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ファクターズ  作者: 綾埼空
四話 勇魔降誕
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最後の準備期間

 昨夜、食べ物の大切さを、無断で略奪する事の酷さを教え込もうとして、逆にやられた久澄は、痛む身体に鞭打って王宮内の会議室の扉を開いた。


 中に居たのは魔導星の面々、四方の巫女、ブレイク、ニブルド、アルベルト、それにアンネに似た白髪白目の女性−−プシュケ。合計十三人。久澄が聞いていた数と合致する。


「すいません。遅れました」


 なので久澄は、遅れた事に儀礼的に謝罪する。


「いや、定時通りだよ。適当な席に座ってくれ」


 見ればまとめ役のニブルドは一番奥の対面する席に身体を預けているが、他の面々は好きな席に着いていた。共通するのは、全員前の方の席に居ること。


 なので久澄は知らぬ面々の観察をするため、手近な席に腰を降ろす。


 アルニカが手振りで隣の席に招いていたのは気付いていたが、敢えて無視する。


「さて」


 必要な人員が揃ったのを確認したニブルドがその一言から始める。


「皆さんに集まってもらったのは他でもない。未だ天に在する天現の城、その内部に居る魔王についての情報共有のためです。

 早朝に回した魔王についての書面には目を通していただいてますでしょうか?」


 比較的近くに居るヴァンの手元を見ると五枚程度の紙の束があった。


 試しに血を巡らせて視力を上げ文面に目を通すと、久澄も知らなかったようなユーディの話の要点だけを、しかし全体の繋がりがしっかりと分かるように見事にまとめられた文だった。


「見てもらえたみたいですね。なら僕の役割は終わりです。アルニカさん。お願いします」


 呼ばれたアルニカが席を立ち、ニブルドの横まで歩み寄った。


 彼女に観察するような、或いは計るような視線が集まる。


 アルニカはここが見せ場だと感じ、薄桃色の唇を動かし始めた。


「始めまして。東の巫女、空の操手、アルニカ・ウェルミンと言います」


 自己紹介。それだけで彼女は喉の奥が乾き、膝が震え始めるのが分かる。


 村長の死を自分なりに消化し、それなりに心は強くなったつもりでいたが、目の前に居る者達が無意識に発する雰囲気を全てぶつけられて耐えられる程ではないようだ。


 これが世界。その一端。


 村長が孫娘に見せたかった一つである。


 それに気付いてかどうか。膝の震えは収まった。が、まだ足りない。


 この場で許される沈黙は一瞬。だがもしこの状態で説明を開始しようとすれば、掠れ声しか出ないのは明白だ。


 困ったアルニカが無意識の内に視線を泳がせた先は久澄の元。正確にはその瞳。


 緊張という言葉を知らないような瞳は彼女に訴えていた、「お前はできる」と。久澄にその気があったかは別として、彼の瞳はそう言っていた。


 唾液を一回飲み込む。それだけで乾いていた喉に潤いが戻る。


 その喉で、言葉を続ける。


「早速ですが本題に入らせていただきたいと思います。質問は最後にまとめて受け付けるのであしからず。

 まずは書面に書いてある協力者、前空の操手、ハーツ・フェアリーが施した魔王への再封印。その期間からお話しさせていただきます」


 アルニカはゆっくりと、正確にハーツから受け取った知識を紐解いていく。


「魔王の封印は一ヶ月。つまり後二十九日しか持ちません」


 ここで動揺が生まれないのは流石だな、と素直に感心を覚えた。


「二十九日後には、完全に封印が解け、魔族の王であり、世界そのものである魔王ゾーンが復活します。その影響で各界の魔物、また向こう側の魔物の動きも活発化し、最悪乗り込まれる事もあります」


 向こう側。魔域。暗黒界。赤黒の界。明確な呼び名が無い『そこ』は、魔物が生まれる地。


 人間が住まう世は、各界の端、その地に一番近い所にある『聖域』と呼ばれる魔を寄せ付けない空間に守られ、その魔物に宿る闇が弱くない限り、決して人間界には入れないようになっている。


 また、ハーツが過去使用した魔を拒絶する空間も、聖域の力と空の操手の力を組み合わせたものであり、無論それも報告書には書いてある。


 しかし聖域が破られる事となったら、ハーツの力により得られていた一般民衆への平和は侵され、魔導星でも対処できない事態になる可能性は高い。


 あくまで魔導星はこの人間界最強の魔法使いの集団であり、向こう側に居る規格外の魔物達に片手間で対処できる、と保証はできないのだ。


 何より、この事態を民衆に知らしめるわけにはいかない。魔王の存在は裏側にし、表向きには身喰らう蛇の、つまり人間が全てを引き起こしたという事にしなけばならない。魔王という存在には、ティラスメニアの根幹が関わりすぎている。


