水城飛鳥 Side1
六笠体育大学の一室にて、水城飛鳥が所属する冷兎学園中等部二年二組は担任教師が話す競技の順番を聞いていた。
「ねえ、水城さんは何の競技の代表に?」
体育祭という普段とは違う空気のためか、普段はなかなか会話しない女子から飛鳥は訊ねられた。
「んー、リレーよ」
当たり障りのない声音と笑顔で飛鳥は返す。
そう、という返事で会話は終わり、次いで教師の話も終わる。
(はぁ、体育祭はいいんだけど……)
余った時間、話す相手がいないでもないが、彼女は今、そんな気分ではなかった。
(発現した特殊才能が特殊才能だからね……許可なく使ってはいけないとかどんだけロマンないの)
思わず溜め息が出た。
彼女の実家は、今は廃れかかり、娯楽、お遊びとまで揶揄される日本武道の一つ−−剣道の道場を切り盛りしている。
廃れた背景として夜霧による科学の進歩があるため、その手の関係者は基本MGR社をよく思っていない。が、彼女の親は珍しく、夜霧により発展した今の世を受け入れており、悪影響を受けぬまま育ったので世間一般の特殊才能に対する憧れはある。
ただ、入学して一ヶ月程度で発現してしまった才能が世紀の、それこそ新たな可能性として期待される程のもの−−つまり科学魔術という元々あった魔術の才と特殊才能の才が奇跡的に組み合わさり、雑種強勢の才として発現する特殊才能だった。そのため無闇な情報漏洩を避けなければいけないので『実験』の時以外の才能の使用を禁じられている。
(まあ、いいけれども。それより……)
飛鳥は右の手首を見つめた。
そこに何があるわけでもないが、否、目に見えない形である。
ほんの二週間前。彼女の右手首はとある少年に捻られた。
細い細い糸。誰よりも強く固い繋がりを持ちながら、今の飛鳥にはその糸が心の支えになっている。
「チッ」
そんな甘ったれた思考をしていることに気付き、武道家である彼女らしからぬ舌打ちをしてしまう。
(どれもこれもあいつのせい。碎斗……必ずぶっ飛ばす!!)
殺意を含ませた笑みを浮かべる飛鳥。
その不気味さは、周りのクラスメートが教室の端に逃げるくらいのものだ。
『定時になりました。本校に集まっている生徒は、速やかにグラウンドへ移動してください』
涼やかな女教師の放送を聞き、飛鳥は席を立った。
その背に『正義』という名の脅威が迫っているとも知らずに。




