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ファクターズ  作者: 綾埼空
三話 勇者暴走
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実験

 大きな金属同士をぶつけ合ったような甲高い音が鳴り響くと共に城内全体を赤黒いライトが照らし始めた。


『全管制室から伝達。王域内、北の−−シニア渓谷に裏ギルド環状の竜、悪循環の種の姿を確認。

 両ギルド、身喰らう蛇の配下ギルドです』


 機械的な音声が響き渡る。


『ザザッ、王、ニブルド・ティラスメニア様からの命令。魔導星、国軍、、ヒーナ・エリア、サイトは門下の広場前まで集まるように』






 ユーディ、ヒーナ、ハーツと共に廊下で戦争について話し込んでいた久澄は、その放送に顔の色を変えた。


「二人とも」


「ああ」「ええ」


 無駄な言葉は交わさず、四名は広場に向かって駆け出した。







 保健室で会話をしていたデーゲンとヴァンの行動は速かった。


「オレも行きます、デーゲンさん」


「解った」


 起き上がったヴァンを止めることはせず、空の遺産を保健医の女医に預けた。


「分かりました。アンネちゃんによろしく言っといてください」


 緊急の召集なため保管庫へ預けに行ってもらいたい、一瞬でその意図を理解した女医は、旧友に対する心配の念を伝えるように頼んだ。


 先を急ぐデーゲンは声ではなく、後ろ手を上げそれに了承を示す。


 二人は空気摩擦を消す魔法を使いトップスピードを越えるスピードで走り始めた。







 放送から一分後、放送で呼ばれた全員が螺旋階段下の広場に集まった。


 国軍はデーゲンや各部隊の部隊長、国軍内では副団長の立場にある者を先頭にその部隊員が後ろに並ぶ。各部隊基本三〇+誤差で形成されていたが、今回の件で二十後半から十の前半までの部隊が十四隊横に一定間隔で整列している。アンネとアーデルトは、国軍の左右横に別れて各々聞きやすい位置で佇み、ユーディ、ヒーナ、久澄は国軍の後ろで隙間から前を除くように横並びで立っていた。


「状況は放送の通り、一刻を争う。部隊の再編成、再調整ができなかったのは厳しいが、これは戦争だ。後手に回る状況になった以上最高の手で居られるわけがない。だが、お前等ならこの状況をひっくり返せるだろう」


『『ハッ!』』


 空気を震わす気合いの声が上がる。


「現在時刻、一三二三。奴らはラウラ平原に向かい進軍中だ。決戦の場はラウラ平原。数は万を越える。我が軍の進行スピードと計算し、一三四○に武装をまとめ再びこの場に集合。

 以上。解散!!」


『『ハッ!!』』


 先程より気合いの入った声が上がり、規則正しい隊列で城へ戻っていく。


 デーゲンとヴァンを除く魔導星のメンバーは、自然とニブルドの元へ集まり始めた。


「国軍の方達は陣形があるますから大丈夫でしょうけれど、わたくし達はどうすれば?」


「本気さえ出してもらえれば、基本的に任せる方向で。

 ヴァンは炎石刃を使っての本気の大炎渦を。デーゲンも絶対鉱石オリハルコンの青剣と鉱鉄を魔術加護で強化した剣、無鉄で行くように命令しといたからね」


「では、わたくしは生死流転を使用しても?」


「構わないよ。

 アーデルトもアンネが生きている限りは幻覚見せて強制的に動かしても構わないから」


「御意に。

 しかし、アンネ様が死ぬことはあるのでしょうか?」


「わたくしだって寿命が尽きれば死にますわ」


「そうそう。だからユーディも、手加減はしなくていい」


「うーん、あんま好かんけど、戦争やからね。手は抜かんわ」


 戦争前にしては緊張感のない会話だが、それぞれが匂わせているのは、どれもこれも王域内に所々存在する小国程度なら一夜で地図上から消せる力であった。


「ヒーナ、初めての戦場がこんな感じで悪いけど、絶対に逃げ出さないでくれよ」


 口の端を上げ、挑発するような感じで告げるニブルドにしっかりとした口調でヒーナは返す。


「初めて、じゃないですよ、兄様。だから大丈夫です。我は我のできることを決して諦めたりはしません」


 瞳に決意の色を映しニブルドを見つめる。恐怖をしていた瞳をヒーナは見つめた。


 ヒーナに対して頷くニブルド。


 そんな彼にアンネは達観したような声色で言った。


「大丈夫、誰も逃げませんわ。わたくしが居るかぎり、『戦場が地獄にはなりませんこと』をご存知でしょう?」


 そんなアンネに、ニブルドは苦笑いと共に再度頷いた。






 一三三五。


「武運を願うよ」


 予定よりも五分早く集まった国軍に、ニブルドはそう言った。


 彼ら、あるいは彼女らの手には、青いひし形の石が握られている。


「よし、行け!!」


 その言葉に、手に持った石に魔力を注ぎ、その姿を消した。


 それは転移石と呼ばれる物で、過去空の操手であるハーツ手を抜いて作り出した街道の転移空間の技術を解析し、多少の制限が付いているながらも物質化に成功した物であった。制限とは、予め転移先としてのマーキングがされている所にしか飛べないことである。だが幸いにも、ラウラ平原はその広さから大きな戦闘が行われる可能性があると危惧されているのと、近くに国軍の演習に使われるシニア渓谷があることから転移先に登録されていたのだ。


