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ファクターズ  作者: 綾埼空
三話 勇者暴走
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ラウラ平原

 国軍、魔導星の連合軍は、隊列はそのままに青い光と共にラウラ平原南端に移動した。


 ラウラ平原は、草木も水もない乾いた地面があるだけの広く見渡しのいい土地。


 ユーディなどの高位の実力者には、その見渡しのよさとあまりの多さから、二、三キロは離れている筈なのに走るでなく、悠然と進軍する黒い塊が正面に見受けられた。


 連合軍側の戦力は四百に満たない。が、それでも青い発光は目立つようで、裏ギルド側の歩くスピードが上がるのが分かった。


「我々も進軍を始めるぞ!」


『『ハッ』』


 敢えて多くは語らなかったが、言葉の真意は敵が見えていない兵にも伝わったようで、少し力の入った声が返ってくる。


 大体の若い兵はこの戦争が初戦場であるためしょうがない、と若干暢気なことを考えながらデーゲンは、隣に居るこの隊のナンバー二の男へと声をかけた。


「我々魔導星が先行し数を減らしてくる。速めに来てくれ」


 魔導星を巻き込んだ戦闘になる場合、これが基本戦術である。


「了解。ご武運を」


「ああ。

 魔導星、移動するぞ」


 隊の脇を囲むように進む四人へ、命令をした。


「ウチを含めて魔導星の五人までならウチの天星移動スターステップで行った方が速い。魔導星は皆ウチの元に集まって」


 近くに居るヒーナへ申しわけなさそうに目礼をするユーディに、とんでもないとばかりに首を横に激しく振り、


「任せたわ。けど、すぐに追いつくから」


 不敵な笑いと共にそう言った。


 そこで、ユーディの言葉に言葉を重ねず、四人は立ち止まったユーディの元へ辿り着いた。


 先に進むヒーナにもう一度目礼した後、ユーディを中心に前がデーゲン、左をアーデルト、右はアンネ、後ろにヴァンが身体の触れ合わないギリギリで固まるように命ずる。


「十回に分けて跳ぶ。みんな、この陣形を崩さないでや」


 陣形はすぐに完成したが、ヴァンは自分が後ろに居る意味とも言えるそれに心配の言を告げる。


「天修羅、炎刃は縦に持った方がいいのか?」


「いいや、大丈夫や。ヴァンが離さなければやけど」


 刃渡り二メートルある真紅の大剣・炎刃持つヴァンの疑問は杞憂だったが、最後のを強調したのは、慣れない移動法でも驚かない不動の心を彼が持っていないと判断したためだ。


 言葉の真意に近いものを感づいたようで、ムッとした気配が背中に注ぎ込まれているのをユーディは感じていたが、意識してくれれば何でもいいと思い、


天空転写ミスティックフィルムからの天星移動」


 魔法名を唱えると共に移動を始めた。






 三キロの距離を二十秒で跳びきり、五人は万の大軍と相対していた。


 この素早い移動法に驚倒の声を上げる者も居たが、流石普通では頼めない依頼を取り扱っている裏ギルドである。気配にすぐ殺気を混ぜ、隊列を戦闘用に変えながら武器を取った。


 対する魔導星も武器を取り、必要な魔法をかけ、味方の射程圏内から離れるように散りじりになっていく。


 先頭に居るのは所詮雑魚、時間稼ぎの体力削ぎの捨て駒にすぎない。


 なので五人は気負うこともなく、淡々と、義務的に攻撃を開始した。



 一五〇〇〇対五の、戦闘が開始される。








 ユーディは右端から二番目の百メートル圏内、一五〇〇から二〇〇〇を請け負っていた。


 彼女は百体の天星残滓スターダストに足止めを任せ、天星移動にて三百メートル離れている。


 理由は一つ。発動に時間のかかる大技の準備をするためだ。


 準備、といってもやることは一工程。天空砲撃のエネルギーを圧縮するのみ。


 弓を引くような格好で曲げた五指の内、人差し指と中指の第一関節と第二関節の間の間に黄色に輝く力を圧縮していく。


 少しの集中力の乱れでその力は爆発を起こしてしまうため、精神に一切の細波も起こしてはいけない。


 だが、彼女も慣れている。例え自分と同じ姿形の人形達が切り裂かれ、穿たれ殺されるのを見ても、それを必要な犠牲だと割り切ることができる。そのように気にかけるくらいには無関心ではいられていない。


