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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 巫女との出会いと守るべき思い
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信頼

「さて、答えは決まったかな」

 話が終わってから二時間後。

 カウンター前で夜ご飯−−シチューみたいな味の白い液体がパイの中に入ったもの−−を食べながらハーツが訊く。


 訊ねられた皆は、各々の決意をその瞳に宿している。

 瞳に映る決意を言語化したのは、二代目マスターカヤだった。

「マスター、いや、今はユーディがマスターですからハーツさんと呼ぶべきですね。

 ハーツさん、貴女が決めたルールですよ。仲間は見捨てない。それは、今のこのギルドでは唯一捨てない、プライドみたいなものなんです。それを破れると思いますか?」

「……つまり」

「私達は、ユーディに付いていきます」

「それがユーディの足を引っ張ることになっても?」

 ハーツが声のトーンを落とし問う。

「その時は、勿論手を引きます。けれど、私達は私達にしか出来ない事がある筈てすから」

「あくまで主力としてじゃなく、サポートに回る、と」

「ええ」

「はあー。その時が来たら分かると思うけれど、あなた達は残酷な選択をしたのよ」

「じゃあ、その時まで頑張りますよ」

「じゃあ、その時になったら後悔してね」

 一触即発の空気に皆が、特に久澄を除く男衆が縮み上がった。


 そんなに怖いのかと感じつつ、久澄は、皆はこの空気が収まるのを静かに待った。


 このタイプの空気が長く続くわけがなく、張り詰めていた空気は次第に緩和される。


 所々から安堵の息を吐く音が聞こえた。


「んじゃ。みんなの方針も決まったことだし、ユーディ、あなたの方針を聞かせて」


 目を伏せ端に控えていたユーディがカウンター中央へ歩き出す。

伏せた目を開け、ユーディは口を開く。

「迫る危機のために、まずは堅物と有名な西と縁深い北の元へ向かおうと思う。北の巫女とは顔見知りやしな。今回の件で合流できればもしかしたら西の巫女とも会えるかもやから。

 そんで、ユーキ、あんたの目で三人、戦闘向きだと思う奴を選んでくれへんか。ユーキとその三人でアルニカを探してほしいんや。

 カヤは残りの七人を連れて、アルタナへ向かい王にこの話を通してきてもらいたい。

 そしてサイト、あんたはウチとハーツと一緒に北の巫女の元に来てもらえんか? アルニカの捜索はユーキ達に任せるから、な?」

 テキパキと命じるユーディ。

 る時には一番最初に行動を起こすが、普段のギルド内での役割は他人に任せている姿からは想像のつかない牽引力に、普段の姿を知るユーキ、カヤ、その他九名が呆気に取られてしまった。


「ちょ、ちょっと待って。何で俺? 警備とかって理由ならユーキさんでしょ。戦闘能力でいえば明らかにユーキさんの方が上何だから」

 唯一、久澄だけはその普段の姿を知らないため、いち早く疑問を呈する事が出来た。


 ユーディは、自身の采配の理由を答える。

「バカがサイト。強いからこそ、敢えてや。アルニカは面倒なグループに捕まっている。なら、その敵を見極めるだけでもウチクラスの実力者じゃないとあかん。このギルドに居るウチと同レベルの実力者はユーキだけや」

