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ファクターズ  作者: 綾埼空
一話 空色の瞳をした少女と理を司る龍
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右手に剣を求め、左手には悔恨を

「どうじゃった、森の様子は。変わりないのかのぅ」


 村長が義務的に調べてきたことを質問してくる。


 誤解しててほしくないため説明するが別に村長は冷たいわけではない。


 私が『孫』として最後に頼んだことを今も守ってくれているだけだ。


 まあ、誰が誤解するのかって話しではあるけれど。


「えぇ、主様は大きな氣を放ちながら眠っているわ」


 森の様子とは森世界の理たる主様の様子についてである。


「もう一ヶ月になるかのぅ」


「六日後でちょうど一ヶ月よ。そしてあの子が……」


「まだ決まったわけではないじゃろう。あの娘、ニーンは引き際を心得ておる」


 その言葉に私はある物をスカートのポケットの中から取り出す。


 一瞬躊躇いを感じたが、私にはこれを渡す義務がある。


 それは木の繊維で結われたミサンガ。


 血に塗られた。


 それを見た村長の表情に確かな絶望が映る。


「そ……それ……は……」


 それもそうだろう。何せ私がニーンの生誕祭の時にみんなの前で渡した物だから。


「主様の住処の入り口付近の木に引っかかっていたわ。この出血量だと多分……」


 このミサンガに付いた血はほぼ色むらがなく、万遍なくに濃い赤に染まっていた。


 ミサンガを見つけた光景がフラッシュバックし顔が絶望に染まりそうになる。しかしそれは決して表に出してはいけないことだ。


 私は無表情を、決意を崩さないように私が殺した少女、ニーンについて思い出すよう頭に命令する。


 村長の実の孫である彼女は燃えるような赤色のセミロングを持ち、顔つきは少女というには好戦的で性格も見た目通りであった。背は女性にしては高く知らない人が見たら男性と間違いなく判断する感じだった。私的にはスラッとした手足は羨ましくもあり女性らしいなと感じていたがそれもスタイルの良い男性らしさを引き立てているという。


 本人はそう判断されることは不服な様で私を見るたび、

「いーなー、アルニカは女性っぽくって。少しはボクにも分けてよその魅力」

 と漏らしてきた。


「じゃあまずは、一人称をボクから私に変える事ね」


 なので、それに私は尤もなツッコミを入れていた。


 村で唯一の同い年であった私たちはいつも一緒だった。


 森の中で拾われた過去のある私はニーンと同じく−−ニーンの両親は村の外で働いてるため−−村長の家で育てられた。


 朝早くに顔を合わせお互いの寝癖の酷さに笑いあい、昼は魔法の研究をしたり実際に戦ってみたりした。勿論、村の中では被害が出てしまうため森の中である。よく門番のクネルさんに主様がお怒りになったらどうするんだって怒られたっけな。


 ニーンが使う魔法は見た目とは違い土を操る力であった。思えば私はニーンに一度も勝ったことがなかった。一六二四戦中〇勝一六二四敗である。


 そして夜には同じ部屋で私は、「明日は必ず勝つ」と言い、ニーンは「無理無理」と否定をし、私は「うぅ〜」と口で言いつつ頭の中では新たな戦略を練り、ニーンは言葉の方に「あっはっは」と笑いながらも頭の中では新たな戦略を練っていたと思う。


 村のみんなから二人は全然違うけれど似たもの同士てよく言われた。だけどその意味は私たちが一番理解していた。見た目は違えど中身は同じ。


 だからこそニーンが私と同じことを考えていると思える。


 そしてその後も私が何かを言う度にニーンが上手く言い返すという流れで会話をして最後には二人同時に、


「「おやすみ」」


 と言って一日が終わる。


 当たり前だった日々。それを過去形でしか思い出せないことに涙が出そうになる。しかし泣くわけにはいかない。


 目の前を見る。孫が死んだと告げられた老人の顔はただただ苦いだけであった。孫の死に涙すら出ない、そんな顔に見える。


 それを見て私は気を遣わず罵倒なりなんなりしてくれればいいのにと考えてしまう。


 その思考に自己嫌悪に陥りながらも、決意を固め直すことができた。


 そう、ニーンの身内である村長ですら涙を流していないんだ、ただの友達である私が、いや加害者であるである自分は間違っても悲しみ何て感情を作り出してはいけない。私がニーンを殺したんだ。


