表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファクターズ  作者: 綾埼空
三話 勇者暴走
30/131

奇跡

 旅立ってから八日後。


 遂に王都・プルファへと辿り着いた。


 長かった、としか言いようが無い。


 色々あった。野党や山賊に教われたり、石蛇や岩の塊が人の形をとっているスーマンと呼ばれる魔物の群れと遭遇してしまったり。


 幸いにユーディの相手になるレベルではなく、原視眼及び血の力が使えない足手まといが居ても余裕で退けられていたが。


 因みにヒーナは九歳まで王都暮らしであり、それからは村へと帰され一度も外へ出たことが無かったため、初めて見る魔物に怯え、終始ハーツの後ろに隠れていた。


 ただ、巫女以外が普通に見てもハーツの姿は見えないため、ヒーナの姿は魔物から丸見えだった。


 まあ、魔物がヒーナ、と認識した時には天空砲撃サテライトキャノンが威嚇射撃として撃たれていたため、実際に襲われる、ということはなかったが。


 人間に襲われた際も似たような流れだった。



「で、でか……!」


 そして天高く、先が見えないほど高く、そびえ立つ外壁を抜け、目に入ったのは黒を基調として城。


「ほら、行くで」


 ユーディに呼ばれ、その城の吹き抜けを潜っていった。







「なあ、ユーディ……」


「なんや?」


「広すぎないか?」


 抜けた先に広がる光景は、あんなに高かった外壁が小さく見える程の城下街だった。


 だが、北の街道はそんなに長いものではなかったと記憶している。


その旨を伝えると、呆れ気味の笑みと共に親指で後ろを差した。


 未だに回復しない左目の所為で視えないが、其処にはハーツが居るのであろう。


「街道には物流の効率化を狙って、できるだけ速く街や村を巡れるように空間転移の魔法が半永久的にかけられているんや」


「その理論作りに協力したのが、この状態になる前の私って訳」


 誇らしげ、というには自虐要素満載の声色で苦笑した。


「空間転移はどれだけのスピードで入ったかによって跳ばされる位置が変わるの。だからあんなに速く村を回れたってこと」


 説明が終わり、ユーディに続くように三人は左手にある螺旋階段に向かい、登り始めた。






 威圧感のある漆黒と白銀の門の前に立つまさかりを持つ二人の若い女性にユーディは、服をずらし左肩を見せた。


 其処には、デーゲンの鎧と同じ、赤い円に黒の十字という紋様が張り付けられている。


「……天修羅、ユーディ・ニィーズと確認できました。第一客間にて皆様がお待ちです」


 よそよそしい、しかし嫌悪感が滲み出している発音でユーディは門の中へ通された。ハーツはそれに付いていく。


「俺らも入って大丈夫か?」


 念のためそう訪ねると、女性達は鉞を抜き、城内への道を遮るようにクロスされる。


「ここをどこと心得る。現王、ニブルド様の居わす城になるぞ。下賤の者が立ち入っていい訳なかろうが!!」


 女性にしては低い声で凄んだが、久澄の意識には細波程の揺れも起きず、冷静に後ろで震える切り札を切った。


「下賤ね……じゃあ、ここにいるニブルドの妹、ヒーナ・ティラスメニア様もそれに入ると?」


「何を言う。妹君は今も石世界に居わすぞ。どこからそんな情報を手に入れたかは知らんが、恥を知れ!!」


 久澄は女性の言葉を敢えて無視し、ヒーナを二回つついた。


 それだけで伝わったようで、ヒーナは門番の女性の前に立ち寄った。


「恥を知るのは貴様の方だ。妾を誰と心得ての狼藉だ」


 その言葉に、女性達は失笑を抑えらなかったようで、声を大にし、馬鹿にしたように大笑いした。


「ははっ、貴様みたいな小娘がワタシ達を愚弄するか。どうせお前らも星妖精の空だろう。全く、獣が多くでしょうがない」


 その言葉に限界だったのか、ユーディが天空転写ミスティックフィルムを発動し右手を前に構え、天空砲撃を使用しようとしたが、それよりも早く、ヒーナの分解糸ライン・ソルーションが女性達の鉞を分子レベルにまで分解した。


 この世界で唯一ヒーナのみが使える魔法。


 ヒーナが、それしか使えない魔法。


 城の者の共通情報として聞かされていた、主−−ニブルドの義妹の絶対唯一の特徴に、門番達は顔を青ざめさせ、膝をついた。


「「し、失礼しました」」


 先程までの威勢はどこえやら、震えた声で二人は城内への道を開いた。


「ふん、いいわ。せいぜい人を見る目を鍛えることね」


 二人には目もくれず、威風堂々と二人の間を通るヒーナ。


「一応俺もお客様だから、いいよな」


 お客様のところにアクセントを乗せ、嫌み百パーセントで告げ、回答も待たずに門へ足を向け、城内へ。


 しかし、耳障りな音が耳の奥で鳴り響き、久澄は左目に強く鈍い痛みを覚え、押さえつけ、うずくまってしまった。


「ぐ……ぐぉ……」


 左目は限界まで見開かれ、淡い緑と無発光に明滅する。


「まさか、こいつ魔眼持ち? おい、何を呆けている!」


 状況が読み込めていないもう一人の女性に叱咤し、自身の側頭部を二回つつき、頭の中で繋いだ場所に語りかける。


(第四管制室、聞こえるか?)