「……成る程ね」

 理解を示したのはユーキ。


 理解してからのユーキの行動は早かった。

「ヴォルフ、ドブロ、アーネ、あなた達には私と一緒に来てもらうわ」

 その言葉に反応を示したのは、猛犬の様な顔をした男性、二メートルの男性。そして、三つ編みに眼鏡な女性だった。

 視線を交わしあった四人は、自分の荷物を持ってくるためにギルド奥へと向かった。


 カヤは残った七人をカウンター端に集め、何事かを話し合っていた。

多分、いや、絶対にユーディに頼まれた事に対しての話し合いだろう。


 その光景は、信頼の成せる技か。


 一人悲しく置いていかれた久澄は、ベンチに力無く座りうなだれていた。

 情報の整理が間に合わない、否、間に合ってはいるのだが、状況についていけない。


 しかし、時間はそんな久澄の心境など関係無しに進む。


 うなだれていた久澄の前に、ユーディ、ハーツの姿があった。

「さて、ウチらも行くで」

 その声に反応し顔を上げ、やはり久澄は反論の声を上げる。

「なあ、ユーディ。何で俺なんだ?」

 どうでもいいことかもしれない。しかし、よく分からないままでいるのはよくないことを久澄は知っていた。

「そうやな。詳しくはハーツに聞いてくれへんか。ウチもハーツに頼まれてこうなって……」

 困ったように頬を掻きながら答えるユーディ。

 その答え通り、久澄は ハーツの方へ目線を移す。

「それはね−−」

 ハーツは不意に久澄の耳元に顔を近付け、

「−−君が異空間人だからさ」

 小さな声で、そう告げた。

「な、何でその事を……。いや、それを言うのは不毛か……何せ『知恵の実』だもんな」

 久澄はその強調して発した単語の意味を理解しながら言った。

「ふぅ〜ん。やっぱり知ってたんだー」

 ハーツは気の抜けたように言う。


 確かに気も抜けるだろう。


 知恵の実−−それは、名の通り理恵の固まりたる実の事である。あの世界生きる人間なら殆どが知っている知識だ。主にゲームで。


 そして、本当にその存在を知恵の実にしていると信じるならば、此方が知識を持っていることを知っていてもおかしくない。ハーツは俺をティラスメニア人ではないと告げた。それはつまり、彼女が本当に知恵の実であることの証明になった。


 証明されたからこそ、疑問になることがある。

「なあ、ハーツ。何でお前は知恵の実何かになったんだ?」

 それを訊かれ、ハーツはばつが悪げな表情を浮かべたが、

「……そうだね。それを聞きたかったら同行してよ」

 久澄は唸った。

 一緒に行ける事は願ってもないことだ。

 だが、

(何なんだろうな、この感覚……)

 久澄の中には何か、嫌な感じがしていた。


 無論、嫌な感覚があるからといって断れるわけもないのだが。


 久澄は座っているベンチ下に置かれている木刀を取り−−最近はこのベンチで寝ているため置かれている−−立ち上がった。


「来てくれるんかい?」

 ユーディが不安そうに問う。

「訊きたいことが多いからな」

 それに久澄は気怠げに返した。

「じゃ、さっさと行きましょー」

 ハーツは呑気な声と共にに右手を上げた。


 こうして、性格的に相容れない三人の行動は始まった。




「そういえばさ、何でハーツの姿が原視眼無しで見えたんだ?」

 鉄世界へ向かう道中、久澄は原視眼を発動させながら問うた。


 ギルドから出た瞬間、何故かハーツの姿が見えなくなったことで思い出した疑問。


 聞いている人が少なくなったことで答えやすくなったのか、ハーツは簡単に答えてくれる。

「それはねー、あのギルドに私が見えるような魔術が掛けられているからよ。で、その魔術が勇者の鍵ね」

 思わず咽せてしまった。

「えーと、其処まで知っているなら訊くけれど、何でアイツはその勇者の鍵を狙ったの?」

「そりゃー勿論私を見つける為よ」

「?」

「私は、四方の巫女か、魔眼でしか視る事のできない存在なの。存在が人間でも、生物でも、無機物でも、世界の物でもないから気配を辿るなんてできない。けれど、私を邪魔だと思う奴らは私を殺したい。勿論、魔眼持ちが居たら関係ないんだけど、私の戦闘能力は、客観的に見てユーディの数倍は上。確実に私を消すなら多くの協力者に私の姿が視れた方がいいし。それに……」