 あの日、主様の言霊が村に飛んできて「アルニカ・ウェルミンを喰らう。喰らえなければこの森世界を滅ぼす」と告げられ戸惑っていた私の肩をたたき「ボクが話しを聞いてくる」と言って村を出た時のニーンの顔を、何時もどんなときにも見せていた笑顔で主様の元へ向かった彼女の姿を今でも思い出せる。


 そして自分は一生その表情を、姿を忘れない。絶対に。


「のぅ、お前さんも祭りを楽しんで来なされ」


 村長が口を開いた。


「……うん。じゃあ、行って来ます」


 私は背を向け歩き出した。







「サイト、もう出てきてもよいぞ」


 一階にある本の山に声をかけると其処から一人の少年が姿を現した。


「気付かれていましたか」


「儂の眼が黒いうちはこの村で悪さはできないからのぅ」


 久澄はそれを魔法と解釈し本題に入るため階段を上がる。


「では、何処から聞いてたかも」


「最初からじゃろ」


「なら昨日の約束通りご説明頂けますか」


「訊かれてた通りじゃ。アルニカはこの世界の理たる龍、ブレイクマスタードラゴンに森を生かすための贄として選ばれ、その影響で儂の孫たるニーンが殺された。止める手だてはなくアルニカは後六日で死ぬ」


 村長はアルニカから受け取ったミサンガを握り締めた。


「だがあなた達は諦めていない。軽く読ましてもらいましたよ、下にある本。一部だけれど。全てこの世界の在り方についてでした」


「……血は繋がっていなくても孫じゃからな。村の皆も互いを家族と思っておる。家族を見捨てる様な奴はこの村には居らん」


「アルニカは……自分の運命を受け入れているんですか」


「……どうなんじゃろうな。儂はあの娘が痛々しく見えるんじゃが。本人にしか分からないじゃろう」

「自分には本人が一番現実に向き合えてないように見えますがね」

 と其処で久澄はアルニカと同じ様に背を向ける。

「まあ、今日は生誕祭を楽しまさせて貰います。彼女の本音に興味も出ましたし。お話ありがとうございました」


 扉を開き外に出る。


 久澄は祭りを楽しむと言いながら自身が借りている家へ足を向けた。


 向かう表情には確かな感情が浮かんでいた。しかし、月明かりも届かぬ陰の中ではその表情を窺い知る事は出来なかった。




 アルニカの死まであと五日。





 ここで少し久澄碎斗という少年について語ろう。


 彼はとある出来事の所為で精神に多少欠陥を抱えている。


 そのためその場はともかく、少し経つと喜、怒、哀、楽で心が動かされた出来事に対して心が反応しなくなる。また、その場でも全く感情が動かない場合もあり、一応その場の空気を読み、『ふり』だけはするが。


