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ファクターズ  作者: 綾埼空
三話 勇者暴走
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受け継がれる、力

 《死》が消えて少し経った頃、ハーツは四方の巫女の内、現在戦場に居る三人の元へ辿り着いていた。


 通常プルファからラウラ平原へは二日三日はかかる事から異常なスピードである。


 だが彼女も本気を出せばもう十分は短縮できるのだが、これから控えている彼女の目的であり、役割を考えるとこれ以上大量の存在消費は許されないため、彼女は自分の不甲斐なさに苛つきながらも、スピードを落としここまで辿り着いた。


「ユーディ、ヒーナ、それにニーネも居たのね」


 ハーツの声は魔法による爆撃音などで元の音量より落ち、向けられた彼女達にしか聞こえていない。


「ハーツ! 何で来たんや」


 無論ユーディの声もハーツや他の二人にしか聞こえない。


「何でって。私は確かに戦えないけれど、それでも知識や経験はある。死なずにこの戦いを終わらせる作戦くらいは考えられるわ。

 私は貴女達を失いたくないの」


「……それは私達が四方の巫女だから?」


「いいえ、私は貴女達という『人間』を失いたくないの」


「嬉しい答えね。いいんじゃないかしら二人とも、我々も簡単に死ぬわけにはいかないのだから」


 激しさを増す先遣隊の猛攻に、アルベルトに連れてこられた前線で対応しながら、ヒーナは余裕のある笑みを浮かべた。


「……かっこいいわね、ヒーナさん」


「か、か、かっこいいっっ!! って、うわ」


 少し褒められて攻撃が緩まってしまうのは、かっこわるいな、と思ったのはニーネの心の奥深くに沈められた。


 それよりも大事な事があるからでもあるからだ。


「……ハーツさん、来たならば言葉通り作戦を立ててください。私達には時間が無いので」


 ニーネの言う時間とは、久澄が戻ってくるまでの事を指していたのだが、誰にも触れていないハーツはまた別の解釈をしたようで、頷くと共に作戦を話し始めた。


「ざっと見た限りだけれど、敵兵は残り千くらい。対してこちら側は、百といったところかしら。しかも巨大戦力である魔導星は、ガス欠気味のユーディしかいないと……」


 そこで一瞬考える間を作ったため、三人は戦闘に集中する。


「って言っても、こちらが勝つのは時間の問題よね」


「……アルベルト?」


 三人は、目の前の戦闘に意識を向けながらも、視線を一瞬最前線に向けた。


 そこでは、相変わらずの張り付けたような笑顔を浮かべながら大量の敵兵を蹂躙している。


「……あの人の戦闘が終わる間に消える命がある。それに、待っている時間もない」


「そうね。なら多少の血は見てもらうわよ」


 ハーツが告げた彼女達しか行えない作戦に、一も二もなく頷いた。



 全ては、後に来る悲劇を回避するために。








 ハーツが提示した意見は、蓋を開ければ作戦とも言えぬ荒技であった。


 ユーディを中心として半円型に分解領域スフィア・ソルーションを生成し、生まれる隙間に絶対魔法にて外部からの全てを通さないようにする。あとは内部から天空砲撃、もしくはヒーナの制御により分解領域を動かし敵を細切れにさせるという、名付けて恐怖の移動砲台作戦、らしい。


 ただ今までより効率がよいのは確かであった。


 絶対に攻撃が当たらないのなら、最低限の魔力で集中して急所を狙えるし、魔力の消費を抑えられるのならば、その分多くの場所に攻撃が回せる。さらに分解領域を動かす事で、その危険性を知る敵に当てる事はできなくとも陽動として使え、不自然に一ヶ所に集めたところでアルベルトが広域攻撃をし無力化するという流れに持って行けた。


 しかしこの作戦には欠点があり、絶対魔法にて外部からの全てを拒絶しているので酸素が入ってこないのである。


 だが上記の戦闘行為のお陰で、時間については考慮する必要がなかった。


 時間にしては五分と経たず、


「これで、最後!」


 最後の一人であった一番後方に佇む男を撃ち落とす事でひとまずの決着がついた。








「ふぅ」


「……お疲れ、ユーディ」


 絶対の付与をされた分解領域が解かれ、中から首を回しながら出てきたユーディの肩に手を置き、ニーネは不自然な程顔を彼女の耳元に近づけそう言った。


「ああ、それでどうするかね、あの人達は」


 その意図を察したユーディは、瞳のみで正面の、防護膜とその周りで勝利を喜んでいる連合軍を見た。


 膜の中でデーゲンが口を動かし何事かを−−口唇を読む限りでは戦争での勝利を喜ぶな、的な事を言っているが、内部と外部での会話は不可能なため、外に居る兵達は気付かない。


