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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 体育祭
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結神契 Side3

 食べ歩きを金銭的問題で中止した契は、裏路地をさらに深く入ったところにある廃墟ビルに居た。


 隣についていた式紙は今、紙の状態でズボンのポケットへしまい込まれている。


 理由は単純。足手まといだからだ。


「隠れていないで出てらっしゃい。私はあんた達がついて来られるスピードで走ったんだから」


 契が声をかけると、どう隠れていたのか、柱の陰や天井から軍服に身を包んだ人間が現れる。


 その中の一人、代表らしき筋骨隆々の男性が口を開いた。


「我々は純魔術裏組織『マギ』。要件は分かっているな、結神契」


「嫌よ。例え戦争になったとしても、科学魔術保持者は殺させてもらうわ。私達魔術側がギリギリの線で踏ん張っているのはご存知でしょ」


「……なら、話し合いは無用だな……行かせてもらう」


 そう言うなり、容赦なく契に様々な現象が襲いかかる。


 摂氏百度を超える火の玉。ガスの発生。廃墟から伸びる石の槍。


 それらを避けようとした契の動きが、膝を曲げたところで止まる。


 マギの事象改変使い全員が全魔力を使い動きを改変する。


 動を、静に。


 〈聖人〉が本気を出せばそれくらい、一瞬で解けるのだが、


「無理だろう、こんな廃墟では本気を出すのは。目立ってしまうからな」


 そう。あくまで契は隠密裏に任務を執行しなければならない。


 こんな廃墟でも、一応はMGR側のもの。


 こちらに正当性のある、もっと言うなら相手に非のある事象にて壊したならともかく、〈聖人〉の実力を鑑みた場合、これは喧嘩と評され、あまつさえ喧嘩如きで建物を壊したとなれば、魔術側は一気にその存在を食われる。


 それくらい、魔術界は科学に追い込まれているのだ。


 それは契も重々承知している。


 それでも彼女にあるのは、笑みだった。


「私は結神の人間よ」


 ブン!! と風を裂く轟音が響くと、契の姿が消える。


 次の瞬間には、多くの人間が倒れた。


 筋骨隆々の男性を残して。


「大丈夫、気を失っているだけ」


 耳元で、囁かれる。まるで死神だと、男性は感じた。


「結神家は神道系の家。そこで作られた式紙が、ただの体術でしか動いていない私の動きに耐えられない結界を張ると思う?」


 男性はやられた、と感じた。


 このビルは四角。角と角を『結ぶ』事には大きな意味がある。特に、結神家には。


 それを踏まえ、男性は言った。


「思わない」


「いい子」


 男性の意識は、闇に落ちた。







「お見事です、契様」


 『マギ』達はそのままに、契は別の廃墟ビルの一室に移動していた。


 魔力を通し、付き添い、カモフラージュ用の式紙を人の形にする。


「……気になる事があるなら、聞いてもいいわよ」


 賛辞は聞き飽きているのだろう。呆れ顔で契は訊ねた。


 契と式紙は生命力の糸で結ばれている。多少の機微は感じ取れるのだ。


「ありがとうございます。では」


 遠慮がないのは、契がそう作ったため。自分が許したのに遠慮するのは、時間の無駄だからだ。


「この世界は、どうなっているのですか? 内から視ていた限り、彼らは魔術師でした。そして契様も魔術師です。何故同族同士で争うのですか?」


「そうね……変革の七日間の事は?」


「変革の石・アルファが原因とされる障煙が発生し、消えるまでの七日間の事を指します。この七日間ですが、神話上において神が七日間で世界を作ったという逸話と重なり、アルファは魔術寄りの物だと考えられています」


 データベースの文をそのまま読んだような棒読みに、契は頷いた。


「そこで一つの交渉があったの」


「交渉、というと、変革の七日間にて科学と魔術間での話し合いの場があったと」


「そう。一般市民の方はもれなく考える事を止めているから、誰も引っかかってないみたいだけど。なきゃあの状態は作れないわ」


 あの状態とは、障煙が開けた瞬間での全世界放送を指している。


「夜霧新が一人で、魔術界の総本山へ足を踏み込んできたの。宗教の違いで一枚岩ではなかったけれど、今も昔も変わらずローマである事には変わりないわ。立地的にあそこが集まるのにちょうどいいからね」


