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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 巫女との出会いと守るべき思い
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間話――信頼は裏返り

 その日、森世界、森創界に唯一存在する村の村長はその足で森世界を管理する理の元へ出向いていた。


「主が此処に来るのは六十年振りか」


 村長の前にはエメラルド色の目と灰色の長髪を持つ男性が佇んでいる。


「そんなにか……」


 男性が言ったことは事実。老人が村長の任に着いた六十年前から老人は一度も村を出ていない。


 目の前に居る主が狂暴化し、孫娘達に絶望が迫っていた時も老人は決して行動を起こす事はしなかった。


 全てはこの時のために。


「主よ、御主が狂暴化したと聞いたときから行動を起こすべきだったのかのう」


 男性は微かに表情を動かし、口元を手で軽く覆いながら答えた。


「いや、始まってしまった以上は、何処で干渉しようと変わらないさ。アルニカを入れた四人の巫女。彼女らが目覚めたという事は世界に危機が迫り、それを唯一解決出来るのがその力のみと判断されたからだ」


 老人は自身の知識にもあるその現実を他の者から改めて聞かされ、軽く唸った。


 その姿を見た男性は安心するには足りないが、心持ちを軽くする程度には効力のある事実を教える。


「村長よ、前任者も動いている、主が心配している事は起きはしないさ。それに、彼女にはあいつが居るではないか」


 結果としては、村長が心配している、アルニカへの危機は、老人がこの場に来た理由−−森世界に響いた爆発音関連で起こってしまっていたのだが、


「そうじゃな。前任者はかなり心強いが、身近には居ない。じゃが、あの娘の近くにはサイトがおるんじゃったのう」


 彼らの中で、一度アルニカの命を救った久澄碎斗の存在は大きなものとして存在していた。






 夜。皆が寝静っているほどの深夜。


 この村を随時監視している村長の『眼』が効力を発揮しないこの時間帯に不穏な影が活動を開始する。


 影の狙いは村長。


 『左右どちらにも見える手』を使い村長宅を粉砕した。


 だが村長の姿は無い。


 影は訝しむ事をせず、冷静に辺りを見渡す。


 影の死角となる位置からナイフが投擲される、が第三の手がそのナイフを弾く。


「やはり厄介だな、あんたの空間眼」


 弾かれたナイフを見て影は呻くように呟いた。


 空間眼。


 自身が領土と概念づけた空間の全てを視ることの出来る魔眼。他の魔眼と違い、身に付くと同時に脳が強化されるという代物である。


 その固有能力の弱点として深夜に襲われる事は多々あった。


 それでおいて今現在も生存しているという事は、そういう事である。


「お主はだれじゃ」


 短い言葉に殺気を乗せ低く発した。


「分かっているだろう、オレの正体なんて」


 そう言い顔に影をつくっていたフードを外した。


「やはり、そうか」


 老人はさして驚いた様子はなく、ただ事実の確認を行ったという感じである。


 フードの下にあった顔は、クネルであった。


「何故お主が……というのは不毛か。では何故、儂を狙う」


 それにクネルは「クックック」と腹を抱えながら笑いをかみ殺し始めた。


「……白々しいな、分かっているくせに。まあ、答え合わせだ。答えは、あんたが賢者だからだ。合っていたかい?」


「何!?」


 賢者。


 四世界に存在する世界の知識を蓄えた老たち。


「あんたらが持つ知識は厄介なんだよ。だから伝達をされる前に殺しにきた」


 賢者の持つ知識は文面に残せないものも多いため、後継者には口頭で伝えていくのが一般的である。


 なので、その知識を消すには、それを持つ賢者たちを消せばよいのだ。


「知識は武器じゃ。後に伝えなければならない事実もあるのじゃ」


「だからな、それが厄介で殺しにきたと言っただろう。まあ、いい。巫女の儀式は終了したんだ。全ては止まらない」


「お主らは、巫女と暴走した勇者の戦いをこの地に再現するつもりか!!」


「そんな、甘いもんじゃないさ、っと話しすぎたな……死ね」


 第三の手が老人に迫る。


 老人はその手を跳ぶことでかわし、ナイフを投擲しようとした。しかし、老人は何もすることは無く地に落ちた。


 空中にて心臓が土の玉で穿たれたからだ。


「な……なぜ……こ……の……」


 其処で老人の命の灯火は消えた。


「……クネルさん、時間のかけすぎです」


 新たに現れたのはクネルと同じ風貌をした、女性だった。


「悪い、悪い。それにしてもお前がコイツを殺してよかったのか?」


 その質問に女性に僅かな逡巡が見れたが、


「……いいんですよ」


 すぐさま諦めの混じった返答が返ってきた。


「じゃあ、さっさと帰るか。この村はどうする?」


 言外に潰すかと問われ女性は、


「その人さえ死ねばこんな村に価値は無い。だから潰して騒ぎを大きくするのは得策じゃないです」


 表面上は効率的な考え方であるが、口調は未練が感じられる様子である。


「それもそうだな」


 クネルはその意味を理解しながらも効率性の方を取り、納得を示した。


「それにしても、この『手』は便利だな。オレの魔法を使わずにれる何てよ。しかも」


 其処でクネルは言葉を切った。


 隣の女性の視線が痛かったからである。


 しかし、彼が何を言おうとしたのはこの村の状態を見れば明らかだ。


 建物を壊すという轟音を響かせたのに誰一人として目覚める兆しがない。


「彼女らを信用していいんですかね?」


「いいんじゃないか。利用できるものは使わないとな。さて、そろそろ皆、終わった頃かな」


 クネルはそう呟き、女性と共に村を後にした。






 始まりの一日。


 この日に四人の賢者の命が絶たれたという。


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