 だからこそ、村や国には押し入る事が無いと分かり切っているのに狂暴化する魔物の鎮圧を的確に済ませるために魔導星も駆り出されているのだ。


 それらを含めて、言葉を続ける。


「さらにその魔王、この地に封印されてから五百年、溜まりに溜まった裏切りによる闇を全て使用でき、また最強の勇者であったファイという少年の力も兼ね備えているため、その戦闘力は破壊の理を越えると判断されています」


 返ってきたのは、沈黙。しかしそれは、魔王の力が測り知れず何も発せられないがための沈黙だ。


「ですが、勝つための方法はあります」


 しかし、ハーツが掴んだ情報は絶望だけな訳がない。


「聖域……つまり私達四方の巫女が生まれたその場所に存在する神話級武装。それを取りに行きます」


 四方の巫女には血の繋がる家族は居ない。十四年前、彼女達は聖域にいつの間に『在った』のだ。


 見つけたのは各神界の村長。つまり賢者達。


 彼、彼女らはそこに居る者が四方の巫女であると理解した。四方の巫女はそういうもの。


 運命により生まれた存在である彼女らは、名も存在も脳内で全て認識される。


「私達と縁深い地の武装なため、契約にはそこまでかからないと思います。多く見積もって半月。それくらいですね。

 さて、質問の方を受け付けたいと思います」


 質問、の辺りでニブルドが手を挙げる。


「……どうぞ」


 その早さに呆れ顔を浮かべられながら許可を出され、ニブルドは口を開いた。


「質問は二つある。

 一つ目。ハーツさんが使ったという魔を拒絶する結界。聖域の力を使った程のものならば何故ユーキという存在の侵入を許したんだい?」


 身喰らう蛇現マスターユーキ。彼女はいつからそちら側に居たのか分からないが、勇者の鍵強奪時は確かに魔側あった。


「協力者が居たんだと思います」


 迷い無く告げる。しかし、


「アンネやプシュケに調べてもらった結果、身喰らう蛇にはユーキ一人しか居ないらしいけど」


「身喰らう蛇、以外に居たら」


「有り得ないね。配下のギルドは全て捕まえたし、他三傑のギルドにも手を出してしまったから協力は仰げない」


「それは裏ギルド内での話です。裏には他にも種類があります」


「それこそ無理な話だ。裏の三傑は裏ギルドの中核に居る代わりに他の裏側に敵を作っている。何も手出しをしていない不可解なエニグマゲートですら敵視されるほど、深い問題だ。裏の三傑に近いと言われている身喰らう蛇に手を貸す裏は居ないさ」


「その前提が間違えなのです。身喰らう蛇は裏の三傑に裏ギルド内で近いと言われていました。名が世に出始めてからその噂が流れるまでの期間が短かったせいか気付いている方は少ないようですが、あくまで近いだけで、なるとは、裏の三傑が四傑になるなんて事は聞いたことがありませんよね。

 様々な損得勘定−−例えば『裏の三傑に何かしらの手出しをする事を手伝う』と言われたりすれば、またそれを証明できるだけの代償を提示すれば、協力関係は築けると思います」


「…………それは、ハーツさんの意見なのかい?」


 アルニカは首を横に振った。


「全て私の考えです。ただこう考えていけば、辻褄は合う。聖域の力の一部を利用しただけの力なら弱める事も裏なら可能でしょうし」


 ニブルドはアルニカの考えに一応は納得したとばかりに首を縦に振り、次なる言を発した。


「二つ目だ。魔王の系譜。これについての解決策は見つかっているのかい?」


 二つ目の質問を聞き、ニブルドはこの場に居る者の疑問を代表して訊ねているのだとアルニカは気付いた。


 そして質問は、魔王戦で知るべき情報はこれで最後。


「…………………………」


 だがアルニカから放たれるのは、沈黙。


 魔王の系譜をどうにかする方法など、先の戦闘時にも『知恵の実』であるハーツの情報の中にも存在はしていなかった。


 魔王の系譜を放っておいたまま魔王を倒してしまえば、また魔王と勇者、四方の巫女の因縁が繰り返される事となる。


 それだけは避けなければならなかった。それが彼女、否、彼女達が五百年間戦い続けたハーツや怒りも苦しみも全て呑み込んで眠りにつき、来るべき覚醒の時まで耐え忍んだニヴァリス、アーティナ、ディヴァリア達への手向けとなると考えたから。