 それに後が大変そうだな、と他人事のように思い、視線を外した。


 ニーネの口が耳元にあると言うことは、つまりユーディの口にニーネの耳元があると言うことで、ユーディは彼女の配慮をしっかり活用するため、必要最低限の音量で囁く。


「(急な事やったから転移石は行きの分しか用意できなかったらしいし、ウチはもう跳ばせるだけの魔力はない。だからと言って今から徒歩じゃ)」


「(……間に合わない)」


 二人がこれ以上は不自然過ぎると顔を放し、頭を悩ませ始めた時、それが起こった。


「なあ、ニーネ、身体が」


「……ユーディも。これは」


 具体的には身体がユーディは白に、ニーネは鈍に発光している。


 その現象に思い当たる人物が二人居た。


 ハーツとヒーナである。


「それは−−」


 ヒーナが何事がを告げるために口を動かしだが、それを全て聞き終わる前に、二人の意識はその光の中に吸い込まれていった。








 ただ白いだけの空間の中心でで、ユーディは浮かんでいた。今彼女の脳内には、ただ一つの知識が流れていた。


 南の巫女、天体魔法使いの天修羅とは何かについて。


 難しい事では無かった。何を壊しても、貫き通したい事柄を実現する力。それを行った結果、前南の巫女である『ニヴァリス・フューリン』は天修羅と呼ばれるようになった。それだけの事。


 白い髪やラインの細い身体は女性らしさを醸し出しているのに、表情の作り方、目に宿す野生の色がそれを台無しにしている。しかしそのアンバランスさが、また新しい美を作り出している。


 それがユーディの抱いたニヴァリス・フューリンへの印象であった。


 頭を支配していた情報の奔流が終わり、ユーディが視線を固定させると、その先には情報の中に出てきたニヴァリスを透明にしたような少女が立っていた。


 いや、彼女こそがニヴァリスであり、その現象をユーディは一度耳にしている。


 だからこそ、ユーディは彼女がその役目を果たし、消えてしまう前に伝えたい事があった。


「ニヴァリス! あんたの生き方はウチらしい方法で受け継ぐ。だから安心して眠りや」


 その言葉に一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐさまそれは満足そうな笑みへと変わっていった。


 ユーディも似たような笑みを浮かべ、両手を広げる。


「さあ、来いや」


 ニヴァリスは、自身の全てを込めた球体をユーディの方へと導いた。


 それは、ユーディの中に入っていくと同時に、力強い光を発した。









 同時刻、ニーネは鈍色の空間の中央に立ち、頭を巡る情報の理解に全てを注ぎ込んでいた。


 体現の魔女。それが北の巫女につけられし二つ名。


 絶対の行使により全てを体現する者。


 それが過去、ブレイヴァリ人の認識であった。


 しかし、何代にも続く願望器が如き扱いに具体的な反感を表す者が居た。


 それが前北の巫女『アーティナ・オルネット』。


 決して気性の荒い少女では無かったが、その扱いに対しては強く反感を覚えていた。無論、その地位に甘んじていた過去の北の巫女達にも。


 民衆の願いを現実に体現しながらも、自身の願いのために力の行使は許されない。


 力を持つ者は、その力に対し責任が生じる。それは理解していたが、その制限、あるいは理不尽は彼女の許容できるものでは無かった。


 なのでアーティナは、まずそこらへんの偏見を無くす事から始めた。


 具体的には、北の巫女を管理、監視するやしろから逃げ出したのだ。アーティナが絶対に見つからないように、と魔法を使うだけでそれは成功される。


 制限をする変わりにそれなりの生活を与えていたつもりであった村人達は、それにパニックに陥る。


 彼ら、もしくは彼女らは、自信らの生活は北の巫女ありきで成り立っているに等しいと考えている。実際は、必要な環境、器具は揃っているため心持ちの問題なのだが、それに誰一人気づけないくらい偏見は根強かった。


