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ファクターズ  作者: 綾埼空
三話 勇者暴走
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魔導星

 背徳姫のアンネからどうにか逃げ出したメイドは、食堂にて新たな仕事を承っていた。否、押し付けられていた。


 第一客間へ人数分−−つまり六つのティーセットを持っていけと言われていた。


 皆、アンネさんに出会う確率がある仕事は嫌なんだろうな、と自身の体験と合わせしみじみと理解していたが、断ることはできない。


 何故なら、彼女が一番の若手だからである。


 メイド、もしくは女中の世界は縦の命令系統が基本である。


 無論、王に仕える者達が小物じみた悪戯をするわけも無いため若手であろうと嫌気がさす事も無いが、縦社会である以上命令は絶対だ。


 先輩方の謝罪の声に後を押されるように、メイドは第一客間へ足を進めた。







 ノックを二回すると、扉の向こうから入室を促す声が聞こえてきて、同時に扉が開けられる。


「失礼します」


 一礼をし、中へ入ると、自然と扉は閉まった。


「ありがとうございます」


 扉の開け閉めを行ってくれたのは、『無双の牙』のデーゲンさん。


 流石の会議室では鎧は着用しておらず、楽そうな格好ではあるのだが、


(筋肉が凄すぎる……)


 緩い格好故か、職人にあつらえてもらっているという服の隙間から常人には考えられない引き締まり方をしている筋肉が覗いている。


 デーゲンさんは、此方の礼に片手を軽く挙げ返し、所定の位置に戻っていった。


 その姿を追うように、テーブルの方へ目が行く。


 デーゲンさんが座ったのは、わたしから見て左手前。そしてそのまま、テーブルの全体を見渡す。


 デーゲンさんの前は空席。其処にはアンネが座る。


 デーゲンの隣。其処もまた空席である。その席には、あの悪名高き『天修羅』のユーディが腰を降ろす、予定だ。


 ユーディの座る席の前。其処には生意気そうな目つきをした朱髪の少年がいる。


 彼の名はヴァン。『大炎渦』の二つ名を持つ。


 少し視線を戻し、ユーディの隣には、『幻惑』のアーデルトがちょうど読み終わったのか本閉じ、ズレたのであろう眼鏡の位置を調整していた。今回の会議は本体で出席なようで、話に聞いていたような何処か人間味のない姿ではなかった。


 そして最後に、一番奥の上座に当たる席に座っているのが、『君主』ニブルド・ティラスメニア。


 この席は固定で、普通ならば序列最下位のアーデルトがデーゲンさんの席に当たるのだが、強者が扉の近くに座っている方がもしもの時速いという理由でこういう席順になっている。


 だが、魔導星序列一位兼現王であるニブルド様は身を大事を一番としなければならないため、扉から一番遠い席にいるのである。


 魔導星の会議があるということで、急遽教え込まれた事実を再確認しつつ、わたしはカートを部屋の端まで押し、其処でお湯から作り始める。


 氷世界のある村の特産品である水を大きめの水注に入れ、火魔法で水を直接温める。


 出来上がりを待つ間に、茶葉を用意していく。


 全てが終わり数分後。液体の沸騰し始めで魔法を切り、カップ一つ一つにお湯を注いでいく。


 四つのカップをトレーに乗せ、ニブルド様から左回りに置いていく。


 あと二人。アンネとユーディが来るまでわたしの仕事は終わらない。


(……それにしても、少し騒がしいわね)


 秘匿性の高い魔導星の会議を開く場所だ。防音設備は整っているのだろうけれど、こんなに静かであれば多少は響くのかもしれない。


 しかし、その考えはあまりに楽観的すぎる、とすぐに思い知らされる事となった。


 騒音が近くなってきたな、と思った瞬間、扉が勢いよく開かれた。


 驚き、目を見開き其方を見ると、其処には夜の暗闇を映したような髪色と瞳をした自分と同い年程度の少女が居た。


 彼女の周りには、彼女の髪や瞳の色をそのまま映したようなものが広がっており、それはまるで月を失った夜のようであった。


 よく見ると黄色に発光している星のようなものと同じものの幾つかが光を失っている。


「ニブルド!! て前ぇもまだあのシステムを利用しているのか」


 それは、普通なら感じ取れないであろうわたしにも解った。


 殺気。わたしはそれに尻餅をつくことも、膝を震えさせることもできなかった。できたのは、硬直のみ。


「あのシステム、というのは何だい?」


 こんなわたしとは違い、数百倍にもその殺気を感じ取れているはずなのに、ニブルド様は何時もと変わらぬ口調でお返しする。


「魔眼判別システム。あんな魔眼差別を促進するような機械を何故付けているんや!?」


 そんな物がこの城に付いていたなんて初耳だ。


 しかし、彼女は何故『そんな当たり前の事』で怒っているのだろう?


