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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 巫女との出会いと守るべき思い
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代償

 西に大きく傾く月さえ暗雲に覆われ、暗闇に支配される世界の中、おびただしい数の赤い光が蠢いていた。


「国軍ノ奴ラガ来テイルノハ予想外ダッタガ、一○○○ニ状況ヲ開始スル」


 先頭に蠢く赤い光が言う。

 それに答える声は一つもない。


 先頭の赤い光はそれに不満を持たない。自分達はそういう存在だから。







「まあ、原因として考えられるのは原視眼の使いすぎと碎斗君が元々持っている力の代償だろうね」


 朝。なかなか起きない久澄を心配したヒーナとユーディがハーツに頼み診てもらったところ、そんな診断が下された。(身体に触れたりしたのはユーディ)


「「元々の力?」」


 久澄の力を知らない二人の声が重なる。


「あっ、えーと……」


 珍しくうろたえるハーツ。彼女は久澄に直接触れた経験があり、無理矢理拒絶はしたものの、その力の根元に関する事象までは知ってしまっているのだ。


「言えないならいいで。それで、いつ目覚めるんや?」


 そんな事は二人とも知らないが、あのハーツがうろたえる事について無理矢理訊こうとも思わないし、思えないため話を本題へ戻した。


 ユーディ達のそんな考えは長年存在してきたハーツからしたら理解するのは簡単で、彼女からしたら、ただ単に人の過去を言いふらすような性格も性質もしていないだけだったのだが、そんな少し逸れた心遣いに素直に感謝しつつ、言葉を繋げる。


「すぐに目覚めるとは思うけど……多分原視眼とその力は少しの間使えなくなっているだろうね」

「じゃあ……」

「原視眼が使えるようになるまで待つ必要があるだろうね」


 久澄達は一秒でも早く村々を回るため、久澄は雷駈、ユーディは天星移動の応用型、ハーツは存在が曖昧なのを利用した、まるでコマを飛ばしたような瞬間移動で街道を移動している。


