そして、物語は再び動き出す
物語とは、人生の輝ける瞬間だけを切り取ったものである。
物語の紡ぎ手たちは、その物語だけを接点に交わる。
そして、物語を持たぬ者は世界に干渉できない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
首の落ちた神の像を象徴として構える教会。暗闇と静謐に支配されるその場所は今、はじける光によって仄かに照らされていた。
その正体は、天へと昇っていく光の粒。
弾け生まれる燐光が、円形の天蓋に描かれた五つの絵画を明るみにする。
白い羽と赤い羽根を背に持つものたちが軍団となって向かい合う絵。
純白の女騎士と黒いナニカの対峙する絵。
剣を収める女騎士と目を隠す黒いナニカが並び立つ絵。
白と赤の軍団の亡骸の中から湧き出る水晶の瞳をした少女の絵。
あらゆるものを上書きしてしまいそうなほどの漆黒に向き合う五つの存在とその上で手をかざす水晶の瞳の少女の絵。五つの存在は、女騎士、黒いナニカ、法衣の老爺、白と黒が交互する十二枚翼の堕天使、緑色の髪をしたあどけない幼子。
全ての始まりを記した絵だった。
そしてその下に浮かび上がる七つの影。「すべてを再生する」と宣言した女性は、並び寄り添う二つの小柄な影――『姉妹』と呼ばれた片割れの胸を貫手で貫いていた。
出血はない。ただその部分のみが失われているかのようだった。
「神は死んだ」
女性の行動に誰も異を唱えることなく、滔々と語られる言葉に事態の潮流を感じ取る。
「中立を保つあいつが失われたことで、私達はようやく動き出せる」
刺し込んだ手を抜く。支えを失った小さな影は糸の切れた人形のように前へ倒れ込み、しかし寸でのところで隣の影がその身体を支える。
女性は息絶えた影へ小首をかしげる。
「どう?」
「……はい。きちんと受け取りました」
幼い少女の声が、命失われたはずの身体から発せられる。自分を支えるの影へ「ありがとう」と言いながら自力で上体を起こす。
女性は、否、誰もが驚いた様子もなく事態の推移に目を向けていた。
「やっぱ〈時〉は〈先見の巫女〉に宿るよねえ。毎回盛大な自殺を試みてくれるたびに、神格は一番相性が良くて空いた器に入ってくれるもんなー。私のは、死の管理者の空いた器にかなあ」
規定事項を口にするように告げて、女性は歩き出した。
入り口付近に構えていた二つの影が、扉を引く。
女性が進むたびに一人、二人とその背に追随する。
「ああ、全く嫌になる」
ぐるり、と天蓋を見上げて女性は口にした。
「魔王信仰……毎回毎回配役を変えようと、あいつだけは出てくる」
嘆息を一つ。それだけで意識を切り替えたらしく、女性は大仰に腕を振るった。そこに光が付随して、一瞬彼女が身に纏う白のドレスが闇の中で浮き上がった。
言葉を作る。意思を口にすればそれは祝詞となり、世界へ刻まれる。
「始まりが設定されるからこそ、終わりと言う概念は生まれ出る。だから始めよう――残酷で美しい悲恋の物語を」
形は違くとも噛み合ってしまった歯車は、歪な音を立て火花を散らしながら回る。
神魔と人間。
形の違う歯車は噛み合され、回りだした。




