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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 巫女との出会いと守るべき思い
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雪夜の邂逅

 『エルダ山脈方面、渡りの町、エーダ』


 まさかこの短期間にこれを見ることになるとは思わなかった。

 久澄は一人である。街中で何とか追いつき合流したが、南門から出た瞬間、ユーディが「三又の道を右になぁ〜」と言い雷駈でも追いつけない速さで走り去ってしまったのである。

 脳へのダメージが心配なため、今回は血の力を使い超跳躍ダッシュで此処まで走った。


 何はともあれ扉を開く。

「さぶっ!!」

 前回は切って、走ってだったため気付く余裕はなかったが、この町は氷世界に通じる所なのだ。寒くて当然である。

 此処で問題が。今の服装は、ミヤに作ってもらった木の繊維で作られた長ズボン、長袖。木の繊維だけあって風通しが良い。

 だからといって戻る時間があるわけではないので。

 そんな事を考えながら、氷世界方面へ足を進め、遂にエルダ山脈へと繋がっているであろう扉の前へ辿り着いてしまった。

(こんな時、ユーキさんなら器用に眼の力を使うんだろうけど……)

 まだ、使い始めて一ヶ月ちょいでは其処まで器用にできない。

 しょうがないか、と諦め気味に扉に手をかけたが、後ろから久澄を止める声が届いた。

「ちょい、其処のあんちゃん。そんな格好で進む気かい?」

「えっ、えっと……まあ」

 振り向き、声の主を見る。

 夜中のため使われている松明、その火に照らされた顔をお互いに確認し、久澄は相手の男性が驚きを隠せていない表情なのを視認した。

「あれ、もしかして昨日の?」

 昨日のと言われ、この場所の人なら答えは一つ。

 久澄は記憶を巻き戻し、男性の顔を検索する。

「……ええ。一日振りですね」

 感謝組の一人だったはずだ。

「それよりも、そんな格好で出て行ったら死ぬよ」

「そうだとは思うんですが……急いでいて」

「ふむ……普通のギルドなら魔物が落とした物は持って行っちゃうんだけど、君が毛皮を置いてってくれたお陰でコートが作れてね、報酬以上の収入が入ることになったんだ」

「それは、良かったですね」

 内心はだから? 急いでるって言っているだろうが、だ。

「ああ。それで出荷量より多く作れてね、ちょうど、何着か余っているんだ、貰ってくれないか」

 そういう事か。悪くない話しだ。

「貰ってもいいなら」

 口調の上では遠慮がちに、しかし、躊躇無く頷いた。

 感謝は受け取らなかった筈なのに、全く現金な奴だと自分で嘲笑してしまった。



 コートは、作ってあるのが置かれていたのではなく、毛皮からサイズが合うように生成し、渡されるという形であった。

 加工とは違うらしく、衣服しか作れないが、材料さえ揃えば一瞬で作れるらしい。

 受け取り、礼を言った後、改めて扉に向かった。

 コートのお陰で暑すぎず、寒すぎず。


「そういえば爆発ってどこら辺から起こりました?」

 ユーディが先に行ってしまったため、知らない情報を集める。

「そういえばあったね。サウラ凍土を越えてすぐにある村かららしいよ。怖いな」

「サウラ凍土? エルダ山脈じゃなくて?」

「ああ、あの立て札の所為で他世界の人たちよく勘違いするんだけれど、何処から行こうとまずサウラ凍土を越えなければいけないんだ。それから、何処に向かえるかがあれには書いてあるんだよ」

「成る程。じゃあ、爆発があった村までどう行けば?」

「ん? もしかしてそのために?」

「ええ。知り合いが其処に」

「うーん、それなら余り教えるわけには行かないんだろうけど……それなりの実力があるからいいか。此処から真っすぐ行けば、目的の村だよ」

 久澄は深々と頭を下げ、扉を開いた。

 真っ白な景色を目で見ながら、扉が完全に閉まり、説明してくれた人が離れたのを視て、雷駈を発動した。



 爆発魔は敢えて再会の場所を指定しなかった。

 それは彼が言った通り再び何処かを爆発させるという事である。

 久澄は確実性を求めてユーディと闘っただけで、できることならば闘いたくないと考えていた。

 結果はどうであれ闘う事になってしまったが、あの感じに落ち着いたのは、都合がよかった。

 間に合うかは別として最低限手掛かりを手に入れるつもりでいる。が、爆発魔が去ることはないだろう。去ってしまったら此方との取引ができなくなってしまうからだ。

 思考をまとめながら走り続ける。


 余談だが、雷駈は走る距離が長い程スピードが上がっていく。

 雷駈の移動法は、正確には空気中の電子を体内に取り込み、電気信号の高速化による高速移動である。しかし、人の限界を越える技のため肉体が悲鳴を上げるのが早いのである。


 閑話休題。


 慣れない雪道に戸惑いながらも、スピードを上げ、走る。夜道は久澄の障害にはならない。

 葉の効果で全開はしたものの、ユーディとの決闘が響いているようで、足に力が入らなくなるのは時間の問題だと他ならぬ自分の足が訴えていた。

 だが距離的には普通の視覚、嗅覚でもそれが分かるくらいに近付いていた。それに加え、原視眼で視た景色にはユーディが天空転写を使用しているのが写り、また、爆発魔が其処にいるのが理解できた。