 空間転移魔法の応用系である空間通信魔法を展開し、城内にある門前を管理する部屋に繋げる。


『音声クリア。何がありました?』


 一秒のタイムラグもなく、機械的な音声が返ってくる。


(門前に魔眼持ちが一人。落としてくれ)


『了解しました』


 女性達の脳内にのみ響いたその言葉通り、久澄の下に穴が開き、落ちていく。


 それを見送り、回避不可能な距離まで迫っている光の線を黙って受け入れた。








「はあ、はあ。相変わらずやな、ここは!!」


 怒気が、空気を揺るがす。


「ユ、ユーディ……」


 先程まで作っていたとはいえ、堂々としていたヒーナが後込しりごみする。


「………………」


 何処に監視系の魔法がかけられているか解らないため、何も言えない自分の性質に無力さからハーツは唇を噛み締めていた。


 二人がそのような状態のため、誰もユーディを止めることができない。


「第一客間やったな。行くで。行ってあいつに話をつける!」


 久澄が落とされたのもそうだが、それが最大の理由ではない。


 彼女が怒っているのは、この世界の在り方についてである。異なるものを拒絶しても、それが咎められない世界の作り。


 生物に知性と本能があるかぎりそれは常に共に在るもので、またそれを行うことでこそ種は繁栄できるというものである。


 そのため、そのことについて本当の意味で怒る者など居ないに等しかった。


 しかし、先人達が理性により諦めていた理不尽を、ユーディは許容できなかったのである。


 だからこそ、この国の指導者であり先導者であるニブルドの住居に差別を容認するような造りがあったことに途轍もない怒りを覚えたのだ。


 門番達が倒れたことで代わりと調査をしにきたのであろう屈強そうな男の兵士達を天空砲撃で薙払い、ユーディは修羅の如く進軍を始めた。










「ここは……?」

 

 高さは分からないが、現在血の力も使用できない状態のため常時でも普通の身体能力しかない久澄は受け身に失敗し、背中を打っていた。


 またその事情から、穴が閉じる一瞬の光で目が暗闇を見ることもできず、解るのは濃密な鉄の匂いのみ。否、血の臭いと言うべきか。


 この場はあまりにも死の臭いに満ちていた。


 未だに耳障りな音は響いているが、左目の痛みと明滅は消えている。


 音があるなら明滅もしてくれればいいのに、と呑気な事を思いつつ立ち上がり、クッションとなってくれていた白骨の上に足をつけた。


 おぼつかない足取りでまずは前方へ歩み出す。


 しかし、すぐに所々錆びた檻の前へと辿り着いてしまった。


 一際強い濃厚な血の臭いに拷問や何かしらの実験を行う場所だと当たりを付け、逆側へ向き直り足を進めた。


 これくらいの当たりを付けるのは、あの世界で生きている人間なら可能なことだ。


 それをありのままに受け止められるかは別として。









 余程運が悪いらしい。


 扉こそ見つけられたが、鍵が何かが必要なようで開けることは叶わなかった。


 こんな時に考えてしまうのは、自身の力の無さである。


 だが思考はすぐ打ち切った。


 考えでも仕方ないとこの三年間で理解していたのもあるが、光が射したからだ。


 つまり、扉が開いたのだ。


「あらあら、おかしいわね。メイドちゃんを追ってきたはずですのに?」


 手を頬にあて、首を傾げたのは純白の女性−−背徳姫のアンネ。


「あら、貴方」


 よく見ていなければ分からない程度に目を細めたアンネは、久澄の怪我を一瞬で見破った。


「少々お待ちを」


 アンネはそんな色合いの服装にも関わらず、血と死と埃が漂う空間へ躊躇無く踏み込んだ。


 だが、アンネの純白のドレスは一片の汚れも寄せ付けない。いや、これは正しくない。正確には、アンネが全ての穢れを寄せ付けない。


 そして久澄は、奇跡を見た。


 アンネの後ろに黄緑色に発光する骸骨が生まれ、その手が久澄を握った瞬間、打ち身、骨折が治った。


 死者の嘆き(グリーフヒーリング)。


 蘇生と回復。両方の性質を唯一有するアンネにだけ許された最強の回復魔法。


 その効果は、軽傷であれば一瞬で、重体であれば五秒で、死者なら十秒で回復させる。無論、蘇生魔法の制約の外にでるものではないが。


 だが、奇跡には違わない。


 その光景に呑まれていたためか、アンネの鈍色の瞳が、感情に欠けた機会のような瞳に変化していたことに、久澄は気付かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