二話 序章
MGR社日本支部。そこは、実験的な支部として名を轟かせている。
特殊才能と呼ばれるヒトの一つの終着点。
脳は基本的には二十歳以降から細胞の現象が始まるという。
特殊才能を開発した夜霧新の専門分野は細胞。
特殊才能は細胞の可能性を百全に使った技術であるため、二十歳から特殊才能は発現せず、所有者は消滅する傾向にある。
そのため特殊才能の発掘は高校生までが受けられるもの。
必然的に日本支部は、高校生以下の学生が多い街となる。
そして、学生には付き物の行事の一つ、体育祭は大々的に行われる。
日本支部の体育祭は、小学生の部、中学生の部、高校生の部を別の会場で、同時期に行う。
日本支部の人口の約七割を占める学生が似た目的に沿い、行動する様は圧巻であり、日本支部外では特番が組まれる程である。
生き生きとした学生達が入り乱れ、また、特殊才能の入り乱れる(・・・・・・・・・・)様子は一般人を幻想的世界へ迷い込ませ、学者には世界の行く先を見せる場となる。
特に後者は、日本支部の設立理由である北極の謎を解く可能性がどれくらいあるかを判断され、日本支部自体の存続に関わるものであるため、裏向きではあるが、そちらの方が主題であるのは学生達にとって暗黙の認識であった。
だからといい、表向きには親族、友人に楽しんでもらうのため、日本支部の体育祭は夏休みの日曜日、余程のことがない限り来れる時期に開かれる。
−−二〇七一年八月二日。
いつもとは違う雰囲気に包まれる日本支部は、ある意味で体育祭の風物詩。
外部の人間からしたら、検問所を抜けた先は異世界。浮かれてしまうのは無理はない。
バームクーヘン状に区が分かれている日本支部だが、この日は一区、二区を除いた四つの区が体育祭用解放され数十万の人間は、科学の粋が集まった街へ迷い込む。
そんな外来者の中に一人、周りの女性の目を奪う女性が居た。
夜空の如き黒髪は肩上で切られ、練乳色の肌は生まれたての赤ん坊のように滑らかだ。容貌は美しくも女性受けしそうなパーツが揃っており、それが女性の目を惹きつける。
また、その女性は未だ男性に触れられたことのないような貞潔さを醸し出しており、その感はまるで巫女だと感じていた。
だが雰囲気とは別に、女性の服装は夏に合った肌のむき出しなもの。
んー、と背筋を伸ばせばへその辺りが目に留まる。
そんな一挙手一投足が周りの目を惹いているとは露程にも思わず、女性は黒いリストバンドの目立つ右手の人差し指で自分の太ももを二度、つついた。
それにより、彼女のマスターがかけた魔術から日本支部への侵入に成功したことを伝える。
「さて、行きますかね」
声音は落ち着いた、大人のもの。
女性−−結神契は日本支部を進み始めた。