 適当な調子で告げる契。実際問題、宗教とは場所ではなく信じる心だと、魔術師全体が考えているからだ。


「んで、当時は水仙蒔華派と城ヶ崎寧々派に分かれていたの。この派閥も、ただ違う意見を持つための形式的な措置で、実際は華さんが全員を仕切ってたらしいわ。まあ、第二位、九氷果を除けば、第一位だったからね」


「現在の状況を鑑みるに、その形式的な措置が悪かったと」


 頭の回転の速さに、自分でそうしたとはいえ、契は舌を巻いた。


「正解! 華さんは拒絶したけれど、城ヶ崎寧々は手を組む事にした。その際、自身の派閥メンバーと華さんのところのメンバーをごっそり持って行く形でね。しかも厄介なのは、みんな賛同していたところ。城ヶ崎寧々も否定していれば、声にならなかった意見の筈なのに……結果残された魔術師は、全体の三割。幸いにして〈聖人〉は皆、魔術側だったけれど」


「つまり、MGR側の魔術師は裏切り者だと」


「そうよ。一応魔術師としての最後の一線は守っているらしいけれど……人工魔術師の酸漿奈々実や科学魔術保持者の水城飛鳥の例を考えると、夜霧は既に魔術のメカニズムを人工化できるっぼいからね」


 奈々実も飛鳥も偶然の産物で生まれたのだが、そのような誤解から、火種は燻ぶってゆく。


 そもそも偶然だとしても、それを応用してパターンを読み取れれば、量産化もできる、という可能性がある。


 一パーセントの可能性でも見過ごせないのが、魔術側の夜霧に対する評価だ。


「それに私達には、九氷果という汚点もある。その二つの対応に追われ、切り札の〈聖人〉も二人、失っている。手段を選んでいる余裕はないの」


「それが戦争になったとしても、ですか?」


「そうよ」


「では、あのような喧嘩をする必要性はなかったのでは? 不毛な闘いが最悪を起こすのは、喜ばしくありません」


「……ああ。最初に偏見を与えすぎたわね。そこは大丈夫よ。こんな長らく整備のされていない廃墟でもMGRの物であるように、魔術師も離れようと魔術師なのよ」


 契としては分かり易く説明したつもりだったが、式紙は理解できなかったようでで首を捻った。


「つまり、魔術師が魔術師と戦おうと、それは内部でのいざこざになる。でなきゃ九氷果は今頃私達の目の前に立ちふさがっているわ。そうならないように、華さんが夜霧新と交渉したの」


「よく認めましたね」


 式紙の尤もな疑問に、契は皮肉たっぷりの笑みを浮かべた。


「MGRの魔術師も一線は守っているって言ったでしょ。彼女らは科学に下ろうと、咎人を許さない常識ぐらいはあったの。だから城ヶ崎寧々が夜霧新に頼み、呑み込ませたという訳。大きなデメリットもなかったしね」


 全ては夜霧の手の上、と契は呟いた。


「神殺しを掲げた咎人を許さず、小さくなる古巣は見捨てる。歪んだ常識ですね……それとも、彼女らも苦肉なのでしょうか?」


「…………………………」


 自身が作った式紙から、自分の中にはなかった意見が出てきた事に驚きながら、一考の価値はあると思ったのか、しばし内側に思考を向ける。


「−−分かれた者の気持ちなんか、今留まっている私には分からない。けど、それでも、私達からはもう何も奪わせない。そのためなら昔の同族であろうと、イカレた科学であろうと……女子供でも容赦はしない」


 その声は重く、大きな柱が感じられた。


「だから私は、私の正義を以て科学魔術保持者、水城飛鳥を……殺す」


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