 そのため普通なら一週間はかかる移動をそれなりの時間で済ませられたのだ。


 だが久澄が原視眼を使用できないのであればプルフェスタ、東の巫女が居る森創界まで恐ろしい程の時間がかかってしまう。


 無論、久澄を置いていく、という手も無くもないが、選択はしない。


 何故なら彼女達には無理矢理連れてきたという負い目があり、それだけなら世界の危機に比べれば無視するべき事だが、もう一つ、時間的余裕ながあった。


 ハーツが言うに、まだ条件が揃っていないらしく、一日二日でいきなり世界の終わり、みたいな事態にはならないらしいのだ。


 そのため三人は久澄の目覚めを待つことにした。


「ねぇ、ハーツ。彼は暫く起きないのよね?」

「ええ、そうだけど……何でかしらヒーナ?」


 問われヒーナは寝る前に考えていた、あることを告げる。


「語り損ねていた我の過去について話そうかと」


 その言葉に、二人の顔色が変わったことは言うまでもない。






「そう、そんな事が……」


 仲間であるディヴァリアの行動に、ハーツがどう感じたか、それを窺い知ることはできない。


「ディヴァらしいといえばディヴァらしい、のかな?」


 だが少なくとも悲嘆に暮れているという様子は無い。


「けどこれで元巫女達はハーツのみやで」


 場には柔らかい空気が漂っていたが、敢えて読まず、似つかわしくないシリアスな話題を出した。


「それにヒーナの話を聞く限り元四方の巫女が儀式後に現れる意味は、正式な力の授与にあるみたいやしな」

「そういえばまだ言っていなかったわね」


 普通魔法というのはプロセスさえ組み立てれば発動できるものである。


 しかし四方の巫女の魔法は理を超える程の力を有しているため、生まれつき全ての力を持たせると巫女自身を殺してしまうので、持たせるわけにはいかなかった。


 そのため考えられたのが力を半分に分解して、半分を輪廻転生の理に任せ、もう半分を然るべき時に授与するという方法である。


 そのため四方の巫女の魔法は不完全であり、名を告げる事で形を明確にしなければ発動しないようになってしまっているのだ。


 そんな旨の事を告げた後、補足するように、

「まあ、空の操手に関しては私がこんなんだから扱いが特別だけど、今は説明しなくてもいい事よね」

「つまりウチやニーネの魔法は理を超えられないと?」

「残念ながらね。その証拠に不完全な私でも貴女の魔法をいじれたし、体現の魔女の名を欲しいがままにできるはずのニーネの魔法、例えば絶対障壁もあのデーゲンという人級クラスの実力者には数十秒で破られてしまうわよ」

「じゃ、じゃあ、今のところ皆を守れるのは我だけか?」

「つけあがるんじゃない。けどそうね……今の状況はどうにかしなければならないわね」


 窘めるように注意した後、今の現状を再確認したように呟いた。


「元巫女達を殺す方法ってあるの」

「あ、それウチも気になっていたんや」


 二人の疑問に一瞬考える素振りを見せたが、それは情報をまとめる間であり、ハーツは普通に答える。


「基本的には無理ね」

「何で?」

「だってもう死んでるんだもん」

「「へっ?」」


 予想外の答えに裏返った声を出す二人。


「正確には力だけの存在なの。ディヴァの魔法で身体と力を分解して、私の魔法で少しいじったの。私はこんなんだから例外だけど」

「じゃ、じゃあ我が出会ったのは……」

「まあ、幽霊やお化けと呼ばれる類の者と言っても変わりはないわね」

「………………」

「! ヒーナ、戻ってきや!!」


 元々の性質が臆病であるヒーナの精神が遂に許容量を越え、固まってしまった。


「と、それより。ハーツ、色々新しすぎて頭が上手く追いつかないんやけど……つまり元巫女達は殺せないということでいいんやな?」

「基本的にはね。けどヒーナのお陰である可能性が浮かび上がってきたわ」

「そ、それは?」


 自身の活躍と聞きヒーナ復活。


「力そのものを捕まえられる人間なら、捕まえて何処かに監禁はできるかもしれないわ」

「蘇生魔法使いやね」


 蘇生魔法。


 読んで字の如く、実際に亡くなった人間を蘇らせ、生かす事のできる魔法。


 この魔法は先天的な素質を求められるもので、生まれつき『生痕せいこん』と呼ばれる痕が身体の何処かに刻まれている者にしか使用することができない。


 更に蘇生にも条件があり、人間を生かす力の源とされている魂がまだ使い切られていなければ蘇生させる可能性があり、使い切られていれば蘇生させる事はできない。


 魂の磨耗については諸説あるが、有力視されているのは、その人生でどれだけ傷つき、どれだけそれを自分の力で再生したかということである。


 また、蘇生魔法使いはその力を利用し、死者へ別の人間の魂を入れて使うという事をする輩も居る。


 それが俗に言う降霊魔法使いである。


 つまりハーツが言いたいのは、蘇生魔法使いは、その性質から力を視ることに長けており、魂を操る術も使えることから、力そのもの、言い換えれば魂そのものである元四方の巫女達は、何かしらの方法で監禁されている可能性があるという事である。


「けど可能なんかい、そんな事」

「可能よ。元巫女達は純然なる力の固まり。場数を踏んだ蘇生、もしくは降霊魔法使いなら造作もないことでしょうね」


 これで謎は解けたとばかりに頷くハーツ。


 ユーディも「理論はあっている」と呟き、同意を示した。


「前西の巫女は?」


 だがただ一人、別の事に目を向けている少女が居た。


「ディヴァは……役目を終えて消えたわ」

「そう……」


 ハーツの回答に肩を落とし、俯くヒーナ。


 だがその趣は悲しんでいるというには、些か無理があるような表情を浮かべていた。


 不敵な笑みを浮かべる面を上げ、言う。


「なら我が、彼女の思いを引き継がなければならないわね」


 それは確かな誓い。


 前空の操手、ディヴァリア・ネィーンの仲間であるハーツ・フェアリーに告げる事で自身の誓いを確固たるものにする、ヒーナなりのけじめであった。


「……そうね。お願いするわ」


 それにハーツは、一瞬戸惑いながらも、小さく笑みを浮かべて、その誓いに答えた。











 全身の虚脱感と共に、久澄は目覚めた。


(ここ……は?)