 それに、この愛憎の連鎖は自分達の代で終わらせる。その覚悟もあった。


 なのに、そのための解決策がない。


 それがただ現実として彼女達を苛む。


 胸の内で渦巻くものは何か。苦しみか、怒りか、悲しみか、痛みか、それとも、『何とかなると期待していたのを現実に裏切られ生まれる闇の感情』か。


 四人だけでなく、この場に居る殆どの者が手段はある、と一瞬でも期待してしまい現実、無かった事による闇を心に宿していた。その結果、どうなるのかは気に止めず。


 確実に最悪の終わりへと進む彼達、彼女達に予期せぬ方向から声がかかった。


 後方、久澄碎斗が居る場所からかれの声で確かに言った言葉に、皆が耳を疑う。


 だが彼は、それが真実だと告げるように、或いは確定事項だと言うように言葉を繰り返す。


「魔王の系譜は、俺が何とかできる」








 久澄の発言から数分後。議題はニブルドの手により別のものへと変化していた。


 理由は簡単。彼がその手段を頑なに語らなかったから。


 ただその手段はブレイクマスタードラゴンも「唯一の手だ」と告げたため、一応の執着がついたのだ。


 そして現在。議題は彼の砕けた木刀に代わる武器と身を守る防具についてだった。


 そのため、会議は終わりとなっており、ユーディ、ニブルドを除く魔導星の面々、プシュケは早々に退出し、自身らの役割を果たすため荷物をまとめているはずだ。


「まあ武器の素材については当たりがついているんだよね。ヒーナ、西の聖域である『絶対鉱石オリハルコンの城』。それ軽く分解して、黒絶対鉱石採ってきてくれる」


 気軽な様子で命ずるが、それがどういった行為なのか理解しているヒーナはすぐに反を論じる。


「兄様。流石に聖域を削るのはよくないかと」


 対してニブルドは、その顔に悪戯を含んだ笑みを浮かべた。


「聖域は力さ。様々な形をとっているとはいえ、それで力が変動する事はないさ」


 ヒーナは一応納得を示し、口を閉ざした。


「じゃあ次は武器や防具を拵える人だが……正直黒絶対鉱石を扱えるような鍛冶屋に僕は心当たりが無いんだ」


 ぶっちゃけられて、場の空気が呆れを含んだものへと変化する。


「な、なら私に心当たりがありますが」


 小さく手を上げながらアルニカ。


「そう? なら名前とかいいから連れてきてくれる。駄々こねたら僕の名前出していいし。お金も融通できるよ。十億エルくらいなら余裕でね」


 最後にニブルドから王族らしい言葉をいただき、この会議はお開きとなった。








「ねぇ、碎斗」


 会議室から出てすぐ、アルニカから一目のつかない場所に呼び出された。


 ここで告白か、と思うほど彼の目は腐っていない。


 あまりにも真剣な眼差しと表情は、色恋沙汰の混じる要素が全くなかった。


 アルニカは念のため、空間視野を広げて周りに誰も居ない事を確認した後、口を開いた。


「会議では言わなかった事が二つあって……それを聞いて欲しいの」


 久澄は無言で返す。


「一つ目。あの魔王、暴走した勇者のまま成ったものだから……絶望は永遠に精製できるらしいの」


「ユーディ達には?」


 ああ、だから内から出た光は暗かったのか、と事実確認のように思いながら、表情や言葉の内には驚きは浮かべず、ただ淡々と返す。


 アルニカは首を横に振る。


「じゃあ言ってやれ。今更だし、戦闘中にそれを気付いた時の方が何かと面倒くさくなるぞ」


「うん。分かった」


「けどまあ、『そっちについても心配はいらないさ』。それで、二つ目は?」


「……それがね」


 あまりにも当たり前に言われ一瞬返す言葉を失うアルニカだったが、すぐに立て直し、手で耳を貸すようにジェスチャーした。


 久澄は腰を折り、アルニカが彼の耳元で何事かを囁く。


「! それ本当なのか」


 声こそ抑えられたらものだが、彼にしては珍しく言葉の端々に驚きが現れる。


「ほんと。何の気紛れか知らないけど教えてくれたから」


 久澄は考えるように指を顎に置き数秒意識を内に向けた後、アルニカの頭に手を置く。


「教えてくれてありがとう。だがこっちは誰にも言わない方がいい。彼女の身が危うくなる可能性があるからな」


 久澄はアルニカの頭を二、三回撫でた後、その足でニブルドの仕事部屋へと向かった。


 今回はしっかりノックをして許可を得て入室してから言葉を発した。


「今王宮内に居る有力な学者を集めてくれ。この世界の科学力を百年進める」








 半月後。久澄はMGR社日本支部で培った知識をフル活用し、学者達へ様々な知識を教え込んだ。


 地球とティラスメニアの間にある科学の差は恐ろしいもので、そもそもが魔法の存在を前提とした科学な為しょうがないが、それでもこの世界には地球とあまり変わらないシステムでできている事を視てきた久澄は、科学を独立した考えとして教え込んだ。


