結神契 Side2
体育祭の開催域である第三区。日本支部人口の約七割を占める学生の中で落ちこぼれと揶揄される事が多く、それを肯定するように実績のある学校はなく、治安も悪い。だが、この日のみはそれも鳴りを潜める。
それは体育祭の特別な空気のため、でなく、特殊才能所持者の〈風紀委員〉と〈風紀委員〉の上位組織であり、元高位特殊才能所持者や特殊な訓練を積み、一定の実力を示した大人により組織された〈警備隊〉の目が第三区に集まるからである。
プライドが高く、三区の学生全てを見下している四区の優等生と公衆の面前で恥をかかされる意地だけは強い劣等生達を抱えながら、それでも体育祭が行える事からその影響力は窺える。
しかしだからといって、三区が三区らしさを失うわけではない。
学生の街で、そこの住民は研究費用が多く貰えていない。
そのため高価でありながら上品な空気を醸し出す店より、低価で気軽に通える、そして何よりノリのよい雰囲気が好まれる。
つまり、だ。
このような稼ぎ時に自分達の店に閉じこもっている輩は少なく、三区は今祭りの出店みたく広がった屋台等に埋め尽くされているのだ。
「ふむぅー……食品の質も外と中では違うのね。別に外のが不味い訳ではないけれど」
フランクフルトを頬張りながら独白する契。
どこかの学校の派遣なのか、幼い容貌をしたメイド服姿の女子が売っていたサンドイッチをまとめて買う事で手にした首に紐をかける方式のトレーの上には既にその影もなく、今はプラスチックの容器に入れられた焼きそばやスパゲティ、焼おにぎりなどなどが山のように積まれていた。
どうやればそんなにバランスがとれるのかというくらいだが、そこは〈聖人〉、身体能力だけの行いである。
無論、そんな状態で目を引かないのはおかしいと理解しているので認識阻害は解いている。
「契様。標的が動き出したようです」
と、そんな契の横には、バスで隣に座っていた女性−−もとい式紙が居り、無個性な声音で告げた。
不穏な単語が一つ混じっていたが、喧騒が二人以外にそれを届かせない。
「監視を継続。えっと、彼女が最後に出る種目は何だっけ?」
フランクフルトを消化し終えた契は、焼きそばに手を付けながら訊ねる。
「十四時より開始されるリレーですね」
「んー、そこで才能の一端でも明かしてくれればいいんだけれど……体育祭って何時に終わるの?」
「十六時の予定です。外から来た客もそこで帰還らしいです。で、十八時より中の住民だけで後夜祭が開かれるそうです」
「成る程……じゃあ十五時からみんなに認識阻害をかけるわね。で、十七時に作戦結構」
「了解……皆にも伝わりました」
式紙の報告に耳を傾けつつ、契はようやく見つけたゴミ箱へ開き容器等を詰め込んだ。
「そのー、契様」
「なに?」
「些か食べ過ぎでは?」
契は首を傾げた。
無個性な彼女が、そんな個性を発揮する質問をしたから、ではない。
そもそも魔力とは生命力。
人型に切られた特別な紙が式紙。それに魔力を入れる事で人の形をとるため、作りは違えど命は持っている。
故に個性はある。のだが、自分達は『道具』という意識があるので、結果無個性になってしまうのだ。
それを理解して何に首を傾げたのかというと、
「ああ、貴女最近作った子だっけ」
「はい」
「ふむふむ。私が〈聖人〉っていうのは知ってるよね」
「主の情報は最優先で刻まれます」
「私の情報は、ね」
表情は変わらないものの、分からないという雰囲気を出す彼女に、焼おにぎりを口にしながら契は説明する。
「そもそも〈聖人〉とは?」
「神の子の処刑時に付いた釘打ちの傷を持つもの。その身体的特徴の共通点から神の子の力の一端を振るえる化け物です」
化け物。その言葉が褒め言葉として使われる項目は少ないだろう。
「正解。ただし身体は大きな力を振るえるようになっているけれど、エネルギー効率の方はそうもいかない……というより普通の人間と一緒なの」
その説明により得心がいったのか、疑念の雰囲気が消える。
「つまり〈聖人〉は、その力を振るうためのエネルギーを蓄えるために大食らいだと」
答え合わせに明確な言葉で返さず、トレー上に在った最後の食べ物を胃飲み込んだ。
「ごちそうさまでした。けど、足りないわね。あれね、時間まで食べ歩きしましょ」