 その心持ちは、戦場において死と隣り合わせ。


 だがそれに気付くことはなく、ユーディは集まった力を解放する。


天空放射スターレイディエーション


 無感情に唱えられた魔法名に、光の球が指を離れ体積を百倍にまで増大させ、戦闘中の敵には回避できないスピードで進む。


 天星残滓も巻き込まれるが、あれはユーディのちから


 外部から五十近くの新たなエネルギーを巻き込み進む天空放射は、敵に悲鳴も許さずその存在を蒸発させていった。


「んっ?」


 百メートル程後ろまでいったところで天空放射を消した。


「もう終わりかいな?」


 疑問符を浮かべるユーディの先には、軽く抉れた地面しか残っていなかった。








 左から二番目を任されたヴァンは、持ち場に着いた後、すぐさま大炎渦の準備を始める。


 一度体内を循環させた後に外界に生み出した火を元に作り出す炎渦は、回るたびにその粘度を示すような不快な音を響かせていた。


 その炎渦を自身の周りに四、そこから三十一センチ間隔で八、十六、三十二、六十四、一二八と倍ずつ生み出していく。


 そして剣を回し、ものが外へ向かう力を利用して炎混ぜ、超高密度の炎の渦を作る。


 ヴァンが使用する剣の銘は『炎刃』。それには炎石と呼ばれる石が使われており、赤く熱に強いのが特徴ある。加工する際に敢えて石特有の凹凸を消さないことで炎のコントロールをしやすくしている。


 水の鎧を纏いヴァンは剣を回しながら歩を進め始める。


 一瞬で魔眼使いへの怨みが増幅するが、今は関係無い。


 暗殺者のように静かに素早く迫ってくるのが熱探知で分かったので、それを好機とばかりに剣を回すのを止め、未だに刺している炎刃から大炎渦に含まれる魔力コントロールをし形状を変化させる。


 円から線へ。炎刃を骨とし、五メートル級剣の形にした大炎渦で駆けながら横薙に斬り裂いていく。


 大炎刃。高温の炎で焼き斬ることで一滴の出血も許さずに相手の命を刈り取る。


 無系統の魔法で重量を無くした剣は、回避不可能な速さで大量の人間を二等分にしていく。


 隙を突き、後ろから迫ってくる敵に対しても円を描くようにして回ることでその命を終わらせる。またその際に一瞬だけ大炎渦が生まれ、近くに居る人間を膨大な熱の中へ絡め取る。


「意外と呆気なかったな……」


 二、三十メートル進んだ辺りでヴァンの相手する敵は全員絶命し、炎刃を地面に突き刺しその鍔へ向かい跳び戦場を見渡す。


 デーゲンの方は見るまでもない。


「うへ、相変わらずだな」


 彼が相手に対し同情の念を覚えたのは、アーデルトのあまりに一方的な戦場であった。







 左端を請け負っていたアーデルトは、石世界人特異魔法の石魔法を使い地面から椅子の形をしたようなものに座って持ち込んでいた本を読んでいた。


 彼の戦闘は既に終わっている。


 執事が着るようなスーツに身をまとう彼には、一滴の血は付いていない。


 では何故決着か。それは彼の目の前で繰り広げられている光景を見れば明らかだ。


 同士討ち。屈強な男達が自分の仲間らを殺し合っている。


 アーデルトの特異魔法とも言える幻覚魔法は闇(影)の属性を有している。


 闇魔法は、有機、無機関係無しに入り込み、生物に対しては、その相手の能力の全掌握権を手にすることが理論的にはできるとされている。


 そして今期最大の闇魔法使いである彼が行った事は三つ。敵の深層心理を刺激し、今一番殺したい相手の事に全意識を占めさせ、彼らの見る能力をいじり周りにその相手が居ると錯覚させる。最後に知性に闇で蓋をする。


 それだけで彼らは、何の疑問も持たずに仲間を殺しているのである。


 本も残り数ページだったため既に読み終わってしまったので、今は低い音域の鼻歌混じりにその光景を楽しんでいた。


「もう終わりですか……」


 最後の一人が自決するのを見て、そう呟いた後、大きく息を吸い血の香りを楽しみながらも残念そうな笑みを浮かべた。







 一番右端を受け持つアンネは、ドレスのスカートを軽く持ち上げ華麗に一礼した後、死者の嘆きを発動した。


 アンネの瞳が機械的な色を帯びる。


「さて、行きますわよ」


 アンネはゆっくりと歩みを進め始める。


 威勢良く駆けてくるこれぞ盗賊という格好をした二振りのナイフをクロスさせる男へ左手を振るう。それと同調し、死者の嘆きの左手も振るわれる。


 緑に発光する骸骨の手に触れられた男性は、悲鳴を上げた後、その身体を爆散させた。返り血で彼女の純白のドレスや白色の肌が穢れる事はない。身に纏う緑の光が、汚れが付く前に拒絶してしまうから。