 唇を動かすのも億劫なため、思考内で疑問を巡らせる。


 無論、そんな久澄の疑問に答えられる者は居ない。


 と、久澄の右耳に扉が閉まるような音が聞こえてきた。


 足音が遠ざかっているため、出て行ったのであろう。


「あっ、サイト君、気分はどうだい?」


 真上から聞き慣れた声が降ってきた。


 久澄はハーツの姿を視るために原視眼を発動させようとしたが、

「痛っ!!」

 上から強く押されるような痛みが左目に走り、浮かびかかっていた模様が消えた。


「ああ、今の君には原視眼発動できないから」

「何で?」


 そう質問したら、力の代償がどうのという話をされた。


 内容は理解できた。便利な力ほど代償はつきものと言う話だ。


 だが、同時に思う。


 俺の中に眠っている血の力や循環オーダー、自己回復能力。


 それらの力には、その力に釣り合うだけの代償が存在するのかどうか。

 

 人間の限界を超えられる血の力の代償が全身疲労だけでは軽すぎる。


 まあ、どんな代償があろうと使えるものは使う。だから関係無い。


 久澄はそう割り切り、上体を上げた。


「それで、いつ回復するんだ?」


 その質問の声に扉の近くに居た二人が視界の端に映ったが、今はハーツが居るかもしれない方向に集中する。


「詳しい期間は調べてないから判らないけども、長いものでは無いと思うから安心はして」

「じゃあ、ハーツ。お前らは先行ってなくてよかったのか?」

「いいのよ、それは。けどちょっと面倒な事になってきたみたいよ」

「?」


 ハーツはドアの方へ人差し指を向けていたが、無論今の久澄に見えるわけもなく、頭に疑問符を浮かべるだけだった。


それを見たハーツは、「ああ、そういえば視れないんだったわね」と呟き、説明を始めた。


「アーデルトって人居たじゃない。彼がさっき来て十時に敵襲があるって教えてくれたの」

「また何で」


 知っているのか、と言葉にする前にヒーナが割り込んできた。


「アーデルトの魔法はある一定の区間から広がっていて、夜寝ている間は録音をしていて、起きて、身支度等、行ってからそれを聴くのがアーデルトの日課なの。そしたらハーツが言っていた旨の声が入っていたみたいで」


 魔法って魔術より便利じゃね、と呑気に思いつつも、口にしたのは別の事であった。


「何人とかいつ来るとかは入ってなかったのか?」


 流石に無いな、と思ってはいたが一応確認する必要はある。


「何人かは分からないけども、十時に来るらしいわよ」


 何とも都合の良い事で。


「じゃあ、どうするんだ? 村の人と今から逃げるのか?」

「ええ。今もその連絡だったの。今は九時。地下から逃げでも十分間に合うわ」


(ん?)


 久澄はある違和感を覚えた。


「なあ、何で今の時間が分かるんだ? 時計を持っているわけでもないし」

「トケイ? 何それ。時間何で感覚で分かるでしょう」


 当たり前のように告げられる。


 口振りからしてこの世界には時計が無いようだが、確かに、幼い頃から時計が身近になければ体内時計は発達するだろう。


 身につけられたら便利だろうなと真面目に考えつつ、立ち上がった。


「さて、じゃあ俺達も行かなきゃ……」


 だが、その言葉を言い終わる前に、老若男女関係無しの複数の悲鳴が外から響いてきた。


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