一話 序章
それは、突然訪れた。
第一級の危険を知らせる赤色信号。
耳障りな警報音と共に、人口の白色光に包まれていた空間は赤と黒に染まった。
学者が着込むような白衣や軍服に身を包んだ細身の男女が慌ただしく、部屋の前方の逆U字型の長机に据え置きとなっているキーボードに向かい指を走らせ始めた。
そして数秒後、一人の女性が椅子を回し、後方上に居る少女へ蒼白の顔を向けた。
「報告します。この反応は、『精霊眼』だと確定しました!!」
彼らはプロ。しかし、手を止め、驚愕の声が上がる。
女性の告げた事実はそれ程の破壊力を含むものであるのだ。
「報告します。反応は、第四区の臥内高校付属学生寮の裏です」
「臥内高校? あそこには才能保持者の劣等生しか居ないはずじゃ?」
「口を慎め。其処がどうであろうと、今の状況では唯一の手掛かり何だぞ」
「報告します。臥内高校に、約二ヶ月間、行方不明となっている生徒が存在します。名前は久澄碎斗。ランクは〇。夜霧新の推薦枠で当支部に在籍」
「久澄碎斗について報告。五月十五日に破壊されたHHRの映像記録に第四位、電子の暴女と共に行動、また、その日に消息を絶っています」
壁に取り付けられている大画面に、身長は百八十センチ程で、眉の辺りにかかる程度の黒髪、鋭い目の中には縁取る瞳は茶色の黒眼の、臥内高校指定の制服に身を包んだ少年の姿が映し出される。ぱっと見では特徴と言える特徴はないが、瞳をよく見ると、そこに宿っているはずの感情が見て取れない。
次々と送られてくる情報に、少女は静かに目を開いた。
「夜霧新に映像を繋いで」
言い終わると同時に壁に取り付けられている大画面に黒髪の青年の顔が映った。
「やー、キーちゃん。どうしたんだい?」
安っぽい笑顔を浮かべ手を振ってくる新に、キーちゃんと呼ばれた少女は頭を抱えそうになるのを我慢し、要件を告げた。
「本支部にて魔術界の禁忌の一つ、『精霊眼』の反応を確認。尋問の後、殺処分とします。つきましては、確保のために魔術特価型暗部グループの『マギ』の出動許可をいただきたいのですが。
あとキーちゃんっての止めてもらえませんか。あんたに言われると虫酸が走る」
「分かったよ。錠ヶ崎寧々の発言を許可する」
「ありがとうございます」
もう画面の方も見ず、ぞんざいに礼をした。
「あっ、ちなみに精霊眼の覚醒者って誰なんだい?」
「久澄碎斗という学生です。あんたが入学させた」
それを最後に錠ヶ崎寧々は画面に映る映像を一方的に消した。
「……そう。彼が」
だから彼女は知ることがなかった。
「ピースは揃い始めたな」
すぐ近くに不穏な影が迫っていた事に。
「戦争が、圧倒的蹂躙の許されない本当のヒトとヒトの戦争が始まる、か……」
笑みを浮かべる。
「さて、猫屋君にも頑張ってもらわないとね」
ブラックアウトした画面には、五九年前から変わっていない容貌を映す。
「ようやく、巡り始めるか−−」
夜霧新は立ち上がった。
世界が、動き出す。




