水城飛鳥 Side2
水城飛鳥の所属する冷兎学園は、日本支部内でも五本の指に数えられるくらいに優秀だ。それは中等部でも変わらない。
優秀、とされるには勉学もそうだが、やはりこの町では特殊才能が重要視される。
ランクの冷兎と表される冷兎学園は、入学条件としてランク3以上である事を定めている。
ランク3がランク4とレベル2があるかどうかの差しか無く、またランク4自体五名しか居ない事を考えると、その条件は厳しすぎると言えた。
だがそれくらい極端でなければこの街の上に座するのは難しいのだ。
冷兎学園が入っているAブロックにはもう一校、五指の一つ−−行政の能箱と比喩される能箱大学付属中学があるが、そこは内外含めた政治にを学び、そのまま付属高校、大学へとエレベーター式に登って政治家になるという所であるため、特殊才能を重きに置いていない。
なので一回戦の玉入れの時点で敗北していた。
冷兎学園の玉入れといえば、念力系才能が視覚に頼る面が多いのを利用し、ランク3の炎熱系と風力系の特殊才能の混合により疑似・火柱を立てる事で外部の妨害をシャットアウト。念力系才能使いの手により、悠々と玉を入れ、一位通過。
続く二回戦の綱引きも、相手を傷付けないというルールに気を使う相手校の背中を風力系で自陣に押す事で勝利。
三回戦目の棒倒しなどえぐく、重力系才能使いの手により相手校の全員沈め、余裕で棒を倒す。
圧倒的すぎて観客は湧くも、勝利の感慨などはない。
彼ら、もしくは彼女らは仮にも中学二年生。
精神的に幼く、まだまだ遊びたい盛りの年頃だが、相手になる敵が居らず、みんな枯れていた。
「結局、決勝までも作業ゲーですよ」
男子の一人が呟くと空気が一層重くなる。重力系才能使いが重力をいじっているのかと勘違いする程だ。
「一年生は可愛らしいですね。未成熟故、ギリギリの戦いができる」
自分達の前に必ず行われる一年生の競技風景を思い出し、羨むように女子は告げた。
「いっそ、あそこに飛び込みたいくらいですわ」
お嬢様感が強い女子の視線の先。そこには暴虐と蹂躙を行う黄色の女性が在った。
冷兎学園が誇る最強の特殊才能保持者であり、特別な学生溢れるこの街で四番目に強いとされる女性。
電子の暴女の二つ名を持ち、磁化変換というレベル2を扱う最強の電磁系才能保持者−−胡桃渚の姿を映し、全員が溜め息を吐く。
「といっても、胡桃先輩も難儀だよな」
哀れむような声音。年上に対しそれが失礼な行為だと身に染みているには彼は若すぎた。
「炎熱姫、鈴香赤音先輩が飛び級してしまって、結果勝ち逃げされたのだから」
この街には意外かもしれないが、飛び級制度がある。無論、余程の頭がなければ行えないが、鈴香赤音はそちらの方面でも優秀であったので認可され、今年の春、川上学園高校の受験を正式に受け、主席合格を遂げた。
まあ、それ程優秀でなければあの利己利益のはびこる魔窟で『正義』を振るう事はできないが。
暇なためそんな事をガヤガヤと語り合うクラスメートを、飛鳥は離れた位置で眺めていた。
現在時刻は十時。始まってから一時間しか経っていないのはプログラム通り。
体育祭としての競技は一旦休止し、各学校連合部活連によるパフォーマンスで十二時まで魅せ、二時から四回戦を再開する。
そこにはこの体育祭の目的である『特殊才能』の成長具合を発表するという狙いがある。
それでも、どのランク4も部活動には参加していないため出てこないのだが。
そんな事を思考しているうちに三年生の競技が終わる。無論、冷兎学園は勝ち抜いている。
『これより一旦競技を中断し、学校部活連合によるパフォーマンスを開始したいと思います。
特殊才能入り乱れる迫力ある様を是非ご覧ください』
放送と同時に、まずはチアリーディング部がユニホームに身を包みグラウンドに現れる。
登場時に花火や爆竹でなく、炎熱系や電磁系の才能が使われている事から目的はしっかり実行されているらしい。
自由時間と言われ体育祭という祭りのせいか、いつも以上に結束の高いクラスメートもここでは二つのグループに分かれる。
その場に残りパフォーマンスを見る者と外に出て出店を見て回る者。
飛鳥は後者に属していた。
彼女だって普通の中学二年生。見慣れている特殊才能より、祭りの感じを楽しみたいのである。
そんなこんなで彼女は一人で鼻歌混じりに六笠体育大学を後にした。




