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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 体育祭
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久澄碎斗 Side3

 綱引き。この種目に簡単に勝つにはどうしたらよいか。


 それを理解するにはまず、綱引きのルールを知るところから始めなければならない。


 簡単に言えば二組の人間達が綱を引き合い、先頭の者が真ん中のラインに足を入れたら負け、そこまで引けたら勝ち。


 それらを踏まえた上で最も簡単なのは、相手が自分からラインを踏む事だ。


 例えば風力系の特殊才能で相手の背中を押すなどして。


 だがそれを臥内高校のレベルでやるのは不可能だ。


 では、どうするか。


 単純だ。相手が縄を満足に引けなければいい。


 縄を強く握って準備する臥内高校とその相手校。


 始まりを告げる空砲が鳴る。


 相手校の全員が転んだ。


 うるさかった観客の声が、なくなる。


 選手達もそう。いきなりの事に認識が追いつかず、全てが始まりと同じ通り。


 つまり、縄は握ったまま。


 それを臥内高校は引っ張り、一瞬で勝敗を決する。


 審判すら固まる一瞬の後、音が割れるような拍手と歓声が鳴り響いた。


 審判もそれに押されるように勝利校を口にする。


 臥内高校、と。







 このグラウンドの中で臥内高校が何をしたのかを理解できているのは、相手校だけだろう。


 空砲が鳴り響いた瞬間、彼らのバランスが何者かによって崩された。足元が盛り上がる事によって。


 それを起こせる才能を彼らは知っていた。


 この街に保持者は十人と居ないが、その才能は感覚を共有しないが故に北極の謎を解くのに使えないとランク1の烙印を押されているそれを。


 保持者が居る事が分かっていたら対策を練っていた程、体育祭や文化祭で活躍する才能を。


 彼らは、人形使いにやられたのだ。






「わー、和ちゃんスゴーイ」


 いつもの冷たい声音とは打って変わって、少女然とした声色を出して和に抱きつく萌衣。


「わ……あ、あり、がと。け、けど、凄いのは、わたし、じゃなくて、岬、さん」


 萌衣をしっかり受け止めながら、和は岬の方を見る。


 見られた岬は肩を竦め、言った。


「私が凄い訳ないでしょ。凄いのは、あなたの才能よ、和ヶ原さん」


 岬の言う和の才能。それは人形使い。


 通常特殊才能は『〜系』と呼ばれるものだが、起こせる現象が単一に絞れる場合は『〜系』とは付かない。


 人形使いは『無機質を操る』才能。無機質の代表として人形が名に当てられているのだ。


 つまり和は、空砲が鳴ると同時に地面を盛り上がらせ、後ろにかけようとしたところに別の力を入れ、転ばせたのだ。その際転ぶのは後ろにだが、分かっていれば踏ん張るし、萌衣達念力系の才能保持者ができるだけのサポートを行い耐えた。