 一刻を争うが、敢えて雷駈を解除し、普通に走ることにした。

 此方には渡すべき物が用意できていない。しかし、みすみす逃がすほど律儀でもない。

 後に訪れる勝負の時のために、今は力を少しでも温存していた方がいい。

 そう考え久澄は原視眼も引っ込めた。

 しかし、もしかしたら、俺が行く前に終わってしまうかもしれないと考えてしまう。彼女の実力はそれ程のものだ。

(もし、こっちが本当の実力を出せても……っと)

 無意識に、考えてはいけない事を考えてしまい、思考を目の前の現実へと急いで移す。

 走る足を速めることにした。



 十分前。

 天星移動の応用の移動法で移動していたユーディは、ギリギリ間に合ったと言ってよかった。

 他世界まで音が届くように、それでいながら村の中だけに爆発を留め、万に一つの取りこぼしが無いようにチェックをし、仲間が創りだしてくれた特殊空間に身を潜めようとしたところでユーディが現れた。

 相変わらずフードを目深に被っているので瞳を見ることはできないが、他に見える顔のパーツからは感情を読み解くことはできなかった。

 だが彼は、手を顎に当て、無い髭をしごくように手を動かし困った感じを作った。

「……天修羅の対応はおのれではなくマスターの役目なのだがな」

 ユーディは、そのニュアンスから二つ名の意では無いと判断し、忌々しく思った。

「やはり天修羅の本当の意味を知っているみたいやな。その口振りやと自動人形オートマタみたいやけど、マスターは誰か教えてもらえるんかいな?」

「ふむ。お喋りに造られてはいるがな、それは制約に引っかかる」

「制約か……ならその制約を守っている部分をぶち壊して聞き出してみるか」

「やらせるとでも?」

「まさか。無理矢理にもやるんだよ」

 ユーディは天空転写を発動した。

 ユーディが唯一使えるレベルの魔法、天体魔法。使い手が過去に一人しか居ないこの魔法を発動するための場を創り、攻撃を始める。

「天空砲撃」

 場に満ちる星星から放たれる光線。その数百。

「爆、撒」

 しかし、光線から彼を守るように爆発が起き、光は目標に到達する前に砕け散った。

 その事にユーディは軽い驚きを持ちながらも、次の攻撃へ移る。

超新星爆発スーパーノヴァ」 空間に張り付いていた星が三つ、爆発魔の元へ飛びついた。

 そして、目が潰れると錯覚する程の光と空間を揺るがす爆発が起きた。

 これは、周りへの被害の大きさからギルドでは使えない技である。

「爆、吸」

 しかし、この声と共に爆発が消えた。正確には、新たに生まれた爆発の元へ引っ張られ相殺されてしまった。

 ユーディの表情に揺らぎは無い。無表情に目の前の敵を見据え、消すために。

「天空砲撃、第二撃、カーヴァ」

 五十の光線が発射される。

「爆、撒」

 先程と同じように爆発が囲み、光線を相殺するはずだった。しかし、相殺できたのは半分の二十五。残りの二十五は、爆発を避けるように曲がり、別の角度からターゲットに迫った。

