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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 巫女との出会いと守るべき思い
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理を超える力

 この世には、本人が望まざる現象が起きることが多々ある。


 社会に出たらそれが顕著に現れる。


 望まぬ仕事を押し付けられ、望まぬ重圧に晒されて、馬鹿にしている上司に媚びへつらい、望まぬ飲み会に上司という権力を使われ呼び出され、妻子持ちの者は後に来るであろう雷に怯え、子供からは侮蔑の目で見られる。しかも、次の日の仕事では酒が残り効率が落ちたり、只でさえストレスの中で生きているのに、更に胃にストレスを与えたため病気になったり。


 まあ、社会に出たら大変だと言いたくて長々と語ったわけだが、普通に過ごしていても望まぬ現象が起きたりする。




 久澄は思う。何故こうなったと。


 ニーネの義妹であるという少女。


 彼女に連れられ家に行った。それまでは良かった。


 おかしくなったのはそのすぐ後からだ。


 義妹ちゃんがいきなり服を脱ごうとしたのである。

「ちょ、ちょいまち」

 窓から入る夕日の光で何も見えなくてすんだが、それで興奮するほど変態ではないが、目を逸らす。普通の判断だろう。


 その行動はの意味は、鬼ごっこで汗をかいためお風呂に入ろうとしているのだろうと考えた。自分でさえかいているから、彼女の汗の量は大変な事になっていると容易に想像できる。