 そんな精神状態のため、必要、不必要の取捨選択が客観的にできてしまう。


 だが、どんなに精神が欠けていようと彼も今は人間。僅かな残り滓で人間的な反応を行える。


 最初に当たりはつけていたが感情が動くまでの事ではなかったし、出来る事もなかったため知らずにいることがアルニカにとって一番だと考えていた。


 しかし彼は見てしまったアルニカという少女が偽る事実を。


 それは、彼の心が一番情動的な動きをする『人の生命に関わること』。


 久澄碎斗は過去の過ちを繰り返さないため、行動を開始する。







 太陽の光が大地を照らし始めた頃。


 昨日と同じ轍を踏まないように早めに起きた久澄は借宅を出た。


 祭りの片付けも行われず、疲れたのか村人の大半がそのまま寝ていた。


 その姿に風邪を引くんじゃないかと--他人事の様に--心配したが自分にはどうしようもないため走り抜けた。


 そして門に着く。


 案の定というか予想通りというか、其処には森へ足を踏み入れようとしているアルニカの姿があった。


「アルニカさん!!」

 引き止めるため声をかける。


 その声に反応し半身を向け此方を恨めしそうに睨んできた。


「何。何か用」


 反応してくれたことに、まずは難所を越えたと安心し、本題を口にする。


「ちょっと武器になりそうな物が欲しくて、森の中で探したいんだ。それで見つかるまで用心棒を頼みたいと思って」


 こちらの頼みに、露骨に嫌そうな顔をした。


「私そこまで暇じゃないんだけれど。頼むなら他当たって」


「誰かさんの所為で生まれた不審者疑惑、まだ完全に晴れたわけじゃないらしくて、クネルさん以外には避けられてるんだよ」


「嫌みね。けれど貴方みたいな足手まとい連れていけないわ」


「森の様子を見に行くだけだろ。お前の強さは分からんが、馴れているとは感じていた。俺一人くらい大丈夫だろ」


 アルニカが自分の事情を知られたくないことを知っているため、其処につけこむ。確実に逃げ道を塞ぐその行為は一種の恐喝であった。


 だが世界は案外悪いことをした方が話しがまとまりやすいのだ。


 アルニカから盛大な溜め息が繰り出された。


「分かったわ。ついて来なさい」


「よろしくお願いします。アルニカさん」


 久澄は空々しく頭を下げた。






 拠点は一昨日久澄が倒れていた場所となった。


 此処である理由としては久澄がはぐれた場合一人で村に帰れる場所であることと(無論、拠点まで辿り着けなければ迷子のままだが)、この場所は周りが見渡せるくらい広いため魔物に襲われても此処なら戦いやすいからである。