 基盤がよいのか、少ない説明で理解してくれるため、科学力はみるみる進み、一応久澄の目的の物を作れるまでに至った。


 というより、久澄が目的の物とはかけ離れた知識から教えたがためにこれほどの日数がかかったともいえるが。


 一応教えられるところまでは教授し、武器等の作り方まで踏み込むつもりの無いので、あとは彼ら、彼女達が学問を広め、科学を発展させる事を祈ることにした。その過程で武器が開発された場合は、それが歴史の流れだと思うこととしている。


 それから一日後。ようやくアルニカ&ヒーナペア。ユーディ&ニーネペアが帰還した。(移動系の魔法が使えるのがアルニカとユーディしか居ないためのペア制度だ)


 それにしても半月は異常だと思っていた久澄が事情を訊ねると、四人とも新たに手にした武器の慣らしのために魔物の鎮静化を手伝っていたらしい。(ちなみに神話級武装は、契約者が呼ぶことで任意で現れる魔法がかけられているので、武器の確認は叶わなかった)


 この事態でそれは無いだろうと思いつつ、久澄はアルニカ&ヒーナと共に来た女性に声をかける。


「お久しぶりですね、ミヤさん」


 仕事のできる女性という感を出しながら、頬に付くすすが愛嬌の黒髪の女性−−ミヤ・エルト。彼女が久澄の命を左右する武装ものを作るのに指名されたのだ。


「久し振り。ニカから聞いたとはいえ……見違えるようだよ」


 彼女から手が差し出され、久澄もそれに応じる。


 彼女は久澄失踪の三ヶ月の間に訪れたアルニカから話を聞き、多少の事情は知っていたため、こんなにも落ち着いて対応しているのである。


 だが久澄は思う。流石に人の悪い笑みを浮かべるのは落ち着きすぎではないかと。また、握った手にかかる力が簡単に振り解けないほどに強くなっているのは何故と。


 答えはすぐに示された。ミヤの口から。


「さあ、サイト君。服を脱ぎたまえ」








「俺の純潔が」


 ボケてみたが誰も突っ込んではくれない。


 脱がされたのは自室だし、既に他の服を着ているから白々しすぎたか? と客観的に考えてしまい悲しくなった。


 しかし彼の感情の動きとは関係無しに世界は回る。


「改めて見てみると本当に不思議な素材だね」


 パーカーにシャツ、ジーンズまでもが今ミヤの手にある。


「全く何なんだ。このしなやかな強度は」


 布や糸などの普通の服を精製する素材はこの世界にもある。昔からの名のこりで木の繊維を使った服が一般的だったが、久澄がその有用性を教えたため大量生産。現在経済が回りまくっている。


 では何故ミヤは驚いているのか。それは久澄の服が普通の素材で作られていないからである。


 刃や弾丸を通さないが売り文句の特殊繊維。それこそ軍隊かMGR社日本支部高位才能所持者アビリティーホルダーが造られている学校の制服でないかぎりお目にかかれないような素材が彼の日常服には使われている。