 魔眼持ち何ていう、神に仇為したモノを拒絶するのは当たり前ではないか。


 わたしのそんな疑問は、勿論解決されないまま話は進む。


「この状態じゃ、街の端についても手をつけていないままやろ!!」


 街の端。その単語で思い浮かぶのは彼らだ。


 奴隷落ち。主人が一族共々亡くなって行く宛が無くなったり、主人の元から逃げ出したり、奴隷商人に売れない、と棄てられた奴隷達が自然と集まるこの街のゴミ溜め。


 本当に解らない。彼女の怒りの意味が。


 しかし、わたしの身分でそれを質問することはできない。


「おいおい、まだそんな甘い事を言っているのか、天修羅」


 だが、この場には発言ができる立場の人間が揃っていた。


 その中の一人、大炎渦のヴァンが口を開いた。


「魔眼持ちは一度暴走すれば全てを滅ぼす悪魔の力だ。ここは王の住居だぜ。それくらいのシステムで許されているだけ異例何だぜ。

 それにゴミはゴミ、だろ?」


 生意気な口調ながらも、わたしの心の内を代弁したような言葉の後に、ハハッ、と笑うヴァン。


 天修羅のユーディだと判明した彼女の反応を見るため首を動かすと、彼女はヴァンに向けて右手を伸ばしていた。


るってのか? いいぜ、そろそろ序列も交換時だろうしな!」


 その動作は攻撃の意だったようで、ヴァンが笑い続けながら立ち上がる。


 そして、そんな彼を中心に熱気が生まれる。彼の紅茶が沸騰し始める程の熱気。


 一触即発の刺すような空気。流れ落ちる汗が鉛のようだと錯覚する事しかできない中、一人の男が立ち上がった。


 デーゲンさんである。彼の背後から、無色の力の奔流が生まれた。


 熱気と緊張感が占める空間の中でも分かった絶対的な力は、ユーディとヴァンの周りを包んだのが感じられた。


 その瞬間、ユーディの周りの夜空色の空間と、ヴァンを中心に生まれていた熱気が消えた。


 魔法には耐久力がある。魔力、つまり生命力が強い人程その耐久力は上がる。生命力は鍛えられるため、修行を繰り返した人程レベルの高い魔法使いとなる。


 魔導星は魔法使いのトップに立つ者達。しかし、同じ魔導星でもこれ程の差が出る。


 これが二位と五位、四位の差。


 だが目の前で繰り広げられた光景に息を飲むと同時に、目の前に居るのは最強の魔法使い軍団、魔導星なのだと実感する。


「天修羅、お前の言い分も分かるし、ニブルド様はその件についてしっかり動いておられる。しかし流石のニブルド様でも、あの評議員を全員黙らせるのは至難の技なんだ」


「…………っ」


 先程まで濃密な殺気を放っていたユーディがそれを収め、軽く俯き歯を食いしばった。


 その光景に優越感の隠されていない笑みを浮かべるヴァンに、デーゲンさんは厳しい顔で向き直る。


「ヴァン、貴様の民衆的な考え方はこの魔導星の中では貴重なものだが、それを天修羅にぶつけるのは止めろと何度も言っていたであろう」


 その声に笑みを消し、反射的に足を肩幅まで開き手を後ろで組んだ。


「ハッ、しかし」


「しかし、ではない」


 静かな声。だが、心の底−−本能が恐怖するような力が含まれていた。


「すいませんでした」


 一礼し、謝罪の意を示した後、自身の席へ腰を降ろす。


「俺にではなく、天修羅に言ってもらいたいものだが……まあ、貴様にしては上出来と言えるか。

 そういう訳だ、天修羅、色々とすまない」


「いや……こっちにも非はあるんで……」


 気まずげに一礼した後、ユーディは自席へ向かい座った。


「はあ、無駄に疲れたわ。そこのメイドちゃん、お茶貰っていいかい」


 始め、それがわたしに掛けられた言葉だと認識できなかった。


 現実感の希薄化。それが起こるくらいに凄い光景だったのだから。


 魔導星の魔法の一部を見ることができた。それは、前線に出ないわたしみたいな非戦闘員には一生に一度、あるかないかの出来事なのだから。


「……解りました」


 そのためわたしは、一拍遅れるという不自然な対応をしてしまった。


 幸いに、そこら辺の事は気にしないようでユーディは聞くだけ聞いた後上半身を机に俯せ、体力の回復を始めた。ように見える。


 お湯に関しては、ヴァンの熱気のお陰で熱々なので魔法をまた使うことなく、すぐに赤褐色の液体を作り出せた。


 それを「失礼します」と一言入れ少し離して置いた後、ニブルド様、デーゲンさん、アーデルト、ヴァンの空になっているカップを二回に分けて運び、再び作り、先程と同じように配る。


