表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファクターズ  作者: 綾埼空
三話 勇者暴走
38/131

間話――かくてそのモノは顕れる

 久澄碎斗は闇の中に居た。


 その闇は、彼が感じる限りでは、一度体験した『死』の感覚に近かった。


(ここは……?)


 相変わらず声は出ない。なので行き場を失った疑問は頭の中で巡り消える。


 しかしその疑問の思考に反応する声があった。


『やぁ、クズミサイト君。お互いに顔を会わせるのは初めてだから、初めましてだね』


 黒の濃淡のみで複雑奇怪な紋様を描く裾の長い民族衣装のようなものを着た、久澄から硬さを取ったような姿形をした、しかし瞳に宿るものが同じなナニカが彼のすぐ目の前に居た。いつからか、今さっきともずっと前からともいえる雰囲気を醸し出していた。


 現れた、もしくは居たソレに対して、驚きより先立って訊きたいことは沢山あったが、口を無意味に動かすだけで全て声にならなかった。


『あっ、そうだった声を殺したままだったね』


 そう言い目の前のナニカは左手に黒い、真っ黒な、『死』を思わせる塊を生み出し久澄の首元に放った。


 とっさにかわそうとするが、体もまるで固まったかのように動かない。


「ぐっ……ってあれ? 痛くないし、それに」


 言葉が出ていること、そして傷の確認のために反射的に手が動いたことに気が付く。


『そりゃそうさ。内部から殺していた動きをただ殺しただけなんだから』


「……お前は?」


 久澄には理解できない事ばかりであったが、まず正体を知らなければ会話が成り立ちにくい。


『僕は君さ』


「お前は、俺?」


 怪訝な表情を浮かべ聞き返す久澄に、ナニカは逆に聞き返す。


『逆に訊きたいよ。君は自分の正体を解っているのかい?』


「俺は……久澄碎斗だろ」


『そうだよ。そして僕もクヅミサイトなのさ』


「お前は、クヅミサイト……?」


 ズではなくヅ、と会話上の筈なのに違いが理解できていた。


『うん。けどまあ、そうだな……今は(・・)《くろ》とでも呼んでくれたらいいかな』


「《死》……」

 くろ、と言われた筈なのに、先程と同じようにそれは『黒』ではなく《死》と頭の中で理解できた。


「それで《死》、ここはどこなんだ?」


 正体は現時点では理解できないと判断したため

、久澄は状況を確認し始めた。


『ここは君の中。意識も無意識も深層心理も投影されない君の中で一番深い場所。まあ、僕が目覚めてしまったせいで環境が少し異質化してしまったけれど』


「俺の中……話が見えてこないな。《死》、お前が話せる範囲でいいから全部説明してくれないか」


『君らしい賢明な判断だね。いいよ、じゃあ聞いてくれ』


 作り物のような笑顔と共に大仰に手を広げ、《死》は口を動かし始める。


『この空間は、君が生まれた時から君の何にも影響されない根幹の部分として存在している所さ。外の人間は、それを魂と呼んだりするね』


「魂ね……」


『そう。そして君の根幹に居る僕は……何だろう?』


「……はっ?」


『偉そうな事を言っておいてすまないが、僕は僕の正体が解っていても、僕が何故同音の名を持つ君の中に居るのかは解らないんだ』


「えっ、それは、どういう……」


『僕の正体は化け物だ。けれど何故化け物の僕が君が生まれた時から君の中に居るんだい?』


「居るんだいと言われても……」


 珍しく戸惑う久澄に《死》は、まあ、と続ける。


『つまり僕が説明できる僕とこの場についてはここまでだ。すまないね、少なくて』


「いや……」


『けど、僕にも解る事が幾つかある』


 むしろここからが本題とばかりに格好を改める《死》に、久澄も耳の神経を研ぎ澄ます。


『まず一つ。僕が目覚めている事に関してだ』


「……成る程。お前は俺が感じた事に影響を与えない、逆に言えば表に影響を与えにくい場所で眠って居る筈なのに今俺に対して影響を与えている。

 さらに、表の俺が裏に意識を向けられているのも普通はおかしいのか」


 少ない情報をまとめ、親指と人差し指を顎に当て思案顔で呟く久澄に、《死》は何度か頷いた後、再び口を開いた。


『そう、普通はおかしいんだ。けど、君の記憶にあるあの実験。あれが僕達を目覚めさせた』


「僕達?」


『ああ。君の中に眠る、蛇に封印されているもう一人さ』


「蛇に封印って、吸血姫の眷属……もどきの血の力の事か?」


『(まだ知らないのか)』


「んっ? 何か言ったか?」


 現在血の力を失っている久澄は、聴覚が普通の人間並みであるため、《死》が呟いた言葉を理解する事ができなかった。


『いいや、何も。話がそれたね。

 君の中に在る吸血姫の力は、例え眷属もどきでも君の存在力に余る事は経験上知っているよね』


「! ……ああ、知ってる」


 悔しそうに下唇を噛む久澄は、自然と三年前の夏休みに思考を走らせようとしていた。


『けど、あの実験のせいでそれが全て噴き出そうとしている』


 だがそれを《死》が早口で言葉を繋げることで止める。


『それを漏れ出た僕の《死》で抑え込んでいるのだが……それじゃあよくない』


 そう言いながら左手を前に向ける《死》に、久澄は身構えた。


『僕は君だ。君が本当にしたかった事をあっちの世界の君の身体を借りて行っといた。あとは君次第だ、クズミサイト。

 君が最強の眷属であり、最弱の血族で在ってしまった罪を背負いたいならば、地獄を己がものとしろ!』


 左手から放たれた黒い《死》により、久澄の根元に降り立った意識は、その場から消え去った。


『……さて、僕は眠るよ。ここまでお膳立てをしたんだ。あとは頼んだよ』


 仰向けになった《死》の瞳には、紅いドレスに身を包んだものの後ろ姿の、真紅の長髪が揺れているのが映っていた。


『      ちゃん』


 《死》は笑みを浮かべ、そして、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