「それに……?」

 ハーツが一度、大きく言葉を切ったため、久澄はハーツの言葉を反芻した。

「いえ。これは四方の巫女にしか話せないことだわ。ゴメンね碎斗君」

 さっきまでとは違い、まるでブレイヴァリの話をしている時のような厳しい表情で言われた。

「まあ、それならそれでいいんけれど」

 その様な表情で言われれば、無理矢理訊き出そうとは思えない。

 誰だって話せないことはあるのだ。


 なので次の質問に移る。

「じゃあさ、何でハーツは知恵の実に自身を変えたんだ? 此処まで来たんだ、話せないは無しだぜ」

 少し語尾を強めて言う。こうでもしないと、何か誤魔化されそうな気がしたからだ。

 表情に出ていたのか、ハーツは信用してよ、とでも言いたげな表情を浮かべた。

 今さっき話せないと言われたばっかなので、と思わないでもないが、口に出さないだけの分別はある。


 だがそんな心境も彼女の前では隠しきれないらしく、

「信用してよっていうのは無理があるか。まっ、いいけれど。

 それで本題ね。私が知恵の実に存在を変換させた理由……それは全ての知識を得るため、そして、今の時代まで生きるためよ」

「今の時代まで生きるため?」

 知識は分かる。知恵の実なのだから。けれど命。

「私達は、前四方の巫女は、次代に生まれてしまうかもしれない私達の様な子達を支えるために生き続けなければならない。けれど、私達も人間よ。何時起こるか分からない現象を待ってられる程余裕がある訳じゃないから。だから生きるための手段として私はこれを選んだのよ。分かってくれた?」

「何か……凄いな」

 久澄には想像が出来ない。何時起こるか分からない悲劇のために生き続ける苦しみを。

「凄い、か。そう言ってくれて助かるわ」

 そう言いハーツは、小さく、薄く、悲しげに笑った。


 しかし、それは一瞬。

「できればユーディにそれを言ってほしかったけどね」

「ええ! って、ああ、ゴメン、ハーツ!!」

 からかうような笑いと共にユーディを責め(無論、悪ふざけ)、また小さく、しかし端から見て、わざとだと思うレベルの悲しげな笑いを浮かべ、ユーディを困らせた。


 その光景を見て思う。ハーツが背負っているものは物は、先程濁した「それに……」にあるのだろうと。


 だが所詮自分にはどうしようもできない事だと思考を切り、久澄は、自分でも気付けない位小さな嘲笑を浮かべていた。




 多少、ユーディが可哀相だったので一度止めに入る。言いたいこともあったし。

「ハーツ、そこらで一度止めてやれ。ユーディが可哀相だ」

「むー」

 ハーツは頬を膨らませながらプカプカと少しばかしユーディから離れていった。


 安堵の表情を浮かべたユーディに先程訊きたいと思っていたことを訊く。

「ユーディ、ユーキさんじゃなくて本当によかったの?」

「と、言われてもなー。サイトを連れて行こうって言ったのはハーツやし」

「違う。俺が訊きたいのはユーディの意志だ」

「……こう言うのはあんま言いたくないんけどな、サイトでいいと思うで。一年間とはいえマスターをやってきた身だから言える。それに、ウチとユーキじゃ強すぎて、逆にやりにくいんや」

「そう、それなら。けれどあれは凄かったな。一瞬でユーディの言うことを理解し、行動を始めるなんて」

 久澄が何気なく言った一言に、ユーディは顔を赤らめて、

「イヤイヤ、あれは……あれで……。つまりアレや!!」

「アレって何だよ」

 呆れ気味に問う久澄。

 しかし、ユーディは視線を動かすだけで答える気配は無い。

 その感じに、何か最後に会った萌衣に似ているな、何で感じつつ、答えが返ってくるのを期待し、観察を続けた。

「信頼でしょ、ユーディ」

 しかし、久澄の疑問に答えたのはユーディではなく、ハーツだった。


 それや! と人差し指をバシッイと此方に向けてきたユーディに、久澄は何か小さな子供を見ている感覚になった。




 そんなユーディの姿を見て、受け身なノリに味を占めたのか、再びハーツは街道と他世界を分ける町までユーディをからかっていた。


 久澄は、数歩後ろで笑みを浮かべつつ、その感情を映さぬ瞳で二人を眺めていた。


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