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ファクターズ  作者: 綾埼空
二話 巫女との出会いと守るべき思い
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初クエスト

 ギルドに帰るとあの友好的な女性が出迎えてくれた。


「お帰り、ユーキさん、サイトくん」


 その表情はかなりお疲れ気味だった。


 それは今居る七人のメンバーも一緒であった。


「やっぱりこうなっていたのね。ユーディはクエスト中?」


「はい。ユーキさんが居なくなったと同時に何件もクエストが舞い込んできて。ユーディは察しの通りクエストに出てます」


「あの、アルニカは?」


 ユーキが思案顔になったのを見計らって姿の見えない知り合いについて尋ねる。


「アルニカちゃんにもクエストに出てもらっているわ。彼女、ユーディが言うにはSSを一人でクリア出来る実力者らしいからユーキさんの代わりとしてかなり動いてもらってるの」


 成る程。実力は確かに高い。


「アルニカって?」


 自分の知識に無い固有名詞に思案顔であったユーキが反応した。


 久澄は視線で女性に説明を求めた。


 自分が持っている情報では彼女を説明できないと考えたからだ。


 女性は此方の意図が読めず不思議そうな顔をしたが持ち前の性格の良さと話し好きの性質から説明してくれた。


「アルニカちゃ……、アルニカさんと言うのは其処に居るサイトさんと一緒に森世界から来た少女で、丁度ユーディと同い年だそうです。木を使った魔法を得意としていますね」


「木の魔法ね……森世界特有の魔法だったかしら」


「ええ。それにユーディが言うには魔法自体より力の応用力が高いらしくて」


「ユーディに其処まで言わせるなんて凄い子ね。じゃあ、実力はサイトより上って事か」


 そう言い此方を残念そうな目で見てきた。


「な、何すか……? 言いたいことがあるならハッキリとお願いしますよ」


 一ヶ月間、とにかく恐怖心を植え付けられた所為で何時もと口調が違う感じの敬語になってしまう。


「いや、一ヶ月だものね」


 哀れみの目と共に残念そうに告げる。泣きたくなってきた。


「そのアルニカって子、今何のクエスト受けているの?」


 此方のそんな感情などお構いなしにユーキはテキパキ話を進める。


「えっと、少々お待ちを」


 女性はユーキの言葉にそう返し、何も無い空中に手を上から下に動かした。次の瞬間、何も無かった空間にリストが生まれた。


 女性はリストをスライドさせながら何かを探していく。


「……ありました。アルニカさんは南門近くの村に出現した氷獣の群れの退治に行っています。ランクはAです」


「南門って事は、氷世界よね……サイト、アシストに行ってあげて。多分追い込まれているだろうから」


 疑問は多々あったが無駄口は挟まない。実際に答えを見に行く方が無駄な時間を使わずにすむ。


 久澄は身振りで了承を表した。


「氷獣は火が弱点よ。アレは複数に向かないけれど確実に一匹屠れるから使いなさい」


「サイトくん、目的地は三本道の右側を進んだ先にあるから」


「分かりました」


 理解を示しギルドの扉を開き走り出した。






 東門と西門の位置は覚えている。


 迷わず南側に走り門を潜った。


 人気が無くなったので左目に意識を向ける。


 原視眼。


 緑色に淡く光る左目とその瞳に幾何学模様を浮かべ新たに手に入れた力の一つを使う。


 パチッと弾けるような音と共に久澄の姿が消えた。電気の残滓が一瞬尾を引いたがその先に彼の姿を視認する事は叶わなかった。





「まだまだ駄目だな」


 久澄は三又の道で力を止め足を軽くさすりながらぼやいた。


 久澄が使ったのは『五行の理』と呼ばれる特殊武術である。


 地球にて五行とは宇宙の万物をなす5つの元素、木・火・土・(ごん)・水、を表す言葉である。が、この世界では違う意味を持つ。


 この世界での五行は基礎魔法の属性を表す、雷・火・土・水・闇、の事を指す。


 基礎に闇があるのは意外だと感じるかもしれない。闇とは即ち影と同義である。光射すところに影ができ光閉ざす場所にも影は生まれる。


 そういう意味で考えると世界にありふれた−−それこそ基礎として扱われるに相応しい属性とも言える。


 そしてこの闇は決して邪な力ではない。基礎化されるにあたり様々な実験を繰り返し、サンプルを取り善性の属性であると証明されている。


 しかし宿命か、この闇は二面性を兼ね備えており系統外に陰を兼ねた闇が存在するのである。


 曰わくその闇は、人を絶望へと導く禁忌の力とされている。


 だが久澄が覚えたのは影の闇。


 闇が属する五行を原視眼にて視て、操る事で自然現象を己の技として扱うことができるのである。


 それが、五行の理。


 だが自然を身に宿し使うというのはかなりの力量を必要とする。


