結神契 Side4
時刻は午後二時。日の光が最も強い二時間を越え、先程よりは過ごしやすい陽気の中、契は表通りで堂々と舌を打った。
二時からは後半戦。本番が始まる。午前より人通りはなく、皆開催校か、大型スクリーンが設置された開館に足を伸ばしている頃だ。店も売れ時は終わり、畳み始めているのが多々見受けられる。
だから契が雰囲気に合わぬ行動をしても、誰が気に止める事はない。
舌打ちの理由を告げた式紙は、黙って契を見つめている。
契は髪をかきむしりながら、周りの耳に気を付け呟いた。
「夜霧の目に引っかかったか」
「どうします、契様」
式紙の声も、潜められたもの。
「作戦を早めますか?」
「……監視は」
「二区のとあるビル前に待機しています」
契が苛つきを露わにしているのは、水城飛鳥に付けていた式紙から、彼女が不審な場所に入ったと知らせを受け取ったから。
二区は日本支部の研究区。体育祭出場選手、さらには二時から始まるリレー代表の飛鳥が今から向かうのはおかしい場所。
ならば簡単。『マギ』の失敗を受け、夜霧は科学魔術の保護にかかったのだ。
(もうちょっと時間をかければ良かったか)
内心で臍を噛むも、過ぎた時間は取り戻せない。
考えた末、契は自らの主義には反さない結論を出した。
「罪なき一般人を巻き込むわけにはいかないから、作戦は計画通りに行く。監視はそのままに。ただし、中心を変えるわ」
「と、言いますと」
「匿われた標的が居る場所を集中的に攻める。そうすれば否が応でも彼女を別の場所へ移そうとする。無論、そのビルに居ないだろうけれど、生体反応を追えばいいわ。みんなにそう伝えて」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げ、その状態で式紙は硬直した。
「送信、完了しました」
数秒後、面が上げられる。
「ありがとう。じゃあ、私達も行くわよ」
「? どちらへ?」
その疑問に、契は笑みを浮かべ、答えた。
「〈塔〉よ」
夜霧が動かしたなら仕方ないと、本気の認識阻害により誰にも気付かれず、屋根の上を壊れないぎりぎりの力で跳んで行く。
加減してでも、〈聖人〉の一跳びは十メートルを越える。
久澄が使う裏道以上のショートカットで、契は禍々しくも堂々と建つ〈塔〉を囲む門の前に降り立った。
別に契はこれから〈塔〉を襲いに行くわけではない。
命令にないからだし、それ以上に生きて帰れない可能性が高いからだ。
それ程までに、夜霧の抱える『闇』は深い。
なら何しに来たのか。
答えは、観察。
写真では見れない風景や、感じられない雰囲気から、〈塔〉の正体を探りに来たのだ。
(……表面的な科学技術は甘いけれど、この門は多分、対魔術師用ね)
契の読み通り、この四方を守る門は、中国の四神の、或いは、四獣の意味合いを持つ。
東の青竜。西の白虎。南の朱雀。北の玄武。
それぞれの門をよく見れば、各々の方角を司る聖獣の紋が彫られている。
それだけでなく、中央の〈塔〉は天を突く事で竜を連想させ、中央の黄竜とし、五行に対応させている。
もし魔術師が魔術攻撃により無理矢理門を破ろうとすれば、MGRの魔術師により固定された、擬似・聖獣が姿を現し、戦う事となる。擬似とはいえ、一つの国で聖獣とされている生物。〈聖人〉一人居てようやく勝てるレベルである。
もし破ったとしても、中に入り込んだ瞬間五行が発動するようになっており、五行説の『互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環する』という思想を利用した生命力の循環が発動し、魔術が使えない状態へ追い込まれる。
まさに、魔術師殺しの地の名に相応しい。
それらを風景から読み取った契は、意外感を得た。
魔術師の多くはキリスト(カトリック)教の信者。このような何かをベースにした場を作る場合、そちらの神話が引用されているとばかり思っていたからだ。
(まっ、それが知れたのは一つの収穫よね)
命令の一つを消化した契は、人が集まる四区へ戻るために、再び屋根を跳びだした。
〈塔〉のもう一つの意味に気付く事はなく。
そこまで考えが回っていれば、科学魔術の本質に近づけたのだが、気付けない事が魔術師というものを表していた。
だがもし気付いてしまったら、それだけで大きな大火を生むきっかけとなっていたであろうソレを見落としたのは、多くの人間にとっては救いであった。
例えそれが、数時間の足掻きであろうと。