 だが一年も雲隠れをしてみればどうだろう。


 村人達は北の巫女無しの生活というものを生きるために思案、実現し、アーティナが居なくても生きていけるという自身を身につけた。


 それを実際に見て確認したアーティナは、皆の前に姿を現した。


 そんな彼女に不平、罵りをぶつけるが、アーティナは今の現状を武器に立ち回った。


 そんな事が一週間、遂に和解を果たした。


 無論内心では未だに反感を覚えている者も居るだろうが、昔の狂った空間に居るよりかは、数字で計れない程ましであった。


 それ以降、彼女は自分のためにも、誰かのためにも力を振るう必要が無くなった。あの日までは。


 魔王、顕現。


 その日に、アーティナの全てが失われた。世界も、人も、自分自身も。


 彼女は躊躇してしまったのである。村人達を守るために力を振るう事を。


 その結果、見捨てた村人に助けられる形でアーティナは西の村へ逃げ出す事に成功した。


 そこで、彼女は自分の心を閉じた。


 勇者資質の少年と四方の巫女による魔王討伐隊が組まれた際も、必要以下にしか関わりは持たず、しかし自身の力を使う事は躊躇しなかった。


 それは四人にだけではなく、旅先で出会った人達にも。


 そして、旅が半分過ぎる頃には一つの噂話が出来上がり、街から街へと伝播していった。


 北の巫女は体現の魔女であり、何でも願いを叶えてくれる『願望器』である、と。


 彼女は過去、あれ程忌み嫌った生き方をしていたのだ。


 そんな彼女の心を開き、救ったのが勇者資質の少年だった。


 彼を一言で表すなら『天才』。それは戦闘だけでなく、性格もであった。


 心に傷を負った者の一番厄介な相手は、自分を救ってこようとする奴である。


 旅の最初からこちらに関わってくる勇者資質の少年に、あまりのしつこさから彼女は一つの交渉を持ちかけた。


『何でも願いを叶えてあげる。何ならわたしの躰でもいい。だから、わたしに関わらないで』


 それに対する第一の返答は言葉では無かった。拳である。しかも顔に。


『ふざけるな!』


 その一言に、続く言葉は女の子が躰何て簡単に言ってはいけない、何ていう綺麗事だと思っていた。


 しかし、


『アーティナ、君はまた新たな犠牲者を作るつもりか!』


 アーティナは理解ができなかった。勇者資質の少年もそれだけで理解してもらおうなんて思っていなかったようで、更に言葉を重ねる。


『君が体現させたお陰で願いが叶った者達は一体何を得るか君は考えたことはあるかい?』


『……満足感と結果』


『それが間違いなんだ。奴らが手にするのは、君という裏技の存在。ただそれだけだ。

 願いは自分で苦労して叶えるからこそ尊い、何て綺麗事は言わない。けど、苦労して手にするからこそ、そのものの本当の価値が分かる』


『本当の、価値?』


『そうだ。けどもし簡単に願いを手にしてしまったら、それを無意味に消費し、また君という裏技を使うだろう。

 人間の欲望というのは闇より暗く、何よりも深い。君という願望器を手にするためだったらどんな犠牲も厭わないだろうね』


 そして、と勇者資質の少年は敢えて区切るように分け、


『何より君の犠牲になるのは、君だ。

 自分の事はどうでもいいと考えられている内は幸せだ。それは世界を知らないという事何だから』


 そんな達観したような事を言った後、勇者資質の少年はアーティナに唇を重ねた。


『っーー−−−−っつ』


 唇が離されると同時に、アーティナはそこら辺にあった小石に絶対に当たるように魔法をかけ、適当に蹴った。


 的外れな方向に飛んでいく小石だったが、途中で軌道、どころか高低も修正して勇者資質の少年の鳩尾に入る。


『ぐっ…………何するんですか』


 一通りの怒りが収まったため、勇者資質の少年はいつも通りの敬語口調で話す。


『何するんですかは、こっちよ!』


 同じように小石を蹴る。


 だが二度目は防がれてしまった。


 それに舌打ちした後、唇を肘までしかない腕の三倍はある袖で激しく拭った。


 躰を条件として差し出した事から分かる通り、普段なら気にも留めない出来事なのだが、現在は先程の言葉に心を揺さぶられ、願望器ではなく人間の、女性としての反応が表にでている。