 普通の人間ではなかなか持たない。


 そう考えるとユーキの鍛え方は常軌を逸している。


 だが、この力を使った事で時間の短縮になったのも事実。


 止まるのが早かったのか痺れてはいるが歩けないほどではない。


 なので久澄は普通に走って進む事にした。






 一キロ程進むと三メートルくらいの外壁に囲まれた町が見えた。


 『エルダ山脈方面、渡りの町、エーダ』


 そんな立て札が入り口横に刺さっている。


 入り口は門ではなくドアだったので開ける。


「あっ……!!」


 開いたら白色の豹が居た。しかも居ただけで無く目が合った。


 多分、うん。


「先手必勝!!」


 目に意識を向け、その身に宿す魔の力を解放する。


 原視眼。


 発動と同時に右半身を前に向け、木刀を上段に構え、一気に振り下ろした。


 五行の理、火の式、火鉢ひばち


 原視眼で空気中に存在する原子をいじり剣と氷獣との摩擦で発火するように仕向ける。


 氷獣は溶け、後には毛皮が残った。


「まず一匹。さて、アルニカは……」


 原視眼を使いアルニカらしい人間の居る原子の乱れを探す。


 様々な情報を消していき町の中央にある広場でそれらしい人影を見つけた。


 ただしぱっと見で数えるのが無理な量の氷獣つきだが。


 視た感じ囲まれている。


 ユーキが予見したのはこれだったのか。


 どちらにせよ向かうほか無い。


 久澄は全速力で走り始めた。







 辿り着くのには其処まで時間はかからなかった。


 だが、この量。此方からアルニカが見えないくらいである。


 しかし、手が無いわけではない。


 ユーキは火の式、一式を複数に向かない力だと言った。が、それはユーキが火の式が苦手で、火も含めるものの、他の式も最高位の四式まで極めているからの台詞である。


 原視眼を使い酸素など全てに行き渡るようにいじる。


 近くに居る奴は少なく、遠くに居る奴は多く並べる。


 そして一番近くにいる奴に『火鉢』をくらわせる。


 一匹目が燃え、その燃えた火で並べた酸素等が燃え、次第に全ての魔物に行き渡った。


 因みに氷獣とアルニカの間に無酸素空間を作ってあるため火は及ばない。(氷獣の体内は氷でできているようで黒煙は発生しない)


 数分後、全ての氷獣が毛皮に変わる−−どうやら氷獣の毛皮は火を通しにくいらしい−−のを確認しアルニカの元へ歩み寄った。


 歩み寄ったと同時にアルニカが倒れ込んだ。


 間一髪、その身体を支えおぶる。


 何時かついた嘘が現実となってしまった形である。


 そんなこんなでギルドに戻ろうと踵を返そうとしたところ、先程までアルニカの立っていた床から初老の男性が出てきた。


 その人の話によると、一ヶ月程前、エルダ山脈やサウラ凍土と呼ばれる場所から氷獣が何匹か町の近くに住み始めたのだという。


 ここ最近になってその数が急激に増えたため国に退治を依頼、自分たちは地下シェルターで身を守っていたのだという。


 お礼をされたのでアルニカに対する礼だけを受け取り去ろうとした。


 其処で引き止められ一枚の羊皮紙に近い材質のような物を貰った。


 クエストが終わった証として館理官に渡すと報酬が貰えるらしい。


 毛皮に関しては全て町人に預ける方針でほっぽっておき改めて町を去った。





 雷の式、一式、雷駈らいかを使い街に戻り、原視眼を引っ込め歩きながらギルドを目指した。


 ギルドに着いたらまずアルニカを預け、次に館理官の場所を尋ねる。


 丁度、クエストが終わって向かう人が居たらしくその人についていく。


 その人は男性で、とにかく背が高かった。二メートルは確実にある。


 ギルド管理館という施設は北西の辺りにあり、刑務所の居心地をよくした感じの建物である。


 ただし、空気はよくなかった。


 男性が入った瞬間、全員がまたかと敵意を向けてきた。


 男性は気にした風もなく区役所の受付みたいな所で半紙を手渡した。それに倣い久澄も別の窓口で羊皮紙もどきを渡す。


「どちらのギルドでしょうか?」


 敵意は全て男性に向けられている。という事はまだ久澄は星妖精の空だとは知られていないということだろう。


 なので、管理官の口調も義務的ではあるが柔らかだ。


「星妖精の空です」


 その固有名詞と同時に腕の紋章を見せる。


 その瞬間、態度と口調が一変。


「ちっ、おら、さっさと受け取れ」


 報酬が入っているらしい袋を投げてきた。


 それを簡単にキャッチし、哀れみの目でわざと一瞥する。


 管理官の顔が真っ赤になる。


 これで敵と見なされたであろう。晴れて星妖精の空に色々な意味で仲間入りだ。


 一緒に来た男性が馬鹿を見る目で見てきたので肩をすくめて返した。





 久澄の初クエストはなかなかに『星妖精の空』らしい流れであった。


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