 ちょっとしたコネがあり、彼の所持する服全てにそれが使われるくらいの恩恵を受けているのだ。


 それは別のお話として、


「それで……武器の方が完成しているっているのは本当ですか?」


「本当だよ。ちゃんと君からの伝言も聞いてね。先に手を打つなんて、なかなかどうして私の性格を理解しているじゃないか」


「道筋を聞いた時にピンと来たんですよ。ヒーナさんからアルニカの順で行くならば、なんやかんやでミヤさんなら武器くらいは作ってしまうだろうな、と」


 口角を上げながら交戦する。なかなかにシニカルな笑みが似合う二人だ。


「ニカ、出してやりな」


「分かった」


 そう言うとアルニカは久澄の右手を握った。


「なんか意味あるの?」


「同調と契約」


 それだけを告げられた後、一瞬握られた右手から全身に暖かいものが流れる感覚に襲われた。


「終わり。黒い剣出ろ、と念じてみて」


 アルニカの言葉に従い、念じる。


 すると久澄の右手に幅広の剣身に水晶のように透き通るような黒色の片刃直剣が現れた。


「……これは……」


 手や腕にかかる重量。九十センチ程の長さ。共に久澄の満足のいくものだった。だがそれ以上に彼を唸らせる性質が剣には、否、黒絶対鉱石にはあった。


 黒絶対鉱石は青絶対鉱石ブルーオリハルコンの中心部に存在するこの世で一番に硬い物質。それ故に加工は不可能だったのだが、理を越える力を持つヒーナの分解魔法にかかれば豆腐のように切り刻まれていく。(青絶対鉱石も最初は加工不可能だったが、ディヴァリアの魔法により青絶対鉱石加工用の青絶対鉱石の工具が作られて加工が可能になった)


 そして、黒絶対鉱石はその強度の通り原子同士の結び付きが強い性質を持つ。


 原子を使用する技である五行三祿の自然色とは相性がいいのだ。


 さらに、


「私の空魔法でその剣を自由に出し入れできるようにしておいたから」


 試しに消えろ、と念じると手にかかる重量が消えた。


「おお。ありがとう、アルニカ。

 それにミヤさんも。これほどの名剣を」


「満足してくれたみたいで何よりだよ。理を倒したあの木刀の意志を受け継ぐ剣だからね。気合いも入ったさ」


 木刀を折ってしまった事は謝らない。それは、作ってくれたミヤに、そしてギリギリまで頑張ってくれた木刀に失礼だからだ。


 そう考えて謝罪はしなかったが、ミヤの目が責めるような色を帯びる。


「ただ礼なら他の子達にも言った方がいいよ。ユーちゃんとニーネちゃんの魔法じゃなきゃ剣は打てなかったし、ヒーナちゃんの魔法が無かったら細かい作業ができなかった」


 成る程。そう言う事は早めに言って欲しかった、と思うと共に、彼は自分の鈍さに呆れを覚えてしまう。


「悪い。ユーディ、ヒーナさん、ニーネさん、ありがとうございます」


「いやいや」


「……問題ない」


「どう致しまして」


 関わった人間への礼を終え、最低限の礼儀が示されたのを確認したミヤは話を先に進める事にした。


「さて、そろそろ防具、というか服に取りかかりますかね。

 なにか要望はあるかい?」


「動きやすさ重視で。それと、ここの帽子になっている部分は外してください。戦闘中は邪魔になるので」


「了解。時間は三日もらうよ」


「分かりました」


「じゃあ、ニカ、ヒーナちゃん、ニーネちゃん手伝ってちょうだい」


 ユーディだけ呼ばれなかった理由に、久澄はすぐに思い当たった。


 多分、細かい作業をするのだ。


 だがユーディが開いているのは彼にとって好都合だった。


「ユーディ、戦闘面で微調整がしたいから手伝ってくれ」


「! 任せときや!!」


 気合いの入った返答に、疎外感があったんだな、と微笑ましい気持ちになった。








 三日後。予定通り久澄の身を守る服が完成したという報が届いた。


 ニブルドに貸し与えられた作業室に足を踏み入れる。そこにはユーディを含めた五人が既に居た。


「おお、来たか。じゃあ、着てみてくれ」


 作業台の上には色や形の変わった服が置かれている。


「じゃあ、早速。

 あっ、ヒーナさんは目を逸らした方がよくないか?」


 言われて気付いたが如く目を逸らす。彼女は三日前、久澄が脱がされるのを見て恥ずかしさから鼻血を出してしまうという失態を冒していた。


 今現在着ている服を脱ぎ、一段と黒色に近付いたジーンズを穿きベルトを絞める。白から黒に変色したシャツを身にまとい、その上から黒のコーデュロイシャツのような上着を羽織る。前を留める金具は無いが、軽く動いた感じ、前がヒラヒラとなる事はなかった。


「糸を全て分解してから、黒絶対鉱石で作った糸と共に編み直した苦労策だよ。まあ、君が作り方を教えたという機材を幾つか使ったからこそ、これくらいの時間で済んだんだけどね」


 照れ隠しのように久澄を立てるミヤだが、この世にもたらされて久しい機材を使用しここまでの完成度は、正直凄いものである。


「ミヤさん、アルニカ、ニーネさん、ヒーナさん、本当に何から何までありがとうございます」


 同じ轍は二度と踏まない。しっかりと全員に礼を述べた。


「私にできるのはここまでだ。五人とも、頼んだわよ」


 頑張って、ではなく頼んだわよ。他力本願でなく、託された思い。


 五人は同時に首を縦に振った。








 そして−−十日後。


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