 まあ、だから、目を逸らし、風呂に入りに行くのを待った。


 しかし、彼女が発した一言が全ての不幸を生んだ。

「いっしょに入ろうよ」


 此処で一緒に入る程馬鹿でもロリコンでもない。


 ほぼ初対面の幼女と一緒に風呂に入る男が何処に居る。居たら警察に通報するべきだ。


 気が弱かろうと羞恥心が余りない年代は怖いな、と思いつつ、目を逸らしながらやんわりと断った。


 しかし、何がそんなに彼女を奮い立たせるのか分からないが、少女は諦めなかった。


 ああだこうだとしている内に、彼女がテーブルの足に踵を引っ掛け倒れそうになった。


 反射的に頭と膝裏に手を回し倒れるのを回避する。

 またしても、夕日のお陰で何も見ずに済んでいる。


 其処でガチャリという音と共に、見知った顔が二つ視線に入った。何処かにもう一つもあるのであろう。


 ユーディ、ニーネ、ハーツ。


 何も知らない彼女達からこの光景を見たらどんな感じなのだろう。


 服が乱れた幼女を抱える青年。


 普通は死刑確定だ。


 いや、違う、と言おうとしたが、ユーディが恐ろしいスピードで此方に迫りアイアンクロー。メシメシという音が鳴り響く。


 ニーネは久澄の手から素早く義妹を取り戻し、自分の後ろに隠すようにした。


 少女が離れたことで手加減をする必要がなくなったのか、頭を思いっきり鉄の床に打ちつけ頭から首へ、持つところを変えた。そして絞められる。


 最後の希望として、唯一事情を知っている少女を瞳を動かし見るが、此処で彼女はスキル気弱を発動。


 理不尽な、と思いながら、そのまま俺は意識を失った。




 ひんやりとした感覚が左腕を襲った。


 肌に合わないその感覚に意識が半強制的に覚醒させられる。


 しかし、身体を動かすのは億劫に思えたため、久澄は目だけを動かし今の状況の確認をする。


 鉄だらけの部屋。怪我を最低限減らすためか角はなく、丸みを持つ物ばかりが置かれているが、転んだらどちらにせよ同じな気もする。


 鈍い痛みを訴える後ろ半身。それは、汗が生乾きした服の匂いと共に、大変不快な感じを心に生み出していた。

 今の時間は分からないが、汗くさいのは良くないと考え、久澄は、此処まで持ってきていた筈の剣道の防具袋に似た鞄を探すため起き上がる。


 暗闇に包まれた空間。此処は、先程、久澄が酷い目にあった場所とは違うようだ。

 その証拠であるように、重厚そうな扉から微かに漏れ出る光があった。


 その先の部屋は、先程まで居た空間であり、ユーディ達が居るのだろうと予想できる。


 多少気まずいながらも、進まなければ不快な感じは取れない。それに此方は何も悪いことはしていないのだ。


 そう考え久澄はドアノブに手をかけた。


 金属がこすれる音と共に意外と簡単に開いた扉の先には、やはりユーディ達が居た。


 此方に気付き、気まずげな表情を浮かべるユーディと義妹ちゃんの顔に久澄は悟る。事情は説明されたのだと。


「ごめん、サイト」

 開口一番、ユーディはしっかりと謝ってきた。


「いや、構わないよ。それより俺の鞄知らね?」

 言い訳せず謝ったユーディに怒る理由も見つからず、久澄は最優先事項を訊ねた。

「それなら、其処に」

 ユーディは親指で後ろを指す。


 其処には確かに目的の物が置かれていた。


 それに近寄り、着替え一式と借りてきたタオル二枚、そして密かに持ってきていたとある物を取り出す。


「風呂場借りていいか?」

 そして、ニーネの方に向き直り訊ねる。

 流石に村中で裸になる気合いは無い。見つかったら終わりだし。


 ニーネは小さく首を縦に振った。


 承諾の意を確認し、久澄は風呂場へ向かう。


 しかし、

「なあ、風呂場って何処にあるんだ?」

 肝心の風呂場の位置を知らなかった。


 それなら、と案内するために立ち上がろうとした義妹ちゃんの頭をを手で押さえ、ニーネは付いてきてと言うが如く足を家の奥へ進めた。


 先程の事件を聞いたら普通の反応だろう。

 久澄は、その普通の反応に感謝しながら付いていくことにした。




 久澄は幾日か前から考えていた。


 どうにか石鹸を作れないかと。


 幸いにも、元居た世界は科学に特化している。


 石鹸の作り方は授業で習った。

 たしか、精製水、苛性ソーダ、オリーブオイル、ココナッツオイル、パームオイル、ひまし油があれば作れた筈だ。


 似たような成分を重ね合わせれば多分、石鹸らしい物は作れると思う。


 ハーツに決断を迫られた時、早々に決定した久澄は街へ出て、物品を漁っていた。(お金は借りた)