 その事に気付いた勇者資質の少年は、ブッ、と吹き出した。


 勿論そんな反応が許せる筈もなく、再び一悶着が起こる。


 そして数時間後、冷製さ−−つまり願望器としての顔に戻ったアーティナが唇を重ねた件について訊ねると、


『女性の顔を本気で殴ってしまったので。この場合は、ぼくが責任を取る場面だと思いまして』


 天才故の、過ち。


 それが間違った知識だと告げると、勇者資質の少年は土下座をし、謝ってきた。


 仮にも世界を救う旅に出ている勇者が、と頭を抱えるという『人間らしい』反応をしそうになり、すぐさまその場から立ち去った。


 しかし、彼への興味が彼女の中に芽生えてしまった。


 それは恋心なんかではなく、あの達観したような発言について。


 そして、例えどんな事であろうと興味を持ってしまったら『天才』勇者資質の少年の勝利。


 既に一度開かれかけた心を開けるのは容易、ではなくとも簡単で、人間らしさを取り戻した彼女は、周りのお膳立てもあり、彼と結婚した。


 そして、結婚して芽生えた感情があった。


 それは、例え嫌がられようと、わたしの全ての力を以て彼を守りたい。


 誰かに願われてではなく、自分の意思で誰かを守りたいと思ったのは初めてだった。


 彼を守る事を体現する。それがアーティナ・オルネットにとっての体現の魔女の始まりだった。


 そこで頭を巡る情報は切れた。


 霞む視線を何度かの瞬きで回復させ、正面を見据える。


 美しい鈍色の髪を後ろは腰の辺りで一直線に切りそろえ、前にはシャギーが入っている。肌は少し赤みがかっている程度で、体型的には幼い印象を持たせるが、アメジストのような紫色の瞳が宿る目は、どこか妖艶な感じがする。そして一番の目を引くのが服装で、青色の膝下までのスカートに、彼女の腕の約三倍はある肘までの長さの袖と、太ももの半分までの長さがある裾、アーティナ側から見て正面右下にある黒色の丸と線でかかれた柄のあるシャツに頭の上に乗っかっている先端が曲げられた黒のとんがり帽子。


 それが情報でみた彼女であり、今ニーネの目の前に居るのもそんな感じの人を色は軽く薄くなっているだけで、向こう側まで見れるくらい透明な少女であった。


 ニーネは今自分がどんな状況に置かれているのか完全には理解できていない。


 だが少ない情報をまとめ、『冷静に考えてから』言葉を紡ぎ出した。


「……貴女が勇者を守りたかったように、私も私の力の全てを使って守りたい子がいる。

 ……だから、私は道を間違えない」


 ニーネは彼女が消える事を知らない。が、ここで言わなければ一生言う機会が訪れないと感じ、そう言った。


 それは、四方の巫女故の直感か。


 だが、アーティナが満足そうな笑みを浮かべた事から、選択は間違いではなかった、とニーネは心の中で思い、安心感を覚えた。


 そして、体現の魔女の力が込められた球体が放たれ、ニーネは強く、しかし決して強すぎない光に飲み込まれていった。










 出ていた光が身体に入っていき、ユーディとニーネの意識が同時に回復する。


 体感時間にしてみれば数時間の事のような現象であったが、現実では一秒しか経っていなかった。


「ユー」


 過去の仲間の事を訊こうとしたのであろうハーツの言葉を遮るように、ユーディは正面−−防護膜側へ歩みを進めた。


「ニーネ、防護膜解いてや」


 ユーディの言を受け、二十ある防護膜をシャボン玉が割れるように解いた。


 皆ユーディ達の発光現象に呆気に取られているか、訊ねようとする。


「みんなを王都まで飛ばす。却下は認めない」


 しかしユーディが先回りし、淡々とした口調で告げる、と同時に彼女は天空転写を使用し、そこにある星星を右手近くに集め光る球を作る。


 その姿にデーゲンは諦めたように肩を竦め、この場に居る全員に聞こえるくらいの音量で告げた。


「王都へ戻る者は俺にできるだけ寄れ。天修羅の使用魔力をできるだけ減らす」


 国軍は勿論として、魔導星、更にはアルベルトまでも集まった。


「アルベルト、お前も参加してくれるのか!?」


「ええ、絶対に断れないある人に頼まれてしまっていまして」


 言わずもがな、アンジェである。


「それは心強い」


 しかしその事実を知らないデーゲンは、ただ表面の事実に礼を言った。


「できたで」


 そこで、ユーディの声がかかる。先遣隊の先遣隊の時より横、縦、共に少ないため早めに準備できたのだ。


「では、頼む」


 圧縮天星移動が放たれ、デーゲン達は、城前の広間まで飛ばされる。


「終わりや!!」


 こうして、先遣隊との戦争は終了した。








 そして今、ユーディ達三人の巫女は、降り立った異質なる力を持つ絶望と相対す。


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