 ちなみにこの作戦は、和のオドオドとした性質も鍵となっている。


 実は相手校にはランク3の念力系才能保持者が居た。


 しかし、和は空砲の音に驚くのを反射として才能を使ったため、意識の相手の力が振るわれる前に決着をつけられたのだ。


 順調に勝ち進み浮き足立つクラスに、岬は感情を殺した声音で告げる。


「ほら、切り替えて。次は肉体戦。少しばかりなら直接攻撃もありなんだから」


「それに、次から小詠先生も仕事を終えて応援に来るらしいしな」


 いきなり挟まれた久澄の言葉に、皆が固まり真顔を作る。


 小詠は今まで会場に入ってくる人員の整理をしていた。無論、体操着の上に当たり障りのないジャージをまとって、だ。


 その仕事も交代の時間を迎え、応援に駆けつける。


 つまり、だ。


 小詠先生あのひとの前では無様な真似や、それこそ心配を煽る姿を見せる訳にはいかない。


 そんな思考が一瞬で共有されたのだ。


 しかし、転入してまだ一時間くらいしか経っていない奈々美は久澄の元に寄り、疑問を呟いた。


「あの、私は新手のカルト教団でも見せられているのですか?」


 至極真面目な問いに、久澄も声を潜めて返す。


「ああ、酸漿もそこまでは調べてないのな。うちのクラスはさ、誰もがちょっとした難を抱えていてな……全員小詠先生に救われた口なんだよ」


 もちろん俺もな、と珍しく久澄も一言多く漏らす。


 それが小詠への感謝を表しているように、奈々美は感じた。


「何というか……主人公のような人物なんですね」


 奈々美の独白に、久澄は小さく笑みを浮かべた。







 時間は流れ、第三回戦目『棒倒し』。


「フレー! フレー! が・だ・い!!」


 入退場口付近から響く甘ったるい声。周りの怪訝そうな視線を気にしない担任のエールに皆の活力が上がる。


「えー、定時になりましたので、試合を開始したいと思います」


 引かれた白線の外からメガホンを通して声を響かせた男性教師の右手が空中めがけて上がり、空砲が鳴る。


『う゛ぉーーーー』


 いかにも体育会系という肉体をした相手校の攻めがやってくるが、それを臥内が持てる特殊才能を駆使して防ごうとする。


 圧縮された空気が弾け砂煙が舞い、所々不自然に地面が流動する。


 だが特殊才能を駆使して攻める相手校の前では紙同然。


 怒号と爆発音が耳朶を叩くフィールドは、臥内不利に見える。


『ワッショーーイ!』


 そして遂に魔の手が棒を守る円陣に届く。


 が、彼らは不自然に思っていた。


 下手に特殊才能をセーブせず使える事でアドレナリンが出まくっている頭でもおかしいと思える、違和感。


 −−何故臥内高校は攻めてこないのか、と。


 そして気付くべきだった。


 ただ一人、その場に居ない生徒が居る事を。


 人の波の圧力には逆らえず、臥内の支える棒が倒れそうになった次の瞬間−−決着を告げる空砲が放たれた。


 驚き、攻めていた生徒全員がそちらを見る。


 そこには勝利条件である棒上のフラッグを届けた、自校の生徒と同じ姿形をした人間が立っていた。


「なっ……!?」


 その生徒が疑惑混じりの驚きを現す。


 その人間は役割を終えたため、今の姿を乖離させる。


 男子生徒の姿が前に剥がれ落ち消え、中から朱色混じりの黒髪をした細身の少年が現れる。


 風間集かざましゅう。臥内高校一年二組男子クラス委員だ。


他人偽造ダミーサクセサー


 彼は自身の才能名を、決して小さくない声で告げた。


 その名は、体育会系の彼らでも聞いた事のあるくらいには有名なものだった。


 この街が生まれてからたった一人しか発現していない才能。


 他者のDNAデータから身体の構造を解析し、自身を偽造できる力。


 人間の成長が他者に影響される点から派生したとされる、使い方次第で凶悪な面を見せるも、この街のランク付けでは1に属する才能。


 才能名こそ他人偽造だが、その者の稀少さから付けられた二つ名が『ダミーサクセサー』。


 ランク1という事で才能保持者自体があまり有名でなかったのが裏目に出て、たった一人によって彼らは敗北した。


「これが才能の差さ」


 珍しく『やー』を付けない真面目な口調で、しかし調子に乗り一言余計に口走った風間は、女子クラス委員の岬に頭を殴られグラウンドを引きずられ、後にした。







「凄いですぅー!!」


 帰還した彼らを待っていたのは、弾ける笑顔で飛び跳ねる小詠だった。


 声色や顔を見れば似合う行為なのだが、女性にしては高めな身長なためかなり微妙な光景なのだが−−瞳にフィルターのかかった彼らの前には意味をなさない常識だった。


 無論、久澄や奈々美、岬のように冷静な頭を持っている人物も居るのだが、わざわざ水を差すような行動に出ないくらいの分別はあった。


 そのように見られているとはつゆ知らず、彼女は岬の方へ向いた。


「特に岬ちゃんー、みんなの特徴を最大限に発揮できていますねぇー」


「へっ、私ですか? 確かに立案は私ですが……成功させたのは、風間ですよ」


「やー、そうですよせんせ……」


 岬の言葉に同調しようとした風間の声が途中で途切れる。


 小詠が人差し指で彼の唇を押さえたからだ。


「そうかもですが……最後の一言はよろしくなかったので、減点ですぅー」


 ふふっ、と悪戯っぽく笑った小詠に、風間は肩を落とした。


 それを見て、未だクラスに完全には馴染めていない奈々美も含めた皆が吹き出した。


 体育祭という空気を鑑みても、普通のクラスでは考えられない程仲のよい空間。


 それもこれも、小詠という人格者の架け橋があってこそだ。小詠がいかに優秀か窺える。


 が、そんなある意味特別な空間にいたからだろう。


 気付けないのは、必然とも言えた。


 彼らを盗み見る影があった事に。


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