 成分表を思い出しながら似たような性質を見つけた。

 後はそれを重ね合わせるだけだったので、街道脇で寝る際、密かに精製してから寝たのである。


 手間はかかったが、その分この世界では見かけなかった石鹸の精製に成功した。


 無論、此処まで来たら欲を出しシャンプーも作るだろう。

 再び幸いにも、石鹸シャンプーと呼ばれる物は石鹸を作る材料とほぼ変わらない物を必要とする。時間のかかり方は違うが、六時間程度なので寝ていれば完成だ。


 汗でベタベタになった身体と固くなってきた髪には石鹸等を使うのが適切だろう。

 熱いお湯もあれば最高だが、欲を掻きすぎるのは良くない。


 ぬるま湯程度なら作れるように特訓したのでよしとしよう。


 五行の理、水の式、一式、水霊もどき(ぬるま湯バージョン)を生み出し、鋭意工夫の元、訪れた快適な入浴を楽しむことにした。




 入浴をさっさと終わらせ、久澄は後日、石鹸水に漬けるため着替え、タオルを別に持ってきていた小袋に仕舞う。石鹸は別の容器に入れてある。


 作業を終えたところで、語り合っている女子三人に呼ばれてしまったため其方に参加する。

敢えて無臭に作ったため臭い訝しまれることはない。

 何時情報を公開しようかなと考えつつ、久澄は気怠げに三人の居るテーブルまで向かった。と言っても二歩で着いたが。


 テーブル近くにて立ち止まっている俺にニーネがユーディの隣で義妹の前の席を手振りで進めてくれたので従い、座る。


 女子三人が居る所に安易に座れる程、女性には慣れていない。今更な感は強いが。


「……ご飯は?」

 初めて聞いたニーネの声は静かなものであった。高低も、ボリュームも。

「た、食べます」

 ついつい敬語になってしまう。

 ニーネは静かに立ち上がり、何処ぞへ行ってしまった。


 十数分後、適当な小話をしながら過ごしていたため時間の流れを感じなかったが、四人分の食事が出てきた。

 義妹ちゃんが寝ていなかったため、夜遅くではないと思ってはいたが、思っていたより時間は経っていなかったらしい。

いや、もう義妹ちゃんではなく、アンジェちゃんだった。


 因みに、晩ご飯として出されたのはうどんだった。


 昼抜きで鬼ごっこをしていたため、プラス、お風呂上がりのためものの一分で平らげてしまう。


 それにユーディとアンジェは驚きに目を見張り、ニーネは一別した後、ペースを変えずうどんを口にしていた。




 皆が食べ終わり、ニーネが片付けをしてくれている間に俺達三人は歯を磨くため、風呂場入り口脇にあった洗面所へ向かう。

 歯ブラシはあるのだが歯磨き粉は無い。まあ、無くて困るものでもないし、薬剤なので作ろうとは思わない。




 俺達三人が歯磨きを終えた後、ニーネが歯を磨きに来た。

ユーディが先に戻っていると告げ、ニーネが肯定を示したため、俺達はテーブルに戻ることになった。


 その後は、やはり適当な話をし、時間を過ごすという感じになり、ユーディや俺が適当に話をし、アンジェがいいリアクションをニーネは首を小さく動かしリアクションをとり話を聞いている、という流れになっていた。


 そして、幾時間が過ぎた頃、流石にアンジェが眠たそうに首をカクンカクンさせ始めたためニーネが抱っこし部屋まで連れて行くことになった。


 最初は嫌がっていたが、ニーネが抱っこするとすぐさま可愛らしい寝顔と共に眠りについた。


 さて、これからはちょっと子供には聞かせられない話をしよう。


「ユーディ、ニーネさんは魔眼大丈夫な人か?」

 この言葉で全てを悟ったのか、ユーディは肯定の言葉と共に身に纏う空気の質を変えた。


 原視眼を発動しハーツの姿を捉える。


「で、どうだったんだ?」

 目的の成果を訊く。

「あったとも言えるし、無かったとも言える」

 曖昧な答え。

 久澄は明確な答えを求めハーツの方に顔を向ける。

「持っている情報が同じだったって事よ」

「何の情報?」

「巫女の役目。世界を祀る存在であることと、自身の中に眠っていた力の使い方。ユーディの場合は天体魔法。ニーネの場合は……これは本人の許可無しじゃ言っちゃいけないわね」