 なのでアンネは、今目の前で起きた不自然な現象を何の不自由なく観察、思考することができた。


「もしかして洗脳されていますの?」


 アンネが行ったのは、あくまで『回復』なので悲鳴を上げる事は普通無い。


 しかし、何らかの方法で自我を操られ、それをアンネが回復させたとしたら。


 彼女はあの一方的な虐殺を見ても怯まず進んでくる男性達を診る。


「ふむ、これはちょっときな臭いですわね……」


 なら、と右手を前に構え左手で右の手首を掴むような動作をした。無論死者の嘆きも同調する。


 魔力を維持から放出へと変え、


「回復砲、いきますわ」


 必要がないのに唱えると、死者の嘆きの右手から緑色の光が発射される。


 普通の回復の範疇に抑えた回復の光は正面に居る全ての者の意識を奪った。それは、洗脳のみを解いた証。


「ユーディちゃんに移動を頼まないといけませんわね」


 そう独白した後、既に役目を終えているユーディの方へ向き直り、スカートを軽く上げちょこちょこと走り出した。








 四人が自然と別れていくのを意識の外へ持っていき、デーゲンは左右の腰にかけてある二本の剣を抜き払い、迫りきていた二人の首をはねる。


 左で抜いた剣の銘は無鉄。世界で三番目に堅く、王都プルファを囲う外壁にも使われている硬鉄を百パーセント使い重量は二百キロ、そこへ雷の魔術加護を付け加えスピードを上げた重と速を兼ね備えたオールマイティーな剣。


 右で払った剣の銘は蒼龍。世界で二番目に堅い物質ブルーオリハルコンという伝説級の物質が此方も百パーセント使われている。絶対鉱石と例えられる程の物質で、完全に此方の世界で発掘されたブルーオリハルコンは五グラムで小国が買えるくらいの価値を持つ。デーゲンが持つ蒼龍は五百グラムと価値が計り知れない物である。


 そのアンバランスな二剣で行うは、人間の消去。


 デーゲンが得意としているのは無系統魔法。しかし彼の無系統は、生物を消去するまでに至る。


 殺害でなく、消去。


 この世からその存在を消去できるのはデーゲンのみである。


 だがそれ故に、この状況に疑念を覚えていた。無双の牙が戦地に降り立てば戦闘は終わる。客観的に見て、それ程までの畏怖を持たれているはずなのだが一向に怯む様子はなく、逆に勢いを増して攻めてくる。


 だからといって攻撃の手を休めることはしない。


 敵が武器を持って攻めてくる。これだけでデーゲンがその力を振るう理由として十分だった。


 両方の剣に、生物の存在を無に帰す力を纏わせ、その力と共に斬撃を飛ばした。


 特異無魔法、虚無が裏ギルド先遣隊第一陣の命を消去する。


「終わりか」


 無を纏う双振りの剣を操る国王の牙、故に無双の牙。


 デーゲンは音を立てずに剣を鞘に収めると、自身が消した命へ黙祷を捧げた。






 戦闘が終わった魔導星は、自然とデーゲンの元へ集まった。


「気付いていらっしゃると思いますが、彼ら洗脳を施された三傑の配下ギルドですわよ」


 開口一番、診た結果を伝えるアンネに皆は得心がいった、とばかりに頷いた。


「なのでユーディちゃんに頼んで運んでもらって、元々彼女が移した分も合わせて三千人くらい城へ持っていきました」


 天星放射は力を圧縮して放つ技。天星移動を圧縮することで大量の人間を遠くへ跳ばすことも可能である。ユーディはニブルドに一部の人間を尋問用にと命じられていた。


 それを知っていたアンネは、殺すのは忍びないからと頼んだのだ。


「オレらはみんな蘇生不可能にまでってしまったんで移動は無理ですね。違和感はあったのですが、すいません」


「いいのですよ。これは戦争なのですから。

 それにしても……」


「ああ、あまりにも弱すぎるな」


 今まで目を瞑り、腕を組んで黙って状況を聞いていたデーゲンが口を開いた。


「やはりデーゲンさんも感じましたか」


「そうやよな」


「ええ、異常なくらい」


「私も皆様と同意見ですね」


 皆間髪を入れず同意を示す。


 そのことから導かれる答えは。


「闇ギルドの先遣隊との戦いであるこの戦争の一陣、捨て駒ということだろう」


「まあ、その可能性が一番高いでしょ……」


「どうした?」


「何か、聞こえませんか……?」


 アンネに言われ、全員が耳を澄ます。


「……なあ、転移石って国の独占技術じゃないんかいな」


 驚きにより間抜けな声色で呟く。


「その筈なんですがね……」


 彼女らの視線の先には、先程連合軍が降り立った地に青い光と共に姿を現す黒いフード付きのローブを身にまとった数千の人間。


 魔導星はその距離から見ることが叶わなかったが、彼らのローブのフード部分に自身の身まで飲み込んでいる白色の蛇の紋様が描かれていた。


今回は視点移動が多く、見せ方的にも時間軸がバラバラだったため、本当はどの順番で戦闘を終わらせていたのかをこの場を借りて書きたいと思います。


左から、


デーゲン→ユーディ→ヴァン→アンネ→アーデルト


となっております。


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