 彼の顔に始めて焦りらしき動揺が見れた。



「爆」

 彼は、貫かれるのを決定事項とし、最後の足掻きとして、爆発をユーディに対して行った。

 爆発が生み出されると同時に光が身体に触れるのが何故か解った。

 こんな状況なのに、これが死の体感なのかと客観的に考えられる。

 ユーディは自動人形と彼を判断したが、正確には生きた人間に機械的要素を組み込んだ、人間機械と呼ぶべき存在だ。

 だから走馬灯は浮かぶし、血も出る。

 しかし、何時まで経っても鮮血が舞うことはない。走馬灯は論外。

 何故、という疑問と共に自身の内側へと乖離していた意識を其方へ向ける。と、同時に黒い塊に何かで吹き飛ばされた。



 久澄が到着し、始めて視たのは五十の光が爆発魔に迫っている事だった。

 爆発が生み出されるのが視える。同時に幾つかの光が曲がろうとしているのが視えた。

 久澄は一瞬、血の力+雷駈を発動した。

 ユーディが生み出す光線を消す方法のヒントは見せてもらっている。

 光の到着予定地に誰にも視認できないスピードで辿り着き、原視眼にて地面に広がる影を視始めた。

 闇の力を使うには、影に宿る原子の全てを理解する必要がある。

 普通ならばそれだけで理解できるものではないが、原視眼は魔眼である。

 化学を視ながらも、その力を扱う上では化学の法則に縛られない魔法の眼。

 久澄は、それを利用すれば全ての系統内魔法を自分の式にすることができると考えている。

 系統内魔法の属性は、火・水・雷・土・闇の他に、風・光・無、が存在する。

 話が逸れた。


 光と対にある影の闇。万物に宿る力であるが故に、その力を使うには影に宿る万物を理解する必要がある。

 万物と一体になる状態になるため、その手の感覚を研ぎ澄ませた者か、特殊な感覚を持つものしか彼を感じ取ることはできない。

 一筋の光が彼の頬を掠める。

 二十五本の光が久澄をギリギリかわし、敵に迫る。

 ユーディが久澄に気付いているわけではない。原視眼の力を使い、コースを少しずらしたのである。

 そして、久澄の感覚に変化が訪れた。

 物が存在する事を証明するのによく使われる影は、万物を形作る上で、その存在を確かなものとして確率するための重要なファクターと言える。

 唯一、光を喰える闇の力を身に宿した際の感覚は恐怖一色である。自身の力に喰われるのではないかという恐怖、闇という万物を理解したがために、その闇という万物の感覚と自分という感覚の境が曖昧になり、混じり合ってしまうのではないかという恐怖。

 それらを無理矢理押し込み、闇を木刀に移す。

 力任せに闇の力を振るう技。

 五行の理、闇の式、一式、闇影。

 二十五の光を闇の力で喰らい、効力を無くす。そして、その勢いで爆発魔の胴を薙いだ。



 爆発が生み出される事を経験から察知したユーディは天星移動にてかわし、分かりきった結果を確認するために敵が居る方視線を向ける。

 しかし、其処には彼女が予定していた結果が無かった。

 元々居た場所には見覚えのある少年。そして、視界の端に死んでいた筈の敵が倒れ込んでいるのが見れた。

 ユーディは思い出す、彼がユーキと同じ原視眼、五行の理を使える人間だと。

 爆発魔が動けないのは見て取れた。

 なので、今は邪魔をした意図を訊くために久澄に意識を向けた。

「何のまねや!?」

 問う。怒りを持って。

それに久澄は気にした様子も無く答えた。

「あのまま殺していたらアルニカの行方が解らないだろう」

 ユーディの攻撃はダメージを与える類のものではなく、殺すのを目的として威力のあるものであった。断片的とはいえ実際に受けたから分かる。

 ユーディの顔に苦いものが浮かぶ。

 怒りに身を任せ、本来の目的を忘れていたことに気付く。

(久し振りに来たからな……)


 頭の中で言い訳をしてしまったことにまた苦いものを覚えたが、それは表情に出さず、天空転写を解除し、意識はあるが動くことのできない人間機械の元へ歩を進めた。

「お前が攫った少女は何処や」

「教えるとでも?」

「教えなければ、殺すで」

「解っているだろ。己は死に対する恐怖を消された機械だ。目的を達するために造られた道具だ」

「チッ」

「それに天修羅よ。この地には前空の操手がその力を使い、悪を拒絶する結界を張ろうとしている。どちらにせよ己は終わりだ」

 その言葉を聞き、ユーディの表情が変わった。

「何だって、空の操手が」

「前任者ではあるがな。それに、天修羅、お前を探しているようでもあったな」

「何で其処まで……」

 分かっていて何もしないんや、と言うのが省略された言葉であった。

「何、己はお喋りだからな」

 人間機械は省略された言葉を理解しながら、敢えて的外れな答えを返した。

「そのままアルニカの行方を」

 久澄が割り込んだ。ユーディは別の事柄に意識が向かっていると感じたからだ。

「話したいが、秘密にした方が面白そうだからな」

「面白い?」

 しかし、次の言葉は久澄のその疑問に答えるものではなかった。

「そろそろ時間だな。己に致命傷を与えた少年よ、どうやって生き残ったかは知らないが、アドバイスだ。身近に居る人間関係を怪しむ事だな」

「なっ」

 色々と言い返したいことがあったが、その前に爆発魔は消滅した。

 原視眼でその存在を視ていたが、本当にポッカリ居なくなってしまった。

 アルニカの行方を知る方法が失われたと、久澄は思った。

 久澄はこれからどうするかを話し合う為にユーディの方へ向き直る。

 しかし、ユーディは爆発魔の方を見ていなかった。

 何を見ているのかと視線を追いかけた先には、少女が居た。

 十歳位の容姿に、半透明な姿、そして宙に浮いている身体。

 見たことのある姿に思わず目を見開いてしまった、すると、左目と右目でその存在の捉え方が変わった。否、その少女は左目−−原視眼でしか視認ができない存在。

 その少女は姿に合う幼いソプラノで言う。

「天修羅、ユーディ・ニィーズね。私はハーツ・フェアリー。前空の操手であり、星妖精の空、創設者にして、初代マスターよ」


 全てを知る者と現在の世界守るための力を与えられた少女たちの一角。そして、異なる空間からやってきた少年。この三人が遂に邂逅を果たした。


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