「……大丈夫」

 丁度戻ってきたニーネが静かに許可を下す。

「……その人はただの人じゃないから」

「そうゆうことかい」

「どういうこと?」

 ツーとカーで会話をする二人。

 久澄とハーツが抱えた疑問に答えたのはニーネだった。

「……アンジェは年下、同年代はともかく、普通の年上とはまともに会話できない」

 けど、と間に入れ、

「……特別な年上となら会話する。現に会話したことあるのは、私とユーディだけ」

 三人が此方の韜晦を許さない視線で見てくる。


 確かに左手には『オーダー』と呼ばれる力が宿っているし、心臓には人外の血液が眠っている。左目は魔眼、原視眼に呪われている。

 しかし、その程度で四方の巫女と同じ扱いにはならないと思う。


 片や個人レベルの力に対して、片や世界レベルの力である。


 が、ニーネの言を信じるなら何かが特別だったのだろう。


 久澄は此方を計るような目線に静かに耐えることにした。


 耐えること、十秒。三人は視線を外した。


 嫌な感じから解放され、ホッと一息吐きたいところだが、まだ幾つか確認したいことがある。


「それでニーネさんの魔法って?」

 先程話を切ったハーツに向き直り、訊ねた。

「ええ。彼女、北の巫女の魔法は生み出した現象に絶対を付加させる魔法、絶対魔法。この魔法を操るものは体現の魔女と呼ばれるわ」

「絶対を付加する?」

 どういうことだろう。

「つまり、防御魔法を展開した場合、その防御魔法は絶対に破れないものとなるの」

「絶対を付加したものの性質を絶対のものにするってことか?」

「そういうこと」

 そうなると、あることが生じる。

 有名な中国の故事でもある。

「じゃあさ、絶対を付加した防御壁と、絶対を付加した槍をぶつけたらどうなるの?」

 つまり、矛盾。

 しかし、ハーツは諦めを含んだような表情を浮かべ言う。

「覚えておいて。四方の巫女が操る魔法は理を超える。その場合は防御壁は破られるけれど、同時に槍も壊れる。そうだからこそ、魔王を倒し得たのが私達と勇者だけだったの」

 最後の一言は初耳であった。

 ハーツも言い過ぎたと言うが如く口を両手で押さえ、口を閉ざした。

 今訊いても、口を開いてはくれないだろう。

 三人は示し合わせた訳ではないが、心の中でそう思い、質問をする事は無かった。 しかし、あくまで『今』だ。何時か、教えてくれる日を待とうと久澄は思った。



「それで、ニーネさんとの関係はどうなったんだ?」

 二つ目の質問。このために今日、この場所に来たのだから訊ねるのは当たり前。

 ユーディに訊いたつもりだったが、答えたのはニーネ。

「……西の巫女とは確かに知り合い。だから話はつける、けど」

「けど?」

「……私はアンジェを見てなきゃいけないし、危険な場所に連れて行くこともしたくない」

「つまり……成る程」

 久澄はニーネの言いたい事を理解した。

「……そう。その時が来るまで私はこの村からは出ない」

 まあ、その気持ちは分かるし、元々の目的である西の巫女を紹介してもらえるのだから良しであろう。

「てな訳で紹介状書いてもらうから、明日に出立するで」

「早いな」

「時間無いからな」

「了解」

 原視眼を解除し、了承を示す。

「じゃあ、そろそろ寝ますか」

「……分かった。ユーディは何時ものとこ。……えっと」

 此方を見て固まるニーネ。そういえば名前を言っていなかったと思い出し、名乗ることにする。

「碎斗、久澄碎斗です」

「……クズミサイトさん。分かりました。サイトさん、あなたは先程横になった部屋にお願いします。脇に布団が畳んであるので」

「ありがとうございます」

 礼を言い、久澄は与えられた部屋へ入っていった。


 よーく目を凝らすと、本当に布団が置いてあったためそれに駆け寄る。

 流石に布団は鉄ではなく、布であった。

 敷き布団を敷こうと行動を開始しようとしたところで、ニーネの静かな声が隣から聞こえてきた。

 どうやらユーディと一緒に寝るらしい。多分あの溺愛振りからアンジェも同じ部屋であろう。

 耳がいいため、鉄の壁一枚(?)挟んでも聞こえるものは聞こえてしまうのである。

 二人の会話の内容はこうだ。

「……クズミサイトって変な名前じゃない?」

「そうやなー」

 お二人さん、聞こえてますよ。




 翌朝。


 いい感じに子供達が外に出て、遊んでいる時間に旅立つ事になってしまったため、子供達から多大なブーイングや別れを惜しむ声を掛けられたら。


 大丈夫、また来るよ。と言うことで一応の実害は出なかったが、来なかったら鬼ごっこで一生鬼というつまらない役目を負わされる事となったため、元の世界に帰る前に寄らなきゃなと頭のメモ帳に書き加えた。


 ただ予想外だったのがアンジェが泣き出してしまったこと。

 周りの子供達からの口撃にもめげず、頭を撫でたり、言葉を交わしたりして何とか泣き止んでもらったが、ユーディのニヤニヤ顔が目についてイラっときた。原視眼を発動すればハーツも同じ様な顔をしているのが窺えただろうが、確認する程ストレスを溜込みたいわけでもない。

 随分懐かれたものだ、と感じつつ、久澄は北の村を後にしようとする。しかし、ニーネに一度呼び止められ、ニーネは三人に向かって、

「……西の巫女には気を付けて」

 と忠告した。

 その意味を訊ねようとしたが、ニーネはこれ以上語ることはありませんというオーラを出しながら目を伏せたため、訊き出すことは諦めた。どうせ行けば分かるだろうし。


 改めて旅立つ。


 後ろには恭しく頭を下げているアルベルト。笑顔で手を振っているアンジェを含めた子供達。そして、何かを心配するようにユーディを見るニーネの姿が、お互いに見えなくなるまで確認できた。




 さて、一行は、一旦プルフェスタに戻り、其処から新たな地、西、石世界へ向かうのであった。


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