「あのアルニカさん、質問なんですが武器ってどんなのがいいんすか」


「貴方から頼んだのにそんな事も考えていなかったの」


「何分武器を使った戦いなどしたこと無いので」


 久澄の質問に、アルニカは真剣に頭を働かせ始めた。


「……そうね、自分の特性に合った物を選ぶのが基本ね。私の場合は森が武器になる魔法だからそれに連なるもの」


 と言い、軽く羽織られたカーディガンの内側を見せた。


 右に三、左にも三と先端が削られた木の棒が装備されていた。


「さっきも言った通り私は森に存在する自然が武器になるのだけれど、念のために自身の能力に合った物を持ち歩いているの。これはあくまで一例だけれどね。

 貴方はどうなの? 自分の長所、それを生かす方法、道具。考えてみなさい」


 長所。久澄は一瞬で思い当たった。


「目と耳がいい。あと条件付きだけれど普通より身体能力が高い。あとは……」


 と其処で久澄は自分の左手を見た。


「あとは、何よ」


「いや、長所はこれぐらいかな」


 だがすぐに目を離し、顔に無表情という名の表情を浮かべるように指示を出した。


「なら接近戦ね。槍、剣、斧、盾、色々あるけれど。どれがいいのかしらね」


「剣かな」


「即答ね。理由は? まさか格好いいから何て事は無いわよね」


「単純な話。俺が実践経験はなく、模擬にしろ剣を使ったことがあるから」


 そういう事でお互いに異論はなく剣を探すことになった。


 だがアルニカは後に後悔することになる。久澄が武器を何に使うか知らなかったとはいえど、スポーツと実戦は違うことを理解してながら安請け合いをしてしまったことに。






 剣を探すとはいえ、それは剣その物を探すのではなく、剣になりそうな材質の木材を探すことである。


 村には武器屋は無い変わりに加工屋があり、其処で剣にしてもらう。


「無いわね。こっちじゃなかったのかしら」


「知りませんが、剣になりそうな材質の木材ってどんなの何ですか?」


 事前情報が無ければ、此方も探しようがないため訊ねた。


「素人が見ても分からないだろうけれど、しっかりとした芯が通りつつ粘りのある物ね。この世界の性質上あまり堅すぎるのはよくないから」


「堅すぎるのがよくない?」


「堅い物に強い衝撃を与えたらどうなかしら。つまりそういう事よ」


 遠回しに言ってきたが、つまり壊れるらしい。

 先生か! とツッコみたくなったが口にするのは憚られた。てか後が面倒だからなのだが。


 それから暫く久澄に取っては気まずい沈黙が流れた。


 面倒覚悟でツッコむべきだったかと本気で考え始めたころ、その打開策となるものを見つけ沈黙を破った。


「アルニカさん、あの木なんてどうですか?」


 久澄が指を指した先には、木そのものが倒れていた。


「実際に触ってみないことには。てか例えそうであってもあんなのどうしようもないわよ」


「魔法を使っても運べないんですか」


「運べるわよ。問題はあんなのを加工できるかなのよ」


「できないんですか?」


「分からないわ、加工屋じゃないもの。ただできたとしても時間がかかりすぎるわよ」


「……一応確認しに行きません?」


 口論してても意味はないし、またそれが求めているものと決まったわけではないので確認を促した。アルニカも異論はないらしく木へと向かい始める。


 実際にその木は目的の材質であり、アルニカは嫌そうな顔をしていたが話し合いの上、村に持って帰る事になった。


「じゃあ、ちょっと退いてくれるかしら」


「え? あ、はい」


 アルニカが倒木の前で膝を折り、手を触れさせた。


 目に見えて何かが起きているわけでもない。ただ、それが魔法なのだと彼女から発せられる雰囲気で察した。


 終わったのか、アルニカが立ち上がる。同時に木が宙に浮いた。そのままアーチを描く軌道で村の方向へ飛んで行く。


「……やっぱり魔法って便利ですね」


 その方法に再び呆気にとられる。


「本当はもっと便利よ。私は魔法がへただからいちいち設定しなきゃいけないけど、普通はそんなの自然と処理されるんだから」


 肩を揉みながらアルニカが言った。


「今日はもう終わり。帰りましょう」


 勿論、久澄に異論はなかったため黙ってその背中についてった。






 帰りに魔物に襲われるなんて事も起きず門前に着き、最初に目に付いたのはやはり飛ばされてきた木であった。


 そのままの重量で飛ばされてきたため生じた落下音に、熟睡していた村人も流石に目を覚ましたらしく木の周りに集まっていた。


 その人込みの中からアルニカは一人の女性を見つけ声をかけに行った。


「ミヤ姉さん!! ちょっとこの木を加工してもらいたいんだけれど出来る?」


 その問いにミヤと呼ばれた茶髪の女性は振り向き、ニヤリと口の端を上げ答えた。


「モチロンだよ。で、何を作ればいいんだい。物によって時間が変わるからね」


「さすがね。じゃあ、依頼主は彼だから詳しい話しは彼としておいて」


 アルニカは後ろに居る久澄を親指で指しながら村へ歩き始めた。


「ちょっ、ニカ!! 彼と?」


「頼むわねミヤ姉。私は疲れたがら寝る」


 その後ろ姿をミヤはただただ見送ることしか出来なかった。


「はぁ〜、分かったわよ。ちょっとそこの君」


 溜め息混じりに見えなくなったアルニカに対して了承をし、人込みから外れ立っている久澄に声をかけた。


