く、グラウンドに入れない観客も出てくる。


 去年は画面からしかみれなかったかも知れない観客が、今回はこの場に居るかも知れない。


 だから赤音は、ギリギリまで楽しませるために、闘いを長引かせようとしていたのだ。


 だが有明が美しさに拘ってしまったため、それが破綻した。


 いや、本当は赤音は付き合う必要はなかった。


 しかし赤音は、有明に恥をかかせないために早期決着を決めた。


 どういう心境かは窺えない。が、赤音がそう決めたということは、有明は数秒後には地に伏しているだろう。


 そして−−。


 高さ十メートル、横幅はステージギリギリの二十メートルの大津波を起こした有明の能力は、しかし一瞬で蒸発し、有明も眩暈を覚え、地に伏した。


 それから十秒後、


『勝者、鈴香赤音! よって優勝は、川上大学学園附属高校!! 三連覇だッ!!』


『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』


 圧倒的な勝利を見せられ、会場は学校など関係なしに湧き上がった。






 時刻は四時。夕日を想像させる時間帯だが、夏場のためまだ明るい。


 決勝終了後、開会式が行われ、優勝旗は川上大学学園附属高校に。


 そして今は、観客が続々と帰り始めている。


 観客が全員帰った後、日本支部側が後夜祭の準備をしてくれる運びとなっていた。



 後夜祭は六時からの予定だったが、司会が言った『ICE・KARIGAMI』に観客の殆どが本当に向かってしまい、予定を三十分繰り下げる事となってしまったのだ。


 取りあえず時間はあるので、皆一旦解散する流れとなった。


 そんな訳で奈々美と共に十五分程かけて自宅へ。


 久澄は家に入ると、そのまま脱衣場に向かい汗を流した。


 十分くらいで汗を流し終え、白のTシャツに黒の短パンという洗濯機の中に投げ込んだ体操着と変わらぬ配色の、夏の夜を過ごすに良い楽な格好となった。


 小腹の空き感じ、冷蔵庫を漁り、何もないのを視認し、暇つぶしも兼ねてコンビニに向かおうと、財布片手にドアノブへ手をかけた。


 その時−−


 耳朶を大きく叩く爆音が響いた。


 すぐに靴を履き、外へ出た。


 見れたのは、二区にあるとあるビルが半壊している風景だった。


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