 ちなみに生産には莫大なお金がかかるため、市販はされていない。


 ハーツも自身の存在力を使いラウラ平原へと飛んだ。


 この場に残るのは、魔力を欠乏したニブルドと力を失った久澄。


「それで、実験はしてくれるんだよな」


 久澄には転移石が渡されていなかった。ニブルドに、予定より早いが実験を行う、と言われたためだ。


 だが場合が場合のため嘘の可能性も無い、とは言いきれないので、厳しい視線と共に問うた。


「大丈夫だよ。さっきも言った通り、予定より早いから準備があるけど。実験は行う」


 視線を気にしたようすもなく、ニブルドは螺旋階段へ足を向け、黙って歩いていく。


 その背中に、久澄も黙ってついて行った。







 城内を複雑に進み、二人は他の扉と変わらない扉の前で足を止めた。


 ニブルドはその扉のノブに手を付ける。


『魔力−−−−ニブルド・ティラスメニアと確認。鍵を開けます』


 管制室とは音の高さの違う機械的な音声の通り、ドアノブは自然に下り、扉が開く。


「さあ、ここが死の実験場だ」


 久澄は地下へと繋がる先の見えない階段に、気の高揚覚えていた。






 計三十分程かけ辿り着いた中には、白衣を身にまとった男女が発光する画面に難しい顔で向かい合っていた。


「あっ、ニブルド様。準備は九割方終わっています。サイト様、下の実験場へ」


 機械の並ぶ部屋の一番奥に居た体格のいい男性が、二人の入室と共にそう告げる。


 久澄はニブルドを一瞥した後、促されるままに左手にある厚い鉄板で作られている扉を抜け、手すりのない十メートル程の階段を下り、緑色の光に照らされる半径五メートル程の円形の空間に足を付けた。


『サイト様、そこの白い線の間に立ってもらえますでしょうか』


 久澄は指示通り、中央にある二本の白い線の間に足を進め、立った。


『サイト様、こちらの準備は完了しました。

 もし何かしらの異変がありましたらすぐにお伝えください。

 ては、始めます』


 久澄の側から向こう側を見れていた三枚の縦長ね窓が黒くなると同時に、彼の胸の前に球が顕現した。


 白く、しかし虹色に発光するソレは自然と、導かれるように彼の胸の中に入っていった。


「……っ」


 痛みは無いものの、軽く息の詰まる感覚に襲われた。が、それも少しの間。変化はすぐに訪れた。


「この感覚は……」


 その感覚は今最も欲していた力だった。それに嬉しさと悲しみの入り混じった表情を浮かべつつ思い出す。


 忘れもしない中学一年の夏休み。


 久澄が始めて『恐苛』と呼ばれる現象に遭遇し、生まれ変わった日。


 彼女に救われ、彼女のために戦い、そして彼女をその手で殺した悪夢のような現実。そう、自分の甘さを思い知らされた恐怖の現実。


 恐怖を体現したような存在、吸血鬼の姫、最恐最弱の吸血姫ティアハート・オウススウィート・フィアブラッドムーンにまつわる一件の時、彼が最強の眷属であり最弱の血族であった時、人間でもなく、恐苛・吸血鬼にも成りきれなかった時の感覚。人外の存在力。久澄碎斗の全盛期の力である。


 嫌に大きく聞こえる心臓の音と共に着実に戻っていく力。


 何事もないまま実験は終わる。向こうでモニタリングをしている実験者、ニブルド、何より久澄碎斗自身そう思っていた。しかし。


 ソレは突然訪れた。


 久澄の左手の平。そこに黒い真っ黒い点が生まれていたのである。


 最初に気がついたのは久澄自身だった。


(ん? なんだ)


 実験の最中に異常か起きた場合すぐさま伝えろと言われていたため伝えようとする。しかし、


(喋れない……何で!)


 口が喋り方を忘れてしまったように動かなかったのである。


 ドクン……ドクン……。


 規則的な心臓の動きを感じながら、突如意識が黒に呑み込まれた。


 そして、意識を失った久澄を黒が覆いつくした。





「おい、何があった!」


 実験を窓から見守っていたニブルドが後ろを向き怒鳴る。


「わ、解りません。機械での変化は見受けられません」


 変化が無いということは、まだ実験が終わったわけではないことを表している。


「チッ。今すぐ止めろ。僕が見に行く!!」


 煮えきらない答えに、苛つきを露わにしながらニブルドは駆け出そうとした。


 しかし、すぐに体格のよい実験長の男性に羽交い締めにされ止められた。


「何をする!!」


「それはこちらの台詞です。『今』の貴方が行かれても何も対処はできません」


「ぐぅ…………」


 こんな時に何もできない自分の無力さに、ニブルドは唸った。


 彼のそんな心情が解らないでも無かったが、それは敢えて意識の外へ置き、男性は手を解かぬまま振り向き、大声で命じる。


「今すぐ実験は中止。顕現球を壊し、神経麻痺の薬を撒け」


 しかし、彼らの行動が開始される前に、実験場から久澄碎斗の声が上がった。


『僕は……そうか』


 時が止まる。


 男性は羽交い締めを解き、拡声器に声を当てた。


『大丈夫、ですか……?』


『……あっちか』


 だが答えが返ってくることはなく、久澄は北側を向き、左手の五指の付け根、手首に巻き付くではなく、少し浮くように生まれていた全身を包む黒より濃く黒いリングの一つを自身に向け放った。


 リングは小さな球となりぶつかり、そして彼は、その姿を消した。


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