昔話
「なんでや!」
王宮内の一室にユーディの叫び声と白い壁を殴ったことによる低く重い音が響く。
ラウラ平原にて暴走した黒い久澄を止めた五人は、圧縮天星移動を使い王宮へ戻っていた。
「なんでなんや!!」
再びユーディが壁を殴ろうとする。が、それをアルニカが全体重を後ろにかけながら止める。
「ユーディ、もう止めなよ。手が……」
「……チッ」
血まみれになった手を一瞥し、テーブルの上に置いてある紅茶を流し込んだ。王宮で出される紅茶には魔力回復効果のある茶葉が使用されている。魔力はイコールで生命力。魔力が回復すれば、手の傷の回復も早まるのだ。
「アルニカはあれに納得できてんか? やっと会えたのに」
「納得はできてないけど、今はニブルド様の報告を待つべき何じゃないの?」
「それは……そうやけど……理性で、はい待ちましょう、なんてできるわけないやろうが」
「なに。私が碎斗の事を心配していないって言いたいの!?」
「そうやない」
「そうでしょ!」
「……二人とも、うるさい」
熱くなってきた二人を、今まで椅子に座り黙っていたニーネの冷たい声が制する。
「……ヒーナさんもユーディとやっていくつもりならこれぐらいで慌てない」
二人の言い争いにわざわざ立ち上がり、あわあわとしているヒーナに視線も向けず教える。
ニーネに諫められ、一応の落ち着きを取り戻したのか二人は席に着き直す。
「けど軽く盗み聞いた限り、魔力残滓からあれが何なのかを調べるのは無理らしいで」
「盗み聞き? ユーディこの部屋抜けたっけ?」
「ああ、そう言えばアルニカの前では使った事なかったな」
ユーディは天体転写を使い、そこに光る五つの星が離れ人に当てはめれば頭、両の掌、両の足の部分に配置される。星が光を伸ばし点と点を結ぶ線となり、横に広がる。
完全に人の形を取った光は発光を止め、そこにはユーディが居た。
「ユ、ユーディが二人……」
「命じれば神経も繋がるし、基本的には人ではないから気配もない。まあ、こいつに聞かせに行かせてたっちゅー事や」
「べ、便利ね……」
「まーな。さて、あっちの方も抗ってくれるらしいし……ハーツ」
今まで沈黙を守っていたハーツが小さく上下する。
「何故あの時サイトを庇ったのか教えてもらおうか。あれさえ無ければこんな事態にはならなかったかもしれへんしな。
無論、殺すのに抵抗があったは無しやで。あれはあの時点で選べた一番確率が高い手段やったんだから。お前が普通は止める理由にはならないやろ」
「…………はあ、分かったわ」
ハーツは空の操手としての力をアルニカに与え、失った影響で薄くなった身体の部位の一つ−−肩を竦め、溜め息を吐くと、
「アルニカ、この場所、外部から外してくれるかしら」
「どうやって……って、えっ?」
「空の操手時代の知識も継承したのだから、もしそれに当てはまり、必要になれば勝手にやり方が頭に浮かぶわ」
「はあ、四方の巫女の力って便利ね……」
呆れと感心が半々という感じで呟いた後、頭に浮かんだ方法で魔法を現界させた。
空間分離
アルニカ達の居る一室のみがアルニカの作る別空間に隔離される。
それを確認したハーツは浮くのを止め足に地を降ろし−−正確には足が地に付くように見えるように浮いている−−装いを改めた。
「……さて、昔話をしましょうか」