 手を振り呼ばれたため、久澄はミヤの元へ駆けた。


「あたしはミヤ・エルトだ。一応この村で加工屋を営んでいる。

 でだ。最初に言っておく、あたしはあんたを信用していない、てか嫌いだ。まぁ、仕事に私情は挟まないから安心はしてくれ」


「安心して下さい、自分がこの村の人たちから好かれているなんて少しも考えていないんで。ちゃんと仕事さえしてもらえるなら文句はありませんよ」


「そ、そう。な、なら……何に加工すればいいの?」


 表情一つ変えずに返答されたことにミヤは驚いてしまい気後れした対応になってしまった。


「木刀を一本拵こしらえてもらえまえませんか。木の中で一番良いところを使い出来るだけ長いのを。けど、身の丈よりでかいのはなしで」


 その注文にミヤは十秒程木を見て、


「分かったわ。明日からで二日ちょうだい」


「では実質三日ですか。凄いですね。アルニカさんからはかなり時間がかかるといわれてましたが」


 手放しで褒める久澄に、調子が狂うとばかりにミヤは頭を掻いた。


「……ええ、まず今日であの木を運ばなきゃだし」


「魔法……ですか?」


「まあ、それが出来たらよかったけれど、力が足りないから。だから男共に頼むわ」


「……もし魔法が使えたらそっちの方が速いですよね」


「……まぁ、そうよ」


 その言葉を聞いた久澄は小さい笑みを浮かべた。


「なら良い手があります。あまり見られたくないので村のみんなを一度引き上げさせて下さい」


「……!? 分かったわ?」

 疑惑の目を浮かべつつも、何かしらの確信が含まれた笑みに押され言われた通り村人たちを引き上げさせに行った。


「さて、実験スタートだな」


 浮かべられた笑みはそのままに、久澄は左手を目の前に掲げた。






 木が地面すれすれながらも浮かんでいた。


 ミヤが得意とする魔法は何かを動かすもの。アルニカみたく設定は必要としないが、魔力含有量は普通の彼女はあまりに重いものは動かせない。


 木の幹などとても無理な筈だった。


 しかし、今は違かった。


 疲労はある。けれどこの程度かくらい。普段ならあり得ないことだった。


 まるで――まるで魔法みたいだと他ならぬ魔法使いが思ってしまうとは何の皮肉か。


 そしてあっという間にミヤの家兼加工屋に着いた。


 家の脇に木をゆっくり下ろしその現象を起こした少年へと話しかけた。


「これはどういうことだ」


「あなたの魔法発動にある幾つかの無駄を整理しただけですよ」


 久澄は頬を掻きながら気まずげに苦い笑い顔を浮かべた。


「そんな力が……?」


「勘違いしていると思うんで訂正させていただきますが、この現象を起こしたのはミヤさんです。自分はサポートしただけです」


「しかし、それでは……」


「今は休んだ方がいいですよ。長く使いすぎていたから今が辛いはずです」


 この程度、であっても積み重ねれば大きな疲労になる。実はミヤの歯切れの悪い口調も疲労感から言いたいことがまとまらないためであった。


「分かったわ。三日後来て。その時また質問するから」


「分かりました、が、このことはあまり知られたくないので一応これは黙ってて下さい」


「了解したわ」


 ミヤは疲れ気味に承諾し、家へと入っていった。


 久澄もその姿を見送り、借宅へ向う。


「やっぱりコレは魔法にも使えたんだな」


 左手を二、三度開いて閉じての動作を行い、できるだけ秘密にしていた力の実験の成果を呟いた。






 家に戻ってからアルニカ、久澄共に目立った動きはしなかった。




 アルニカの死まであと四日。





 武器が出来るまでの二日間、久澄は今現在の目的であるアルニカを尾行する事が出来ないため村長の家を訪ねることにした。


 理由は一つ、村長宅にある世界についての本に目を通すためである。


「のぅ、主は何故そんなに熱心になっておるのじゃ」


 言葉の上では疑問。しかしそれには安易に関わるなと警告の意味が含まれていた。


「熱心といいますか、ちょっとアルニカに確かめたいことがありまして。なのでまずはこの世界について知るのも悪くないかなと」


「確かめたいこととは」


「彼女の本音ですよ。分かってらっしゃるでしょ」


「むぅ、儂には何を隠しているのか分からないがのぅ」


「本人も隠しているつもりはないですからね。気付いていない、知らず知らずに偽っている事実があるってお話ですよ」


 それから村長は考えるように少し唸り、本に目を戻した。


 久澄もそれに倣い本に目を落とそうとしたが、あることを思い出しその動きを停止した。


「あの村長。昨日ミヤさんと自分が接触していたのって見てました?」


「視ておったよ。偶然じゃったがな。あんな事が起こせるなんて流石の儂でも驚いたわい」


「……じゃあ、そのことは言わないでおいてもらえますか」


「ふむ、何故じゃ」


「切り札みたいなものですからね。あちらこちらで見せられるものじゃないんですよ」


「成る程のぅ」


 理解の声を皮切りに二人は完全に本へ目を落とした。







 こうして二日間、久澄は村長宅通い、アルニカは森の様子を確認に出ていた。


 変わらない二日間は嵐の前の静けさか。




 アルニカの死まであと二日

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