「カップは六つしかないの?」


 アーデルトまで配り終わり、所定の位置に戻ろうとしていたわたしの背中に、ニブルド様のお声が掛かる。


「はい。今回は魔導星の皆様のみなので」


 質問の真意が理解できなかったため、当たり障りの無い答えを返しておく。


「じゃあ、僕のカップは彼女に渡しといてもらえるかな」


 わたしはニブルド様が指差した先−−扉の方を見た。


 ユーディにより乱暴に開けられたままの扉の向こうには、遠慮がちにこちらを覗く、栗色の頭が見れた。


「……彼女は?」


 ついつい質問してしまった。新たな火種かと、警戒した故である。


義妹いもうとさ。義妹のヒーナ」


 驚いた。前王、前王妃以外にご家族がいらっしゃるとは。対外的には知られていない事実なのだろう。初耳だった。


「かしこまりました」


 ご家族なら大丈夫だろうと、ニブルド様のカップを持ちヒーナ様の元へ歩みを進めた。


「なっ……!!」


 危うくカップを落としそうになる。


 衝撃の光景が目の前に広がったからだ。


 こちらの異変に気付いて、面白そうにヴァンはユーディに対して口を開いた。


「おい、天修羅。お前何人ヤった」


 ったなのかったなのか、言葉の雰囲気からは判らなかった。


 後ろで繰り広げられ始めた事なので表情は分からないが、ユーディはつまらなそうな声色で質問に返した。


「数えてへん。頭に血、昇ってたから。まあ、来たの全部薙払っただけやで。それとウチは誰も殺してへんからな」


「一応今回は全兵居たのだがな」


「まるで相手になっていない様子だね」


 ユーディの漏らした驚愕の言葉に対し、ニブルド様もデーゲンさんもいつもの声色で冷静に感想を延べ始めた。


「明日から訓練の密度を一段階上げます」


 女性一人止められない兵力に憂いてか、ただでさえ厳しいと評判の国軍の訓練をさらに厳しくすると言い始める。


「そんな。くそっ、天修羅!」


 デーゲンさん率いる国軍に属するヴァンが悲嘆の声を上げ、原因であるユーディに敵意を向けたのが分かる。


 だがユーディは、今回は反応せず、カップとソーサーの触れ合う音を響かせ、多分紅茶に口を付けた。


 その音で自身の役目を思い出し、気を失い転がっている兵士達に軽く同情の念を送りながら、ヒーナ様へティーカップを渡した。


「あ、ありがとうございます」


「い、いえ……」


 この城に来て、初めてお礼を言われたため動揺してしまった。


「ヒーナ、そんな所で何だ、入ってきな」


 ニブルド様から入室を促すお声が挙がる。


 ヒーナ様はそれに抗わず、少し震えた足取りで部屋へ入っていく。


 彼女にとって兵士達が倒れている光景は怖いものなのだろうと判断した。


 おぼつかない足取りにハラハラした気持ちでその行く先を見守る。失礼なのだろうけれど、その気持ちを凌駕する程の不安定さなのだからしょうがない。


 ヒーナ様が扉から少し離れたテーブルまで辿り着くと、今の今まで何事にも不干渉であったアーデルトがいつの間にか立ち上がっており、ヒーナ様を自身の席の方へ促し始めた。


 ヒーナ様は自然な動作であの魔導星の一角であるアーデルトの席へその身を落ち着かせた。


 そういえば聞いたことがある。


 魔導星、アーデルトが実体で会議に出たのは一度で、その際にニブルド様に誰かを守護するように頼んでいたと。それがヒーナ様だったのだ。


 得心がいった。わたしは女中の皆が知らない情報を数多く知れ、何だか清々しい気持ちになりながら、部屋へ入ろうとした。


 しかし、不幸は突然やってくる。


「あらあら。此方もかなり怪我人の方が多いですわね」


 先刻、嫌になる程聞かされた上品な声色。


 アンネが黄緑色の光に包まれた骸骨から、その光を兵士達に分け与え、回復させていった。


「あれが、背徳姫アンネの死者の嘆き(グリーフヒーリング)」


 まさか魔導星序列三位の魔法の実物を見れるなんて。


「あっ、メイドちゃーん」


「ヒッ!!」


 だが、アンネは苦手だ。


 逃げるよう部屋に戻り扉を閉めようとしたが、後数瞬のところで滑らかな動作で入室してきて−−それでも兵士達は回復済−−捕まってしまった。


 −−こうして魔導星は全員集合を果たした。


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